2016年09月09日
小説「ビデオの中の彼女」(その3)
この河原に来た私は、靴下を脱ぎ、思い切って裸足になってみた。石の冷たさをじかに感じる事で、露出の多いレオタード姿で踊っていた蛙里いずみの気分を、少しでも味わってみようと思ったからだ。
冷たくてゴツゴツした石の肌触りが本当に気持ちいい。この少し照れ臭くて、開放的な気持ちになれる撮影を続けてゆくうちに、蛙里いずみは大胆なヌードも公開する決心を高めていったのである。
この河原から少し離れたところに、壁の岩はだが完全にむき出しになった直角の崖があった。この壁の前でポーズをとった構図でも、蛙里いずみはビデオ内に写っているのだが、これがまたアングルの名画「泉」を彷彿させるような、なかなかの美しいカットに仕上がっているのだ。
20年経った今でも、その壁の岩はだは手つかずのまま、当時の状態を保ち続けていた。私は、着衣したままだが、そっとその岩はだの前に立ってみた。そこは日陰になっていて、前方以外の視界がすっかり遮断されていた。静かに、ただ小川のせせらぎだけが心地よく聞こえてくるのであり、どこか神秘的な気分を味わえるのだった。「湯けむりの天使」を知らなければ、まさに気付かなかったであろう穴場である。 (つづく)
「ルシーの明日とその他の物語」
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冷たくてゴツゴツした石の肌触りが本当に気持ちいい。この少し照れ臭くて、開放的な気持ちになれる撮影を続けてゆくうちに、蛙里いずみは大胆なヌードも公開する決心を高めていったのである。
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