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2016年05月25日

ヒトラーの秘密

 ヒトラーは、ゆっくりと執務室の鍵を回し、ドアを開いた。
「入っていいぞ」
 と、ヒトラーが言った。
 エバにとっては、はじめて目にする、この山荘内での愛人の仕事場だった。
 そもそも、政治や商売にはまるで興味が無かったエバにとっては、この執務室の中は、とても殺伐とした空間のようにも感じられた。仕事にしか生きがいを持たないような男たちが使っている、ごく普通の書斎にである。
 ただし、部屋の奥の方に飾ってある大きな鏡だけが、ひどくエバの目を引き付けた。この書斎には、あまりにも場違いな感じがする、アンティークな縁取りのついた鏡なのだ。
 まるで、エバの気持ちを読んだかのごとく、ヒトラーは、この鏡の前にまで歩み向かったのだった。
「お前も、こっちに来い」
 と、ヒトラーがエバに命じた。
 訳も分からぬまま、エバは言われるままにするしかなかった。
「紹介しよう。これが、シュネーヴィットヒェン(白雪姫)の魔法の鏡だ」
 ヒトラーは、いきなり、そう告げたのだった。

(つづきは「ルシーの明日とその他の物語」で)

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posted by anu at 21:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説
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