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クライマーズハイ 横山秀夫

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何度観ても面白い映画に出会うのはなかなか難しい。

ストーリーはわかってるし、オチまで知ってる。

それでもまた観たいと思える作品のひとつだ。




作品は1985年8月12日に実際に起きた日本航空機123便ジャンボジェット墜落事故を題材にした、地元の新聞社の話で、その社内での人間関係、対立、嫉妬、信頼を回想していきながら現在のストーリーも進んでいく。

悠木(堤真一)が上司と喧嘩したり、挫折したりしながら信念を貫き通そうと奮闘していく姿は何度観てもかっこいい。

その悠木に失望させられたりする部下もいるが最終的には信頼関係が生まれていく。

特に、自分達が寸前の所まで詰めていた事故原因のネタを毎日新聞に抜かれた後の玉置(尾野真千子)のセリフが印象に残る。

悠木
「すまん。おれがデスクじゃなかったら佐山(堺雅人)や玉置はスター記者だったかもな」
玉置
「悠木さんの判断は間違ってなかった。そう思っています。そのことだけ伝えたくて、それだけは誰よりも早く抜きたくて走って来ました。」


ひとつの仕事に突き進んでいく人間の精神状態を山登りになぞり、興奮して感覚が麻痺していく「クライマーズハイ」を制しながら「チェック。ダブルチェック」と葛藤していく姿に、職人みたいな哲学を感じる。


この映画に影響を新聞記者を志した人もいると思う。

そして新聞や報道に携わる人には、社の意向やスポンサーに左右される事もあると思うが、そんな時はこの悠木の「新聞記者のプライド」を何度でも観てほしい。




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この世で一番大事な「カネ」の話 西原理恵子

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今回高校生ぐらいの時に夢中で読んだ漫画「まあじゃん放浪記」の作者西原理恵子さんのエッセイだったので思わず手にとってみた。

内容が画風とかけ離れててショッキングだったがどうしてもらしさを伝えられそうになかったのでネタバレが多くなってしまった。

以後ネタバレが嫌な方は読み飛ばしていただきたい。


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《「痛いはダイヤモンド」それは私に限らずお笑いに関わる人間にとって「お約束」だと思う。》

これは「まあじゃん放浪記」を書く時に実際に自分のお金を賭けて損して書いた時のポリシーだそうだ。

10年間で約5000万もスったとか。

それなりの稼ぎを得られるようにはなっていたがまさに「バクチに追いつく稼ぎ無し」だ

美大の予備校時代からけっして上手くない絵を出版社に売り込みに行き、もらえる仕事はエロ本のカットでもなんでも描いてきた彼女ならではだ。

そこらへんの男(勿論、僕を含めて)なんかよりはるかに男らしく行動力がある。




そんな彼女の生い立ちも高知の貧しい田舎で育ち、友達はシャブ中になり、自身も高校を不条理に退学にさせられたりと、とても夢を見いだす事さえできない青春時代を過ごしてきた。

そして、終わりは突然やってきた。
一年かけて大検をとり東京の美大の受験日にお父さんは首をつって死んだ。

お父さんは競艇のために彼女の泣けなしの貯金12万を奪いそれを入れて40万を持って
「これで負けたら俺は死ぬ」と言って家を飛び出した。

「そんな勝負勝てるはずがない。この人はもう死んだほうがいい…」


そんな彼女の諦めとも悟りとも言えるこのひとことは読んでで少し辛くなった。

絶望しか見当たらない。



そして彼女本人もギャンブルにはまり痛い思いと出会いを繰り返していく。


ギャンブルをしたことがあるひとなら、負け方の美学やマナーのクダリにはズキズキ刺さるものがあるんじゃないだろうか?

「負けてもちゃんと笑っていること」
「調子がいい時はご機嫌だが悪くなると当たり散らす人もいるがギャンブルなんて負けて当然なんだからそれだったら最初からやるな」


思いっきり負けて落ち込んでる時でも「今日はこのぐらいにしといたる」という負けた時の切り返し方を身を持って習得している。

実際、負け方の勉強なんて学校では教えてくれない。


そんな人生のスパイスがたくさん詰まったこの本を『負け方』を知らない方に手にとってもらいたい。


最後の谷川俊太郎さんからの質問の彼女の回答が印象に残った。




「何がいちばんいやですか?」






「にくむこと」



挿絵を添えた回答が妙に救われた気がする。


 

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舟を編む

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いい映画に出会うと終わった後もその空気感に浸れる。

こい【恋】とは

ある人を好きになってしまい、
寝ても覚めてもその人が頭から離れず、
他の事が手につかなくなり、
身悶えしたくなるような心の状態。

成就すれば、
天にものぼる気持ちになる。


おくりびとを劇場で観た後の空気感に似ていた。

悲しいけど温かいそんな物語だ。


辞書作りに関わる主人公の内面を、上記のように淡々と言葉の注釈を入れたりするにくい演出がされてたりして辞書ロマンを感じた。
文字や言葉が溢れる世界をセリフが溢れすぎずに淡々と静かなBGMとともに流れていく。




宮崎あおい、松田龍平、オダギリジョーと好きな俳優がでていて、いろんな賞を受賞していて映画から入ったのだが、原作が好きな作家の1人だった三浦しをんさんだったのも嬉しかった。

松田龍平の演技がとにかくすごい。

いけてない無口、挙動不審、コミュニケーション能力に欠ける青年を今まで演じたアヒルと鴨のコインロッカーやまほろば駅前多田便利店からの力の抜けた飄々としたイメージを、いい意味で一掃して全く違う人物に変身していた。

そんないけてないマジメが、時折キッパリと言い切る時の目に男を感じる。


宮崎あおいは何を演じても様になるし評価も高いのだが、個人的には神様のカルテやツレが鬱になりましてみたいな夫を支える献身的な嫁役が印象深く、今回も同様にストーリーの流れとして配役を演じるだけでなく、各要所要所のシーンでのいらんな表情を鑑賞後も想起させるほど印象を残した。

思わず包丁を研ぎたくなった人もいるんじゃないかと思う。

そして2人の絶妙な距離感を保った夫婦像が魅力的だ。
マジメが落ち込んでいる時、側で背中をそっと支えるシーンは象徴的で松本夫婦の八千草薫の慎ましさと温かさに重なる部分がありこの作品のテーマでもある。

普段、主役の多いオダギリジョーは直感型で辞書作りにも向いてないフランクな同僚役といった設定。
15年かけて一つの辞書を作る設定で小さな職場や本に囲まれた自宅で黙々と辞書作りをする暗くて地味な画面に男としては珍しく華を与えてバランスをとる役回りを見事に演じている。

それから以前にもどこかで電子書籍は自分が思っていたより便利で素晴らしいと書いたが、今回この作品を観て紙の本も辞書もなくならないんじゃないかと思わされた。

ページをめくるときのぬめり感、一枚一枚が重なる事無く吸い付く手触り、色や音にまでこだわる職人魂が描かれていて考えさせられた。

書籍というのはただの情報ではなく一つの作品だ。




そして最後の発表式典のシーンで松本の最後の手紙で「感謝という言葉以上の言葉がないのかあの世で用例採集するつもりです」と顔をあげたマジメに映る奥さんの「ありがとう」という言葉と、一緒に辞書を作ってきた仲間たち面々のカットが最高でした。


何回観ても色あせない後世に残したいと思える一本です。


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プロフィール

ちゃあ
サラリーマンやりながら、ほそぼそとブログやってます。
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