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2020年02月05日

映画「大いなる西部」− 大西部を背景に描かれる骨太い人間ドラマ

「大いなる西部」(The Big Country) 
 1958年 アメリカ

監督ウィリアム・ワイラー
原作ドナルド・ハミルトン
脚本ジェームズ・R・ウェッブ
  サイ・バートレット
  ロバート・ワイルダー
音楽ジェローム・モロス
撮影フランツ・F・プラナー
 
〈キャスト〉
グレゴリー・ペック チャールトン・ヘストン
ジーン・シモンズ キャロル・ベイカー
チャック・コナーズ バール・アイヴス

第31回アカデミー賞助演男優賞受賞(バール・アイヴス)

オープニングの馬車の車輪の映像にからまるように流れる主題曲は、もうそれだけでスケールの大きさを感じさせますし、大作の重量感が伝わってきます。

水の利権にからむ対立と、古い因縁を持つ男たちの確執、恋と変節のドラマは、人間的な、最も人間くさい物語であり、「The Big Country」という原題が表しているように、それを包み込むように広がる、有史から続く大地の歴史の上で流れ去り、消え去ってゆく人間たちの物語でもあります。

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映画には「シェーン」のような感動的なラストや、「第三の男」のような、ニヤリとさせる意味深なラスト、「太陽がいっぱい」では完全犯罪が崩れ去る名シーン、「猿の惑星」ではアッと言わせる名ラストシーンなどがたくさんありますが、名オープニングシーンというのは「大いなる西部」以外にはあまり思いつきません。

馬車が疾走して、その車輪をとらえた映像とダイナミックな主題曲。
それだけのシーンなのですが、翌年の「ベン・ハー」にも活かされることになる迫力ある馬車の場面は巨匠ウィリアム・ワイラーの力量なのでしょう。

さて、その駅馬車に乗って一人の男が西部にやって来ます。
男の名前はジェームズ(ジム)・マッケイ(グレゴリー・ペック)。

東部出身で紳士然としたジムは、土地の有力者ヘンリー・テリル少佐(チャールズ・ビックフォード)の娘パット(キャロル・ベイカー)と結婚するため、テキサスにやって来たのです。

パットの友人で学校教師のジュリー(ジーン・シモンズ)の家で再会したジムとパットは熱い抱擁の後に、パットの父ヘンリー・テリル少佐の牧場まで馬車で出かけます。
しかし、その途中、ヒマを持て余して草原でたむろしていたバック・ヘネシー(チャック・コナーズ)らにつかまり、馬車から引きずりおろされたマッケイは投げ縄で自由を奪われ、散々な目にあいます。

気の強いパットはライフルで立ち向かおうとしますが、ジムはそれを押しとどめ、大したことじゃないと、立ち去ってゆくバック・ヘネシーたちを見ながら、事もなげな様子ですが、ヘネシーたちに立ち向かおうともせず、なすがままにされてしまったジムの態度にパットは少なからず失望を覚えます。

もともと船長の経験のあるジムは海の荒くれ男たちには慣れていることもあって、ヘネシーたちの乱暴も西部の男たちのあいさつ程度にしか思っていなかったのですが、この事件は次第に大きく発展してゆくことになります。

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パットの父ヘンリー・テリル少佐とバック・ヘネシーたちの父親ルーファス・ヘネシー(バール・アイヴス)は水源の領有権をめぐって勢力を二分しており、その確執は根の深いものであったことから、娘婿になるジムが辱(はずかし)められたことを理由に少佐は、牧童頭のスティーヴ・リーチ(チャールトン・ヘストン)たちを使ってルーファスたちの谷の集落を襲撃します。

暴力は暴力を生み、事態は混迷を深めますが、そんな中、水源を持つ土地の所有者であるジュリーに接近したジムは、両家のいざこざを解消させるために土地の権利を自分が買い取ることを提案。
水は両家に平等に分けることを主張します。

最初はジムの態度に疑問を感じていたジュリーも、やがて彼の人柄を信じ、水源の土地の権利はジム・マッケイの手に移ることになります。

しかし、少佐とヘネシーの根の深い対立は収束することなく、暴力でしか物事の解決を図ろうとしない少佐に見切りをつけたジムは、自分を信用しようとしないパットとも別れ、ことごとく敵対心をむき出しにしていたスティーブ・リーチと果てしない殴り合いの末、牧場を去ってゆきます。

やがて、ヘネシーがジュリーを誘拐して監禁したことから両家の争いは決定的なものとなり、ジムとバック・ヘネシーとのヨーロッパ式の決闘とバックの死。
さらに、少佐とルーファス・ヘネシーとの決闘へと事態は動いてゆきます。




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監督は「嵐ヶ丘」(1939年)、「我等の生涯の最良の年」(1946年)、「ローマの休日」(1953年)の巨匠ウィリアム・ワイラー。

主演のジム・マッケイに「子鹿物語」(1946年)、「紳士協定」(1947年)、「キリマンジャロの雪」(1952年)などの名優グレゴリー・ペック。

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牧童頭のスティーヴ・リーチに「地上最大のショウ」(1952年)、「十戒」(1956年)、「北京の55日」(1963年)のチャールトン・ヘストン。

ジムの婚約者でテリル少佐の娘パットに「ジャイアンツ」(1956年)、「デボラの甘い肉体」(1968年)、「課外授業」(1975年)のセクシー女優キャロル・ベイカー。

水源の土地所有者で、後にジムの恋人となるジュリーに「大いなる遺産」(1946年)、「ハムレット」(1948年)、「聖衣」(1953年)の名女優ジーン・シモンズ。

そして、
体の割に気の小さいバック・ヘネシーに、テレビシリーズ「ライフルマン」や「アフリカ大牧場」などで人気を博し、日本映画「復活の日」(1980年)にも出演したチャック・コナーズ。

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グレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンが延々と殴り合うシーンが話題となった「大いなる西部」。
すべてが壮大でスケールの大きな映画ですが、人間ドラマとしての物語性は起伏に富んだ厚みのあるものになっています。

ヘンリー・テリル少佐とルーファス・ヘネシーとの長きにわたる確執。

コソコソと立ち回って強がりながらも父親に頭が上がらず、ジムとの決闘に敗れ、結局は父親の手にかかって死んでしまうバック・ヘネシー。
そんな出来損ないの息子を罵倒しながらも、最後には愛情の片りんをのぞかせるルーファス・ヘネシー。

テリル少佐に対する牧童頭スティーヴ・リーチの感情の動きなど、人間の持つ心の複雑さを個人個人の造形に当てはめて描きだし、西部劇の枠にとらわれない人間ドラマになっています。

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大陸の持つ広々とした世界に生きる人間たちのドラマは、あたかも神の視点で眺めてでもいるように、グレゴリー・ペックとチャールトン・ヘストンの殴り合いにしても、テリル少佐とルーファス・ヘネシーの決闘にしても、大自然の中の点景であるかのように大地の中に溶け込んでいて、人間のいざこざやいがみ合いが小さなものであることを示しています。

いろんな意味でBigな「大いなる西部」は、大自然もBigなら登場人物もBigで、グレゴリー・ペックやチャールトン・ヘストンは190pクラス。
チャック・コナーズにいたっては2メートル近い大男で、ジーン・シモンズに言い寄る場面などは、まるでお姫様に襲いかかる怪獣です。

ダイナミックな迫力と細やかな人間描写。いつまでも心に刻まれる名作です。

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posted by kafkas at 21:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 西部劇
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