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2017年09月20日

離乳食の頃

母は繰り返し私の幼かった頃の話をしてくれました。それは、どれほど幼い私が可愛らしくて、賢い子どもで、母にとっての自慢の娘だったかという内容です。ほんの小さな子どもだった頃から、つい先だっての電話でも、母の口をついて出るのは幼かった頃の私の話です。

例えば話はこんな風なものです。離乳食の時期だというので、母はうどんを柔らかく煮て人肌に冷まし、そしていつものように「今日こそは無事に食べてくれるだろうか」と胸の鼓動を高鳴らせ、歩行器に入れられた幼い子どもの前へやってきます。

そして更にうどんをふ〜ふ〜と冷まして、子どもの口に入れます。しかし間も無く子どもは口を噤んでしまいます。いくら「はい、お口をあ〜んと開けて」とやっても、もう子どもは口を開きません。しかし、おもしろいもので赤ん坊のくせにネギを見せるとその時だけ口を開きます。そこで母の作戦は、口を噤んでしまったら、ネギを囮にして口を開けさせ、その隙にうどんを口の中に突っ込むというものでした。

けれども、その内に赤ん坊はネギ囮作戦にも騙されなくなり、口を噤んだままイヤイヤを続け、ついに小さな手をうどんの器の中に突っ込み、うどんを鷲掴みにするや否や、母の顔をうどんで往復ビンタをしたというのです。

母はこの話をするのが大好きで、もう何百回も、私がうどんを鷲掴みにして往復ビンタする様を実演しながら、実に愉しそうに話してくれました。ネギに騙される赤ん坊の浅知恵と、結局まんまと復讐を成功させる赤ん坊の賢さの両方が可愛くて面白くて仕方ないという様子でした。

他にも、バナナのエピソードがありました。食べさせようと思って出しておいたバナナがいつの間にかなくなっていて、まだハイハイしかできない赤ん坊の私が犯人とは思わず、あちこち探してもない。まだ言葉も話せない赤ん坊に「バナナ、どこいったか知らない?」と尋ねると、玄関の方を指差す。でもそれが赤ん坊がハイハイしてバナナを隠しにいった場所だとは夢にもは思わず、お台所や部屋を探し回り見つからずに諦めてしまう。ところが夕方になってポストを開けると、郵便物と一緒にバナナも出て来るというものです。

この話には別バージョンもあって、数回バナナを郵便ポストに入れたのち、今度は傘立ての傘の中に隠すというのもありました。どこを探しても見つからなかったバナナが、雨の日に傘を開こうとすると傘の中から落っこちてきたというものでした。

母はこれらの話を、私がどれだけ賢い子だったかというエピソードとして幾度も幾度も話してくれました。この話をする時、母は毎回相好を崩して、本当に面白くってたまらないというように話してくれました。

ですから、私もうどんやバナナのエピソードは、幼い私がどれだけ母に愛されていたのか、可愛がられていたのかという内容として長年捉えていました。乳児の頃のミルク噴水事件も、若い母がどれだけ手間をかけて赤ん坊に向き合い愛情を注いでいたかというエピソードとして捉えていました。
タグ:母親 離乳食
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