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ばあちゃんちを訪れるも

 久しぶりにばあちゃんと一緒にお酒を飲もうと、僕は仕事から帰ると荷物を部屋に放り投げ、財布を持って113番のバスに乗った。このばあちゃんはなにも僕と血縁関係にあるばあちゃんではなく、ひょんなことから知り合いになった、中国人のおばあちゃんなのだ。

 僕は以前「農民房」に住んでいて、その大家の母親がこのばあちゃんだ。しかしばあちゃんの住む部屋は大家のそれとは大きく異なり、階段を登ったすぐそこの、窓もなく風通しの悪い小さな一室なのだった。大体6畳近くの広さに、ベッド、テレビ、衣類ダンスが置かれ、シャワートイレが付いている。普通、大家の母親なら仕事の必要もなく、のんびりと隠居生活を送ると僕は思うのだけれど、このばあちゃんはまだ現役で仕事をしているのだ。その仕事はゴミ拾いだ。

 ゴミ拾い。ペットボトルやダンボールや紙や本や雑誌、テレビ、扇風機、電化製品、指輪、ゴミ箱などなど、ばあちゃんは朝早く起きて住まいの近くをゴミを拾いに歩いて回る。そして夕方にも同じように歩いて回る。この回収したゴミを、業者に量り売りして小遣い稼ぎをしているのだ。

 前回ばあちゃんの部屋を訪れてからすでに半年が経とうとしている。そろそろ一緒にばあちゃんとお酒を飲みたいなと彼女に言うと、ぜひ行って来いという。彼女も一緒に行かないかと誘うと「行ってもいいけど、たくさんご飯を食べさせられるから、先に行ってて。頃合いを見て遅れて行くから」と、引越し前に訪れた時、これでもかこれでもかとたらふく食事をさせられたことをしっかり覚えているようだった。

 そして当日。彼女は急な残業でばあちゃんのところへは行けなくなった。実のところ、僕はばあちゃんと二人で飲みたかったので、気が楽になった。ばあちゃんと彼女とお互いに気を使い合っている様子をみると、逆に僕が気疲れしてしまうのだ。

 彩虹城というバス停で降りる。近くの聯華スーパーは改装中。天寓マンションの藍江スーパーもその日は改装中だった。珍しいことだ。僕は江南大道近くにある小さな店で白酒を2ケース、紹興酒を1本、お菓子を3つ買って、僕が以前住んでいた「農民房」へ歩いた。

 1階の入り口には鍵がかかっている。「貸し部屋あり 大家連絡先」という入り口の張り紙を見て電話をするも、「おかけになった電話は、現在電源が入っておりません…」。なかなかものごとはスムーズには進まないようだ。

誰か住人が帰ってくるのを待っていると、幼児が二人、ドアの前で仲良く遊び始めた。1歳過ぎだろうか、幼児の一人が玄関マットで。横たわり、顔の下に紙切れを敷いて僕を見ている。それを見たもう一人の幼児、2歳ぐらいだろうか、その子も紙切れを敷いて横になってしまった。不衛生なんだけどな、と僕は思いながらも幼い子供たちをじっと見つめる。すると一方が笑い出し、もう一方もつられて笑い出した。そして僕も一緒になって笑った。2歳ぐらいの幼児がまた笑うと、今度はもう一方が再び笑い出した。なんなんだこの二人は、と僕もまた笑う。そうこうしていると、彼らの母親が来て、大きい方の幼児が連れて行かれ、「あんなところで寝ちゃダメでしょっ!」と尻を叩かれ説教をされ始めた。紙切れもあっさり捨てられ、お約束通り、その幼児は泣いてしまった。母親と目が合ったのだが、それが僕を責めるようなものでいささか気まずくなっていると、建物のドアが内側から開いた。住人の女性が出てきたのだ。そこで僕もその場から逃げるように「農民房」へと入ることができた。

階段を登り、ばあちゃんの部屋のドアをノックする。返事がない。再びノックをする。同じく返事はない。もしかして、まだ外でゴミ拾いに出ているのだろうか? まあそれならこのお土産は大家に預けて帰ればいいだけのことだ。僕は同じフロアにある大家の部屋をノックする。「誰?」と返事があり、ドアが開く。僕の挨拶に大家の表情がほころぶ。

「ばあちゃんがまだ帰ってないみたいだから、これ渡してもらって良いですか?」
「ばあさんは今ここに住んでないよ。近くの弟のところに住んでてね」

「え〜〜っ!!」と日本語で驚き、申し訳ないねえと遠慮する大家に、この白酒をばあちゃんへ渡してくれるようお願いしをして、僕はこの「農民房」を外に出た。

 帰り際、ばあちゃんに会うことは出来なかったが、僕の心はそれはそれで晴れ晴れとしていた。彼女に電話をかけ、「ばあちゃんは今大家の弟のところに住んでるって」と言うと、彼女は電話越しでおかしそうに笑い出した。僕もまたそれを聞き、おかしくなって自然に笑いが出た。

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