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2020年04月29日

コロナ危機で大きく衰退する「先進国の末路」




 コロナ危機で大きく衰退する「先進国の末路」

       〜現代ビジネス 羽場 久美子 青山学院大学教授4/29(水) 6:01配信〜


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 先進国の感染爆発
 
 コロナウイルスは、先進国の近代資本主義社会を破壊して進んで居る様に見える。コロナウイルスの一般的な死亡率は2〜3%だが、イタリア・スペイン・イギリス、及びドイツを除く高い感染数のEU諸国は10%以上だ。
 通常、検査で判明して居る感染者数よりも数倍は多いので、結果的には2〜3%と言われて居るが、一方で、コロナウイルスは、高血圧や糖尿病・高脂血症を悪化させ死に至らしめるとも云われて居る。故に高齢者の死は、コロナの結果なのか持病の結果なのかは判らず、高齢者の10%と云う高い数値は、通常の高血圧・糖尿病・高脂血症・肺炎等で無く為る数値に2〜3%上乗せした数値に為って居るのかも知れない。
 個人的には、先進国の近代市民社会は、衰退しつつ有るのかに関心が有る為、今回のコロナウイルスの結果は、先進国の衰退を更に強めるものに為りそうだ。

 世界の感染者が300万人・死者が20万を超えて進んで要る時、世界で単独的に支配権を持って居たアメリカの感染者は世界の3分の1・約100万人の感染者を出して居り、第2位のスペインの5倍である。ニューヨークの抗体検査ではニューヨークの感染者はホボ10倍の270万人に及びそうだと云われる。
 対する欧州も、先進5ヵ国で100万人近く・死者はアメリカの2倍10万人に至って居る。何故米欧先進国で、コロナウイルス感染者のホボ3分の2を占めて居るのか? 死者は米欧で全体の4分の3を占めて居る
 「豊かな・高い医療技術を持つ先進国」米欧が、何故コロナウイルス感染の危機に陥って居るのか。何れもピークは過ぎたと云われつつ、死者数は増えるばかりである。

 アメリカは「中国ウイルス」を繰り返し、WHOを中国寄りと批判して拠出金の停止を宣言し、マスク輸出禁止を発表して、とても先進国と云えない様相を示して居る。アメリカの世界支配は、先ずは医療と倫理の点で、地に落ち始めて居ると言え様。

 貧国・途上国の感染率の低さ

 他方「貧しい発展途上国」の感染率は、現時点では非常に低く、数字で見る限り、米欧先進国での感染爆発と、アジア・アフリカ等途上国と、ロシアを除く旧社会主義国の低い数字は対照的である。
 最初に8万人の爆発的な感染が在った中国は、その厳格な隔離政策と政府国民一丸と為ったウイルス排除に依って、ピークは1ヵ月・実質2ヵ月半でホボ収束させ、韓国もコロナの検査と管理を徹底する事に依り、既に感染者も死者もホボ1ケタ台の収束に向かって居る。香港・台湾に至っては感染者1000人・400人台・死者4人〜6人(4月26日)と云う状況である。
 このことは、コロナウイルスの被害拡大に関し、医療上の専門家の意見だけで無く、格差・貧困・社会経済的スタイルの影響や、自由主義と独裁・オープン社会と隔離等をどのように捉えるかと云う、国際政治経済的・社会的な分析が必要に為って居る事を示している。

 米欧の感染拡大と、マイノリティの犠牲者

 特に考察すべき対象で有るのは、コロナの惨状が資本主義社会で頂点に在るアメリカとニューヨークで有る。アメリカに遠慮してか、日本のメディアは余り報じ無いが、アメリカは対応の遅れにより3月中旬から爆発的に拡大し100万人に至ろうとして居る。
 又医療水準や社会政策が世界でもトップクラスに在るEUでも現在イギリスが激しい勢いで伸びて居る。アングロサクソンやラテンの根源的自由主義に依る政府の市民統制の困難さ、トランプの失政・ワクチンの無接種・格差の拡大等原因は数多く考えられる。
 先進国の大都市では、死者は黒人・ヒスパニック等のマイノリティに集中して居る。黒人はアメリカ人口の3割程度だが、コロナの死者の7割が黒人とされ、ロングアイランドの無名墓地には連日数百の棺桶が運び込まれて居る。

 アメリカの社会保障や保険制度の不備の結果とも云えるが、同様の現象は社会保障が比較的高いEUのスペイン・イタリア・フランス・イギリスでも起こって居る。先進国の自由主義や命より市場重視の価値観は、ウイルスが政府の政策に見合う形で爆発的に拡大する土壌を提供して居る。
 他方管理に比較的従順な儒教社会で、政府や上位の言う事に従い易いアジア型市民社会では、統制が取れて感染が広がり難い。更にアジアやアフリカの貧困国に於いて、例え医療のインフラが整って居なくとも、ウイルスの拡大は比較的抑えられて居ると云う状況が存在する。

 韓国・台湾・香港の感染の低さは何故?

 韓国・台湾・香港は何故感染が少ないのか。中国も14億人中8万人、武漢の人々の一部のみ感染し統計上の不備は有るにせよ死者4,600人でホボ終息したと云う事は、社会主義的管理社会で在ったから出来たとも言える。
 アメリカは、中国の4分の1の人口で、10倍以上の死者である。又アメリカでは圧倒的に貧しい人達・マイノリティに死者が集中して居るのに対し、中国では底辺を含めて社会医療ケアを施した事が結果的に社会インフラを崩さず早期に回復したとも云える。
 詰りコロナは、先進資本主義国の価値やシステムの根幹を突いて広がって居るのである。興味深い事に、コロナウイルスは、自由主義・経済活動・過剰接触・国境の開放を利用して広がって居る。資本主義的価値を利用して広がる事を覚えた賢いウイルスなのだ。

 反ワクチン運動とポピュリズム

 決定的なのはワクチンである。先進国では結核感染者が居なくなり、ワクチンは必要無いとされ、BCGワクチンは使用が中止された。更に、アメリカ・欧州に広がるポピュリストは挙って、ワクチンの危険性を標榜する「反ワクチン運動」を展開し、ポピュリズムの広がりと重なる形で、多くの国々がワクチンの使用を中止した。
 そのBCGワクチンや麻疹のワクチンが、医学的検証は未だ不十分なものの、統計的には米欧の爆発的感染とアジア・アフリカの低い感染率を大きく分けて居り、有効性が出て居るとされる。BCGや麻疹のワクチンを打って来たのは、アフリカ・アジア・中東・南米等、所謂非先進国の貧しい国々である。此処には戦後の日本も入る。又旧社会主義国で皆保険制が発達して居た国々でも、ワクチンが全国民に投与された。ロシアが最近急速に感染者が伸びて居るものの、死者数が未だ少ないのもワクチン及び医療整備のお陰と云われて居る。感染の拡大は、プーチン体制下の対応の遅れ、社会保障の削減等、詳細は更に調査する必要がある。
 
 欧州で最初に爆発的感染が広がったイタリアでは、5つ星運動等ポピュリストにより「反ワクチン運動」が展開されて居た。ヨーロッパ及びアメリカで、ポピュリズム運動のエリート批判と共に反ワクチン運動が広がった事は興味深い。それが米欧の爆発的感染拡大の一つの原因に為ったのか。これに付いては更なる検証が必要であろう。

 途上国の社会インフラの不整備

 他方、開発途上国ではウイルスの犠牲は数としては少ないが、社会インフラの不整備に依り先進国よりも社会的被害は遥かに大きいとの見方もある。途上国の多くの国で、インフォーマルセクター・・・国家の行政や公的経済活動に含まれ無い私的な経済活動に従事する人々が打撃を被り易い事に加え、コロナの影響で先進国の資本投資が激減し、自国経済が崩壊する状況に置かれて居るとされる。コロナによる医療崩壊では無く、先進国の撤退に依る経済崩壊である。

 新興国に付いては、今後、米欧日等に続いて被害が拡大して行くのか、それともこのママ留まって、コロナウイルスは先進資本主義国に狙いを定めて拡大して居る状況が続くのかは、予断を許さ無いが、少なくとも、自由主義的な社会の方が、管理された独裁型社会に比べて、コロナにとって居心地が好い事は確かなようだ。
 現在迄の処、コロナウイルスは自由主義・グローバリゼーション下の先進資本主義の様なオープン社会システムを利用して拡大し、故に現代の資本主義システムをユックリと長期的に破壊して行って居る。コロナ危機が続くとすれば、先進資本主義国のグローバル経済は破綻してしまう。

 アメリカ・欧州は自壊しつつある?

 アメリカの内側からの自壊。これが最も象徴的に現れたのは、2020年4月18日頃から、ミシガン州やノースカロライナ州を発端とし、各州に広がった自宅待機への反発と「解放せよ!」「仕事よこせ!」のデモである。
 アメリカの感染が70万人を超えて広がる中、医療機関が止めるのも聞かず、News WeekやABCニュースの報道では、トランプ大統領のツイッターの呼び掛けで自警団が形成され、バージニア州やミシガン州で「自由を!」「(民主党の)女性知事をロックダウンせよ」等の不穏な空気が広がり、それが各州に広がって居る事が報告された。民衆は「アメリカを再び偉大に!」と叫び、多くは民主党の知事が居る州政府に向かいデモをし、トランプはこれを支持し「解放せよ!」と煽るツイッターをして居ると報道された。

 世界の感染者の3分の1・死者の4分の1以上を占めながら「消毒液を注射すればコロナは消える」と述べるトランプを支持し、民主党の州知事が行うロックダウン反対と解放を掲げ、人々が密集してコロナ感染拡大を呼び込むデモをマスクもせず実行する。まさに反エリートの極みである。その翌週から感染者と死者は再び跳ね上がった。アメリカ社会の内側からの自壊が始まって居る。

 広がる黄禍論

 コロナウイルスを中国ウイルスと呼び、WHOは中国よりで間違って居ると批判し、拠出金を支払わ無いと宣言するトランプの行動は、人々の闘争心理を煽り立てる。
 戦間期のナチス・ドイツの危機感と同様、世界からの孤立・コロナの恐怖・トップ維持の渇望による排他的心理状態に為った国民により、次期大統領選でトランプは、対策の失敗を中国やWHOに転嫁する政策に依って圧倒的民衆の支持を得て圧勝するかも知れない。
 世界最大の経済力・政治力のみ為らず、軍事力・核・情報網を持って居るアメリカが、民衆の怒りに対して歯止めが利か無いばかりで無く敵対を煽る様な言辞を吐く大統領が、次期大統領選挙でも圧勝すれば、国際政治に於いても制御が利かず危険な状況に為る。今も進めて居る様に、日本や欧州の同盟国に、中国の力の拡大を恐れて、武器を購入させ軍事的緊張が高まる可能性がある。

 アメリカでコロナを制御出来無い原因は、トランプ政権の対策の遅れのみ為らず、貧富の格差が大きく貧しい地域に人が密集して居る事、欧州や日本の様に皆保険制が徹底して居らず、コロナに罹ると広がり易く重篤化し易い、又政権が貧しい地域のコロナの広がりよりも経済の衰退防止に関心が有る事、白人以外の人権意識が弱い事が挙げられる。
 最大の問題は、人の危機感や恐れを他に対する攻撃に向かわせる心理的な上手さが有る事である。しかしそれが相互信頼や周辺国との協力を断ち切り、自由主義のアメリカを内側から掘り崩し自壊させる可能性がある。

 アメリカのアジア黄禍論の第1波は、中国で大量の死者が広がった1月から2月に起こった。第2波は、現在、アメリカの感染者が世界の中で、他と比較に為ら無い程の爆発的感染を受け、自由主義と「アメリカを再び偉大に!」を掲げて、中国のみ為らず、韓国・日本・ベトナム等に怒りを拡大させて居る事だ。

 メディアの役割

 こうした時、お互いの疑心暗鬼と、民族的・人種的憎悪の拡大の中で、戦争の危機が起こる。こうした時期、公正なメディアの役割が極めて大きい。しかし日本のメディアのアメリカ批判の手控えは目に余るものがある。

 1929年の大恐慌で、人々の不安やストレスが高まり、第2次世界大戦に突入した様に、今回の経済恐慌以降、先進諸国が暫らくの間完全に中国に後れを取る事の予測、或いは何より、世界経済の頂点から転落して行く危険性が起こって来る事等から、リベラル批判・中国批判・アジア批判が、自己防衛とナイマゼに為って暴力化する機運がある。
 コロナウイルスが中国から世界に広がる中で、アメリカでは、2〜3月に既に、銃や弾薬が通常の何倍も売れると云う状況が起こった。人々は武装して居るのである。何に対して? 見え無い敵に対して。
 今回の民主党に対する「解放せよ!」のデモでも、多くの人々は銃で武装し、口々に解放を叫びながらデモ行進をした。アメリカで第2陣の感染の爆発的拡大が起こる可能性がある。中国批判が、既に起こって居る黄禍論と繋がら無い保証は無い。

 日本では既に感染者が1万4000人を超えても、取り敢えず平静を保って居るが、感染者・死者が進み、韓国・中国との軋轢が更に高まると、現在アメリカが背後から圧力を掛けて来て居る様に、中国に対する軍事的なミサイル防衛準備が進んで行く可能性がある。

 ワクチンの早急な開発、政治的リーダーシップの重要性

 今政治的に必要な事は、自由主義と経済資本主義が爆発的コロナ感染を世界に広げて行く前に、可能な限り早期にワクチン開発乃至効果的な薬を見付けて、鎮静化させて行く努力を続ける必要がある。加えて、コロナから起こり売る、政治的・社会的・心理学的対立の危険性を知らせて行く事、人々の危機感を扇動する指導者を批判し続ける冷静な目を、先ずメディア・知識人が、又市民達が持つ事である。社会の精神的連帯や相互信頼による自制と云う地味な作業が、コロナの感染危機を抑えて行く。

 アメリカのデモが暴動化・武力化して国内のアジア人を襲ったり、トランプがそれを背景にして、中国やWHO批判からエスカレートしそれが全米にウネリと為って広がる中、欧州では中国医療団がマスクや人工呼吸器を配布し影響力を拡大して居る。ロシアも同様に、軍の医療施設部隊を感染地に派遣して居る。
 コロナを撃退するのはポピュリズムと自国中心主義では無い。アメリカが世界の指導者としての地位を維持する為には、先ずは自国の感染拡大と死者拡大を止め、中国に武力威嚇を行ったり同盟国の武器購入や軍事費の増大に圧力をかけたりするのでは無く、国際協調と社会インフラ整備、世界の医療チームとの共同を実現して行く事が結果的にコロナを撃退出来る事を理解すべきだ。歴史的にも、暴走は始まったら止められ無いのだから。


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 羽場 久美子 青山学院大学教授 青山学院大学 国際政治経済学部国際政治学科 教授・(グローバル国際関係研究所所長 学位 博士 国際関係学 津田塾大学 J-GLOBAL ID200901050031842897 http://side.parallel.jp/ekumihaba/ 専門は、国際政治学、国際関係論、国際社会学、EU(欧州連合)地域研究、比較政治学、ナショナリズム、ゼノフォビア、先進国危機と戦争。特に、欧州とアジアにおいて、安全保障の制度化や和解の制度化をどのように実現するかについて、ヨーロッパに学び、OSCEや境界線地域のユーロリージョン、和解のための対話組織の恒常化について検討している。冷戦史研究、境界線とマイノリティ研究、移民・難民問題、ジェンダー、グローバル化と格差の拡大など。ホームページ:http://side.parallel.jp/ekumihaba/



















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