2020年02月16日
「下層風俗嬢」3500円でカラダを売る女達 性のデフレ化が止まら無い
「下層風俗嬢」3500円でカラダを売る女達 性のデフレ化が止まら無い
〜ルポライター 中村 淳彦 裏社会 格差・貧困 2016 4〜
過つて性風俗は、借金や精神疾患等、何か「特別」な事情を抱えた一部の女性が稼ぐ最終手段の場であった。しかし現在は経済的に困窮した「普通」の女性が、生活費を確保する為にカラダを売って居る。性風俗業界の動向から日本の格差と貧困を読み解く『図解 日本の性風俗』を著した中村淳彦氏の特別リポート。
カラダを売っても稼げ無い
「もう、風俗歴20年に為るかな。10年位前迄は稼げたけど、今は1日1本着けば好い方。持って帰れるお金は1万円には為ら無いわ」
鶯谷の熟女デリヘルで働く渡部美幸さん（仮名・50）はこう話した。埼玉県某市のベットタウンで夫と2人暮らし。極一般的な主婦だったと云う渡辺さんは、結婚11年目で夫が個人経営する喫茶店が廃業。住宅ローンが払え無く為った。諸々の事情から購入した一軒家を手放す事が出来ず、首が回ら無く為り悩んだ末に風俗で働く事にしたと云う。
風俗嬢として働き始めた最初の5年間は、月50万円以上は稼げたと云う。処が1999年の風営法改正でその風向きが変わる。デリヘルが激増し客が徐々に減ったのだ。風俗だけでは収入が足りず近所のスーパーマーケットでパートを始めた。今も週3日はデリヘル、他3日はスーパーで働いて居る。
この数年間、風俗業界は深刻な不況と、風俗嬢の収入の下落に喘いで居る。今や風俗嬢の「超高収入でラクして稼いで居る、消費と遊び好きな女性」と云うイメージは、1980〜1990年代の全盛期を経て過去のものと為った。
ブランド物で着飾った派手な風俗嬢はホンの一握り、大半はバーゲンやアウトレットで買った洋服を着て、格安居酒屋で割り勘で飲むと云う地味な生活を送って居る。
その傾向は、風俗業界に大打撃を与えたリーマンショック以降から特に顕著で、現在の風俗嬢の殆どは、中小企業のサラリーマンと同レベルか、それ以下の賃金で身体を売って居る。身体を売っても中小企業のサラリーマン以下の賃金とは、夢も希望も無い話だがこれが現実だ。
風俗の下落は何故起こったのか
風俗嬢のセカンドキャリアを応援する非営利法人「GrowAsPeople」やセックスワーカー自助団体「SWASH（Sex Work and Sexual Health）」等のアンケート調査によれば、風俗嬢の現在の平均賃金は月33万円〜38万円程度で、2000年頃の月70万円程度と言われて居た頃と比べると半減して居る。世間の世帯収入の下落を大きく上回り、風俗嬢達の収入は激減して居るのだ。
風俗嬢が稼げ無く為った原因は、性風俗のデフレ化によるものだ。2000年代から社会全体がデフレに悩まされて居るが「女性のハダカ」の価格はソノ実質経済を上回る勢いで下がり続けて居る。
デリヘルを中心に多くの風俗店が価格競争に巻き込まれ、サービスの単価を下げながら、集客も減らして居る。社会と連動する形で、性風俗の世界でも格差が広がって居るのだ。性風俗のデフレ化の最大の要因は、従来であれば性風俗業とは無縁の一般の女性が続々とハダカに為った事、そしてデリヘルの激増によるものだ。
単身女性の3人に1人が相対的貧困に該当すると云う「女性の貧困」が深刻化した事で、一般女性の風俗志願者が増えた。更に1999年の風営法でデリヘル（無店舗型）が実質合法化された為、男性客が減り需要と供給のバランスが崩れたのだ。
それ迄の店舗型性風俗は、違法か合法か判ら無いグレーゾーンの業種だったが、ドンな業種でも合法化（規制緩和）されれば参入が増える。デリヘルも他に漏れず異業種参入が続き、現在警察への届出数は1万9000店舗超えた。
この数はセブン・イレブンの店舗数1万8572軒（平成28年2月現在）と同程度で明らかに供給過多と言える。限られた需要の中で店舗が増えれば、男性客が分散し稼動も下がる。その結果、誰も稼げ無く為ってしまったのだ。
デフレが進んだ現在のデリヘルは、過半数以上が60分1万円以下と云う破格の価格帯で性的サービスを提供して居る。この価格帯は安過ぎだ。そんな格安風俗店を支えるのは、若さでは勝負出来無い30歳以上の熟女達である。
近年の人妻熟女の流行で風俗嬢の上限年齢は無く為ったものの、労働者派遣法を代表とする格差に拍車を掛ける政策によって、現在、生活の為に風俗を志願する一般の女性の増加が後を絶た無い。風俗業界全体で需要と供給のバランスを完全に崩壊させた事で、単価は下落の一途を辿って居る。
更に、カラダを売っても貧困レベルの低賃金しか稼げ無いと云う女性も存在する。経済的な苦境に陥りハダカに為った風俗嬢の中で、更にその下層に居る稼げ無い女性達の多くは40歳以上の熟女だ。
下層風俗嬢の多くは、未婚・バツイチ・シングルマザー等の単身女性達だ。彼女達は自分の稼ぎで生活を支え無くては為らず、風俗店の増加による供給過多の為厳しい競争に晒されて居る。競争に負けた風俗嬢達の収入は生活保護水準を下回り「食べるのもヤッと」と云った危険な状態と為って居る。
ハダカの女性は社会を映す鏡
カラダを売って貧困レベルの低賃金しか稼げ無いと云う現実を信じられ無い読者の為に、デフレの象徴である、激安デリヘルで働く女性を想定して収入を試算してみよう。
続々と競合店が増え続ける中、性的魅力が普通レベルの女性が働ける店は限られて居る。都市部デリヘルの値下げ競争の象徴とされて居る某老舗チェーンでは30分3900円・45分5900円と云う価格帯でサービスを提供して居り、その内女性の取り分は2400円・3500円と異常な程の低賃金だ。単価が安過ぎるこの店には、各種性風俗を断られた女性が集まって来る。
デリヘルは兎に角男性客が少なく、低価格の格安店でも女性1人当たりの客数は平均で3人、人気の有る上位の女性でも多くて6人程度だ。3500円（1人辺りの単価）×3人で、日給は1万500円、週4日勤務でも16万8000円しか稼げ無い。
東京都の最低賃金は900円なので、待機時間を含めれば、コンビニのアルバイトと同等か、交通費等も入れればそれよりも低い賃金と為る。生活にお金の掛かる東京で暮らすにはこの金額では最低限の生活も出来ないだろう。早朝に時給1000円程度の清掃のアルバイトをしてプラス月3万程度を確保し、何とか凌いで居る女性も居る程だ。
地方のピンクサロンも同様に厳しく、回転無しの30分5000円の店で時給は2000円、週4日勤務で日給1万2000円だ。雑費1000円と源泉徴収を引かれると、日給は9800円、月16日働いても15万6800円にしか為ら無い。この収入は低賃金が社会問題と為って居る介護職と大して変わら無い金額だ。
カラダを売る事は、性風俗が誕生した400年以上前から女性が稼ぐ最終手段であった。日本が貧しかった戦後や昭和期に風俗や売春を覚悟した女性達の月収は、大卒初任給の数倍と大きなリターンを受けて居たが、1990年代後半の新自由主義政策以降は、一般女性の大量参入によって「簡単に価値が認められる」と云う大前提が崩れてしまった。
社会のマジョリティに属する一般女性が風俗や売春をする覚悟を決めても、貧困から逃れられ無い層を生む社会は異常としか言い様が無い。
多くの女性達は月5〜6万円のお金が足り無いが故に「ハダカの世界」に足を踏み入れて居る。これ以上「普通の女性」が風俗嬢に為ら無い為には、最低賃金の上昇が不可欠だ。現在と物価が変わら無い事を前提として、その層の女性達の収入が月5〜6万円アップすれば、恐らく風俗嬢志願者は激減する。
時給に換算して最低賃金を約300円上げるだけで、カラダを売ら無くても生活出来る一般女性が大幅に増えるのだ。東京都では時給1200円、大阪は1150円、沖縄は1000円。しかしシングルマザー等常勤が難しい層を加味すれば、500円程度迄上げるのが妥当だろう。
格差が広がり女性の貧困が進む程、風俗志願者が増え女性が生き延びる為の最終手段が崩壊して行く。格差社会の煽りを受けた女性達が性風俗の世界に足を踏み入れても、立ちハダカル「貧困」からは逃れられ無いで居る。ハダカの女性は、今の日本の姿を映す鏡なのだ。
風俗嬢30万人に観る「崩壊する日本」 貧困、格差、失業、デフレ「アナタの友人、恋人、妻は何故、カラダを売るのか?」裸で稼ぐ風俗嬢30万人、2兆円市場の一大産業、そのリアルな実態を読み解く。
中村淳彦（なかむら・あつひこ）東京都生まれ。アダルト業界の実態を描いた『名前のない女たち』『職業としてのAV女優』『日本の風俗嬢』『女子大生風俗嬢』『ルポ中年童貞』など著書多数。フリーライターとして執筆を続ける傍ら介護事業に進出し、デイサービス事業所の代表を務めた経験を元にした『崩壊する介護現場』が話題に。『熟年売春〜アラフォー女子の貧困の現実』（ミリオン出版）最新刊は4月27日『図解 日本の性風俗』（メディアックス）
以上
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