HIV感染が世に知られるようになってから、不特定多数の相手との性行為が減少して淋病(りんびょう)も減少していました。しかし最近になって、再び増加傾向が見られるようになってきたそうです。
そして今、淋病の中でも「スーパー淋病」と呼ばれる病状が話題になっています。一体「スーパー淋病」とは何なのでしょうか?通常の淋病と何が違うのでしょうか?医師に詳しい話を聞きました。
淋病って何?感染経路は?
淋病は性感染症です。性行為によって淋菌に感染し、主に男性は尿道炎、女性は子宮頚管炎を起こします。最近では喉や直腸、肛門周囲、眼などにも感染し、炎症を起こす人もいます。これは性行為の多様化が原因のひとつとも言えます。
男性の淋菌性尿道炎では、主に排尿痛や尿道口からの膿状の分泌物が見られることが特徴的です。女性の子宮頚管炎の場合も、膿状のおりものがみられることもありますが、症状がわかりづらいので気づかない危険もあります。
また、女性の淋病は、放置すると子宮や卵管、骨盤内に炎症を起こし、不妊症の原因にもなりかねないという恐ろしい面もあります。淋病の疑いがある場合、決して放置しないようにしましょう。またクラミジアやHIVなども、同じ性行為で感染する疾患なので、同時に検査すると安心ですね。
性病は風俗業勤務者からの感染だけだと思っている人も多いようですが、一般の人同士の性行為でも感染は増加傾向にあります。
「スーパー淋病」には抗生物質が効かない?
検査は尿道や腟の分泌物を顕微鏡で見たり、培養検査や遺伝子検査の結果で診断します。そして薬剤感受性検査といって、どの抗生物質が有効かも確認します。
ところが最近は「スーパー淋病」とよばれる疾患が見られるようになり、問題になっています。
これは抗生物質に強い、治療が非常に難しい厄介な淋菌による淋病です。現在、イギリスを中心に医療関係者の間で注目を集めています。日本ではペニシリン系の抗生物質は9割以上が効かないとされ、ニューキノロン系という抗生物質も70〜80%くらいは効かないとされています。普通の淋病に対して、どれだけスーパーなのかがうかがえます。
淋病治療には、淋菌にのみ適応のある「スペクチノマイシン」という注射製剤や「セフトリアキソン」という点滴の抗生物質が、スタンダードな薬とされています。しかし、淋病の患者さんが増え、薬を使用する機会が多くなるにつれ、これらの薬に強い淋菌だけが生き残るという現象が起きてしまうのです。日本でも2009年にセフトリアキソンがほぼ効かないという淋菌が発見されています。
抗生物質に強い菌が生み出されないために
アメリカでは、治療薬としてセフトリアキソンを使用しても効果が認められない淋菌の数が増えてきたため、やむなくセフトリアキソンに加えてアジスロマイシン(点滴、または飲み薬)、またはドキシサイクリン(飲み薬)という別の系統の抗生物質を同時に用いて治療することを推奨するようになりました。
しかし、点滴だけを受け、飲み薬は飲まない、という患者が一部に居ることを専門家は指摘しています。これはセフトリアキソンが効かない淋菌を増やしてしまう可能性が高いということです。
複数の抗生物質を同時に用いることで、抗生物質に強い菌を出にくくする方法は、結核などでも行われています。しかし、患者さんの協力が得られなければできない方法です。
結核菌でも、同じような理由で多剤耐性結核菌が問題になっています。薬に勝つ力を持つ結核菌が生まれているということです。
やがて菌が強くなり、最終的に使える薬がなくなってしまう…ということにならないよう、医師の指示に従って、正しく薬を使うことが大切です。
もしも淋病にかかってしまった場合は、薬を指定通りに飲むことが大切です。しかしその前に、自らの体を守るため、安全な性行為を心掛け、淋菌にかからないようにしてくださいね、そして症状が疑われたら放置しないで、早めに検査や診察を受けるようにしましょう。