2017年11月08日
夢の装置の出現はいつ? 「徹夜勉強VS記憶定着」のジレンマ解消か
試験日が近づいて来たとき、眠らずに勉強しないと間に合わないが、眠らないと記憶が定着しない、どちらを選ぶべきか悩んだことはないだろうか。
学んだことや体験したことを記憶として定着させるためには、睡眠が必要だといわれている。効率良く記憶するには、十分な睡眠が必須なのだ。
ところが、理化学研究所、名古屋大学、東京大学の共同研究により、特定の脳の神経回路を刺激することで、睡眠不足でも記憶力を向上させることができることが分かった。
あくまでもこれは、「やむを得ず徹夜して勉強しなければならない。でも、きちんと睡眠をとって記憶も定着したい…」という、きっと多くの方が抱えるジレンマに向けたメッセージである。
□そもそも記憶の定着に睡眠が必要なのはなぜ
私たちは浅い眠りや深い眠りを約90分周期で繰り返しながら眠る。眠っている間は、視覚や聴覚なども含め起きている時間に比べて圧倒的に外部からの刺激が少ない。その刺激が少ない睡眠時に脳内で情報処理されることで「記憶」として定着する。
逆にいえば、眠らないと記憶は定着しにくいということだ。実際に、人間でも動物でも長時間眠らせない実験を行うと、記憶の定着が阻害されることが分かっている。
□脳内探検 知覚記憶の定着のしくみを探る
起きている時の皮膚や手などの感覚は、体の各部位から脳の低次な領域、そしてより高次な領域へ伝わることで知覚される。
一方、眠っている時には感覚の知覚は低下するため、知覚記憶が定着するには、脳のより高次な領域から低次な領域へ、情報が逆に伝わる仕組みが関係しているようだ。
今までは、脳の中のどの回路が知覚記憶の定着に関係があるのかは、分かっていなかった。共同研究グループは、知覚記憶の定着には、大脳新皮質内の高次な第二運動野(M2)から低次な第一体性感覚野(S1)へと情報が伝わるのではないかと考え、その可能性を探った。
□記憶の定着率アップには、寝入りばなのノンレム睡眠が大切
研究チームは、マウスの実験で知覚学習をした直後の深いノンレム睡眠の時に伝達を阻害すると、知覚記憶の定着が妨げられることを知った。これはつまり、特に寝入りばなのノンレム睡眠(第一徐波睡眠)が、知覚記憶の定着率アップには大切だということだ。
一方、入眠してから6〜7時間後のノンレム睡眠は、記憶の定着には影響がなかった。
□睡眠不足でも記憶の定着をコントロール可能!?
さらに、知覚学習をした直後の深いノンレム睡眠時のマウスに、M2とS1を同時に活動させて光で刺激したところ知覚記憶をより長く保つことができるようになり、4日後も記憶を保っていた。
このことから、寝入りばな直後の深いノンレム睡眠の時に、特定の脳刺激をすることで、記憶の定着をコントロールすることが可能だと分かった。また、断眠中のマウスに同様の刺激を与えたところ、同じように記憶を保持できることも分かった。
睡眠不足であっても、適切な脳刺激をすれば記憶の定着が可能で、記憶力を向上させることができるのだ。
□睡眠不足でも記憶力抜群になる!? 夢の勉強サポート装置は発売されるのか
今回のマウスの実験は知覚の感覚野についてだが、視覚野や聴覚野についても同じようなメカニズムである可能性があるようだ。
今回の研究は、今後睡眠障害の患者や高齢者の、記憶力の低下を改善させる方法の開発につながる可能性も期待できる。
そしてひょっとすると、受験勉強などに使える、記憶定着装置の開発も期待できるかもしれない。
しかし理化学研究所の村山正宜チームリーダーは「将来的に受験勉強に応用できるかもしれないが、心と体の健康には、きちんとした睡眠が重要だ」と話している。
もしも受験暗記用の記憶定着装置が完成しても、やはり睡眠は必要だということのようだ。