2016年08月23日
東洋の陰陽論がヒトの眠りを改善? 注意力と睡眠の蜜月関係
夜と昼、暗と明、静と動。宇宙のあらゆるものは「陰」と「陽」の相反する性質が調和して、秩序が保たれているという考えがある。片方だけでは存在できず、相対するものが必ず存在することを表している。
夜の静かな眠りと、昼の活動で発揮される注意力も、こんな陰と陽の関係にあるという研究が、オーストラリアのクイーンズランド脳研究所の研究チームから報告された。
□ヒトにとっての眠りとは
ヒトの眠りと注意力の関係を知るために、研究者たちはまず別の動物の睡眠を研究した。ヒトにとっての睡眠の機能を理解する手がかりを得るためだ。
単純な神経系を有する線虫のような動物は、脱皮の前や高温などの環境ストレスがあるときに、活動を休止して眠ったようになる。
しかし、昆虫と哺乳類を含む、より複雑な神経系の動物にとって、睡眠は単に発育のためや環境ストレスに対応するためにのみあるわけではない。多くの情報があふれる中から必要な情報を選び出すような認知機能をサポートするためにも睡眠は必要とされる。
□睡眠と注意力の共通点
他の動物の研究から、睡眠と注意力は関連しながら共に進化してきたと分かってきた。この2つは、夜と昼、休息と活動のように正反対の活動に思えるが、どちらも必要ないものを無視しなければならないという共通点があり、類似しているともいえる。
睡眠は、ぐっすりと眠るために多少の騒音や明かりを無視することで、眠ることができる。注意力もまた、たくさんある必要ないものを無視して必要なものに注意を向けることだからだ。
つまり、睡眠も注意力もいかに必要ないものを無視するかという脳の働きが必要なのだ。このような考え方は、脳が睡眠と覚醒の間でどのように働くのかの解明に、役立つと研究者は考えている。
□睡眠は東洋の陰と陽の関係に似ている
よく眠れなかった次の日には誰でも、注意深く仕事をするのが難しいものだ。また、昼間に注意力をたくさん必要とする仕事をこなすためには、夜はよく眠らなければならない。つまり、睡眠と注意力は表裏一体にあるといってもいい。
研究者たちは、睡眠と注意力は、実際にはお互いに依存しており、調整しながらバランスをとっているのだと考えている。これはちょうど東洋の陰と陽の関係に、とても似ていると指摘している。
□調和とバランスが大切
東洋医学では、全てが陰と陽とのバランスで成り立っているものと考える。陰と陽とは全く相反する性質を持っているが、元来は同根で、陰と陽は対立しながら、協調もし合っている。
陰だけ、陽だけ、どちらかが強くなるのが良いのではなく、陰・陽両方が良いバランスを保っていくことが大切というのが、東洋医学の陰陽論だ。
睡眠と注意力も、どちらも根本は同じ性質を持ちながら、静と動という対極関係にあるのが、まさに陰と陽だ。眠りが浅くなれば注意力も散漫になり、注意力を保つためには眠りが必要だ。どちらかだけ強くすることはできない。バランスは必須なのだ。
□逆もまた然り 日中の注意力が不眠を解決する可能性も?
それでは、ひょっとしたら注意力を付けることで、不眠を解決する遮断力が身に付き、よく眠れる脳になる可能性はないのだろうか、新しい研究に期待したい。
中国の老子は陰陽思想を、「全てのものは陰と陽を中和させる“気”によって調和を保っている」と教えた。
老子の教えは、意識的にバランスをとる調和の大切さを伝えているが、中和させる“気”がなければ陰陽はバランスを保てないとも解釈できる。睡眠と昼間の活動も、バランスを考えて調整するとうまくいくのかもしれない。