指紋は人によって違う。もちろん双子でも違い、一生変わることはない。そのため個人識別情報として採用されており、指紋センサーなどの技術の進歩が著しい。
さらに、指紋は健康情報を教えてくれるシグナルでもあるという。もしかしたら、指紋であなたの将来がわかるかもしれない。
□指紋には高血圧のサインが現れる?
自分の指の指紋を見ていただきたい。どれ一つとして同じ形のものはないはずだ。また、同心円上に近い形で渦を巻いているものだけでなく、渦にはなりきれずに、円の端が開いたアーチ状のもの、線がちょっとたわんでいるだけのような形のものと、さまざまだ。このような指紋に、病気のサインが刻まれている可能性が示されている。
イギリスのサウサンプトン大学・研究グループによると、赤ちゃんが母親のお腹の中にいる胎児期の発育条件が、指紋の形に影響を与えているという。指紋は妊娠13〜19週にかけて形作られていくので、生まれてきた赤ちゃんの指紋の形を見れば、胎児期の赤ちゃんの発達状態が分かるのだ。胎児期に発育不良を起こすと、独特の形の指紋が形成されるという。
そして、指紋の渦巻きの数と血圧との間に関連性があるという調査結果も見られており、渦巻き状の指紋が2つ以上ある人は、渦巻き状の指紋がない人に比べて、血圧の値が8mmHg高かった。高血圧は脳卒中や心臓病のリスクを増大させる。高血圧症は一般的には大人の病気であるが、もしかしたら、そのルーツをたどると、胎児期の影響があるのかもしれない。
□指紋で薬物使用者の診断が可能に
指紋を薬物使用者の経過診断に使おうとする試みが、イギリスで行われている(※2)。
ロンドンにほど近いサリー大学の研究グループは、コカインの代謝産物は指紋で検出可能だとしている。汗の中にはごく微量にコカインの代謝産物が排出され、ティッシュなどで手を拭くと、そこに付着する。研究チームは、特別な装置により、その代謝物を原子サイズに基づいて特定することに成功した。
通常、薬物検査は血液、尿、唾液などの体液で行われる。しかし、指紋による薬物検査は、簡単なだけでなく、体を傷つけることなく個人を特定できるため、検査をすり抜けるのが難しいという。
□指紋による診断は装置サイズとコストの低下が課題
しかし、今使われている診断装置はサイズが洗濯板ほどと大きいうえに、日本円で6800万円(1ポンド170円換算)以上と非常に高価であるため、実用的ではない。今後、より安価な装置を代替品として使用できる可能性を検討していくという。
指紋をはじめとして、生体認証には目の虹彩や網膜、DNA、声紋など、さまざまな身体的特徴が利用されている。その中でも指紋は、古くは犯罪捜査に、また、近年ではパソコンやスマホでも使われるようになった。
また、アメリカ、韓国、マレーシアなど一部の国に加え、2007年からは日本でも、入国時に顔写真撮影と指紋採取が義務付けられるなど、最も身近かつ信頼性の高い個人認証ツールとなった。
それだけでなく、今回紹介したように、指紋と健康状態との間にも関連性が見いだされており、この古くて新しい個人識別情報「指紋」は、今後、さまざまな製品やサービスに応用されていく可能性がある。