2008年02月14日
なくそう・減らそう糖尿病:第7部・世界の取り組み/4
なくそう・減らそう糖尿病:第7部・世界の取り組み/4
◇途上国、悲惨な治療実態
「神様からびんたを食らったような衝撃を受けた」。初めて発展途上国の糖尿病患者の状況を知った時のことを、国際糖尿病支援基金の森田繰織(さおり)会長(41)=横浜市=はこう振り返る。
森田さんは99年の正月、知人の紹介でフィリピン・マニラ郊外にある低所得者向けの病院を訪れた。糖尿病の重症患者が入院している病棟は、蒸し暑く、汗や尿のにおいが漂っていた。
日本では既にペン型のインスリン注入器が主流だったが、目にしたのは昔ながらの注射器。しかも、使い捨てせずに繰り返し使っているという。インスリンはすべて、オーストラリアの支援組織「インスリン・フォア・ライフ」から無償で提供されたもので、患者たちは「一滴も無駄にできない」と語った。
森田さん自身も、高校1年の時に1型糖尿病を発病した。以来、何事も悲観しがちになっていたが、この日を境に変わった。「フィリピンでは、インスリンの全体量が不足している上、1カ月のインスリン代が一般の労働者の収入を上回る。普通に治療できる自分がいかに恵まれているか、初めて気付いた」
これをきっかけに、01年に基金を創設。寄せられた募金を基に、「フォア・ライフ」などの組織と提携して支援活動を進めている。仕事の傍ら、自費で現地を視察するなどして途上国の実態を調べ、ウェブ上や国際会議などで紹介している。
世界糖尿病財団の推計では、世界の糖尿病患者約2億4600万人の8割が途上国にいる。だが、森田さんによると、世界で生産されるインスリンの75%が先進国で消費され、インスリン不足は途上国共通の重い課題。専門医や知識を持つ人が少なく、食材が限られて食事が偏りがちなことなども、患者増加や症状悪化に拍車をかけているという。森田さんは「少しでも多くの人に、途上国の惨状を知ってほしい」と訴える。【須田桃子】
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毎日新聞 2007年11月16日 東京朝刊
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