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2016年04月18日

想い歌・12(半分の月がのぼる空二次創作)





 こんばんは。土斑猫です。
 今回の更新は半分の月がのぼる空二次創作・想い歌です。
 今回あたりから、原型である「恋文」からだいぶ形が変わります。
 興味があったら、比べてみるのもよろしいかと。ではでは。



想い歌.jpg



             ―21―


 ギリギリギリッ
 襟元が締め上げられる音が、耳元で鈍く響く。
 「あ・・・く・・・!!」
 振れる視界の先で、蓮華があたしを見つめている。
 爛々と暗く輝く瞳。
 これが、狂気というものなのだろうか。
 まるで、獲物を引き裂く肉食獣のそれの様。
 怖い。
 どうしようもなく、怖い。
 先輩は、これと真正面から向き合っていたのか。
 無理だ。
 あたしには、無理だ。
 後悔が、沸騰する様に沸き上がってくる。
 助けて。
 誰か。
 必死の体で、悲鳴を絞り出そうとしたその時―
 あの女(ひと)の顔が、脳裏を過ぎった。
 薄闇の満ちる部屋の中で、すがりついてきた手。
 溺れる人が喘ぐ様に、紡がれた言葉。
 (吉崎さん・・・。どうか・・・どうかあの娘の・・・)
 必死の思いで求められた、願い。
 そう。
 あの時。
 あの家に。
 あの部屋に。
 彼女達の想いに。
 踏み込んだ時から。
 知った時から。
 もう、引く事など。
 有り得は、しなかったのだ。
 「こ・・・の・・・」
 竦む身体に、激を入れる。
 ゆっくりと、右足が上がる。
 震えるそれに、必死で力を込める。
 そして―
 一気にそれを突き出した。
 ドカッ
 身体を揺らす、鈍い衝撃。
 耳に響く、短い悲鳴。
 喉元に感じていた圧迫感が消える。
 それと同時に、新しい空気が急激に喉に流れ込んできた。
 「ゲホッ!!ゴホッ!!」
 咳き込みながら、よろめく身体を背後のガードレールで支える。
 顔を上げると、涙に滲む視界に地面に倒れている蓮華の姿が映った。
 周りを見回すと、通りがかる人達が避ける様にして通り過ぎていく。
 面倒事は御免だという態度が見え見えだ。
 薄情な事この上もないが、この場においては都合がいい。
 息を整えながら、地に伏している蓮華に近づく。
 がむしゃらに出した蹴りが、いい所に入ったのだろう。
 蓮華は地に伏したまま、鳩尾の辺りを抑えてえづいている。
 「はあ・・・はあ・・・ざまーみろ・・・。」
 そう声をかけると、蓮華が顔を上げてこちらを見た。
 苦痛に歪む目は、それでもギラギラと燃えていた。
 「・・・いつまでも、調子に乗んないでよね・・・。所詮、アンタだって小娘じゃない・・・。」
 そう。
 こうして見て、ようやく分かった。
 どんなに怖かろうと。
 どんなに鬼気迫ろうと。
 彼女もあたしと同じ存在。
 非力でか細い、少女なのだ。
 そう考えると、ようやく心に余裕が出来てきた。
 もう一回、大きく息を整えるとあたしは腰を屈め、手を伸ばす。
 掴む、蓮華の腕。
 酷く細くて、冷たかった。
 「ほら、起きなさい!!」
 言いながら、蓮華の身体を引き起こす。
 「うるさい!!余計な事するな!!」
 そう言って、手を振り払おうとする蓮華。
 でも、まだダメージが抜けていないのだろう。その手に力はない。
 「グダグダ言ってんじゃないわよ!!いいから、さっさと立って!!ここじゃ、話も出来ない!!」
 蓮華は忌々しそうに舌打ちしながら、フラフラと立ち上がる。
 「ちょっと、あんたたち。大丈夫?」
 蓮華の手を引いて歩き出そうとした時、通りがかったおばさんがそう声をかけてきた。
 優しそうな顔。
 前言撤回。
 世の中、まだ捨てたもんじゃない。
 でも、今は他人にはあまり関わられたくない。
 「すいません。」とか「大丈夫です。」とか言いながら、蓮華を引っ張って場を離れる。
 心配そうなおばさんの視線が、いつまでも背中に張り付いていた。


 蓮華の腕を引きながら、あたしは歩き続けた。
 市役所を通り過ぎて、神社の前を通って、車道を横切る。
 蓮華はもう、抵抗しない。ただ、黙ってついてくる。
 その様は、疲れてる様にも、何かを諦めている様にも見えた。
 やがて、あたし達は勢田川に架かる橋の袂へ出た。
 人気はだいぶ減った。
 ここなら、腰を据えて話せるだろう。
 と、
 「何・・・?ここ・・・。」
 蓮華が、久しぶりに声を発した。
 怪訝な顔で、辺りを見回している。
 「勢田川よ。知らないの?」
 「・・・知らない。」
 薄々感じていた事だけど、この娘の世界は狭い。
 頭が良くて、知恵も回る。だけど、その意識が認知している世界は本当に狭いのだ。
 きっと、これまでの人生のアンテナを、鈴華という片割れだけに向けて生きてきたせいだろう。
 世間知らずと言ってしまえばそれまでだが、この娘の内面はそんな一言ではすまされないぐらいに歪み、病んでいる。
 彼女自身はその事を望み、受け入れているのだろう。けれど、それは決して誰も幸せにはしない。
 それどころか、痛みや悲しみを撒き散らす。
 その事は、彼女がうちの高校に転校してきた短い間だけで十分に証明されている。
 (あんたが何をしたのかは、先輩が言わない以上訊かないけど・・・)
 さっきはああ言った。けど、あの視聴覚教室の闇の中で起こった事は薄々見当がついていた。
 戎崎先輩は気付いただろうか。
 教室から出てきた時、先輩の首に薄っすらと付いていた朱い跡に。
 「何で、こんな所・・・」
 蓮華が訊いてこようとしたその時、
 サァ・・・
 北の方角から風が吹いた。
 その風を受けた蓮華が、川下の方を見る。
 「・・・海の、匂い。」
 「でしょうね。」
 そう言って、あたしは橋の欄干に手をかける。
 「海、そんな遠くないから。」
 「海が・・・」
 蓮華の目が、遠くを見つめる。
 「見ての通り、この勢田川はこのまますぐに海に続いてるわ。」
 「・・・・・・。」
 蓮華は橋の欄干に手を沿え、身を乗り出す様にして川面の果てを見ている。
 そんな彼女をよそに、あたしはぶら下げていたカバンに手を突っ込んだ。
 中から引っ張り出すのは、飲みかけのペットボトル。
 ボトルの蓋を回して、中身に口をつける。
 生温い液体が、喉を滑り落ちる。
 あたしはホッと一息つくと、改めて蓮華の方を見た。
 彼女は相変わらず、ジッと川面の果てを見つめている。
 さて、と思う。
 そもそも勢いでここまで引っ張ってきてしまったが、それでどうするか。
 漠然と話をしようと思って連れてきたけど、今更そんな事で事態が好転するだろうか。
 先輩の首についていた朱い跡や、さっき首をねじ込まれた痛みが脳裏に浮かぶ。
 繰り返すが、彼女が本気だったとは思えない。
 それでも、もう半歩で“向こう側”に踏み出す様な危うさを如月蓮華は持っている。
 彼女の抱える闇は深い。
 それに対する恐怖は消えていない。
 でも、ここまで首を突っ込んだ以上、もう引き返す事も出来ない。
 今更、退路はないのだ。
 やっぱり、行ける所まで行くしかない。
 残っていたペットボトルの中身を、一気に空ける。
 口の中の液体と一緒に、迷いを呑み込む。
 プハッと息を吐いたその時、それは不意に聞こえてきた。
 「♪・・・町外れの小さな港 一人佇む少女・・・♪」
 顔を向けると、川面の果てを眺めながら蓮華が歌っていた。
 「♪・・・この海に昔からある 密かな言い伝え・・・♪」
 消え入りそうな、だけど澄んだ歌声が、夜の大気に溶けては消えていく。
 「♪・・・願いを書いた羊皮紙を 小瓶に入れて・・・♪」
 あたしは胸の中の緊張を忘れ、それに聞き入る。
 「♪・・・海に流せばいつの日か 想いは実るでしょう・・・♪」
 歌の名は、『リグレットメッセージ』。
 『悪ノ召使』が好きな人間なら、知っていて当然の歌。
 『悪ノ娘』、『悪ノ召使』。これはその続編。
 内容は単純。
 召使の犠牲によって生き残った王女が、彼へ手向けた手紙を小瓶に詰めて海に流す。
 その情景と想いが、淡々と歌われる。
 それだけ聴いたのではよく分からない。先の2曲と合わせて聴いて、初めてその真意が分かる。そんな歌だ。
 「♪・・・もしも 生まれ変われるならば・・・」
 最後の句を紡ぎ、歌は終わる。
 「・・・・・・。」
 その余韻が消えるのを待って、あたしは声をかける。
 「うまいじゃない。先輩からは聞いてたけど。」
 「・・・・・・。」
 あたしの言葉に答える事もなく、蓮華は揺れる水面(みなも)を見つめている。
 話が続かない。
 どうしたらいいものか、途方に暮れる。
 と、
 「あんた・・・」
 囁く様にかけられた声。
 思わず、彼女の顔を見る。
 いつの間にか、蓮華がその瞳をあたしに向けていた。
 彼女は言う。
 「どうして、鈴華の事を知ってる?」
 「それは・・・」
 答えに窮するあたしを、白々しいと言わんばかりの視線が射抜く。
 「・・・やっぱり、母さんか・・・」
 そう言って、小さく舌打ちをする。
 どうやら、大体の事は察していたらしい。
 考えてみれば、当然かもしれない。
 件の書類をあたしが届けた事を聞いて、その事を予想したのだろう。
 賢しい彼女なら、容易だろう。
 「あの、おしゃべり・・・」と吐き捨てる様に呟くのが、微かに聞こえた。
 「何を勝手な・・・。」
 思わず、口に出る。
 「あんたのお母さん、本気で心配してた。それも知らないで・・・」
 その言葉に、蓮華がもう一度こっちを見る。
 酷く、冷めた目だった。
 「心配?あんな奴、何も分かっちゃいない。」
 バッサリと切り捨てる。
 「あんただって、そう。何をいい子ぶってんのか知らないけど、あたしと鈴華の事に余計な茶々入れないで。」
 何もかもを、拒絶する言葉。
 一瞬たじろぎそうになるけど、ここで引いたらもう機会がないのは確実だった。
 あたしは、心の中で練り上げていた言葉を言う。
 「死んだおねーさんと彼女持ちの男混同して、ちょっかい出す様なシスコンに言われたくないんですけど。全く、随分はた迷惑な人間よね。あんたの大事な鈴華おねー様って。」
 ・・・反応は、早かった。
 どこか虚ろだった蓮華の視線が、ギッと鋭くなった。
 眼前に鋭い針を突きつけられる様な、薄ら寒い感覚。
 さっきの恐怖が胸をかすめるけど、もう後には引けない。
 そのまま、突っ走る。
 「だってそうじゃない。死んだ人間の事引きずって、勝手に死んで、あんたの事を縛って、それで周りの人間まで巻き込んで。迷惑じゃなきゃ何だっていうの?」
 「・・・黙れ・・・!!」
 「ああ、やだやだ!!いつまでも迷ってられると、ほんと迷惑。さっさと成仏して、天国なり地獄なり行って先に死んだ彼氏とやらとよろしくやってればいいのに。」
 「黙れって言ってる!!」
 ガンッ
 蛇の様に伸びてきた手が、あたしの腕を掠め、後ろの欄干を掴んだ。
 蓮華の顔が、間近に迫る。
 さっきのそれよりも、ずっと昏く煮え立つ瞳が真正面から射抜いてくる。
 「死にたいの・・・!?」
 低く響く声。
 彼女の中の闇が牙を剥く。
 背筋に走る、例え様もない悪寒。
 これが、殺気というものなのだろうか。
 だけど、あたしも引かない。ここで、引くわけにはいかない。
 「・・・黙らない・・・。」
 恐怖に狭まる気道を鳴らしながら、答える。
 「何度も言わせるな・・・。」
 怖気立つ様な、声が言う。
 「あんたにあたし達の、鈴華の何が分かる!?」
 叫ぶ声。
 けれど、あたしも負けじと声を張り上げる。
 「分からない!!分かる訳ないでしょ!!」
 「――!?」
 火事場の馬鹿力とでも言おうか。思いの外大きく響く、あたしの声。
 虚を突かれたのだろう。蓮華が、驚いた様に息を呑むのが分かった。
 ここぞとばかりに、まくし立てる。
 「あたしが分かるのは、あんたが死んだ姉に縛られてるって事!!そして、そのあんたが先輩達を傷つけたって事!!それだけ!!」
 ありったけの声。
 喉が裂けそうになるけど、構うものか。
 「それで、どうしてあたしが鈴華さんの事を良く思える!?どうして良い娘だなんて思える!?」
 欄干を握っていた手が緩む。
 それを振り払いながら、あたしは詰め寄る。
 「あたしだけじゃない!!きっと、これからこの話を聞いた人達もそう思う!!そんなあんたに傷つけられる人達は、みんなそう思う!!」
 手ごたえがあった。
 あたしの言葉が、蓮華を打ち据えていた。
 彼女の心の中の、一番弱い部分を抉っていた。
 「あんな娘を一人遺して死んで、何て勝手な姉なんだろう!!あたし達がこんな目に合うような種を遺して、なんて迷惑な娘なんだろう!!」
 こんな事を言う事が、本当に正しいのかは分からない。
 だけど、今のあたしに分かる事はこれだけ。
 だから、ぶつける。
 今のあたしが言える事、全てを飾り立てる事なく、ただぶつける。
 「あんたが鈴華さんに縛られてる限り、あんたがそんな事を続ける限り、鈴華さんはそんな悪意にさらされ続ける!!」
 そう、子供(ガキ)のあたしにだって分かる。
 人は、残酷なのだ。
 例え、相手が今はこの世に亡い人間でも。
 例え、相手がどんなに悲しい想いを抱いて逝っていたとしても。
 その姿を自分達の思うままに歪め、誹謗し、嘲笑する。
 その人が、自分とは関係ない場に立つ者なら、なおの事。
 だからこそ、遺された者達は守らなければならない。
 そんな残酷さから。
 そんな悪意から。
 己を守る術を無くした者を。
 己を示す術を無くした者を。
 守っていかなければいけない。
 そうしなければ、“彼女”は傷つけられる。
 死してなお、辱められ続ける。
 だから、彼女は。
 蓮華は気付かなければならない。
 自分の行為の意味に。
 それが為す結果に。
 気付かなければいけない。
 例え、その行為が“彼女”を想うものからであったとしても。
 “悪”は、“悪”。
 決して、許されるものではないのだから―。
 「分かってる!?理解してる!?誰でもない!!一番は蓮華(あんた)!!蓮華(あんた)が鈴華さんを貶めてるのよ!!」
 だから、あたしは叩きつけた。
 最後の言葉を。
 あたしが言える中で、一番痛いだろう言葉を。
 彼女に。
 蓮華に、叩きつけた。
 ハァ ハァ ハァ
 吐き出すべき言葉を吐き出して、あたしは荒い息をつく。
 気がつけば、蓮華は泣いていた。
 地面に崩れ落ち、両手で顔を覆って。
 小さな子供の様に、泣いていた。
 そんな彼女の嗚咽を、あたしは黙って聞いていた。
 いつまでも。
 いつまでも、聞いていた。


                                   続く
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