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2016年03月27日

霊使い達の旅路 第一章・一話(遊戯王OCG二次創作)




 こんばんは。土斑猫です。
 今回より、遊戯王OCG二次創作・霊使いシリーズの新章開始です。
 今度の主役はかの姉弟。
 またしばしの間、お付き合いの程よろしくお願いいたします。


ライナ2.jpg



             霊使い達の旅路

           ―第1章・友へと捧ぐ歌―


               ―1―



 「やれやれ・・・。」
 ここは、ミナコ魔法専門学校の面談室。
 その部屋の中心に置かれたテーブルに座するのは、艶やかな金髪に緑色の被り物を被った、法衣姿の女性。名を精霊術師(エレメンタルマスター)・ドリアード。この学校の講師の一人。
 彼女は、己の前に置かれた紙を見下ろしてため息をついていた。
 件の紙には、「長期休学願い」の文字。
 細い指でそれをなぞりながら、自分の前へと視線を送る。
 そこには、彼女の対面に座する銀髪の少女が一人。
 「分かっていますか?」
 少女に向かって、彼女は言う。
 「はいです。」
 答える声は、はっきりと。
 「貴女は、この間の事件で利用出来る休暇のほとんどを消化してしまいました。これ以上休暇を重ねれば、他の皆さんとの教育課程に差が出来ます。」
 「分かってるです。」
 「それが、どういう事か・・・。」
 念を押すように、告げる。
 「皆さんと、一緒に卒業する事が出来なくなりますよ?」
 ピクリ
 少女の肩が、微かに揺れる。
 俯いた顔に浮かぶ、苦悩の色。
 けれど、その迷いはすぐに消える。
 「それでも・・・」
 少女は俯いていた顔を上げ、まっすぐにドリアードを見返す。
 そして―
 「それでも、ライナは行くのです!!」
 その言葉を、凛と放った。
 それを受けたドリアードは、ため息をもう一つ。
 「まったく、あなた”達”ときたら・・・」
 「達?」
 怪訝そうに言うライナに向かって、ドリアードは頷く。
 「分かりました。」
 言葉とともに、ポンと言う音が鳴る。
 「気をつけて、お行きなさい。」
 「ありがとうございますなのです。」
 受け取った紙には、赤い印で「許可」の文字が押されていた。


 キィ・・・
 軽く軋む音を立てて、扉が閉まる。
 部屋を出たライナは、大きく一つ、息をつく。
 「はぁ・・・。」
 「・・・済んだのか・・・?」
 「!!」
 不意にかけられた声。驚いて上げた視線の先で、見慣れた黒髪が揺れる。
 そこには、彼女の片割れ。闇霊使いのダルクが壁にもたれる様にして立っていた。
 「ダルク・・・。」
 「・・・済んだのか・・・?」
 再びかけられた声。
 思わず、首が縦に動く。
 「・・・なら、行くぞ・・・。」
 「え・・・?」
 ポカンとするライナ。
 そんな彼女に向かって、ダルクは懐から取り出した紙を振って見せる。
 何処かで見た様な字面の紙。端の方に押された「許可」の印がはっきりと見えた。
 「ダルク!!」
 「・・・御託なら聞かないぞ・・・。」
 ライナの言葉を遮る様に、ダルクは言う。
 「・・・お前を野放しにすると、何をしでかすか分からないからな・・・。ついてってやるよ・・・。」
 「ダルク・・・いいのですか?」
 「・・・今更だな・・・。」
 ふと向こうを向いた頬が、紅く染まっている様に見えたのは気のせいだろうか。
 「・・・ありがとうです。」
 華の様にはにかみながら、ライナは最愛の弟に向かってそう言った。


 かのガスタの地での変事から、一週間が経っていた。
 その間、事後処理を進めながらライナはある決意を固めていた。
 それは、一人の友人の事。
 彼は彼女とその級友のために戦陣に立ち、そして犠牲になった。
 名を、『モイスチャー星人』の”モイ”と言う。


 「・・・連絡は、取れたのか・・・?」
 「・・・・・・。」
 ダルクの問いに、ライナは黙って首を振る。
 「・・・無謀な旅になるぞ・・・?」
 「分かってるのです。それでも・・・」
 「・・・生きていれば、必ず会えるか・・・。」
 俯きながらも、強い力を失わないライナの瞳。
 それを見ながら、ダルクは深く息をついた。
 そう。モイは命を失った訳ではない。
 魔性の力によって、何処とも知れぬ場所へと飛ばされたのだ。
 事を成した者達の言によれば、かの術は命ある者を生まれた場所へと強制的に送還するものだと言う。
 生まれた場所。
 その言葉が、ライナ達の身に重くのしかかる。
 「・・・ライナ。モイスチャー星人(あいつ)は確か・・・」
 「はい。宇宙難民なのです。」
 宇宙難民。
 それは何らかの理由で己の母星を失い、広い宇宙を彷徨う身となった者達の総称である。
 「モイ君の母星のモイスチャー星は、地殻変動ですでに消滅しているのです・・・。」
 「・・・”あいつら”の言う通りなら、何もない宇宙空間に放り出された訳か。」
 「・・・です。」
 「・・・無事なんだろうな・・・?」
 「モイ君・・・。モイスチャー星人は宇宙空間でも生きられます。でも・・・」
 昏い、虚無の世界にたった一人。
 その苦しみを思い、ライナは唇を噛む。
 そんな彼女を思いやりながらも、ダルクは避けては通れない問題を口にする。
 「・・・けどな、それならどうする?宇宙空間に干渉する術なんて、僕達にもありはしないぞ。」
 「・・・それに関しては、思い当たる事があるのです・・・。」
 「・・・何・・・?」
 思わぬ言葉に、微かに目を見開くダルク。
 そんな彼に目を向け、ライナは問う。
 「ついてきてくれますか?ダルク。」
 そう言う彼女の瞳は、揺らぐ事なき光に満ちていた。


 「・・・皆に、一言言って来なくていいのか?」
 校舎から出たダルクは、ライナの足が寮とは違う方向を向いているのを見てそう問うた。
 「これはライナ達の問題です。皆に、気を使わせたくはないのです。」
 『アラ?』
 『おやおや。』
 「・・・そこに、僕達は入らない訳だ・・・。」
 口々に飛んでくる声。
 振り返れば、呆れた様に笑むダルクと、いつの間に来たのだろうか。D・ナポレオンとハッピー・ラヴァーの使い魔コンビの姿。
 ライナは何も言わず、ただ笑みを返す。
 そのまま、歩み出す足。
 皆は、当然の様についてくる。
 横に並んだダルクが訊く。
 「・・・で、思い当たる事があるって言ったな・・・。」
 頷くライナ。
 「・・・何処に行く気だ・・・?」
 「北です。」
 返る言葉に、迷いはない。
 「・・・北・・・?」
 「はい。」
 ライナの指が上がり、それがかの方向を示す。 
 「『氷結界』に、向かいます。」
 『『「!」』』
 微かな驚きの視線を負いながら、光の少女の足は確かにその方向へと踏み出した。


                                  続く
この記事へのコメント
 来ました、新シリーズ!一発目は迷子の宇宙人を探して北へと旅立つ話!別の言い方をすれば、光あるところに闇もまたある、話ですな!

 宇宙難民…急にSF的な言葉が飛び出したような気がしたが、気のせいだ。OCGは元々宇宙人や宇宙生物だらけだからな。
 検索してみると「モイスチャー」と名の付くカードは彼一人(デッキ制限で考えると3体?)。母星を失っている今回の設定をあわせて考えると、彼の孤独さと長い旅路の果てに出会えた「ともだち」との友情の深さがうかがえる。ちなみに「星人」と名の付くカードも彼一人だ。

 氷結界か、そっちには重要人物が1人いたような…?
Posted by zaru-gu at 2016年03月31日 00:42
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