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2014年11月23日

十三月の翼・54(天使のしっぽ・二次創作作品)




 と言う訳で、「十三月の翼」54話掲載です。


ポスター7.jpg


 『―いやはや。これはこれは―』
 いつしか、雨は止んでいた。
 黒い雲だけが敷き詰められた空。
 その中で、紅い月がユラユラと揺らぐ。
 その様は、まるで感動に打ち震えている様で。
 「へ。奴さん、度肝抜かれてやがるぜ。」
 空を見上げたガイが、上機嫌で言う。
 「どうです?あの方の、そして僕達の伴侶の力は?」
 こちらも、得意げな調子でレイが問う。
 『―結構なものだ―』
 返答はすぐに返って来た。
 『―一つの世界の理を凌駕するとは、驚嘆の一言だよ。実に結構なものを見せてもらった。全く、こちらが与えた代価以上の展開だ。正に、賞賛に値する―』
 淡々と。けれど惜しむ事なく放たれる賛美の言葉。
 ガイが、複雑な顔をする。
 「・・・何か、エライ褒められてんだけどよ・・・。」
 「相手が相手ですからね。何と言ったらいいものか・・・。」
 「結局、”あれ”の余興になったと言う事は変わりませんからねぇ・・・。」
 「・・・そこが、しゃくにさわるんだよなぁ・・・。」
 ブツブツ言う弟達を他所に、ゴウは眼前のスクリーンに映る天使達を見つめていた。
 「よくやったぞ・・・。皆・・・。」
 呟く声は、この上ない誇らしさに満ちていた。



                        ―星天―


 「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
 「つ・・・疲れたですぅ〜。」
 「いや〜まじ、きっついわ〜。」
 「一時はどうなる事かと・・・」
 「ごしゅじんたま、かっこよかったぉ〜」
 汗だくで地面に腰を落とし、息を切らす天使達。
 「・・・皆さん・・・。」
 「・・・・・・!!」
 思い思いの言葉を口にしていた皆の目が、ユキの声で一斉に集中する。
 そこには、皆と同様に息を切らす悟郎とアカネ。そして、力なく座り込むトウハの姿。
 「・・・トウハ・・・。」
 呼びかける声。
 けれど、トウハはその身を竦めるだけ。返事は、ない。
 「トウハ・・・」
 もう一度呼びかけながら、悟郎が身を屈めようとしたその時、
 カラン
 彼の懐から何かが落ちて、トウハの目の前に転がった。
 「あ・・・」
 それを見たトウハが、目を見開く。
 彼女の前にあったもの。それは、ひび割れたオカリナだった。
 「ああ・・・。」
 悟郎が、ポリポリと頭をかく。
 「夢中で気がつかなかったな。今の騒ぎで、壊れちゃったんだな。」
 苦笑いする悟郎。
 その前で、トウハの手が割れたオカリナを掬い上げる様に取る。
 「・・・壊れ、ちゃった・・・」
 震える声とともに、オカリナを胸に抱く。
 「・・・わたしの・・・わたしの、せいで・・・」
 ポロポロと、雫が頬を伝う。
 「どうしよう・・・どうしよう・・・」
 「ト、トウハ・・・?」
 慌てる悟郎の前で、トウハは嗚咽を漏らし始める。
 「ごめ・・・なさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
 「トウハ。何も君のせいじゃ・・・」
 「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
 流れる涙。それを拭う事もせず、トウハは泣きじゃくる。
 「トウハ・・・。」
 その涙を温かい指が、優しい声とともにすくう。
 「・・・?」
 視線を上げれば、そこにあったのは穏やかに微笑むアカネの顔。
 「聞かせてくれたな。君の、本当の声・・・。」
 「あ・・・。」
 「聞こえたよ。わたしにも、皆にも・・・。」
 言われて、周りを見回す。
 注がれるのは、自分を映す十二の視線。
 ナナやクルミはもちろん、他のメンバーのそれからも、もはや敵意は消えていた。
 「あ〜その、何?」
 頬をポリポリとかきながら、気まずそうにミカが言う。
 「ガキンチョ・・・じゃなくて、トウハ?あんたさぁ、あんだけ好き勝手やっといて、あっさりはいさようならってのはないんじゃない?」
 「・・・え?」
 「だからぁ、なんて言うか・・・ご主人様にかけた迷惑とか、ミカ達にやった狼藉とか、しっかり埋め合わせしてもらわないと困る訳よ。」
 「?・・・?・・・?」
 訳が分からないと言った体のトウハ。
 ミカは顔を真っ赤にしてがなる。
 「だからぁ!!ここにいろって言ってんのよ!!」
 「!!」
 思わぬ言葉に、トウハは目を丸くする。
 「そうですわね。」
 今度は、別な方向から声が飛んでくる。
 「お茶の約束もありますし。大体、行きがけの駄賃にアカネちゃんを連れてかれるのも色々困りますわ。」
 顔についた土を拭いながら、アユミが微笑む。
 「だよねぇ。ご主人様はもちろんだけど、アカネを持ってかれるのもねぇ。って言うか、いつからそんな大事な事を内緒にする様な娘になったのかな?この娘は。」
 言いながら近づいてきたツバサが、アカネの頭をペシペシと叩く。
 「ま、そういう訳だからさ。君の方がこっちにいるようにしてくれれば助かるんだけど?」
 「わたしが・・・現世(ここ)に・・・?」
 戸惑うトウハ。
 そんな彼女に、ひょいと突きつけられる顔。
 ちょっと、引く。
 「う〜ん。ホントに、ミドリさんと同じくらいなんれすねぇ。」
 自分との背丈を比べながら、のほほんとした調子で言うミドリ。
 「お話するの、初めてれすね。ミドリさんは、ミドリさんれす。」
 「・・・・・・。」
 「ツバサ姉さんの言う事、いい考えらと思うれすよ?ミドリさんも賛成なのれす。」
 「・・・馬鹿、言わないで・・・。」
 呟く様に、トウハは言う。
 「わたしが、あんた達に何したか・・・」
 「でも、アカネさんとはお友達になれたれすよね。」
 「!!」
 「なら、大丈夫れすよ。皆さんとも、お友達になれるれす。ねえ、皆さん。」
 そう言って、周りを見回すミドリ。
 釣られる様に、視界を回す。
 目に入るのは一様に、ミドリと同じ顔。
 「ええ。貴女も、同じですもの。ラン達と・・・」
 「きっと、お友達になれます。」
 「ルルたん、おともだちたくさんうれしいらぉー。」
 次々にかけられる言葉。
 そして―
 「トウハ姉ちゃん。」
 「お砂糖頭さん。」
 その声がかけられる。
 顔を向けた先で、青いお下げと亜麻色の巻き毛が揺れる。
 「帰ってきて、くれたんだね。」
 「お約束、忘れてないなの。」
 二つの笑顔が、酷く眩しい。
 「また一緒に、お散歩しよう。」
 「ご飯、一緒に食べるなの。」
 「・・・・・・。」
 返す言葉すらも、もうない。 
 「これで・・・分かったろ?」
 かけられた声に、視線を戻す。
 想いを重ねた顔が、そこにある。
 「トウハ・・・。」
 差し伸べられる、手。
 黄金(こがね)の光が、微笑みかける。
 「家族になろう。わたし達と・・・。」
 けれど、もう一歩は踏み出せない。
 「だけど・・・だけど、わたしは・・・」
 「大丈夫だよ。」
 「!!」
 アカネの隣に、その顔が重なる。
 「ご主人・・・様・・・。」
 「トウハ・・・。全部、聞いたよ。ありがとう。僕を、守ってくれて・・・。」
 静かに、優しく、悟郎は言う。
 「だから、今度は僕が君を守る。守って見せる!!」
 「でも・・・でも・・・」
 「変なルールは、今超えた。」
 「!!」
 「だから、次のルールも超える!!超えてみせる!!」
 悟郎が、トウハの瞳を見つめる。
 真っ直ぐに。
 逸らす事なく。
 「だからトウハ。いてくれ。ここに。皆と一緒に。僕のそばに。」
 戸惑う様に、視線を彷徨わせる。
 その視界に、皆の輪の外に立つユキの姿が入る。
 彼女の顔もまた、微笑んでいた。
 「貴女は私達に教えてくれました。闇の中にも、確かに光が宿る事を。」
 述べられる、感謝の意。
 「ならば、私達も答えましょう。貴女の想いに。」
 そして告げるのは、神としてではない。家族としての言葉。
 「乗り越えましょう。私達、皆で。」
 それに倣う様に、皆が頷く。
 と、
 「あ、でも。」
 唐突に飛び出た、場を読まない単語。
 それに、皆が振り向く。
 その視線の先にいたのは、タマミ。
 彼女は難しい顔をして、腕組みをしていた。
 「ど、どうしたの?タマミちゃん・・・?」
 ランが恐る恐る訊くと、タマミはジャランと算盤を取り出して言った。
 「甘いものは控えてもらいますよ。今日日、お菓子もお砂糖も、お安くないんですから。」
 「・・・・・・・・・。」×12
 しばしの沈黙。
 プッ
 誰かが吹き出した。
 それは見る見る皆に広がり、暗かった空に笑い声が鳴る。
 いつしか雲は晴れ、空には星の輝きが戻ってきていた。



                                       続く
この記事へのコメント
久しぶりに感想ですー。

バアルの感嘆、四聖獣たちの誇らしげなコメントから察するに、
これはトウハを虚無の淵から引き上げられたようですな。

バアルがこの救出劇を余興として愉しんで(゚д゚)ウマーなのは平常運転として、
何もやっていない四聖獣が一角、レイさんの「僕達の伴侶の力はどうです?(ドヤァ」
にはちょっとイラっときちゃったエマさん・だ・け・ど・ね☆

しかし、ゴローさんのオカリナ壊れちゃったのをきっかけに、
トウハっちの心の何かが砕けて溶けて、本来の彼女のありのままの心が出てきたようですな。

「ごめんなさいごめんなさい。゚(゚´Д`゚)゚。」って、まぁ素直な子になっちゃって・・・。相手がゴローさんということもあろうが・・・。

ミカ隊長の「ここにいろ(ツンデレ」指令をはじめ、各守護天使メンバーの温かい歓迎の言葉に、
トウハならずも、感動で胸が痛くなりましたよ。

ゴローさんの聖者パワーで変なルールとやらが克服されたみたいだし。
なんかうまくいきそうですな。

このまま一件落着なるか……。

いやしかし、そこは土斑猫さんのこと、そう簡単にはいかんじゃろ。

なにしろ、このまま四聖獣活躍の場がなかったら、ほんと目も当てられませんからなw

最後ばっかりは暴れさせちゃれ……。うん。


しかし、こういう、シーンのまとめに入りつつあるところで、守護天使12人っていう人数はすっごい書くの大変なんですよね。
誰を動かすか……まず選ぶの迷うしw
アニメ本編や公式マンガとかでも、制作した人たち大変だったろうな……という苦労が当然、土斑猫さんにもありましょー。
天使のしっぽ12人の二次創作をやる上で必ずついてまわる苦労ですな。

12人きちっと全員コメントさせるとだらだら長くなるし、かといって数人にすると忘れ去られる子出てくるし。
でも、見ていて十三月の翼は、結構バランスよくみんなちゃんと動いている感じはします。(もちろんアカネちゃんは別格としても)
そういうところも凄いなーと思いますよ。

まー、私だったら12人全部動かすの嫌になるから挑戦しないけどねw

さてさて、次回は絶対、なんかまたトラブるであろう。楽しみにしておりますw
Posted by エマ at 2015年03月01日 00:56
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