2021年03月13日
信用取引の特殊決済方法「現引・現渡」の有効活用
『少ない元手で大儲けを目指す「信用取引」の魅力』の回から4回に渡り、株式コラムでは、信用取引に関するご説明をさせていただいています
今回も、信用取引に関連するお話をさせていただこうと思いますが、その中でも建玉の決済に焦点を当ててみようと思います
今までのコラムの中で、信用取引は、お金や株券を証券会社などから借りて行う取引であることを説明しました。
そして、信用取引の一般的な決済(取引の終了)の仕方としては、反対売買(買玉を持っていれば売却、売玉を持っていれば買戻し)によって行われます。
しかしながら、決済の仕方については反対売買だけでなく、特殊な方法も存在し、今回はその特殊方法を用いるメリットについてご説明したいと思います
買玉の特殊決済方法「現引」とは?
まず初めに買玉の特殊決済法である現引(げんびき)についてご紹介します。
現引とは、保有している買玉に対して、証券会社から借りた資金分を現金で納めることによって、現物株に転換し、信用取引を終了させる決済方法の事です。
ちょっとややこしくて申し訳ないですが、以下に具体例をお示しします。
1株1,000円の銘柄Aを1,000株信用買いするにあたり、40万円の保証金を差し入れて買玉を建てたとします。
(1,000円×1,000株=100万円の1/3である約33万円以上の保証金を納めれば買玉を建てることが出来ます。)
その後、1株1,100円に値上がりした場合、通常であれば反対売買をして、(1,100円-1,000円)×1,000株=10万円の利益を得て、取引終了となります。
しかしながら、現引をする場合、当初証券会社から借りていた資金(本来必要な100万円-保証金40万円=60万円分)を追加で別途現金で納めることで、銘柄Aの株1,000株を現物株として手に入れることになります。
(たとえ、現引する時点で1,100円に値上がりしていても、当初買玉を建てた時点の1,000円で計算した場合の差額を納めれば問題ありません)
ちなみにこの時手に入る現物株の平均買付単価は、(当初買玉を建てた際の単価1,000円×1,000株+現引を行うまでに発生した信用取引金利・手数料)÷1,000株によって算出されるため、信用取引金利・手数料分を無視すると、概ね値上がり分の10万円が含み益として乗っかった状態の現物株になります。
さて、この特殊決済方法の現引は一体どのような場面で役立つのか?
それを次の項でご説明したいと思います。
現引のメリット
現引のメリットとして挙げられることは主に「金利・諸経費の節約」「買付手数料の節約」「制度信用期限延長における税金の節約」の3つがあると思います
まず、一つ目の「金利・諸経費の節約」については、『要注意!信用取引のデメリット』の記事でも記載した通り、金利や管理費や権利処理等手数料など、信用取引にはランニングコストが存在するため、保有する期間が長ければ長いほど徐々に利益を失っていきます
従って、当初短期決戦のつもりで仕込んだものの、長期決戦に方針転換をする場合は「現引」を行い、現物取引に転換して、各種ランニングコストをゼロにしてしまうのが有用な方策の一つであると言えます
続いてのメリット「買付手数料の節約」については、一般的に現物取引購入手数料よりも信用取引購入手数料の方が安いことが多いという性質を利用して、一旦、信用取引で買玉を建てて、直ちに「現引」して現物株に転換させるという手法になります
この場合、信用取引の購入手数料と一日分の信用金利のみを支払えばよく(水曜日や連休前などは3日〜数日分の金利になる可能性がありますので注意して下さい)、現物取引の購入手数料よりも安く済むケースがあります
(SBI証券や楽天証券などでは、現物株取引も100万円まで無料となっているのであまりメリットが感じられにくいかもしれませんが、それ以外の証券会社では割と有効に使える手法だと思います)
最後のメリット「制度信用期限延長における税金の節約」については、返済期限6か月である制度信用取引において、返済期限間近の段階で含み益があり、かつこの先も伸びていくことが予想される場合に、反対売買による決済ではなく、現引によって現物株に転換することで、含み益にかかる税金約20%を引かれることなく、そのまま投資を継続できるというものになります
(通常の反対売買をして、改めて現物株を買い直すと、税金で引かれた分だけ余分に資金を投入する必要が生じ、資金効率が悪くなります。)
このようにちょっと特殊な決済方法である「現引」は色々な場面で有効活用することが出来ると言えます
売玉の特殊決済「現渡」とは?
続いて信用取引の売玉の特殊決済法である現渡(げんわたし)についてご紹介します。
現渡とは、保有している売玉に対して、同数の現物株を納めることによって、信用取引を終了させる決済方法の事です。
こちらも先ほどと同様、具体例をもってご説明します。
今回は、1株1,000円の銘柄Aを1,000株証券会社から借りて、信用売りをしていたとします。
その後、1株900円に値下がりした場合、通常であれば900円で1,000株反対売買(買戻し)をして、(1,000円-900円)×1,000株=10万円の利益を得て、取引終了となります。
しかしながら、現渡をする場合、反対売買をすることなく、別途自分が所有している現物株1,000株を証券会社に渡すことによって自分の所有する売玉を決済することが出来ます。
この場合の損益は、(信用取引の売玉の建て単価)-(現物取引での現物株の平均買付単価)-(各種金利・手数料)で示すことが出来ます。
現渡は、現引とは違い通常の売玉決済方法と同様、手元に何も残らず、一見あまり意味のない取引方法のようにも思えます
そんな現渡の有効活用について、次の項でご説明したいと思います。
現渡のメリット
現渡が有効に活用できる、ほぼ唯一のケースと言っても過言ではないのは株主優待のタダ取りになります
株主優待の権利は、『要注意!信用取引のデメリット』の記事でもご紹介した通り、現物株を保有した場合でしか受けることが出来ません
また、株主優待利回りが高い銘柄など、優待目的で買われやすい銘柄というのは、得てして優待権利確定日直前に買いが集まって株価が上がり、権利確定日の翌日に一斉に売られて株価が暴落する傾向にあります
(それは、そうですよね。3月29日の大引け時にだけ持っていれば優待権利を受けられるという銘柄だとすれば、29日中に購入して、30日に売却するのが一番資金効率が高いですから)
これらの性質を踏まえたうえで、株主優待を値下がりリスクのない状態でゲットしようというのが、「現渡」を有効活用した、株主優待のタダ取りになります
具体的には、以下の手順で行います。
@対象となる優待銘柄を権利確定日の直前に現物買いすると同時に、同数の株式を同価格で信用売りする。
A権利確定日の翌日に信用売玉に対して同数の現物株を納める「現渡」で決済をすることで、全ての取引を終了させる。
こうすることで
・現物株所有の状態で権利確定日を跨ぐため、優待権利を得ることが出来る
・現物株の買付単価と信用売の売建単価が等しいため、現渡での損益額はゼロで固定
(権利確定日を越えて、いくら株価が暴落していようとも損益がマイナスにならない)
・現渡にかかる手数料は無料の為、片道分の手数料で済む
(現物株の売却、信用売玉の買戻しを行うとそれぞれに対して再び手数料がかかる)
というミラクルを達成することが出来ます
(まぁ、厳密には、信用売玉の数日程度の金利負担が発生するので損益はプラスマイナスゼロよりかは若干マイナスになりますが、優待で得られる利益額と比べたら微々たるものになるケースがほとんどだと思います。)
実際に活用する場合は、
・優待だけでなく配当金も発生する場合は、配当金にかかる税金の分だけ損失が増える。
・制度信用取引で売建を行うと権利確定日にものすごい逆日歩が発生することがある。
(逆日歩については『信用取引で要注意!「逆日歩」の恐ろしさ』の記事をご覧ください。手数料や金利程度であれば、優待で得られる利益の方が上回るケースが多いと思われますが、権利確定日の逆日歩がもし発生してしまったら、おそらくそれでジ・エンドになる可能性が高いです)
・逆日歩から逃れるために一般信用取引で売建しようとすると、人気銘柄はみんなが殺到して早々に受付終了する可能性が高い。
(一般信用と制度信用の違いについては『「一般信用取引」と「制度信用取引」の違い』の記事もご覧ください。)
などの注意点もありますが、「現渡」による株主優待のタダ取りは、信用売りの特殊決済方法を絡めた面白い取引手法ではないかと思います
まとめ
今回は、信用取引の特殊決済方法「現引」「現渡」の説明と、そのメリットとして以下の通り説明しました
<現引のメリット>
・金利・諸経費の節約
・買付手数料の節約
・制度信用期限延長における税金の節約
<現渡のメリット>
・株主優待のタダ取りを目指せる
ちょっとトリッキーな取引方法ですが、場面によっては、とても有効な方法ですので、是非試してみて下さい
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