敏ちゃんタマゴの気ままな展覧会



 子ネズミが天を見上げて大きなため息をついた時。
 灰色に渦巻く雲間から、白く輝く大きな狐の神様が、天を駆けて行くのが見えました。

 狐の神様の尻尾には、昨日まで一緒だった太った兄弟や、父さん母さん達が乗っていて、みんなで手を振りながら「お前はお前の思うままに、自信を持って生きて行くのだョ〜」と、言っているように聞こえました。

 それを聴いた子ネズミは、小さな拳をぎゅっと握り締め「これからは、何が起こっても驚かないで頑張るぞっ!」と、心に決めました。

             おしまい
 

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 子ネズミには、思い掛けない出来事が夢のようで、すぐには信じられませんでした。
 暫くぼんやりした後、子ネズミは今日一日の事を思い返して呟きました。

 「今日は朝ごはんを腹いっぱい食べて、おいしくて、おいしくて、幸せ一杯の気持ちだったのに…」
 「そんな嬉しい日に思い掛けない大洪水、気付いた時には周りに誰も居なくて、悲しい事に一人ぽっちになってしまった…」。

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 後で聞いた事ですが、その日の午前十一時五十八分が、関東大洪水がやって来た
日でした。

 原因は地球温暖化による氷河の崩壊、メタンガス放出現象ナントカ、カントカが
原因らしいです。

 その一撃で一階に居たお父さんもお母さんも、いつも走り回っていた元気な兄弟
も、逃げる間もなく大洪水にさらわれて、だ〜れも居なくなってしまったのです。

 一人ぽっちになった子ネズミは、誰の助けも無く、自分の力だけで逃げるしかあ
りません。

 三階の窓から脱出し、風に千切れ飛びそうな外階段を滑りすべりしながら、屋根
のてっぺんまで逃げ登って行きました。

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 子ネズミは飛び上がって驚き、三階の部屋へ駆け上がり、窓の外を覗いてみまし
た。

 外は灰色の雲がびゅんびゅん飛ぶように流れ、下を見下ろせば隣のお稲荷様の赤
い鳥居も、お社も、水の底でした。       

 「ザブンザブン」と、風に煽られた大波は、家の壁に打ち寄せています。

 三階の部屋も沈没していく船の舳先のように、「ゆらりゆらり」と右に左に揺れ
ながら、今にも倒れ沈みそうです。

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 しばらくしてから、子ネズミは「変だな?」と、気が付きました。

 いつもだと元気な兄弟たちがうるさい位騒ぎまくっているのに今日は静かです。

 如何した事かと思い「そーっ」と、どんぶりから顔を出し、部屋の様子を確かめ
ました。

 「あっ!」、なんと、階段の下から水が湧き上がって来ているでは有りません
か。

 水はすっかり一階を呑み込み、「ゴボゴボゴボ」「ザブザブザブ」と、音をたて
て勢い良く吹き上がって来ます。

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 その、子ネズミが中学生に成長したある日。

 何時ものように遅起きで二階の食卓へ行くと、どうした事か、大きなどんぶりいっぱいのご飯が残っていました。

 大喜びの子ネズミは、我を忘れて大きなどんぶりに飛び込み、生まれて初めて腹いっぱいの朝ご飯を食べたのでした。

 食べても食べても、とても一人では食べきれず、ポッコリお腹をさすりながら、
大きなどんぶりの中でゴロンと寝転んだまま、幸せいっぱいの気持ちをかみしめて
いました。

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 それからずいぶん経ったある日、隣のお稲荷様に、お父さんとお参りに行きまし
た。

 もちろん私はお稲荷様へ「早起き出来ますように」ってお願いしました。

 すると、不思議なことにお稲荷様の鳥居の奥のお社から、金色の光につつまれた
白く輝く狐の神様が浮かび現れて、こう言いました。

 「子ネズミよ〜くお聞き、お前は遅く起きる事で悩んでいるが、他の兄弟たちと
は違い、夜はお前が一番元気だ、皆それぞれ違う生き方をしているのだから、お前
はお前でいいんだョ〜」。

 お父さんには狐の神様が見えていなかったみたいで、お賽銭を投げ入れて、何時
ものようにお参りしていました。

 それからの子ネズミは、遅起きの自分にも自信が持てる様になり、他のネズミが
疲れて眠った後も、元気に絵を描いたり小説を読んだりして、心の豊かな子に成長
していきました。

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 その頃の私は朝が苦手で遅起きです。

 他の兄弟たちは早起きで、お父さんとお母さんが毎晩夜遅くまで働いて用意して
くれた食卓の朝ご飯を、腹いっぱい食べて元気良く走り回っています。

 いつも私が起きる頃には、朝ご飯の大きなどんぶりの中には、三粒くらいの米粒
しか残っていません。

 それでも・・・私は遅起きです。

 「ふぁぁ〜」と大きく背伸びしてからゆっくり起き上がると、寝ぼけまなこのま
ま、しばらく布団の上で座り込んで居ます。

 それからやっと、チョロ〜リチョロリと洗面所まで行って、身づくろいや髪をと
かし始めるノンビリ屋さんでした。

 毎日こんな風に、ノンビリゆっくりと身づくろいをした後、大きなどんぶりの底
に滑り込んで三粒のお米を食べますが、それくらいの朝食では、お腹は満たされま
せん。

 その為に体重は他の兄弟の半分ほどです。

 或る時など、三粒のお米ではどうしても力が湧いて来ず、どんぶりの底から外へ
這い出ることが出来なくて、困ったことが有りました。

 兄弟たちは一階から三階まで走り回っていて、私が助けを呼んでも気付いてくれ
ません。

 そんなときは、ため息混じりに「あ〜ぁ、明日こそは早起きして、腹いっぱいの
お米を食べたいな・・・」などと、決意するのですが、なかなか早起きは出来ませ
ん。

 その後も大きなどんぶり底の少ないお米で我慢しながら、月日が経っていきまし
た。

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 ●ねずみの童話●
          原案  toshihiyoko
          脚色  toshitama


 昔々、私がまだ子ネズミだった頃のお話です。

 私達ネズミの家族は、お相撲さんで有名な

東京両国の緑町交差点付近に棲んでいました。
 

其処は変形三階建ての古い木造の家で、大きな車が家の前を走り抜けると、「ガタ
ガタガタ」と各階が別々に揺れるような変った造りです。

 一階は「山駒風呂釜店」の看板が掛けてある作業場、二階には食卓と居間があ
り、三階は寝室になっていましたが、人は住んで居ませんでした。

 私達家族は一階の作業場の奥に部屋を造りましたが、作業場はちょっと揺れると
スパナや鉄板が落ちてきて危ないからとの理由で、ノンビリ屋の私だけが、二階の
居間の方に家族と離れて棲む事になりました。

 壁に沿った狭くて急勾配の階段の途中に踊り場があって、そこをカーテンで仕切
った階段の横が、私の小さなお部屋です。