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安全地帯・玉置浩二の音楽を語るブログ、管理人のトバです。安全地帯・玉置浩二の音楽こそが至高!と信じ続けて四十年くらい経ちました。よくそんなに信じられるものだと、自分でも驚きです。
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2018年03月21日

To me

安全地帯5 [ 安全地帯 ]

価格:2,511円
(2021/4/17 17:16時点)
感想(2件)




安全地帯V Harmony』十一曲目、すなわち『安全地帯V』のラストチューン、「To me」です。

エレクトリック・ピアノの澄んだ音で「ジャジャジャン〜」と始まるこの曲を聴くと、ああ、このアルバムも終わりか……いいアルバムだったな……と強烈に思わされます。これで11曲目、『安全地帯V』全体でいうと36曲目、二時間も名曲たちを聴いてきた果てにある、この終局感の高さたるや……ここまでの名曲たちの感動をすべてまとめ上げる力をもつ、屈指のバラードです。ここまでの圧倒的な感動の余韻を、あっさりした小曲で受け流さず、正面から受け止めて最後まで感動させてくるのです。それでいて「デザートは?」なんて不満を残させない、信じがたいほど見事な終わり方です。この役割は、他の曲では果たせないように思われます。そう、あの「ほゝえみ」でさえも……。

「To me」というタイトルだけみれば、「あなたに」と対になる曲なのです。「あなたに」が、愛しくてたまらないけどそれで君を苦しめるなら一歩引くよ的な、ちょっと余裕と遠慮のみられる曲であるのに対し、この「To me」は遠慮なんてしません。「……して、……して、……ほしい、……ほしい、……から」と、グイグイ引き寄せます。最後だけが「眠ろう」と、要求でなくお誘いなんですが、これも松井さんにより計算されつされた戦略です。そりゃここまでくれば、「なにも言わないで」なんて言われずとも、なにも言えず眠るしかありません。「あなたに」から数年を経て、石原さんとの物語を終えた玉置さん、そして安全地帯の音楽をこれ以上なくドラマチックにしめくくる、見事な、ほんとうに見事な曲です。

もちろん安全地帯はこの後も続くのですが、次作『安全地帯VI〜月に濡れたふたり〜』までに、すこし間が空きます。その間、ちょっとしたリフレッシュ期間的に玉置さんはじめメンバーのソロ活動が挟まるのです。リフレッシュなんだから保養地とかで休もうよと思うのですが、この人たちはそうはいかないんですね。ともかく、「To me」を締めくくりとして、このアルバムのみならぬ「何か」が終わったのは確かなのです。

のちに玉置さんのソロアルバム『ワインレッドの心』一曲目がこの「To me」だったことは、大した意味はなかったのかもしれませんが、わたくしにはとても暗示的に見えました。安藤さと子さんのピアノと、武沢さんだけがいないにしても安全地帯のメンバーたちで録音されたこのアルバムが、「あの時代」「あの物語」を終わらせたこの「To me」から始まるとは……その後、『安全地帯IX』で再始動する安全地帯の基調は、これにより決定されたようなものだったと、わたくしには思えました。

さて、この曲、イントロから一気にエレクトリック・ピアノのコード・ストロークで、静かに、しかし力強く、グイグイと迫ってきます。くちびるをあずけるなんて、長くて数分、現実的には秒単位でしょう。ですから、「いまだけ」の「いま」は、本当に刹那の「いま」なのです。

そしてストリングス、六土さんのベース、少し遅れて田中さんのドラムが入ります。リズム隊のお二人は、ひたすら堅実です。いや、全員堅実なんですけど(笑)、この曲でこの二人がアソビを入れると収拾がつかないくらい壮大なアレンジなので、ことさら堅実に聴こえるのです。「いやー、まあ、ちょっとは気にするけど、いつも通りで大丈夫だよ!」とかニコニコ言いそうなお二人であるのも、いつも通りです(笑)。ギターは、先に聴こえるアルペジオが矢萩さん、歌の合間に「トルルン・トルルン」とアオリを入れるのが武沢さんですね。壮大なシンセやピアノが目立つ曲に、ギターのお二人の、この仕事は渋すぎます。わたくし、バラードにはかならず「ンパララ〜(アルペジオ)トルルン・トルルン(アオリ)」と入れるパターンをしばらく使い悦に入っておりましたが、例によって誰も気づいてくれませんでした(笑)。

そしてダイナミックな展開(E→F→G→Aを一拍ずつダン!ダン!ダン!ダン!……これも単純なのに渋すぎです)で曲はサビに入ります。「あなたの」「つたえて」に入る、三度下のコーラスが美しいことといったら!ライブの映像で見る限り、武沢さんのようですね。玉置さんの歌を支える、最高のコーラスです。これはさすがに、安全地帯に興味のないうちのメンバーでさえも「このコーラス、カッコいいね!」と称賛しておりました。そうだろうそうだろう、さあ君もこういうコーラスを入れるんだ!と思いましたが、うちのメンバーは揃いも揃って歌うことには少しも興味がなく、パンテラの「Walk」のように叫んだり吠えたりするのが好きなのでした(笑)。

そして曲は「あなたに」が「Goodbye」で区切るところを、「To me」というささやき、そして三連符で音階を駆け上がるエレクトリック・ピアノで区切ります。なんというドラマチックな緩急の付け方!ため息が出ます。そして二拍の間を取り、ストリングス・ベース・ドラムのユニゾンで「ジャジャジャーン」と二番がはじまります。ここは、いってみれば変拍子なんですが、四拍だと「ジャジャジャーン」が待ちきれません(笑)。それはたんに長年この曲を聴いてきたからそう感じるだけなのかもしれませんが、必然性のある変拍子に思えてならないのです。

さみしい夜を忘れさせ、あなたのためにいたいと宣言しつつ、曲は二回目のダイナミックな展開を迎えます。ここで曲は、玉置さんが声を切なく張り上げ、あげくにものすごく細かい「ピヨヨピヨヨピヨヨピヨヨ〜」というシンセの音がまるで子鳥たちが舞うかのように響き渡り、聴く者の胸にガトリング砲のように迫ってきます。そして玉置さんが、これまで抑えに抑えていたかのように「To me」と叫ぶのです。これはひどい、感動せざるをえません、というか、すでに感動してるんだからここまでダメ押ししなくても!徹底的すぎます(笑)。

そして曲は最後の局面、Aメロに戻ります。ギターのお二人が、まるで先ほどの大規模攻撃がなかったかのように、「ンパララ〜(アルペジオ)トルルン・トルルン(アオリ)」と、泣かせに来ます。玉置さんも前半の歌詞を繰り返し、あれ、もしかして本当に何事もなかったのかな、と一瞬思わせるのですが、これまでと調子を変え「眠ろう」とお誘いをかけることにより、やっぱり何事もなかったわけじゃないんだ!と思い起こさせるのです。そして曲は壮大なオーケストレーションをリタルダンドで入れ、わずか数小節で終わります。あっ……終わった……ジワジワジワ〜と「To me」そして超大作『安全地帯V』の余韻をいつまでも胸の中にフィードバックさせる、パーフェクトな終わりかたです。これは、二時間このアルバムを聴いてきたのでなければ得られない感動かもしれません。ベートーベンの交響曲を聴き終わったときの感動に近いものがあります。この「To me」は、魂揺さぶられっぱなしの二時間を締めくくるにふさわしい、超弩級の名曲だといえるでしょう。こんな名曲がシングルになっていないのはなぜかと思ったこともありましたが、シングルじゃ生きないですよね、この曲のスケールは。

さて、とうとう『安全地帯V』の記事も書き終わりました!次は、おそらく『All I Do』になります。どうぞ引き続きご愛顧いただけたらと思います。

安全地帯5 [ 安全地帯 ]

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(2021/4/17 17:16時点)
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2018年03月17日

夢になれ

安全地帯5 [ 安全地帯 ]

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(2021/4/17 17:16時点)
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安全地帯V Harmony』十曲目、「夢になれ」です。

玉置さんが歌う「だんだん」が強烈なアクセントになって、耳を離れない名曲といえるでしょう。松井さんと玉置さんが生み出した「声リフ」ですね。

わたくしが好きなので当ブログでも何度か言及されている沢木耕太郎さんに、「いま、歌はあるか」というルポルタージュがあります。その中に、ヒット曲から抽出された登場頻度の高いことばを一位から単純に並べただけのデタラメ歌詞が、わりとそれらしい70年代歌謡曲の歌詞になってしまっている、という悲しくも可笑しい話が載っているのです。調べてみると、なんと作詞者のほうも作詞で行っている作業はそれと大同小異のようなもので、ほとんどウケる言葉の順列組み合わせのようなものだった……「ヒット曲」を次から次へと作ることに忙しくて、とてもそれ以上のことなどしている、試してみる、言ってみれば「勝負に出る」余裕なんかない……という、日本歌謡界の商業化とか堕落とか、いかにも70年代後半らしい基調で話は進められていきます。あ、いや、嫌いじゃないですよ。むしろ好きです、そういう社会批判精神みたいなやつ。わたくしが若いころくらいまでは、ガクモンとかブンガクとかゲイジュツとかの世界では、そういう雰囲気がわりと支配的でしたから。事実、そういう雰囲気こそが、フォークや、いわゆるシンガーソングライター、ニューミュージックといったものを生み出す原動力になったのでしょう。「ひとふしの魅力」とプロの演奏力で勝負するヒットメイカーたちによる歌謡曲と、批判精神や物語性・情緒・情景的な魅力をふんだんに持っていたものの演奏力はイマイチだった新世代の音楽たち、双方の長所を併せ持っていたのがこの時期の松井・玉置コンビを擁する安全地帯だったのではないか、とそう思うわけです。それほど、この「だんだん」の力は強いです。

ああ、話がすっかりそれました。では、前曲「燃えつきるまで」のラストから……「キュワーーン」と、ギターともシンセともつかぬ音に景気づけられ「夢になれ」は始まります。ズッ・クツ・タカ!ズッ・ク・タカタカ!のリズムで田中さんのドラムと六土さんのベースが「二人で一つ」の分厚い基本リズムを形作る裏で、川島さんのシンセパッドがチャンカチャカチャカ……と、まるで南半球の民族音楽かと思われるほどのアオリを入れています。こんなリズム、日本の歌謡界はもちろん、ロック界でも前代未聞なのではないでしょうか。時は80年代中盤から後半、ジャパン・アズ・ナンバーワン、ロン&ヤスで先進国のツートップを張っていた時代です。デジタルでキッチュでポップでコケティッシュで……と、日本人がわけのわからない優越感に浸っていた時代に、いきなりその頭をガツンと叩きつけるような、強烈な魅力をもったリズムです。このとき叩かれたことにも気づかなかったような人たちが、のちの90年代J-POPムーブメントを作っていったんですけども(笑)。そして、低く低くおさえた武沢さんのギターが「キコカコキコカコ……」と細かく細かく刻まれ、遠くからやってきて、玉置さんの歌がはじまります。

この後、武沢さんがよく目立つ歌の導入部「キコカコキコカコ……」や歌のアオリのアルペジオを担当し、矢萩さんが「・チャ・チャチャ……ンカカカ・カカカカ……」と細かく刻まれているリズムを担当されているようです。矢萩さんのパートは、けっこう頑張って耳を澄まさないと気づくのは難しいかもしれません。この矢萩さんの役割、非常に渋いです。こういうギターは、わたくしにはできません。自分が出しゃばりなんだと気づかされます。かといって武沢さんが出しゃばりかといえば、もちろんそんなわけはなく、わたくしがこの場にいたら絶対にサビでギャンギャンと弾きまくり、せっかくの最先端なこの名曲を、台無しにしたに違いないのです。

またこの曲では、ホーン・セクションが派手に取り入れられており、Bメロからサビ、間奏で非常に印象的なアオリを入れます。この役割は、ギターでは果たせないようで、2010年の復活ライブでも、シンセでホーンセクションを代用していました。ズラリと並んだホーン部隊が、なぜかアクションまで揃えて、生ブラスの音色を武道館に響かせた『To me 安全地帯LIVE』が、いかに豪勢なものだったかがよくわかります。

ゴージャスそのものの布陣で炸裂するこの「夢になれ」は、「ふたりで踊ろう」「銀色のピストル」などと同じく、もしかして玉置さんにとっては、思う存分自分の世界を表現できるものであったかもしれません。その一方で、一度動き始めてしまうと、玉置さんがリアルタイムで思うように操ることのできない規模のものとなっていたのかもしれません。ステージに10人以上いますので、アイコンタクトったって限界がありますからね。聖徳太子でもさすがに目は10個もないでしょう。そんなわけで、「夢になれ」もまた、この後数年を経るともう二度と見られなくなってしまうゴージャス安全地帯を象徴する曲だといえるでしょう。

さて歌詞です……一言でいえばやぶれかぶれの情事、なんですが(笑)、そこにさえある種の美しさと悲しさをまとわせたドラマとして魅せてしまう、信じがたい言葉の力、歌の力に圧倒されます。もう、松井玉置コンビの行く手を阻むものは何もない、とさえ感じられてしまいます。

なにもかも忘れて、なにもかも奪い、踊り、叫ぶカーニバル(謝肉祭)は、ジェイムズ・ジョイスの小説で肉屋が売春宿を兼ねていることを暗示させる肉のイメージを、聴く者の心に強烈に叩き込みます。

仮面をつけたまま肉と肉をあわせるなかで、「だんだん」と、仮面の下に隠されていたものが顕れてきます。デジタルでキッチュでポップでコケティッシュな(笑)雰囲気を纏おうと努力していても、それはしょせん虚飾にすぎません。「他愛ない嘘」も「飾られたよろこび」も、破裂したかのような涙で剥がれ落ちてゆき、「なさけない孤独」が露になります。

そんなこと、どうでもいいんだ、あなたを愛してるんだ、わかってないんだね、ぼくは叫ぶんだ!

デジタルで……後略(笑)の時代を寵児として駆けぬける玉置さんに、そんなことを歌われたんじゃ、前略……コケティッシュな女性はたまりません。松井さん、玉置さん、わかっててやってますね、超ズルいです(笑)。

この曲のものすごさは、当時の社会の雰囲気を肌で感じていた人でないと、わかりにくいかもしれません。ただ、もしかして、トバ解釈だからこそそう感じられるだけという可能性はおおいにあります。ツェッペリンの「カシミール」や「アキレス最後の戦い」のように、もうこんな曲が生み出される時代は二度と来ないだろうとわかっているほど時代に埋め込まれた曲であるにもかかわらず、新しい時代でも新しい輝きを見いだされ続ける曲であるのかもしれません。

余談ですが、2010年のライブ『安全地帯”完全復活”コンサート2010 Special at 日本武道館 〜Stars & Hits「またね…。」〜』では、この曲の途中でチューニングをいじる六土さんの姿を見ることができます。わたしのスキルでは曲の途中なんてそんなリスクはおかせませんので、我慢してつぎの曲間まで待ちますが、六土さんのプロフェッショナリズムとスキルが、それを許さないのでしょう。やはり渋いです。

安全地帯5 [ 安全地帯 ]

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2018年02月24日

燃えつきるまで

安全地帯5 [ 安全地帯 ]

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(2021/4/17 17:16時点)
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安全地帯V Harmony』九曲目、「燃えつきるまで」です。

ベースがドオーン……ドオーン……ドオーン……と、夕闇の古刹から響く鐘のように鳴らされます。そこへパーカッションが左右から鳴らされ、空間・残響系エフェクターを深くかけたクリーントーンのギターによる一拍置いてからのアルペジオ、そして歪んだギターのカラ・ピッキング、弦をこする音が響き、一気にドラム、そして矢萩さんによるオーバードライブのロングトーンと、武沢さんによるクリーンドーンのカッティング!もう、この前奏だけで、安全地帯の威力に気圧されてしまいます。まだ玉置さんが歌ってないのに!

トリューオー!と、深山幽谷の世界から響くオオカミの遠吠えのようなギターを合図に、玉置さんのボーカルがはじまります。「抱きしめて」……と。これがまた、これ、歌なの?ほんとうにセリフとして発せられたんじゃないの?と思わせるほどのリアルさなのです。アニメの美少女を「嫁」とおっしゃっている御仁が、録音された声優さんの甘いセリフに「萌え死ぬ」という現象が本当に起こりうることであるとするのならば、この「抱きしめて」で悶絶するご婦人が続出するということもまた、非常に起こりそうなことだといわなくてはなりません。

歌詞はこの後、依頼の「〜して」と、受容・許諾・示唆を示す「〜いい」とが交互に行われることを基本として組み立てられていきます。「今夜はカレーライスを作って」と「一晩置いて熟成させればいい」のように。今夜はカレーライスが食べたいのかと思って自分もその気になって作ったら、明日か!どうしてくれる!今夜はカレー気分になっちまったじゃないか!ああ、でも明日になったら食べられるからいいか……いやよくない!今夜のおかずはどうするの!といったような、揺さぶられまくりの心が千々に乱れる仕組みになっているのです。しかも同じことが、何連発も起こるのです。これはたまりません。

揺さぶりの中、ふいに依頼が止み、大音量のドラムとギターに載せて「何もかも〜」、そしてまたドオーン……ドオーン……に載せた「あなただけ〜」が挿入されます。これは依頼ではなく、「本音・本心」を示すものとして受け取るしかないでしょう。不穏な雰囲気を漂わせていたと思ったらとつぜん激情し、また不穏な雰囲気に戻って、あなただけがいればいいんだ、僕はもう、それだけで生涯をささげてもいい……とささやいてくるのです。何という切迫感!女性がこんな迫り方をされたら、単なる思わせぶりの演出かもと疑うには、かなりの経験値と洞察力を要することでしょう。実際、演出ではないのかもしれません。酸いも甘いも経験しすぎるくらい経験してかなり古漬け感が高くなっているくせに、表面の色ツヤだけはいつまでも浅漬けさ!というような男だけが、これを手段として用いることができるのです。わたくしだと、たぶん途中で自責の念にかられてしまって、とてもやり通せそうにありません(笑)。

依頼と示唆の連続、そして漏らされた本音、そこで鳴り響くスネアと、武沢トーンのアルペジオ!咆哮を上げる矢萩オーバードライブ!曲はとつぜんサビへと突入します。パーカッション、そして謎の「キュッコッカッコーコッ!」という音色に載せ「燃えて」の連発、依頼なのか単なる連用つなぎなのかわからぬまま、ふたりは燃えつき堕ちてゆく……なんというスピード感のある攻め!これでは為すすべもなく、まるで神隠しに逢ったかのごとく、夜の山に姿を消すしかありません。

曲はまた、ドオーン……ドオーン……へと戻ります。クオーン!クオーン!と短く唸りを上げる歪んだギターが、すでに何かが起こってしまったことを思わせるだけで、ほかは前奏と変わりありません。ああ、恐ろしい……。そして安全地帯はトドメとばかり、この攻撃を再度敢行します。

二度目の攻撃ですべてを燃やしつくした後、ギターのソロが挿入されます。バッキングは明らかに武沢トーンのカッティングなんですが、このギターソロも……?わたくしには、このギターソロが武沢さんの弾いたものに聴こえます。サウンドもフレーズも、「ワインレッドの心」の後奏や「ダンサー」の間奏で聴くことのできた武沢さんのものを思わせるものです。バッキングもソロも武沢さん?あ、いや、レコーディングなんですから、そんなこと造作もないんですけども、ライブのときにはどっちかを矢萩さんに弾いていただくしかありませんね。わたくしのたんなる聴き間違いで、そもそもこのソロは矢萩さんの弾いたものだというオチがありそうな気がしなくもないのですが(笑)、わたくし、ライブでよく演奏される「夢になれ」だけではなく、この「燃えつきるまで」もセットにしてライブで演奏してほしいものですから、いらぬ心配をしてしまいがちなのかもしれません。

燃えつきたあと、それでも「いかないで」……「消えないで」……と玉置さんはささやきつづけます。ひとりは嫌だ、でも誰でもいいわけじゃないんだ、あなただけなんだ……と、絶望的に甘いセリフを、これでもか、これでもか、と繰りだしてくるのです。あげくの果てに、歪んだギターが「ギャーン!」と時空を切り裂きます。これは卑怯です(笑)。卑怯すぎて神がかっています。

後奏では、武沢さんの、必殺クリーントーン・カッティングが、ドラムと各種パーカッションにより奏でられるアフリカンなリズムに乗せられ、炸裂します。そして曲はこのまま切れ目なく、次曲「夢になれ」へと続いていくのです。この超大作『安全地帯V』の序盤における「パーティー」から「ふたりで踊ろう」の流れとまるで対を成すように、いままた「燃えつきるまで」から「夢になれ」で幕を閉じようとするのです。なんてアツい構成!

前作『安全地帯IV』では「彼女は何かを知っている」「ガラスのささやき」が務めたクライマックスの重責を、『安全地帯V』においてはこの「燃えつきるまで」と、次曲「夢になれ」が果たすのです。「Friend」や「好きさ」、はてまた「どーだい」や「銀色のピストル」がどれほどの破壊力を持つ曲であろうと、このクライマックスの役目を果たすべき曲でないことは明らかでしょう。「燃えつきるまで」は曲単体としてのみ評価されるべき曲ではありません。アルバム『安全地帯V Harmony』の、そして『安全地帯V』全体のクライマックスというスケールの大きい役割もまた、評価の対象とされるべきなのです。

安全地帯5 [ 安全地帯 ]

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2018年02月18日

天使のあくび

安全地帯5 [ 安全地帯 ]

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安全地帯V Harmony』八曲目、「天使のあくび」です。

夢の名曲「夏の終りのハーモニー」の後にある、なんだかつまらない曲、と評価されがちかもしれません。〔誰によって?〕[要出典][この記事の内容の信頼性について検証が求められています

ですが、この曲は決してつまらない曲などではありません。〔誰によって?〕[要出典][この記事の内容の信頼性について検証が求められています

むしろこういう曲にこそ、当ブログが初期の記事で打ち出した概念「玉置浩二のナマ素材勝負」を、五臓六腑で味わう千載一遇のチャンスを感じるべきなのです。〔この記事には独自研究が含まれているおそれがあります。問題箇所を検証し出典を追加して、記事の改善にご協力ください。議論はノートを参照してください。(____年__月)〕[この記事の内容の信頼性について検証が求められています

あー、Wikipediaごっこして遊んでみたのですが、ぜんぜん面白くないですね、やめましょう。そもそも当ブログは独自研究ばかりで信頼性など少しもありません(笑)。

さてこの曲、これがまた、玉置さんが弾き語り一発で録った曲に、ちょこちょこと後から音を足したのではないかと思われるほどシンプルです。ナマ素材にかなり近いものなのではないか……と思わせるのですが、ところがどっこい、話はそう簡単ではありません。

そもそも、クレジットには玉置さんがギターを弾いたという記録がないのです。えー、これ、いかにも玉置さんが弾き語ったような感じ、というか、わざわざギタリストに弾いてもらう意味があるのか、時間も手間もかかることですので、この怒涛の三枚組アルバムレコーディング中にそんなことをわざわざしたとはとても思えません。普通に考えれば、玉置さんが弾き語りしたんだけど、クレジットには載せていないというだけのことなんですが……ああ、これは玉置さんと、限られた人にしかわからないことですね。

さてGの、7th、6th、5thを往復するリフが遠くから聴こえてきて、それにストリングスが重ねられます。「Friend」みたいに、いかにも星さんによる「うおー、これは名曲!超感動!」という感じのストリングスではなくて、こういう、いわゆる面白い系の曲では、Banana的なアソビ心が感じられます。しかし、これだって、「Strings Arranged by 星 勝」というクレジットの前では、なんの説得力も持たない推測なのです。うーん。

Bメロに入ったあたりで、何かの打楽器が聴こえてきますね。スネアのリムだけ叩いたような。そしてバスドラがハリのいい音で加えられます。そしてそして、これもわたしが音を知らないというだけのことなんですが、何かをひっかいたような音と、「ガタタン!」という音が加えられます。なんでしょう、これ?ひっかくほうの音は、むかしのMIDIシーケンサーで聴いたような気がしなくもないのですが、「ガタタン!」のほうは、『プルシアンブルーの肖像』で聴いたかも?何かの音をサンプリングしたんじゃないか?という程度のことしか、現段階では言えません。この音の正体を知りたいとずっと思っておりましたもので、今度広くアンテナを張っておこうと思います。そんなこんなで、「玉置浩二ナマ素材」だとばかり思っていたら、予想外の凝り方ですっかり当惑しております(笑)。たしかにメインは新鮮なサシミなんだけど、ソースやら付け合わせやらですっかりステキな料理になっている、という感じです。

ところで、ヘッドホンで聴いていると、玉置さんのボーカルが右と左で若干ズレるような感触がないでしょうか。もしかしてこれは、ボーカルを二回録ったのでは?と思っています。そして、一回目と二回目で若干パンニングを変えてあるのでは?ああ、これも、そう思って聴くとそう聴こえることもあるかもしれない、というレベルですので、あまり気にしないでほしいのですが(笑)、そうやって録るとこういう聴こえ方になるだろう、ということです。玉置さんの圧倒的なボーカルですと、倍音もタダモノでないレベルで出ているでしょうから、一発ボーカルでもこういう音の拾われ方をすることは、あるかもしれません。

そして、これも「玉置浩二 Vocals」とクレジットがあり、他のだれもボーカルとかコーラスとかのクレジットがありませんので、普通に考えれば玉置さん以外に声を入れた人はいないはずなんです。が、この曲の最後、「トゥットゥットゥルッ、トゥットゥットゥットゥルッ」というコーラス、左チャンネルから、あまり玉置さんっぽくない声、知っている声でいうと矢萩さんの声っぽい声(笑)が聴こえてきます。もしこのギターを弾いたのが矢萩さんだとしたら、「ちょっと待ってて」とか言われて、コーラスにも参加されられた可能性はあるでしょう。この場合、玉置さん弾き語り説は崩れることになりますが、別スタジオでレコーディング中の矢萩さんを捕まえてきて「ちょっと歌ってくれる?」はいくらなんでも……矢萩さんなら「ええー」とか困り顔でニコニコしながら、結局歌ってくれるんじゃないかという気もしますけども。

最後になってしまいましたが、歌詞の世界にダイブいたしましょう。いきなり「カフェ」です。うん、わたしの知る限り、サテンのことを「カフェ」という人はあまりいなかったように思います。当時はスターバックスとかなかったですしね。スターバックスのことを「サテン」と呼ぶのは、いくら時代錯誤なわたくしでも憚られますが、当時サテンのことを「カフェ」と呼ぶのも、似たような感触だったように思います。店名に「カフェ」と付いていたならまだわかりますが……。そんなわけで、具体的なあのサテンやこのサテンのイメージは消え、松井ワールドの中だけにある「カフェ」の光景が眼前に広がるわけです。そこでは、オペラのように目立つ声で笑う美人さんや、天使っぽくあくびをしてる女の子が、お茶タイムを繰り広げております。おおー、松井ワールドですね。わたしの知るあのサテンやこのサテンでは、煙草をくわえたおじさんがスポーツ新聞を広げてエロ記事ページを何往復もしながら読んでいたり、学校から抜け出してきたとおぼしき高校生がゲームでヒュンヒュン遊んでいたり、大学生らしきカップルが、もう映画に行ったりその感想を話し合ったりするようなことにも飽きて、視線も合わせずただマンガを読みながら電車を待っていたりと、なかなかなカオスだったものです。それはわたくしがそういうサテンしか知らないというだけのことであって、世の中にはステキな恋に出会えるような「カフェ」も存在したのでしょうか。それならわたくしもぜひ常連になりたかったです(笑)。

そんな、夢のようなカフェに、ふらりと入ります。遠くの美人さんに胸をときめかせつつも、近くであくびをしている女の子に気が向き、ちょっとからかってみます。これはからかうしかありません。みてるだけなんて、風色です。つまり無色、自分がここにいないと同じことなのです。「薔薇色」は恋の予感ただようカフェへの期待感、「夢色」は、まだよく知らない彼女がつつまれているヴェールの色、つまりまだ何色かわからないけれども、彼女のしぐさですっかり前向きになった自分の心の盛り上がりです。ああ、これはもう、彼女と恋をするしかありません。うまくお近づきになって、ふれあいたいものです。

……とまあ、世の中にはこんな「カフェ」があった?いや、これは都市伝説だ!それが証拠に、あのサテンやこのサテンでそんな光景を目にしたことがない!……いやそれはあのサテンやこのサテンだったからなのでしょうか。それとも、玉置さんほどのナイスガイならば、あのサテンやこのサテンですらも、こんなナイスな「カフェ」に変える魔力を発揮するなんてことがあったのでしょうか。これは、おそらく後者でしょう。何せ玉置さんが歌うと、とてつもない説得力があるんですよ、この手の物語は。思えば「パーティー」もそうでしたね。あんな「パーティー」があるもんかいべらぼうめ、と冷静になれば思うのですが、いやそれでも玉置さんならばあるいは……と思わせるパワーがあるのです。「ただしイケメンに限る」とはネットで流布する自虐ギャグですが、この頃の玉置さんはそんなレベルではなく、イケメンにもほどがあるぞいい加減にしなさいと思わせるほどのナイスガイでしたので、あんなサテンやこんなサテンすらも、こんな「カフェ」に見せることが可能だったのです。

さて、「夏の終りのハーモニー」を書き上げたあと、すっかり油断しておりましたが、三月いっぱいまでにこのアルバムの記事を書き上げる予定ですので、もう少し頑張らないといけませんね。残り三曲、しかも、どれもこれもかなり骨の折れそうな曲ばかりです。気合いを入れなければ!

安全地帯5 [ 安全地帯 ]

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2018年01月21日

夏の終りのハーモニー


安全地帯V Harmony』七曲目、「夏の終りのハーモニー」です。アナログ盤ですと、これが三枚目のB面スタートの曲になります。ですから、これでレコード盤をひっくり返すのも最後になりますね。

そして同時にこの曲は、ライブ盤『STARDUST RENDEZ-VOUS』ラストの曲でもあります。『ALL THE BEST』の解説によりますと、「神宮球場でのジョイントコンサートで初めて披露され」たとのことです。あ、いや、知ってたんですけど、というか、コンサートのときに本人たちがそう言ってから歌い始めたんですが(笑)、このユニバーサルによる公式解説によって、第三者が検証可能な形で確認することができるというわけです。

『STARDUST RENDEZ-VOUS』のジャケットで見ることのできる、このお二人の姿……うっとりですね。これはおそらく「夢の中へ」のワンシーンだと思うのですが、このジャケットをみて浮かぶのは、「夏の終りのハーモニー」です。ビートルズ愛用のリッケンバッカーを抱えた陽水さん、これまたビートルズ愛用のエピフォン・カジノを彷彿させるセミ・アコースティックを抱える玉置さん、少年時代のわたくし、この写真に憧れあこがれ、とうとうセミ・アコースティックを買ってしまったのでした。どんな音の鳴るギターか確かめもせずに「あれください!」です。で、そのギターをバンドでとても使いこなせる腕はなかったため、部屋で玉置浩二ごっこをすることにしか使えませんでした(笑)。

さて、この曲ですが、陽水さんと安全地帯のストーリーをここに感動的に完結する、という、泣けてこないはずのない役割にふさわしい名曲です。実際にはストーリーは完結せず、これからもずっと続いていくのですが、安全地帯の大成功ここに極まれりというタイミングで放ったこの曲は、何かを完結させたと思わせざるを得ないものでした。売り出し中の若手バンドが、大御所のハクにあやかる魂胆ミエミエのジョイントとはずいぶん違いますからね。バックステージで金子章平さんが「本来はクールに演出する側の人間でありながら、同時にこみ上げてくる感動にむせいでいた」(志田歩『玉置浩二 幸せになるために生まれてきたんだから』より)というのも、よくわかって、こちらまでむせいでしまいそうです(笑)。

「ワインレッドの心」「真夜中すぎの恋」「恋の予感」と同じく、陽水さん作詞、玉置さん作曲で臨んだこの曲は、成功し成長した安全地帯が、陽水さんとほぼ同格とも思える立ち位置から放った一撃でした。もちろん、陽水さんの歴史と実績を考えればけっして同格ではないのですが、それは当時の若い安全地帯では、どうあがいても埋めることのできない差でしたし、それは言うだけ野暮ってものでしょう。

陽水さんの詞ですが、これまた、どシンプル!「夜空をさまよう」とか「星屑」とか、かなり手垢のついた言葉でもふつうに使っていますし、「ステキな夢」「二人の夢」「真夏の夢」なんて、陽水さんでなくても、誰でも思いつくようなフレーズをポンと出してきます。陽水さんでなければ陳腐に見えてしまいそうな、ごくごく普通でシンプルなものばかりなのです。しかし、この二人が「ハーモニー」とハモる、その一事だけで、すべてが輝くのです。……それをわかっててやってます、この人は。畳みかけるように「二人の夢 あこがれ」「いつまでもずっと忘れずに」と二人は歌い上げるのです。これは確信犯です(笑)。あくまで男女が、夏の終りに迎えがちな、一種の儀式のような恋愛模様を描いたという体裁で、この人は陽水&玉置のことを歌っている!と思わせる効果を、完全にねらっていたとしか思えません。もしねらっていなかったのだとしたら、陽水さんの天才度はモーツァルト級だといわなければならないでしょう(笑)。

さて、リリースから六年ほど経ってから、『安全地帯VIII 太陽』が出たあとのことでした。年始特番だったと思うのですが、安全地帯が出演し、シングル「いつも君のそばに」のほか、「俺はどこか狂っているのかもしれない」「SEK'K'EN=GO」とかだったと思います、ともかく、あまり一般受けしなそうな曲を演奏したことがありました。その直後、もしかしたら同じ番組内だったのかもしれませんが、タモリの前で、玉置さんと陽水さんが、玉置さんのギター弾き語りで、その場でこの「夏の終りのハーモニー」を披露したことがあったのです。この二人が揃ったなら歌わなくちゃいけないでしょう!的な、その場のノリで歌うことになったのではなかったでしょうか。この時の様子は、評判を呼んだようで、いまでもGoogleで「夏の終りのハーモニー」と検索するとYouTUBEの動画が一番上に表示されます。

最近でもNHKのSONGSでお二人が歌っていましたね。何といってもこのお二人が歌っているのですから、ほかに関心がいかないのは無理からぬことですが、わたくしちょっと趣味志向がズレているものでして(笑)、ほかのメンバーも、もっと映してほしかったです。まあ、間奏のソロは武沢さんが主に担当し、最後で矢萩さん武沢さんがハモリを入れているのが見えましたから、それで満足することにしましょう。

アレンジもごくごくシンプル!ただ、きっと急ごしらえだったでしょうに、まったく手を抜いた感じがしないのはもの凄いことです。シンプルな美しさ、雄大さで、ウルトラスーパー超弩級歌手二名の歌を、前面に出すことに徹するという作戦だったのでしょう。安全地帯の過去の曲でいうと、「あなたに」に近い思想でアレンジされた曲といえます。雄大さを思わせるストリングスが遠くから聴こえてきて、儚い音色のシンセでアルペジオ、ロールで近づいてくるドラムからドーン!とベースが入って意気に盛り上げてから、シーンと静かになります。そして、ピアノのコードストロークだけが響き、ささやくような玉置さんの歌が入る……そこに陽水さんのハモリと、静かなベースが加わる……完璧すぎます。

つぎは陽水さんのパートです。ピアノ、ベース、ドラム、ギターのアルペジオ、そして徐々に盛り上がるストリングスをバックに、陽水さんの声が朗々と響きます。そこに、シンセが加わり、玉置さんのハモリが重ねられます。……このタイミングで来てほしい!と思わせるものが、まさにそのタイミングでぜんぶ入ってくるのです。これは、オジー・オズボーンの「クレイジー・トレイン」でランディー・ローズのギターを聴いたときの感動と同じものです。あ、いや、わたくし「クレイジー・トレイン」のほうをあとに聴きましたもので、「ああー!そうそう!なんでボクの聴きたいものがわかるのオー!」という感動は、この「夏の終りのハーモニー」で学習していたのかもしれません(笑)。

同じことは、曲全体についても言うことができるでしょう。陽水のバックバンドをしていた安全地帯が、陽水さんの詞の力に支えられたことをきっかけに成功します。そして、盟友松井五郎さんとのコンビで「悲しみにさよなら」をヒットさせた安全地帯は大きく成長し、もう陽水さんの引力圏を飛び出していました。しかし、ここで、もし、陽水さんとの共作がふたたび実現したら、どんないい曲になるんだろう?しかもその曲を玉置さんと陽水さんで歌い、安全地帯で演奏したとしたら?ああー聴きたい!そんな曲が実現してほしい!と思わせるまさにそのタイミングで、このジョイントコンサートが実現し、この「夏の終りのハーモニー」が放たれたわけです。これはもう、日本の音楽業界で起こった奇跡ベストテンには余裕で入るのではないでしょうか。なおその後、二匹目のドジョウを狙ったとしか思えないようなジョイントが、わたくしからみてほとんど魅力を感じない歌手・バンドの組み合わせで見られたのは、まったくもって噴飯モノでした。

さて、曲はサビに入ります。玉置さんと陽水さんが、互いの声を絶妙に生かしあいながら、完璧なハーモニーを、ほぼサビ全編にわたって繰り広げます。「あこがれを」と、一番では陽水さんが、二番では玉置さんが、そして最後に二人で歌うのは、まさに鳥肌モノです。

オーバー・ドライブの効いた、乾いた音色のギター・ソロが響き、最後はツイン・ギターのハモリで締めくくられる間奏も、見事としか言いようがありません。なぜこんなにシンプルなのに、カッコいいんだ……。ここでお二人が超絶技巧を披露されたら、きっと曲は台無しになってしまうに違いないんですが、それにしてもこの抑制の効いたギターは……とても若者ギタリストのそれとは思えません。脱帽です。

そして、のちの『あこがれ』を彷彿させる、まさに星勝イズム炸裂の美麗かつ壮大なストリングスで曲は閉じられます。ああ……何もかもがよかった……もういっぺん、と安易に繰り返し聴きするのを拒みさえするかのような、強烈な威厳が漂っています。そう、この二人が歌い、安全地帯で演奏するというのは、奇跡なのです。奇跡はそんなに頻繁に起っちゃいけないわけです。ふつうに曲送りボタンを押せばあっさり奇跡は再生されるんですが(笑)、そうしちゃいけない、そんな、ご神体の扉を開けっぱなしにするような真似をしちゃいけない、とわたくしの指先にストップをかけるのです、曲が。

だから、猛烈におかしなことではあるのですが、わたし、この曲を聴こうと思って聴くことはめったにありません。あ、聴けちゃった、ありがたいな、でいいのです。もう四半世紀も前のあのとき、テレビで予期せずにタモリの前で披露された場面を観ることのできた、あの感動を、味わいたいので、そっと扉を閉めているのです。

そうそう、例のセミ・アコースティックですが、配線が死んでいたのを、つい先日、必死こいて直しました。アンプを使わず部屋でつま弾く程度なら支障はないので、べつに配線なんか放っておいてもよかったんですが、あの頃の音色がアンプから聴こえてきたとき、ちょっと泣けてきました(笑)。一心不乱に玉置浩二ごっこで「夏の終りのハーモニー」を弾き語りしていた日々の気持ちが、よみがえったのかもしれません。

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2018年01月13日

Jのブルース

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安全地帯V Harmony』六曲目、「Jのブルース」です。

わたくし、ブルースというジャンルがどういうものなのか、正直よくわかっておりません。サムとかオーティスとかマディとかいったブルースの巨人などと呼ばれる人のレコードを聴いたこともございません。「ロックの源流はブルース」とか、米国で悲惨な暮らしを強いられていたアフリカン・アメリカンの皆さんの、日々の悲しみが南部で音楽として結実したのがブルースだ、とか、基本的にスリーコードだ、とか、その手の話を聴いたり読んだりしたことはあっても、いまいちピンときたことがないというのが現状です。聴けばいいのに、レコード。

そんなわけで、BellyUp4Bluesでインターネットラジオを聴こうと思い立ったのですが、ちょうど流れていたのがThunderの"I Love The Weekend "で、ノリノリに聴いてしまいました(笑)。なんだ、やっぱあんまりロックと違わないんじゃん。というか、これはハードロックですね。どうも聴くタイミングを間違ったようです。ちなみに、次に流れてきたのはThe Tony Edwards Bandの"Brand New Day""Dangerous"でした。あー、こんな感じの曲、若いころは辛気臭くて嫌いだったけど、いまは聴けるなあ。というか、カッコいいですね。あ、もしかして、わたくしもどうやらブルースの心が少しだけわかってきたのかもしれません。きっと、もっとしんみりした、ドロドロの、いかにもブルースって感じの曲があるんでしょうし、それを受け容れられるかどうかはわかりませんけども。

さて、ハードロック馬鹿のコントはこれくらいにして、安全地帯の話にしましょう。この「Jのブルース」ですが、サックスと思しきホーン、アコースティック・ピアノ、クリーントーンのギター、コントラバス(風のエレキベース)、やけにジャズ&ブルース然としたドラム、ストリングス、そして玉置さんのボーカルで演奏されています。このラインナップをみると、例によってサポートメンバーを中心にレコーディングしたのではないでしょうか。とくにドラムは、田中さんのそれと違いすぎます。もしこれを田中さんが叩いたのだとしたら、あんたナニモノですかってくらい懐が深すぎです。いかにもビザンチンな大聖堂に入ったら聖餐台に長谷の大仏が鎮座していたくらいの衝撃です。ベースとギターは……うーん、なんともいえません。音づくりは明らかにメンバーのものと違うんですが、やってやれないことはないのでは……くらいに聴こえます。やってやれないことはない、くらいの時間のかかることは、おそらく、レコーディング時間の都合で、別スタジオのサポートメンバーにお任せしたのだろう、と考えられます。この演奏はちょっとロックミュージシャンである安全地帯には、専門がだいぶ異なるように聴こえるのです。

とはいえ、サポートメンバーとしてクレジットされている方々も、けっしてジャズやブルースの専門家ってわけではなく、凄腕のスタジオミュージシャン、いわゆる何でも屋さんです。ドラムの長谷部徹さんなんて、T-SQUAREの人ですもんね。こういう人たちは、これこれこんな風に弾いて・叩いてくれる?ってリクエストにパーフェクトに応えるんですから(ちなみに応えられないと、仕事がどんどん減ります)、スタジオミュージシャンって本当に凄いです。

「ポーッ!」と謎の音を緒に、サックスとギターのユニゾンがリードするイントロがはじまります。乾いた音のピアノ、ズシーンと響くベース、カツカツカツ……と響くシンバル、合の手で気分を高揚させるを入れるストリングス、と、完璧な盛り上げです。そしてダダダダ……とスネアが鳴り響き、調が変わり(またかよ!笑)、玉置さんの歌がはじまります。繰り返しになりますが、雰囲気盛り上げ完璧な前奏です。

声を立ててもいいって、当たり前じゃないですか、市道を通行してもよい、みたいな、いきなりそんな許可を出されても……なんて野暮なツッコミはナシです。この時期の玉置さんは、この手の話においては、強烈なカリスマなのです。こんなごく当たり前の、ほぼ無意味な許可であっても、ああ、いいんだ……うれしい……と思わせる強烈なパワーを持っています。他のボーカリストだったら「は?なんでいちいちお前が指示してくるわけ?何様のつもり?」と言われそうなことだって、玉置さんにはできちゃうのです。

もちろんこれには、玉置さん自身の歌の力、肉体の魅力等が最大の作用因として機能しています。ただ、モノには雰囲気の演出ってものが必要なのですね。完璧なジャズ&ブルースを演出する編曲、そして楽器陣が、この圧倒的カリスマパワーには必要不可欠でしょう。神聖ローマ帝国の皇帝がムシロでスマキにされてコンビニの前に座り込んでいても、誰も敬いません。壮麗な宮殿、高く立派な王座、宮廷服をまとい神妙な顔つきをした重臣たち、法王に戴冠された西ローマ帝国由来の冠……こうしたもろもろの演出があってはじめて、皇帝は皇帝たりうるのです。

権威を演出する話ばっかりしてますが、ここは、「こえを(三連)」「たてても(四連)」「いいさ(三連)と細かく刻むことで、次の「あ」「まい」「こ」「へを」とスローになる箇所とのコントラストを抜群に効かせています。これは皇帝本人のパワーといえるでしょう(笑)。

さてまた調を戻し前奏と同じ調で、そしてここが肝心なところですが、サックスが玉置さんのボーカルとユニゾン気味に吹かれ、もっと、もっと、もっと……まだ、まだ、まだ……と迫ってくるのです。松井さん、半分遊んでるんじゃないかってくらい、うりうり、これでもかホラこれでもか、と攻めまくってきます。これはたまりません。『安全地帯V』は、こういうたまらない曲ばっかりなんです。ふと、「果実の彩り」とか「記念の指輪」とか言っていた時代が懐かしくなってきます(笑)。より直接的、より刹那的、なんというべきかわかりませんが、かつての比喩を超えた新しい比喩に到達した感があります。

またまた余談になりますが、キティで、安全地帯の税金対策バンドなどと揶揄する向きもあったという、気のどくな評価を受けるバンド、ピカソの辻畑哲也さんが、かつてラジオでこのようなことを言っていたことがあります。「これまでのピカソの歌っていうのは、直接的な好きだって気持ちを外すような曲が多かったんですね。でも今取り組んでいるのは、その外したところからもう一度ダイレクトに好きだって言えるような曲なんです。そういう好きだって気持ちは強いと思うんです」といった内容でした。もう三十年も前の、たまたま聴いたラジオでしたから、一字一句正確に思い出すのはムリですし、もしかしたら全然間違って記憶しているのかもしれませんが、ずいぶん強く印象に残りました。そしてその番組内で行われたスタジオライブは、そうとうの実力をもつバンドのそれだったのです。誰ですか、「税金対策」なんて言ったのは(笑)。こりゃアルバムを買わなければ!と翌日すぐにレコード屋さんに行って、ラジオで聞き覚えのある曲の含まれたアルバムを手に入れたのでした。後で知りましたが、彼らの曲はアニメ「めぞん一刻」で長らくエンディングに採用されていたのですね。第二期では、「好きさ」の安全地帯と、コンビを組んだ形になります。

さてその「好きさ」、のちの「じれったい」、そしてこの「Jのブルース」といった、直接的な気持ちを玉置さんの魅力と歌唱力にまかせて連呼するスタイルは、この辻畑氏がいう「もう一度ダイレクト」な気持ちであったのかもしれません。

付記してきますが、辻畑氏による上述のセリフは、1987年か1988年のものでした。ですから、安全地帯はその「もう一度ダイレクト」シーンの先陣を切ったことになるといえるかもしれません。

サビでは、いちオクターブ上の音域で、玉置さんが絶叫のように歌いあげます。しかも、ここも三連です。「か」「らだ」、「あ」「つく」「て」と、スローになる箇所とのコントラストでガンガン攻めてきます。やりすぎです、玉置さん!(笑)。二回目のサビ、つまり曲のラストになる箇所では、「い」「かな」「い」「で」、と、これまで三連であった箇所をスローに、ただし叫ぶように、歌い上げるのです。これは凄すぎて卑怯です。

アフリカン・アメリカンの悲しみ、怒り等から生まれたブルースは、時を超え大洋を越え、ここに玉置さんの信じがたいセクシーさを表現するものとなりました。こんな書き方をしたらブルースを何だと思っているのか!と怒られてしまうのかもしれませんけど、映画『ブルース・ブラザーズ』とかの愉快痛快な彼らだってブルースを名乗ってるんですから、いいじゃないですか。発祥はどうあれ、音楽はもっと自由に、人間の感情をさまざまに表現するものであっていいはずです。

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2018年01月01日

あのMusicから

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安全地帯V Harmony』五曲目、「あのMusicから」です。

「バミューババミューババミュバミュ!ネマミュ!」などという、意味の少しもない、しかしやけにカッコいいリードで曲がはじまります。タンバリンのような打楽器の音でリズムを取っているんですが、さらに何か、初期のファミコンゲームで飛行機が飛んでいるような音が裏で鳴っていますね。この音は気づくと癖になります。さらに、何やらエレピに似た音とスネアでかなり細かく刻まれたリズムが炸裂します。一瞬「シャリッ」と武沢トーンも聴こえますね。こんな攻撃的なイントロを、よくもまあ……この時代に……と言いたいところですけど、この時代以降にもこんな攻撃的なイントロを多く聴いたことがあったわけではありませんので、この時代の安全地帯だからこそ、というべきなのでしょう。いやホント、わたくしの知る限り、メガデスくらいですよ、こんなにリズムと音色に攻撃的な工夫のあるイントロを聴かせるのは。

歌に入ると、ズ!シ!ズ!シ!……ズタ!ンタ!という、非常に重いリズムに、クリーントーンのギターでアオリ入れまくり、という、大きい大学の、いくつもある軽音系サークルのうち「フォークソング研究会」とかの上級生が、新入生に洗礼(笑)をくらわせるときにジャムって聴かせるような、そんなおチャメ心満載の伴奏になります。

いや、わたしのことじゃないですよ(笑)。わたくしとんとジャムには疎く、そんな集団に混ぜられたらひたすらペンタトニックとスリーコードで押し通すことでしょう。こんな具合ですから、ジャムって面白いと思ったことがありません。そもそも、得意顔の上級生にはわりと反骨心を刺激されましたもので、絶対に同じことはしないのでした。その結果、ジャムで成長するチャンスを逃すことになります。余計な意地を張らないほうがいいことも、人生には多々あるものですねえ。

さて、歌に入りまして、いきなりサビです。「遠ざかるあの歌」って……玉置さん、あなたがずっと歌ってたんでしょうに……と、ちょっと不思議に思いますね。むりやり安全地帯の歴史とリンクさせてみますと、これは玉置さんたちに去られたあとに残された、元メンバーたちの歌なのではないでしょうか。そこには当然、武沢さんのお兄さんや、玉置さんのお兄さんも含まれています。大平さんはいっしょに上京したのですから含まれないとして、宮下さんは含まれることになるでしょう。なんか、すごいメンツですね。もう一つナイスなバンドが組めます(笑)。

わたくし「〜て」で終わるフレーズには拒否反応がございます。「恋しくて」とか「恋焦がれて」とかで文を切られると、基本的に頭に来ます(笑)。自称作詞家の、貧弱な語彙と荒涼たる精神世界を想像で補う労苦を聴き手に押し付けているような、そんなおぞましさを感じてしまうのです。しかし、ここでの「追いかけて」と「聴きたくて」は、そう……そうなんだよ……聴きたくてなあー、追いかけてなあー……と、深い感慨を感じてしまうのです。そして、そこに補われる言葉は、「でも、なにもできない、どうすることもできない」なのです。一瞬、このアルバムがリリースされた年の夏にお亡くなりになった坂本九さんの顔が浮かびましたが、それはいずれ、「星空に落ちた涙」で語ることにしたいと思います。

ジャッ…ジャッ…と歯切れのよいピアノに、短くも音量の大きいシンセ音を効果音的に絡ませ、やや歪んだギターでアオリを入れるというコンセプトで、いちいち効いてます。とくに、ハーモニクス混じりのギターフレーズはまた聴きたくなります。また聴きたくて待ってるんですが、この曲、ギターで同じアオリは二度とこないんです。わたくしが鳥頭だから同じアオリを覚えていないだけかもわかりませんが、ごく基本的なカッティングやストローク以外では同じフレーズがないように思われます。これは、すべて計算して作られたのか?それとも、ジャム・即興に近い形で作られたのか?わたくし、後者が真実に近いと考えております。これだけ多種多様なフレーズを、レコーディングのためにリハして覚え込むなんて、ちょっと人間業じゃありません。ましてや、殺人的スケジュール下の安全地帯には、そんなに時間的な余裕はなかったはずなのです。いやー、いつも書くように、矢萩さん武沢さんならやりかねないわけなんですけども(笑)、それにしたってこれはちょっと辛すぎます。これは、二人のギタリストが類まれなるアドリブ即興力を存分に生かして、ギター一本当たりそれぞれほんの数テイクで録り上げたものだと考えるほうがずっと自然です。

そう思ってギターの音に耳を凝らすと、お二人の躍動する姿が目に浮かぶようです。「カッティング、コードストロークOK、次はアコギで弦の響きを大きく録ります」「セッティングOK、ソロいきまーす」「Aメロのアオリテイク、もう一遍だけ弾かせて!」「ソロOK、次はBメロ裏に歌メロなぞりまーす」……ああ、うっとり。ええ、もちろんぜんぶ妄想ですけども(笑)。

田中さん六土さんは、この曲では目立ちません。ズシ、ズシ、とひたすら重く、ひたすら堅実に曲を支えます。効果音的なものが多く飛び出てくる曲ですから、この二人まで飛び回っていては曲になりません。もちろんこのお二人なら楽勝でしょうけども、けっこう重さを表現するのにも技量ってものが必要なのです。テクニカルさをウリにするロックバンドは、地に足のついていないスカスカサウンドになりがちなのに、安全地帯はけっしてそうなりません。このお二人の安心感たるや、まるで武蔵丸関をみるかのようです。よくわからないたとえですが(笑)、わたくし、自分が観てきた力士のなかで、足腰の強さはいまだに武蔵丸が最強だと信じているのです。

さきほど、安全地帯に去られた、もと安全地帯のメンバーたちを歌った曲ではないかという、根も葉もない話を書きました。「南へ行くバス」は旭川から羽田へと飛ぶ空港行のバス、「腕時計」はもちろん玉置時計店で買った入学祝、「さびたギター」はスタジオ兼合宿所に転がっていた、初心者の頃の、もう弦もろくに張り替えてやっていないギター、「熱くなれた毎日」は、旭川で自主コンサートを重ねた日々……と、ありそうなシーンばかりが浮かびます。

デビューメンバーが去ったスタジオ兼合宿所には、安全地帯の日々の痕跡が、宮下さんがそこにレストランを開くまで残されていたのでしょうか……。わたしがメンバーだったらきっと、残しておくと思います。ましてや玉置さんは「北海道に帰ろう」と何度かあった転機において話しているのですから、安全地帯がトップバンドとして突っ走った80年代の間、まだそのスタジオは死んでいなかったと思うのです。そのスタジオで、あるいはスタジオ生活に入る前の実家で聴いたレコードやラジオから流れていた、「あのMusic」に、みんなで夢中になれた日々は、もう帰ってはこないと知りつつも、そのスタジオは心の支えとしてそこにあり続けたのだと思います。

レコードやラジオから流れてきたMusicにみんなで夢中になれた日々、というのは、ある程度以上の年齢の人にはわかっていただけると思います。Youtubeでなく、曲単位で売られているデジタルミュージックでなく、聴くのに手間と運の必要だったあの頃の音楽との出会いは、いまよりもずっと貴重なものでした。さすがに初任給12000円なのにLP3000円とかいう冗談みたいに音楽の高い時代ではもうありませんでしたけども、それでも音楽はまだまだ高く、面倒くさいものでした。そして、レコード盤やテープの脆さに象徴されるように、変わりゆき、消えゆくものだったのです。だからこそ大事な、曲名さえよく覚えていない「あのMusic」としかいいようのないものが、いとおしく感じられるのです。あ、いまあの時代に戻れといわれたらイヤだといいますけど(笑)。「あのMusic」にはたどり着けても、熱くなった仲間も、自分の心も、もう取り戻せないとわかっているからです。「いまでも熱くなる」のは、「あのMusic」ではなく、「からみつけたもの」ですから。

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2017年12月31日

いますぐに恋

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安全地帯V Harmony』四曲目、「いますぐに恋」です。

ズシーンとしたベース、田中さんのハイハットをバックに、キラキラ音のシンセが消え入りそうになるところでクリーントーンのギターがアルペジオで入る……これだけで悶絶ものの定番安全地帯ですが、それだけでは済まないのがこの時期の安全地帯です。

フルートのような、謎の笛の音がメイン旋律を貼っています。ご存知のように、わたくし笛やラッパの聴き取りがヘボでまるきり自信がございませんもので、あっさりクレジットを見るのですが、なんとフルートはありません。オーボエには坂宏之さんがクレジットされているのですが……オーボエってこんな音だったかしらとあわててYoutubeでいろんな人の演奏を聴くも、なんか違う……いや違うとも言いきれない……という耳のヘボさです。うーむ。笛の音としては似てるのですが、このイントロのフレーズには、オーボエ特有のあの耳の裏にペタッと貼りつく感じが希薄な気がします。曲中にはオーボエ感のある音色のフレーズもあるんですが……このイントロは謎です。坂さんが、そのペタッとした感じを出さずに吹くことのできる曲芸名人だったか、編集の段階で電気的にその音を取り去ったか、あるいはCDにきちんと収録されているのにわたくしの耳がヘボで聴こえてないか、もしくは単にシンセで出した音だったか、ノンクレジットの笛吹きが一人混じっていたか、どれかでしょう。なんの解答にもなっていません。数学の問題を解く高校生でいえば、まだ参考書を買いに本屋に行こうとする段階です(笑)。

そして、武沢トーンの、アルペジオ混じりのリズムギターをバックに、揺れる音色で、おそらく矢萩さんによるリフがはじまります。これは……フランジャーを使ったのではないでしょうか。わたくし、こんな派手なエフェクターはここぞというときの飛び道具としてド派手にしか使いませんから、こんな控えめな使い方、思いもよりません。BON JOVIの”Livin' on A Prayer”でのトーキング・モジュレーターみたいですね。

あれはジョンのボーカルも派手ですから、リッチーのフレーズと対等な感じだったんです。安全地帯だと、玉置さん(と松井さん)が前に出すぎといえなくもないのです。なんせ、「蜂」「蛇」「蜥蜴」ですからね。どれも危険か不気味な動物ですから、動物的本能を刺激してドキリとさせるには十分です。「蜂蜜」「カクテル」は食品、「皮の靴」は服飾品にすぎないのですが、そのどれもが、一枚めくれば獰猛な自然界に住むわれわれがそこに見えるという仕掛けで、野口五郎さんの名曲「少女よ」を思わせる演出です。それを、都会的ダンディーを装う玉置さんが猛獣のようにささやくのですから、これはたまりません。

リズム隊も、この一種不気味な深淵をガツガツと演出します。ズッ!ズズッ!と、足元に何かがにじり迫るかのようなベースラインのリズムに乗せ、田中さんの、やけに固い音(おそらくシンセパッド)がスネアの代わりに打たれて、低木の茂みで枝を折りながら進む危険生物を思わせます。

調が変わり、Bメロではシンセ・リードの効果音を頭拍にして、あとはギターのカッティングがかすかな音色で伴奏を引き継ぐという構成になっています。このけだるい歌詞と曲全体の雰囲気の中、安全地帯はものすごい緊迫感あるアレンジの演奏を続けます。音色の切り替えや音量の調節が細かすぎて、わたくしライブでやれといわれたらもちろん断ります(笑)。PRISMのみなさんでも一瞬気構えるのではないでしょうか。

さらに転調してサビ、なんと変ト長調です。イヤーンです。ハローマイガールとか軽薄なセリフを、こんな風変わりな音階に載せておいて「いますぐにほしい」「いますぐに恋(来い)」とか言われても……鍵盤の人、冷や汗かいちゃってるじゃない!いいのあの人?「いいのいいの、さ、行こうかマイラブ」みたいな、得体の知れない恐怖を拭い去れない誘い方です。左右に振られるギターのカッティングが、また幻惑的です。ダンスホールのストロボのように、一瞬で左右する心情を見事に表現しています。ほとんど同じ音色に聴こえますので、電気的に左右に振ったんだと思いますけど、これを二人のギタリストがコーラスを入れながらやるとしたら、人間業じゃない正確さです。コーラスは玉置さんの重ね取りでしょうし、カッティングも左右に振ったんでしょうけど、矢萩さん武沢さんなら、実際に再現しかねないのが恐ろしいところです。

さて、この曲、前曲「今夜ふたりで」ほどではないにしろ転調を繰り返す曲ですので、とても難解な曲になってもおかしくないはずなんです。しかし、玉置さんがあまりにあっさり歌っているので、転調したと気づきにくい曲でもあります。弾いてみてアレ?です。わたくしレベルでは、CDに合わせて口ずさもうとすると、サビの「Hello」で必ずつまづきます(笑)。調が変わるたびにピアノで弾いてもらいながら「あああああああああー」と発声練習させてくれないと、とてもついていけない調の変化です。つまり、バンドを組む時にわたくしにボーカルをさせてはいけないわけです(笑)。

さてすでに少し触れましたが、この曲も、とんでもないスケコマシソングです。夫婦が夜の街に出て「いますぐに恋」ごっこをしたら、途中で二人とも吹き出さずにはいられないでしょう。この曲は、またお互いのことをよく知らない男女でなければ到底つとまらない物語を描いています。それなのに「マイガール」ですからね。どんだけ強引なんだよとツッこまずにはいられません。たかが五秒の頬杖で誘われたのでは、油断も隙もあったものじゃないです。

ただ、こういう物語には似つかわしく、ずいぶん脇の甘い女性のようで、靴をぶらぶらさせていたり、たいした用もないのにハンドバックを開け、リップスティックを取り出したりしているわけです。これはオオカミの群に、それと知らずに放り込まれた仔ウサギといってもいいでしょう。あ、知ってて来たのか。遊びにいらしたんですね、それはそれはもう……救いようがありません。まちがいだらけの愛の時間をお楽しみください。男のほうは「何もまちがいなんてないさ……」とか、歯の浮くようなことをご期待通りに口走りますので(笑)。

あー、昨年の年末には、来年一年かけて『安全地帯V』を書こうと思っていたんですが、一年経ってみると、書き終わりませんでした。ちょっと振り返ってみると、昨年末はまだ『安全地帯IV』の途中だったんですね。で、次に『プルシアンブルーの肖像』を書いたんで、『安全地帯V』に取り掛かったのが四月だったようです。うん、じゃあ、三月末までには『安全地帯V』を書き終えられるよう頑張る所存であります。今年も一年ありがとうございました。2018年が皆様にとってナイスな一年になりますことを祈念しております。よいお年を。

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2017年12月24日

今夜ふたりで

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安全地帯V Harmony』三曲目、「今夜ふたりで」です。

この曲はですねー、可愛らしい子猫の装いをした獰猛な虎です。散歩のときに見かけるだけなら「可愛いなー」で済むんですが、いざ家に連れて帰るとその正体に度肝をぬかれるわけです。連れて帰る前にはほとんどその正体がわからないという点で、非常にタチが悪いといえるでしょう。お姫様抱っこしながらルパン跳びでベッドインしたら「首を絞めて……」とか言われるようなものです。連れて帰るまでが色恋事なのではありません。本当に艱難辛苦を極めるのはその後なのだということを痛感させる、人生の教材のような曲といえるでしょう(笑)。

何せこの曲、転調しまくりなんです。ホーンの人たちがブチギレしそうで、書けないです、こんな曲。怖くて。あ、いや、ホーンの人たちって、けっこうヘンな調でも「大丈夫だよー」って吹いてくれるんで本当のところはわからないんですが、書くほうは気を遣うんですよ。リコーダーだって半音ばっかりだったら嫌じゃないですか(笑)。金管ってやつは運指だけでなくて吹く力でも音程を調整できると聞いたことがありますから、リコーダーの半音みたいなことにはならないのかもしれませんが、それにしたって楽器ごとに適した調ってものがあるんでしょうから、なるべく変な調にならないよう気をつけてアレンジするのが礼儀ってもんでしょう。

ところが玉置さんはぜんぜんそんなことお構いなしなんですね。さすが玉置さん!というか、アレンジのことなど後のことですから、あとでホーンを入れる入れないなんて作曲の時点で気にするはずがないんですけど。

えーと、最初はEですね、ホ長調ってやつです。オルガンのやさしい音で、夜のとばりが降りてゆきます。エレピ、ベース、ドラムのシンバルが早くも鳴り響き、玉置さんの歌をほんの数小節、しっとりと聴かせます。ただ、しっとりしているのは一瞬で、すぐに田中さんのスネアを合図に、めくるめく転調の嵐に巻き込まれていきます。Kissだのくちびるが咲き乱れるだの、高校では安全地帯のCDは持ち込み禁止になるんじゃないかという乱れっぷりになるところは……えーと、ロ長調です。あ、いや、わたくし普段はBとかEとか言ってますから、ナントカ長調とかいう言い方は非常にむず痒い、というかすぐには頭の中で変換できないくらい疎いんですが(笑)、「転調」と言ってしまった手前、そういう言い方をしないとカッコつかないかなーなんて、謎の見栄を張っております。

ところでこの箇所の、六土さんのベース、音色のカッコいいことったらないです。若干歪ませてグキ、グキ、って短く切る箇所ったらもう……ベースアンプについているゲインって何のためにあるんだろうなどと無知なことを思っていたわたくし、大反省です。ベースの音色ってものに無頓着だったんですねーベーシストが抜けてしまったからという理由でベースを弾いていたわたくし、気づくのが二十年くらい遅かったです。

さあー次はヘ長調ですよ! 背中でゆびさきがたわむれるところです。この曲はブレイクがあって田中さんのライドがチンチン静かに鳴っていたら、転調の合図だと思ったほうがいいです。その転調が忙しくて歌詞のエロさに頭がついていかないのが惜しまれます(笑)。それなのに余談ですが、わたくしこの箇所で、この曲が転調しまくりのとんでもない曲だと気が付きました。ギターでこうかな?こうかな?といろいろ弾いていて、この箇所だけわりとすぐわかったんです。で、同じように弾いても他の箇所では音程が合わないので少しずつずらして弾いてみて、戦慄した、というわけなのでした。

さて、もうハ長調です。イヤリングを勝手にとるところです。ククク……俺色に染めてやるぜ……とか、そんな強引な感じじゃないんですね。これから好きになれるか、ちょっとお試ししよう、だから今だけはちょっと昔のことは忘れてね……という意味の歌詞です。あれ、そっちのほうがタチが悪いじゃん(笑)。

さてまたもや転調、今度は、うーん、イ長調、ですかね。ホーンによる間奏部分です。この曲は四小節やったらすぐつなぎの一小節があってすぐに転調というのが基調になっているんですが、それもハッキリそうなっているわけではなく、つなぎが二小節でそのうち一小節には前の歌が食い込んでいて、まるで五小節プラスつなぎ一小節のようになっていたり、八小節プラスつなぎ一小節なんだろうけど七小節プラスつなぎ二小節と区別がつかなかったりと、一定していないのです。これではホーンの人はたまりません。よくよく曲を覚えて、かつ油断せずに曲展開にあわせて素早く運指なり吹く力なりを調節する必要があるでしょう。これがすべてわたくしの楽器に対する無知による妄想で、実は楽々なのかもしれませんが、玉置さんがキャッキャと天衣無縫で自由に遊んでいる周りでプロの集団が必死こいて収拾をつけているという図が好きなので、どうしてもそういう見方になってしまいます。

さて曲はもう一度ハ長調に戻りまして、こんなに気にさせられる人はいないと、まだ好きとは言ってないよの箇所です。ふう、と一息ついたのも束の間、本艦は転調の嵐の中へと突入してゆきます。

Night Tonightと玉置さんがファルセットで叫ぶたびに調は変わります。なんと四小節ごとです。まあ、半音ずつ上がってゆくだけといえばそうですから、順番にやっていけばいいんですけど、それでも大変でしょう。「面舵いっぱいーハードアスターボードー」「了解スターボード!」「もっと面舵いっぱいースターボードー!」「了解もっといっぱいスターボード!」「まだまだ面舵一杯スターボードー」「了解まだまだいっぱいスターボードー!」「もいっちょ一杯スターボードー」「いい加減にしなさい!船がぐるぐる回っちゃってるじゃないか、どうすんだよこれ!」といかりや長介にメガホンで殴られるかのような遊びっぷりです。

ところでこの曲、転調が忙しかったといういいわけを抜きにしても、ギターの音がほとんど聴こえません。サビの箇所で裏拍を刻む音がとても武沢さんらしいリズムなんですが、ピアノの音とほとんど区別できないのです。ほかにも、ごくたまにこれはギター弦の音色では?という音が響くのがわかるんですが、それも前後の音が聴き取れないまま、曲は過ぎてゆきます。ギター聴き取りは完敗です。くそ……転調さえなければ……とかではなく、これはわたくしの耳のヘボさと、曲の組み立て、アレンジの妙が重なった結果とといえるでしょう。

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2017年11月23日

涙をとめたまま

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安全地帯V Harmony』二曲目、「涙をとめたまま」です。

アルバムの二曲目にとつぜん、こんなしっとりした曲を入れてくるんですから、大胆不敵です。気分はすっかり夜です。まあー、一曲目が「銀色のピストル」なのですから、このアルバムはとても白昼堂々とカーステレオでガンガン聴くようなものではないのは確かでしょう。

そんなわけで、容疑者を尾行して襟を立てたトレンチコートにソフト帽でジャズバーに入ったら、安全地帯がこの曲を演奏していた……参ったな……仕事どころじゃなくなっちまった……デヴィーに乾杯、とかなんとか言いながら出会いたい曲です。容疑者を尾行してジャズバーって時点で、もうありえませんけど(笑)。

星さんが「玉置にはどんなタイプの曲でも書ける才能がある」とおっしゃたように(『幸せになるために生まれてきたんだから』より)、玉置さんはこんなムーディーな曲でさえもさらっと書いてしまいます。そして安全地帯もあっさり演奏できてしまうのです。これ以降、この手の曲はありませんから、肌に合わなかったのかもわかりませんが、ともかく一線級のジャズ・ナンバーを作ってしまったのです。なんという……なんという……ちくしょう、ちくしょうと、砂漠でバスを追い払い懸命に家畜を守ろうとする犬をみた沢木耕太郎さんのように、大自然の営みがみせる必然的な奇跡をみた感動で、うめいてしまいます。

田中さんが、軽く軽く、スナッピーの一本でも無駄に振動させないかのように慎重に叩くスネアにで刻まれた三拍子のリズムに乗せて、六土さんのベースがうねります。このベース……ドーンと伸ばした箇所の重さはエレキベースのそれなんですが、玉置さんの歌の裏で音階を移動するフレーズの響きは、まるでコントラバスのようです。とくにAメロはコントラバスとしか思えません。あまりに変なのでクレジットを見てみますと(笑)、Additional Musiciansとしてベーシストが四人クレジットされています。このうち、真鍋慎一さんがコントラバス奏者であるようにGoggleの検索結果からは読み取れますので、真鍋さんがAメロのベースを弾かれたということなのかもしれません。

もしそうであるなら、ものすごいこだわりです。コントラバスだって六土さんが弾けないわけないでしょうし。エレキベースで弾いたっていいし、シンセでそれっぽい音を出したってよかったはずなのです。でも、ここは絶対コントラバスだ!しかもホンモノの!トランペットとピアノ、コントラバスのトリオはホンモノじゃないとダメなんだ!と、こだわったのではないでしょうか、玉置さんが(笑)。いや、もしわたしがプロデューサーだったら、そしてなにより資金が潤沢にあったら、この曲を最大限に生かすためにきっとそうするでしょう。演奏の、真に迫り方が段違いです。

アオリで入っているギターは、これは一本しか私には聴き取れないんですが……矢萩さんとも武沢さんともつかない音です……あっ!これも、もしかしたらAdditional Musician?ということは、ドラムもエレキベースもじつは田中さん六土さんではない?もう、なんだかわからなくなってきました(笑)。

『安全地帯V』は三枚組、全36曲というとんでもないアルバムですから、完全分業制で製作されたようすが、『幸せになるために生まれてきたんだから』には記されています。わたくしは以前の記事で、明確にバンドサウンドを要求する曲以外は、サポートメンバーによってレコーディングされているのでは?と推測したのですが、この曲は、その「明確なバンドサウンド」から漏れる曲であったのかもしれません。そりゃー、ジャズですもんね、これ。安全地帯のみなさんなら練習すればできるよって感じでしょうけど、練習する時間と体力があるかどうかはまったく別のことですしね。

そんなわけで、「大自然の奇跡」にうめいたわたくし、実はまったく奇跡などではありませんでした、というオチに、30年ごしにガッカリするハメになるかもしれません。ああー、トレンチコートで飲みに出たくなってきました(笑)。

さて、本格的なジャズ・サウンドをバックに、玉置さんのササヤキボーカルが冴えます。松井さんの、信じがたいほどのシットリ歌詞が、過去最高調に思わせぶりな雰囲気を醸し出します。もし、バックがすべてサポートメンバーで固められたのであれば、この時点ですでに『All I Do』の構想は完成していたことになるのです。バンド内でソロ活動を行うって、なんだかよくわからない構図なんですが、忙しすぎた安全地帯だからこそ、こんな珍現象も起こりうる話ではあるでしょう。末期のビートルズはもうジョンもポールもジョージも好き勝手な曲を持ってきて、作曲者以外のメンバーは黙ってバックに徹するという体制になったと、どこかで読んだことがありますが、この時期の安全地帯はそれを越える分業ぶりだったのかもしれません。

「逢えない夜のささやき」って、逢えてないんだから聴かせてもヘチマもないんですが、24時間365日一緒にいろという意味ではないですよね。逢えない時間があることが前提で、そんなときの君の心さえも知りたいってことです。屈折してますが、強烈です。

「つめたい部屋」に一緒になだれ込もうとするのは、自分の部屋もつめたいから、なのかもしれません。でも、そんなことはおくびにもださすに、一方的な愛情を注ぐ立場をキープしようとします。

「今夜は〜」から入るアオリのピアノとギター、なんていやらしいんでしょう。「肌を」(ポロロ)「許し」(ポロロ)〜とか、「罪は」(ポロロロン)「ないと」(ンチャッチャッチャー)とか、完全に誘惑しています。いや、もう部屋になだれ込んだ時点で誘惑は完了しているんですが、さらに畳みかけようとするのです。これはひどい。戦国の世では、天守閣に火がついた時点で戦は終了だったそうなのですが、これは火のついた天守閣に、さらに雑兵がなだれ込んでいます。大坂夏の陣もかくやの、完全落城モードです(笑)。

「いけない声」を、みみもとに残し、戦は終わります。兵たちが夢の跡です。もう後は眠るしかありません。こういうとき、二三日は寝ていたいものですが(笑)、現代人は余韻を長々と楽しんでなどいられません。みんな都合ってものがありますから、大自然の流れ的な何かに逆らうことを余儀なくされます。いや、どんな都合だって、人の営みには違いないのですから、大自然の流れ的なものの一部には違いないのですが、多くの人が複雑な社会を営んでおりますと、どうしても自分のリズムと合わないものを受け容れざるをえません。「心はもうかわることはない」と信じ、えいやッと明日のために眠り、朝になったら一念発起して起きるしかないでしょう……涙はとめたままで。

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