『安全地帯V 好きさ』十二曲目、すなわちラストチューン、「夕暮れ」です。
ステキなギター・インストです。武沢さんの曲として、初めて収録された曲、ということになるでしょう。玉置さんのボーカルがないせいか、一見地味なのですが、耳を澄まして聴くととてもよく作り込まれた曲だということがわかります。
リズムですが……田中さんのドラムは、もしかしてバス・ドラと、イントロ、間奏のハイハットしか鳴らしていないんじゃないでしょうか。「ズン、カシャ、ンシャシャ……」の、ひたすら繰り返しなんですが、この「ズン」だけがバス・ドラで、あとの「カシャ、ンシャシャ」は……鈴、ですよね。あの、手に握る、鈴がいくつかついた、アレじゃないでしょうか。なんていう楽器かわかりませんので調べてみたら、そのまんま「鈴」でした。なんだよそれ!鈴のついたグリップだろー、「のついたグリップ」の部分は無視かい!とか怒っても全然仕方ないんですが、非常に釈然としない気分になってしまいました(笑)。
六土さんのベースは、正直、ストリングスが邪魔に感じるくらい、ムードを支配しています。ズシーン、ズシーンと低音ばかり弾いているかと思いきや、低音と高音の組み合わせでズシーン(低)、ズキューン(高)、ズシーン(低)、ズキューン(高)、ズシーン(低)、ズシーン(低)ズキューン(高)!ズキューン(高)!ズキューン(高)!ズキューン(高)!ズキュキュキュキュ〜と、容赦なく人の心を上下に揺さぶります。ああー、夕暮れの、太陽が雲間なり稜線なりに見え隠れしているあの感じだー!と、力ずくで思わせるかのような説得力の凄さです。
さらっと書きましたが、この曲、ストリングスは正直蛇足であるようにわたくしは感じています。いや、もちろん最高のアレンジですし、曲の盛り上げにたいへん貢献しているとは思うのですが、アコースティック・ギター二本の響きを前面に出したバージョンを聴きたいのです。オーケストラはちょっと聴き疲れたから弦楽四重奏で……ああ、ソースいっぱいのフランス料理は食べ飽きたから、最高のシャケ塩焼きに、漬物と茶漬けを出してくれ、というほうが近いでしょうか。これはわたくしの好みというか、時代の流行というか、そういった類の「水もの」ですので、聞き流すのがよろしいでしょう(笑)。
さて、お二人のギターですが、主旋律を担当するガット弦ギターと、伴奏を担当するスチール弦ギターの、二本のアコースティック・ギターがメインです。メインです、というか、わたくしの耳だとそれ以外があっても聴き取れないのに、まだ隠し要素があったときに気づいていなかったことがバレると恥ずかしいから予防線をはっているという、非常に潔くない態度です。この「〜がメインです」には、お役所から来る文書の「等」と同じような役割を担わせています(笑)。とかなんとか書いていたら、さっそく気づいてしまいました。サビ(?)で何度か響く「ギャイーン!」という武沢トーンのコードストロークは、さすがにこのお二人でも、重ね録りでないとムリでしょう。
この曲は、30周年ライブでも演奏されていましたが、映像を観ると、武沢さんがとても細かく指をふるわせているのが見て取れます。いわゆるビブラート奏法なんですが、武沢さんがやると、なぜかちょっと感動的です。おおーさすがギターの名手!って思うんですよ、クラシック・ギターの基本技術なんで、ご本人は当たり前に弾いているだけなのでしょうけども、もう手つきが名人肌すぎます。
矢萩さんはイントロのリフと、サビ(?)以外ではごく当たり前にアルペジオなんですが、ここは指で弾かれているのでしょうね。映像でははっきりわかりませんでしたが……おそらく、スチール弦を指で弾くことによって、この柔らかさを出しているのだと思われます。映像では、なんだかピックを親指と人差し指の隙間に挟んだまま、残りの三本指で指弾きしているようなフォームでしたもので、イントロのリフと、サビ(?)ではピック弾きしているのではないか……と思うのですが、これも定かではありません。わたくしならそうやって弾きますが、なにせ、これも名手の矢萩さんですから、油断はできません(笑)。
さて、ほのぼのとしたイントロ〜Aメロ、A´メロでは、歌詞カードに掲載されている広々とした草原で迎える夕暮れのような、なんだか暖かな気持ちになれるホンワカ曲です。
しかし、サビ(?)は、そうはいきません。ツェッペリン「天国への階段」中盤で聴かれるような、激しくも泣ける怒涛のギター曲になっています。そう、あの、ジミー・ペイジが、ダブルネックの12弦で弾いた、あのフレーズです。武沢さんからジミー・ペイジの影響を見てとるなんて畏れ多いことは、わたくし避けたいので(笑)、わたくしが勝手にそう感じただけということなんですけども、わたくしこの記事を書くにあたってツェッペリンのライブ映像を観なおし、そしてこの「夕暮れ」を聴き、泣けてきたという出来事だけはここに記しておきたいと思います。
この曲は、玉置さんの歌がないからツマラない曲、では断じてありません。安全地帯が、すべてのメンバーが超一流の演奏技術と作曲・アレンジ能力をもった凄腕集団であることを、まざまざと見せつける曲だといえるでしょう。
価格:2,511円 |