明暗が分かれたマウス((下)老化マウス(上)若返りマウス)
不労酵素で「夢の若返り」の真贋(1/2)
「夢の若返り」と言うとき、これまでは「所詮は夢」という諦念が同居していた。そこに、それがすぐにでも実現するかのように書かれた論文が登場すれば、期待するなという方が無理な話だろう。本当なら美容整形などこの世からなくなりそうだが、真贋やいかに。
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昨今、迫りくる老化の波を前に、虚しい抵抗を試みる御仁は多いが、はたして気休め以上の効果を得られるのか。ましてや若返りだなんて、ファウスト博士のように、悪魔に魂を売りでもしないかぎり叶わぬ夢と、相場は決まっている。
ところが今月13日、アメリカの科学誌「セル・メタボリズム」に、酵素で若返る旨が書かれた論文が掲載されたのである。「よしっ、グレートヒェンを口説いてやるぞ」なんて戯言を言いたくなるほど、これまでの常識に照らせば眉唾に聞こえてしまうが、ともあれ、そこにはザッとこんなことが述べられていた。
発表したのは、神戸医療産業都市推進機構の客員上級研究員でワシントン大学医学部の今井眞一郎教授らのチーム。体内には「NAD」という物質があり、加齢とともに減るのだが、すると臓器の機能が低下したりして病気の原因にもなるそうだ。
このNADだが、酵素によって体内で合成されるため、研究チームは「eNAMPT」という酵素に注目。加齢とともに減少することを確認したという。また、若いマウスから摂ったこの酵素を高齢のマウスに投与すると、毛づやがよく動きも活発になり、寿命が最大16%延びたとか。人間に応用すれば、加齢に伴う臓器などの機能低下を防ぎ、寿命を延ばせる、と研究チームは謳うのである。
本当なら、シワを伸ばして若く見せるのとはまるで違うし、ましてや、闘病生活そのものであるような長生きとはくらべるべくもない。文字通りの「若さ」を手に入れられそうだが、この世にそんなウマい話があるものだろうか。
今井教授が解説
ともかく、今井教授の話に耳を傾けてみよう。まず、今回の発見でなにがどう変わるかだが、
「いままでの医療が、それぞれの症状を一つひとつ個別に抑えるものだったとすれば、NADを使った医療は、老化という根っこをつかまえ、そこから派生する病気すべてを抑えてしまう予防医療です」
と、やはり夢のようなことをのたまう。ニコチナミド・アデニン・ジヌクレオチドの略だというNADは、今回の話の核のようなので、もう少し詳しく説明してもらうとしよう。
「あらゆる生物はNADを、各臓器がエネルギーを使うときに必要な通貨のようなものとして利用しています。なかでも、長寿遺伝子サーチュインの一つ“SIRT1”は、NADを使うことで、視床下部の神経細胞を活性化し、全身のさまざまな機能を回復させることがわかっています」
ちなみに、視床下部とは間脳にあって、内分泌や自律機能を調整する総合中枢のことである。
「視床下部は交感神経系を通じて骨格筋に信号を送り、体内の脂肪は“NAMPT”という酵素を分泌することで、各所でNADの元になる“NMN”の合成を促し、全身のNADの量を調整しています。つまり、コントロールセンターである視床下部と、効果を与えるエフェクターとしての骨格筋、信号を変容するモジュレーターである脂肪が、NADを共通項にしてたがいにコミュニケーションをとっている。この臓器間ネットワークを“NADワールド”と呼んでいます」
少々ややこしいが、もう少し丸めてもらうと、
「従来は個々の臓器の老化が問題とされましたが、NADワールドという概念を通すと、各臓器は密接につながり、影響し合っていることがわかります。なかでも視床下部の役割は重要で、歳をとってNADの量が減るとSIRT1も不活発になり、視床下部自体の老化につながる。こうなるとドミノ倒しのように、他の臓器に老化が伝染します。逆に、NADの量を一定に保てれば、老化自体を食い止められると考えられます」
老化を逆戻りの可能性
ただ、NADはそのまま体内に吸収するには、分子として大きすぎるという。
「そこで、NADの元になるNMNを使って老化の実験を行ったのですが、糖尿病のマウスにNMNを投与すると症状が劇的に改善しました。また、飲み水に毎日、NMNを混ぜたら、17カ月齢の老齢マウスが6カ月若返ったのです」
もっとも、NMNの働きは少し前に、すでにわかっていたそうで、今回の発見はNAMPTだという。
「NAMPTもNMNを作り出す働きは確認されていました。少し専門的になりますが、NAMPTはiNAMPTとeNAMPTに分かれます。前者は細胞内に留まって、後者は血液中を循環するのですが、特に後者の働きはわかっていなかった。それが今回、6カ月齢と18カ月齢のマウスでeNAMPTの量を比較したら、後者はオスで33%、メスで74%、減っていたんです。ヒトについても、30代から80代の男性13人の血液中のeNAMPTを測ると、加齢にともなって減少していました」
加えて、先に記したように、eNAMPTの量が減らないようにしたマウスは、若返るとともに寿命も延びたというのである。
断っておくが、
「私の研究の目的は、寿命そのものではなく、健康寿命を延ばすこと。健康で幸せに天寿を全うする“ピンピンコロリ”を実現することにあるのです」
と語る今井教授を、メフィストフェレス扱いする気など毛頭ない。ただ、少し前まで絵空事にすぎなかった若返りが、こうも身近に語られるので面くらうのだが、ほかの研究者は、今井教授らの研究成果をどう評価しているのだろうか。
中部大学応用生物学部の大塚健三教授は、
「これまでの研究では、せいぜい老化を遅らせる程度で、若返らせるのは不可能だと見られていました。ところが今井先生の研究では、老化を逆戻りさせられる可能性も出てきました」
と言って、こう続ける。
「ヒトに応用するなら、培養した脂肪細胞からもeNAMPTが分泌されるので、自分の脂肪細胞をとって培養し、それにヒトのeNAMPTを導入、自分に注射するのがいいかもしれません。ただ臨床試験が必要なので、実際の臨床応用はまだ先になると思います。また今井先生らの少し前の論文では、マウスに長期にわたってNMNを、餌や飲料水に混ぜて投与すると、老化に伴う生体の機能低下が改善されることも報告されている。NMNはサプリメントや機能性食品として服用できるように思います」
絵空事どころか、日常描写のように言ってのけるから驚くが、実際、今井教授自身、「社会実装」を具体的に考えているようだ。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190629-00568396-shincho-life
不労酵素で「夢の若返り」の真贋(2/2)
酵素をマウスに投与することで、“若返り”を実現――?。詳しくは前回記事「不労酵素で夢の若返り!? 50代を20代に戻す『NAD』とは? 研究チーム教授が解説」を参照いただきたいが、ワシントン大学医学部の今井眞一郎教授らのチームは、「eNAMPT」という酵素と、若返りの鍵となる「NAD」の関連に注目。「eNAMPT」の量が減らないようにしたマウスは、若返ると共に寿命も延びたというのである。
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NADの元となるのは、NMNという物質。今井教授は「MNMはサプリメントや機能性食品として服用できるように思います」と、社会実装の可能性に言及する。
「NADワールド(※NADを共通項とする臓器間ネットワーク)の関連では、NMNとeNAMPTについて社会実装をめざしています。NMNは経口摂取することで、NADにすばやく変換されることがわかっている。こちらはマウスを使った実験はすでに終わり、ヒトへの臨床治験が進行しつつあって、その成果は来春にも論文として報告できるのではないかと思います。ゆくゆくは毎日口から摂取できる機能性食品にできれば、と思います」
明暗が分かれたマウス((下)老化マウス(上)若返りマウス)
一方、eNAMPTは、
「マウスで証明されたので、次はヒトの臨床研究に移っていきたいです。マウスの場合は週に1回、腹部から注射していました。ヒトに応用する場合も、注射か鼻からの吸引で摂取することになるでしょう。こちらは持続的に体内に留まるので、週単位の投与になると思います」
こんな話を聞けば、期待する人は数知れないようで、俳優の石田純一氏は、
「認可なんか要らないから、早く実現してほしいです」
と、熱望する。
「実験のマウスは毛づやがよくなったそうですが、髪が生えるようになったらいいですよね。肌がきれいになるのも喜ばしい。寿命も切実な問題で、長いに越したことないです。今回の研究が実用化されて、サプリなり施術なりで若返るのなら、何億でも出したいです。そんなに払えるわけじゃないけど、本当に効果があるならそれでも安いと思う人は、僕以外にも結構いるんじゃないですか。一刻も早く、僕が生きているうちに実用化してほしいです」
1粒5千円
評価にやや慎重なのは、大阪大学大学院医学系研究科教授で、日本抗加齢医学会副理事長の森下竜一氏だ。
「今井教授の研究、マウスにおける現象としてはとても興味深い。ただ、研究成果をそのまま人間に応用できるのか、という点ではまだ不明なところがあります。老化や寿命に関する研究では、カロリー制限や、GDF11というたんぱく質を使った抗老化も注目されましたが、効果が証明されたのはせいぜいサルまで。なにをもって若返ったと評価できるのか、という問題もあります。脳年齢や血管年齢ならわかりやすいですが、老化そのものが止まったことの証明は、非常に難しい。ヒトでの臨床実験の結果を待ちたいところです」
もっとも、NMNに関しては、今井教授は、
「国内の2社が高純度、高安定性のNMN製品の開発と大量生産に成功しています。これらはヒトでの臨床治験でも使われ、安全性が確保されています」
と語る。その1社、新興和製薬の製品は純度の高さによって、60カプセルで10万6920円とか31万1040円。ザッと1粒5千円で、1日2カプセルが標準だそうだから、だれでも手を出せるシロモノではない。今後、安価に提供できるようにしたい旨を今井教授も語るが、それでも、
「すばらしい発見が論文として発表されて嬉しい」
と表明する同社によれば、すでに人気だそうだ。
「一般の方から経済、スポーツ、芸能界等のだれでもご存じの方々まで、多数ご愛顧いただいています。ビジネスマンの方からは“疲れにくくなった”“疲労を感じなくなった”等の声をいただいています。女性は“ほかになにもしていないのに、化粧品替えた?と言われた”といった声が多いです。“運動能力が上がった”“代謝がよくなってやせた”“白髪が減って髪が増えた”という声もある」
でも、一番多いのは、
「“早く価格を下げてほしい”というご意見です」
抗加齢分野のさるウォッチャーによると、
「ホリエモンはこのサプリを、もっと安く提供するためのプロジェクトを自ら進めていると公言していますね。タレントのマイケル富岡は、自分の若さの秘訣は、NMNを愛用しているからだと言っています」
小太りのほうがいい
さて、今井教授の近未来の構想だが、
「専門のクリニックを立ち上げ、性差や年齢を考慮しつつ、人それぞれのNADの量のコンサルティングと、NMN、eNAMPTの投与ができるようになれば理想的だと思っています」
夢の若返りが実現する日が本当に訪れるなら、「老いを受け入れよ」という昭和的な達観に耳を傾ける人が、どれだけいるだろう。「若さ」という誘惑の前に超然としていられるほど、人間は強くはあるまい。
だが、カネや手間はあまりかけたくない人のための情報も、今井教授は用意してくれていた。
「ある程度歳をとると、老化予防には小太りのほうがいい。BMIの理想値は男性22、女性21と言われてきましたが、実は男性は24〜26、女性は22〜23くらいが、統計的に老齢でも病気にかかりにくく、死亡率も低いのです。余分に脂肪がある分、eNAMPTの分泌量が増え、結果的に全身のNADが増え、視床下部の神経活動を支えてくれるからではないかと思います。また、NMNは枝豆やアボカド、トマトなど種や実のような野菜や果実によく含まれている。定期的に運動する習慣があるほうが、体内のNADの量が増えることもわかっています」
もう一つ大事なのは、体内のリズムだという。
「体内のNADの合成量は昼間上がって夜下がる。このリズムに合った生活を送ることが、NADを保つために重要です。大事なのは、なにを食べるかより、いつ食べるか。NADの合成が行われているときによく食べ、少なくなってきたら食事も軽くする。私たち夫婦は、朝食で一般的な夕食並みにたっぷりと食べ、お昼はそこそこ、夕食は8時までに軽く食べ、その後は間食もしません」
それができない人にとっては、やっぱり若返りは夢のまた夢、ということか。
https://news.livedoor.com/article/detail/16699693/
<コメント>
50代を20代に戻すというNMNサプリでアンチエイジング!