屋敷のお手伝いはウキウキした足取りで、中庭までやってきた。機嫌が良さそうなのは、日中いいことがあったのか、それとも、一日の仕事から解法されたからだろうか。
布制のかぶり物、上着、スカートは黒と白の布地で控えめな装飾性を生んでいる。白いブーツが軽やかな足音を鳴らすのに合わせて束ねた髪がなびく様子は、いかにも活発そうだ。
中庭に吸えられた石造りのモニュメントのところまで来ると、衣装にわずかな乱れも作らずにヒラリと上にのった。そこに腰掛け、足をブラブラさせながら夜空を眺めるのが、仕事が片付いた後の楽しみだった。
いつもなら、屋敷の屋根で四角く切り取られた夜空がその闇を深くするつれて、星の瞬きで闇が埋もれていく様子に魅入るところなのだが、…

…先客がいた。屋敷の窓から洩れた光が、丸屋根の上に人影を浮かび上がらせている。
お手伝いは一瞬、目を疑った。どうやって登ったのか? いや、普通なら登れないはずだ、丸屋根(ドーム)は、はしごや階段のように屋根まで登る設備を備えていない。仮に屋根まで手が届いても端っこの方は急でそこからよじ登ることは出来ない構造になっている。そこに登って(?)、てっぺんに立っている人物は一体何物なのか? お手伝いの口から、やや素っ頓狂な声があがったのも無理はない。
「そこにいるのは誰?」

「初めまして、『近藤ありさ』よ。ありさって呼んで。ここには仕事でやって来たの。とても、…とても大事な仕事よ。あなたは、白石まこさんかしら? それとも、一ノ瀬里美さん?」
鈴が鳴るような、馴染みやすい女の人の声が上から降ってくる。
「白石まこです。あの、…近藤ありささんって、3日前から研修にいらしている方と同じ名前だわ。同姓同名なのかしら」
そう、近藤ありさは、3日前からお手伝いの後輩になった新人だ。しかし、白石まこ と名乗ったお手伝いが知っている『近藤ありさ』は、風見鶏よろしく丸屋根の上にちょんと立っている謎の人物とは声からして違う。それに、近藤ありさは、ついさっき屋敷のオーナーから呼ばれたばかりだ。
「彼女は、数分前に『近藤ありさ』を止めて別の人生を歩むわ。そして、数分前から私が『近藤ありさ』になったの。この屋敷のオーナーも承知よ」

「えっ!? それってどういうこと? それに、あなたどうしてそんなところに立ってるの?」

「『近藤ありさ』だった人のこと。そして、私が『近藤ありさ』になったこと。このことは、すべてに決着が着いたら私から話してあげるわ。
それから…、私がここに立っている理由…かしら? それは、私が高いところが好きだからよ。高いところがあったら取り敢えず登るの。ここは、風が気持ちいいわ」
それから、『近藤ありさ』を名乗る人物は、手で後ろの髪を払うような仕草をした。しかし、短く切りそろえた髪に手が触れることはなかった。
「ところで、あなた、白石まこさん。いいところに来たわね。ここから降りるのを手伝ってくれない? ハシゴかなんかがあると助かるわ。ここに登る前に、3度も落っこちてるの」
次回予告


突如現れた謎の人物『近藤ありさ』とは一体何物なのか。屋敷のお手伝いの仕事とE.T. ごっこを通じて友情を深める まこ と 『ありさ』。しかし、屋敷に忍び寄る黒い影!
次回 第2話 極めろ! 極めるんだ! E.T. ごっこ!
あとがき(重要)
実は、この次回予告をするために第1話を書いた。
続きは書かないことにしました。
謎の人物がハシゴがあっても登れそうもないところに立っていた理由については、こちらをどうぞ。



カッコよく着地しようとして、3回失敗してます。
上の3枚のスクリーンショットを「夜のおさんぽ」というタイトルで facebook に公開したら、いつもより多めに「いいね!」がついた。
これだけのシーンで文章による説明しなくても、見る人が想像力を働かせて補完してくれるのかなぁ。

おさんぽにお誘い。
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