2016年01月04日

新春スペシャル「100分de平和論」を見てみた(加筆版)


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「100分de平和論」を見て、まとめました。また、加筆した内容を最後の方に添えました。

番組ホームページ

NHKの教育テレビで放送されている「100分de名著」のスペシャル版です。

通常は、一つの名著を25分 × 4回の計100分で放送しますが、今回は、一気に100分連続の放送です。

取り扱うテーマは「平和論」。

いつもの武内陶子と伊集院光の他に4人のゲストを迎え、1冊ずつ本を紹介しながら平和について語り合います。

この記事では、印象に残ったところだけメモっておきます。

★★★

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最初は、精神科医の斉藤環(以下敬称略)がフロイトの「人はなぜ戦争をするのか」を紹介してくれました。

この本は、アインシュタインとフロイトが、平和をテーマに交わした往復書簡を元にしています。


人間には、他人と仲良くしようという「生の欲動」と、他人を攻撃したり物を破壊したりしようという「死の欲動」を持っているそうです。

「死の欲動」は戦争につながりますが、人間が本来持っているものなので、抑えるのは難しい。「死の欲動」を他に向けるのは、自分自身に向けて自滅しないためにも必要なことでもあります。また、「生の欲動」と「死の欲動」とは複雑に結びついており、一方だけ切り離すことも難しいようです。例えば、他国の侵攻から自国を防衛するような場面では、自国を守ろうという「生の欲動」と他国に反撃しようという「死の欲動」が結びついています。


戦争を起こすきっかけを人間自身が内に秘めているのに、どうやって戦争を食い止めるるのか、フロイトはいくつか挙げています。

@結びつきの感情を高めること
「人間のあいだに感情的な絆を作り出すものは何でも 戦争を防ぐ役割を果たすはずです」

A文化的発展
「文化が次第に発展してくると、人間の欲動の目標が次第にずらされ、欲動の動きそのものも制限されるようになります

文化の発展がもたらすものはすべてが戦争を防ぐように機能すると主張することはできるでしょう」

また、こうも書いています。

「だれもが平和主義者になるまで あとどのくらい待たねばならないのでしょうか それはまだわかりませんが
この二つの要素 すなわち 文化的な姿勢と将来の戦争のもたらす惨禍に対する根拠ある不安という要素があいまって 近い将来に戦争はなくなると期待するのは ユートピア的な希望ではないのかもしれません

それがどのような道や迂回路を通って実現するかは、予測もできません」


この本を紹介した斉藤環は、テロップに「平和のためにできることは「対話(ダイアローグ)である」と書いて、対話の不在や希薄化がいろいろな社会問題につながった例をあげ、対話の重要性を訴えました。

一連の議論の中で特に印象的だったのが、平和を維持するためには 罰やコントロールといった「一種の暴力」も必要だということです。国際連盟は平和を目的にして作られましたが、平和のための「暴力」が欠けていたために、第二次世界大戦を阻止できませんでした。実際、軍事力や経済制裁などの「暴力」を背景にして、平和交渉などの「対話」が行われるので、「ユートピア的な希望」が実現するまでは、「暴力」をもその手段にして、平和を実現していかなければならないのでしょう。

★★★

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次に登場したのが、日本大学教授の水野和夫です。フェルナン・ブローデルの「地中海」を紹介してくれました。

16世紀の地中海で資本主義が発展し、それがどういう影響を与えたのか具定例をふんだんに盛り込みながら分析した全5巻に及ぶ大著です。

資本主義はいうなれば、「より早く より遠く より合理的に」行動し利潤を最大化しようと努めることだそうです。

農民から安く買い取った作物を遠くまで運んで、それをより高く売ることで利潤を稼ぎました。このことは、「地中海」では不公平な取引と指摘してます。

結果的に、少数の富裕者と多くの貧しいものを生んでしまい社会不安を生じました。

16世紀の地中海では、手形(てがた)が発達し、実物のお金や商品を運ばなくても取引ができるようになりました。また、お金の貸し借りのしくみも発達し、それが戦争の継続能力も高めてしまいました。

ブローデルは「地中海」にこう書きます。
「資本主義の害悪に立ち向かう人たちに対して 政治家や経済学者は こう答える

それは まだましなもの、自由企業と市場経済のためには やむを得ない裏面にすぎない と。

私は決してそうだとは思わない」

では、資本主義の代替案は何かあるのかが気になりますが、この本を紹介した水野和夫は、
「より早く より遠く より合理的に」が今までの資本主義なら、その逆
「よりゆっくり より近く より寛容に」なればいいと主張しました。

★★★

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次に登場したのが、法政大学総長の田中優子。井原西鶴の「日本永代蔵」を紹介しました。

いろいろな工夫をして商売を起こし、「永代」つまり長年続く「蔵」を築いた人たちの話がのせてあるそうな。

江戸時代は、戦国時代までの拡大をやめて、継続に主眼をおいた社会だったそうです。

江戸時代の日本は、当時世界10位以内に入る経済力があったらしいですが、隙間産業が多く、いろんな職業が成立したことや、参勤交代という制度が 国内で需要を生み出すのに役立っただったそうです。

高橋源一郎が面白いことを言っていて、この本に登場している人物は個性的とのこと。合理的に利潤を追求するホモエコノミストではなく、倫理観と経済人が同居しているそうです。

井原西鶴は「日本永代蔵」にこう書いています。
「まともな仕事をしてこそ人間である。
 夢のような五十年やそこらの人生 何をして暮らしたところで、生きられないことはないはずだ」

この本を紹介した田中優子は、テロップに「平和を持続するためには 信頼を作り、それを持続すること」と書きました。

ブローデルが「地中海」で指摘した資本主義の抱える問題点に対する一つの解決策とも言えそうな面白い話でした。

★★★

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最後に登場したのが、作家で明治学院大学教授の高橋源一郎。ヴォルテールの「寛容論」を紹介しました。

これは、カトリックがプロテスタントを迫害していた時代に、寛容の大切さを訴えた本です。このカトリックによる迫害というのが、人殺しをしたり、無実の罪で死刑にしたり酷いものでした。

2015年11月に起きたパリ同時テロの後、この「寛容論」がフランスで10万部売れたとのことです。

パリ同時テロで妻を失ったアントワーヌ・レリヌがフェイスブックに投降したものが世界中で大反響を起こしました。引用すると、

「僕は君らに憎悪という贈り物はしない
君らはそれを望んでいるのだろうけれど
憎悪に怒りを返すことは
君らを作り上げたのと同じ無知に屈服することに等しい。

君らは僕に恐怖を抱いてほしいだろう
僕の周りの人々に警戒の目を向けて欲しいだろう
僕に安全と引き換えに自由を失ってほしいだろう
だが君らの負けだ
僕は変わらずに生き続ける」

これは寛容論そのものだそうです。

高橋源一郎によると、社会の動きに個人は引きずられるが、それでも社会と違う考えを持つのが近代的個人とのこと。このファイスブックの投稿は近代的個人の主張に他ならない。

一方、ヴォルテールの場合は、社会の風潮による影響にさらされながらも自分の主張をしたため、3回監獄送りになりました。そのヴォルテールは「寛容論」の最後にこう書きました。

「私が訴えるのは もはや人類に対してではなく
それはあらゆる存在 あらゆる世界 あらゆる時代の神であられる
あなたに向かってである。

なにとぞ われわれの本性と切り離しえない 過去の過ちの数々に
あわれみをもって ごらんくださいますよう。

これらの過ちが われわれの難儀のもとになりませぬよう。

あなたは お互いに憎しみ合えとて 心を
また お互いに殺し合えとて 手を
われわれにお授けになったのでは ございません。

苦しい つかの間の人生の重荷に耐えられるように
われわれが お互い同士助け合うよう お計らいください。

すべて 滑稽な われわれの慣習
それぞれ  不備な われわれの法律
それぞれ ばかげている われわれの見解

われわれの目には 違いがあるように思えても
あなたの目から見れば なんら変わるところのない
われわれ各人の状態

それらのあいだにあるささやかな相違が
また「人間」と呼ばれる微小な存在に
区別をつけている こうした一切のささやかな微妙な差が
憎悪と迫害の口火にならぬようお計らい下さい。

すべては兄弟であるのをみんなが思い出さんことを」

(この朗読の後、明るい曲をBGMに、世界中の子供たちの笑顔が映ります。うまい演出だと思いました)

この本を紹介した高橋源一郎は、テロップに「 Pray and think 」と書きました。祈りながら考えろという意味だそうです。

★★★

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(▲(左)伊集院光 、武内陶子(右) )

伊集院光が番組の冒頭で、言っていたことが印象的でした。

「じいちゃんは戦前生まれ、おれは戦後生まれという話をしていたら、じいちゃんが冗談で『明日戦争が起こったら、お前も、戦前生まれだかんね』と言ったのを覚えていて、おれの中で平和について一番グラッとくるのがその言葉」

録画したのを見ながら、メモをとったら7ぺージになりました。メモを取り切れなかったものも多く、メモの全部を記事に書いたわけではないので、実際の放送はもっと充実した内容です。

いい番組なので、見逃した人は再放送を待つか、NHKオンデマンドで視聴する価値があると思います。

(「地中海」の著者フェルナン・ブローデルをなぜかグレーデルと書いていました。失礼しました。
 ちなみに、グレーデルでググったら、日本初の介助犬や、X線撮影の効果というのがヒットしました(笑))


別冊NHK100分de名著 「平和」について考えよう





≪加筆≫

番組ホームページにプロデューサーAのこぼれ話が載っています。その中で、精神科医・中井久夫さんの著作「戦争と平和 ある観察」の一節が紹介されており、示唆に富む内容なので、引用します。


「戦争は有限期間の『過程』である。始まりや終わりがある。
多くの問題は単純化して勝敗にいかに寄与するかという一点に収斂してゆく。

戦争は語りやすく、新聞の紙面一つでも作りやすい。
戦争の語りは叙事詩的になりうる

…(中略)…

指導者の名が頻繁に登場し、一般にその発言が強調され、性格と力量が美化される」

「戦争が『過程』であるのに対して
平和は無際限に続く有為転変の『状態』である。

だから、非常にわかりにくく、目にみえにくく、心に訴える力が弱い。

…(中略)…

平和維持の努力は何よりもまず、
しなやかでゆらぎのある秩序を維持しつづける努力である。

しかし、この“免震構造”の構築と維持のために
刻々要する膨大なエネルギーは一般の目に映らない。

平和が珠玉のごとくみえるのは戦時中および終戦後しばらくであり、
平和が続くにつれて
『すべて世はこともなし』『面白いことないなぁ』と当然視され
『平和ボケ』と蔑視される」

(中井久夫著「戦争と平和 ある観察」より)

プロデューサーAが語るには、
「かように、「戦争」は語りやすく、「平和」は語りにくい。
だからこそ、私たちは平和について語り続ける努力を続けなければならない」

NHKの番組関連の記事へ


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