2016年12月04日

ロスジェネの逆襲

拝啓



「ロスジェネの逆襲」
さすが半沢。



ときは2004年。銀行の系列子会社東京セントラル証券の業績は鳴かず飛ばず。そこにIT企業の雄、電脳雑伎集団社長から、ライバルの東京スパイラルを買収したいと相談を受ける。アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるビッグチャンスだ。ところが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍が入る。責任を問われて窮地に陥った主人公の半沢直樹は、部下の森山雅弘とともに、周囲をアッといわせる秘策に出た。



図書館で借りては返し借りては返しを繰り返し、遂に読了いたしました。半沢直樹シリーズ第3弾。そもそも前シリーズがどのような幕引きだったのかさえ覚えていなかったため、そこから復習する形になりましたが、次第にあぁ半沢直樹ってこんなキャラクターだったなと早々に思い出しました。やっぱり、企業の閉鎖的な様、理不尽な組織や制度、そして嫌がらせをぶち壊す半沢直樹はとてもカッコいい。



オレには俺のスタイルがある。人事のためにそれを変えることは組織に屈したことになる。組織に屈した人間には組織を変えられない。



かっこいいぜ。まったく。


終わり方も銀行に正義を貫いて復帰、一方、邪魔をしてきた奴らは、電脳へ出向と終わり方もすっきり。これが、半沢シリーズの凄さですね。



敬具



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イーロン・マスクの野望 未来を変える天才経営者

拝啓



「イーロン・マスクの野望 未来を変える天才経営者」
スティーブ・ジョブズを超える、全米一有名な男の正体とは。


Paypal社の前身となるX.com社、火星移住を最終目標にして立ち上げられたスペースX社、そしてあのテスラ・モーターズの重鎮でもあり、映画「アイアンマン」のモデルでもある起業家且つ経営者。それがイーロン・マスク。その人である。


本書は、イーロン・マスクが、如何にエネルギーを秘めていた人物であるかを記しているものである。文章からは彼に対する賞賛や敬意の思いが溢れ出ていてちょっと褒めすぎだと思う人がいてもおかしくないくらい。しかし、これだけの実績を残し続けるイーロンに対しては、とりわけ褒めすぎでももちろん過大評価でも無いということは分かっていただけると思います。


イーロンは、恐らく天才。ジョブズやビルゲイツらと並ぶ、ちょっと格の違うお方。1971年南アフリカで生まれたイーロンは、幼いころから本が大好きな少年で、本を読みふける時間を過ごし、ブリタニカ百科事典を全巻読破したのは8歳のころ。小学校の高学年になると10時間も本を読みふけることさえあった。


一方で子供らしい子供でもありました。イーロンは、暗闇をとても怖がったのです。だが、暗闇を克服するのが子供らしくなかった。「ところがある時、暗闇とはフォトン(光子)の欠如によるものだ、と知ってから暗闇が怖くなった」とイーロンは当時を語る。ふー、とてもしっかりしたボーイだな。その後、イーロンは1年早く小学校へ入学し、10歳でパソコンを購入、プログラミングを独学でマスターしていく。


そこから、どんどん真価を発揮していったイーロン。スタンフォード大学を2日でやめ、ペンシルベニア大学に奨学金を得て編入、うんちゃらかんちゃ・・・そして、Zip2社(ソフト制作会社)を設立し、当時PC界で急成長し業界の旗手となっていたコンパック社に3億ドルで売却する。


まさにロケットスタート。しかし、イーロンを過酷な試練が待ち構えていた。何せ電気自動車で地球温暖化を、宇宙開発で人類人口増大化を解決しようとしているのだ。その大きな夢に向かっているのだ。困難がないわけがない。しかし、その困難さえも、1つ1つ強烈なエネルギーをもって乗り越えていくイーロン。特に、宇宙ロケットのコストをNASAよりも何倍も下げたのはとてつもない偉業だと思う。きっと、イーロンは、ビルゲイツやジョブズを超える存在になる。


以下、参考です。


ted プレゼンテーション


南カリフォルニア大学マーシャル経営大学院で行った卒業スピーチ



敬具



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2016年11月28日

慟哭

拝啓



「慟哭」
デビュー作。


「慟哭」は、第4回鮎川哲也賞の最終候補にまで残りながらも受賞を逃してしまった作品。しかし、新人離れした文章の完成度、誰もが驚嘆するミステリ的趣向は多くの支持とともに受け入れられ、デビューとなった一冊です。


幼女連続誘拐殺人と新興宗教をモチーフとし、警察組織のキャリア/ノンキャリアの階級構造の中で描かれる捜査ディテールに対して、徐々に殺人にのめり込んでいく犯人の心理と行動のリアリティと本格ミステリ寄りはリアリズム寄りなのかなと思いきや、違いました。


こういう構成の小説の場合、犯人の推理として一旦は考える思考があると思うんですけど、それは直ぐ置いといて結局騙されるというオチになります。と何を言ってるか不明かと思いますが、読んでいただいたら直ぐ分かりますw


秀逸だと感じたのは、主人公佐伯と犯人の心理の機敏や犯罪へ向かう心の流れがとても緻密に描かれている点です。佐伯は、家族との問題を抱え、愛人問題にも巻き込まれ(妻の浮気が原因なのに少し不憫だ)、更に警察組織の名簿流出と事件以外の混乱要素に挟まれながら捜査に当たる心理はリアリティがある。一方、犯人が心の穴を塞ぐために新興宗教に流れていく様も丁寧にでも全体のテンポを妨げないスピードで展開される。


これら心理の流れや感情の動きが、物語を通して繰り返され、それが結末に繋がります。結末に繋がるから謎無くすっきり終わるんですが、やはりミステリとは言え謎が消え去るだけでは納得しがたいものもありますよね。


人間の内奥の叫びが最後まで消えないミステリでした。デビューでここまで書けるって凄いですなぁ。



敬具



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2016年11月24日

ダブル・プロット

拝啓



「ダブル・プロット」
岡嶋二人の短編集って珍しい。


★記録された殺人
複数の証言を基に進んでいく捜査。目撃者ではなく目撃物を利用した犯罪。ルームシェアできないね、これでは。最後の終わりが気になる。ちょっと腹落ちしない。


★こっちむいてエンジェル
月刊スクエアの編集部に所属する伸子が巻き込まれる事件簿。事件よりも妙なキャラクター設定と描写が気になってしゃあなかったです。夜鳴きソバ屋のオヤジ風とちょっとゆるめの野球選手ってどんな描写、全然イメージ付かないんですがw。友成徹也という同僚も謎。こちら、眠ってサヨナラにも出ます。


★眠ってサヨナラ
伸子事件簿2。短編集だと、同じ主人公のものが連続するのって余りイメージ無かったです。同僚が事故死したから彼女の仕事の引き継ぎを依頼される伸子。いきなりこんな展開って、しかも亡くなった人は伸子と親密だったみたいで良い人みたいなのに、これ要る設定?あと、友成がやばいことになってますw


あとは、
★バッド・チューニング
★遅れて来た年賀状
★迷い道
★密室の抜け穴
★アウト・フォーカス
★ダブル・プロット


となかなかのボリュームが詰まった短編集です。長編と比べライトなタッチになってる気がしました。いや、長編も別に暗い訳では無いんですが、キャラクターもやけに癖があるし、それぞれの締めも妙にあっさりしていたり、これでおわり?てのだったり緩めなんです。「遅れて来た年賀状」なんか、面白いですけど、なぜ哲次が巻き込まれたのさっぱり分からなかったですしw


良かったのは「遅れて来た年賀状」「迷い道」かな。後者は、富由子も怖いし、流れも怖い感じに。


長編とはちょっとテイストが違う作品になってます。



敬具



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2016年11月14日

ふがいない僕は空を見た

拝啓



「ふがいない僕は空を見た」
これは恋か。はたまた。



★ミクマリ
★世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸
★2035年のオーガニズム
★セイタカアワダチソウの空
★花粉・受粉



「ふがいない僕は空を見た」を漸く読みました。 5つの短編から連なるストーリーで、登場人物は、斎藤、あんず、松永、福田、あくつ、斎藤母と共通してます。


色んな媒体で紹介されていたあらすじからすると濃厚な恋愛描写が先行してる感じで面白さが分からない小説かなと思ってましたが、読んでみるとちょっと違いましたね。


当初は、濃厚な恋愛を経験しながら、思春期の主人公斎藤が、思春期ながらの葛藤に悩み、学び、成長していく様な明るいものかと思ってました。しかし、実際はそうでは無かったです。


まず、松永が斎藤に抱く思春期ならではの甘酸っぱい恋愛の要素はあるものの、その斎藤は、10代の性にがっつく形ではなくなんとなくの流れで不倫に至り、相手をいつの間にか愛してしまう。不倫での恋愛から脱しきれない斎藤に対する松永の思い。どろどろ+甘酸っぱいで、結局、甘酸っぱさゼロな恋愛。強烈な性描写が多い為、官能小説みたい。


2つ目は、明るいだけでは決してないということ。斎藤は勿論のこと、松永は天才肌の兄がいなくなったり、福田は、母子家庭で母はダメ人間且つ周りの環境は劣悪、あくつは短編主人公としてフォーカスされてないが(名前も平仮名のあくつ)、松永の親友でありながら松永が好きな斎藤を辱める行為を福田とせっせとしている。


とにかく、皆もみな、何かしら暗い部分を抱えている。タイトルは、この暗い部分に対してどこか受け入れてしまっている自分に対してふがいない、そんなダメな自分から変わる為に空を見た、ってことを意味してるのかなとふと考えました。ま、ストレートに言ったらそりゃそうかってな感じなんですが。


前半2編のどエロな描写で手を止めず、最後まで読んで見て欲しいです。個人的には、斎藤母の短編が良かったです。とりあえず斎藤、しっかりしろ。


映画化されそうな題材だ。



敬具



posted by kansasyoshi at 20:55| Comment(0) | TrackBack(0) |

2016年11月10日

夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011

拝啓



「夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011」
ボリュームたっぷり。


本書は、19本の対村上春樹インタビューが収められているインタビュー集です。村上春樹は、公の発言が決して多くないと思っていましたが、どうやら私のその認識は合っている模様。実際少ないみたいですね。しかし、少ないながらの場で小説について語っている村上春樹は、一度答えると饒舌に語っています。


私は、彼の小説でよく登場すれ性描写の表現に対していつも「こんなにいるかな?」と感じる事が多く、内容としてもさっぱりと思うこともあり、世の言うハルキストではないです。


そんな私はこれを読んで考えを改めたのか。いや、特に其処までは。しかしながらもしかしたら、小説よりもエッセイ・インタビューの方が、私の肌に合うのではないかという新しい考えが生まれました。何よりなぜあのような小説が生まれるのかがわかった気がします。きっと、村上春樹の勧化方や生き方、心のありようそのものが、小説みたいなもんだと。例えば、



小説を書き出して、毎日毎日休みなくこつこつとそれを書き続けます。するとそのうちに、暗黒のようなものが訪れてきます。そして僕にはその中に入っていく準備が出来ている。でもそういう段階に達する為には、時間が必要です。


今日書き出して明日にはもうその中にすっと入れるというものではありません。日々の厳しい労働に耐えて、集中力を高めなくてはならない。それは作家にとって最も大切な要素だと考えています。だから僕は日々走って、身体性を強化しています。身体トレーニングというのは大事なんです。



とかって詩人みたいなフレーズですよね。独特な表現が、真剣味を増幅させます。


個人的に、へ〜と感じたのは、1997年インタビュー内でエンターテインメント的なものを書く作家にも文学系の作家にも気に入られないとの発言について。作家のような世界でそんな小競り合いあるんですね。エンターテインメントと文学系のミックスなタイプの小説が多くて、結局メッセージは?みたいなどっち付かず感が、ムカッときたのでしょうか。


今年もハルキストによるノーベル賞受賞祈願の風景が、TVで流れてました。翻訳されている作品数と売上を考えたら、確かに受賞候補には挙がるもんなんでしょうけど、文学賞となると、村上春樹の作品は、やはり相入れないんでしょうね。


個人的には、ねじまきの奴、面白そうな感じがするんですが、どうも進みません。ちょっとがんばろう。



敬具



posted by kansasyoshi at 21:27| Comment(0) | TrackBack(0) |

2016年11月06日

スクラップ・アンド・ビルド

拝啓



「スクラップ・アンド・ビルド」
「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。



”苦痛や恐怖心さえない穏やかな死。そんな究極の自発的尊厳死を追い求める老人の手助けを、素人の自分にできるのだろうか。しかし、八七年も生きて来た祖父の終末期の切実な挑戦に協力できるのは自分くらいしかいないだろう。”



そう健斗は、祖父を見て思う。家庭で介護をすることは想像以上に大変で苛烈で、介護する側にも大きな負担が発生する。祖父は、毎日の様に早く死にたいと漏らす。それを聞き続ける立場の精神的ダメージは大きい。そんな祖父に対して、本当に死を望んでいるのならば、彼の意思を尊重するべきではないか。そう考えた健斗は、介護職につく友人に現状を相談し、で、冒頭のように考えるのだ。


では、どのように尊厳死を実現させるのか、それは、祖父の行動を制限することだ。制限するといっても、どこかに縛り付けると言った類ではなく、外から見れば心優しい介護である。祖父が出来るだろうことに対しても厚遇な姿勢を以て、何から何までサポートし、行動範囲を狭めていくという訳だ。これだけで判断すると孫vs祖父であり、尊厳死と言いつつも結局は自分が関与している時点で犯罪に等しい行為であり、ミステリーに近い。


しかしながら、そうで終わらないところが凄いってことだろうか。祖父は介護されなくても結構動けるし、健康体ではないかという疑惑が発生するのだ。健康に関しては、特に問題はないという描写も出てくる中、あれもしてくれ、これもしてくれと言ってくる祖父を見ているとますます疑惑が出てくる。とはいえ、リアルな描写風景からやっぱり祖父は苦しんでいるのではないかと心が痛んでくるのも事実。祖父の真実がどうも見えない。


尊厳死を目指し黙々と介護をする健斗。中途採用を受けながら筋トレをし、自らも再構築する中、祖父のある姿を目撃する。そして、健斗の考えが一瞬ひっくり返る。俺は、間違っているんじゃないかと。ここら辺はミステリーのトリックみたいな感じ。


就職先が決まり、家を離れることを決意した健斗。そんな健斗に対して寂しくなると呟く祖父。彼は、一体どんな意味を込めて言ったのだろうか。実は、就職中に何もすることがなくなった孫に対して、家に居て良いという理由を付ける為に、必要以上に弱ったふりをしていたのではないだろうか。でも、ちょこちょこ健康であることがばれてきたので、あの大芝居を打ったのだろうか。


そうである場合、祖父が孫をスクラップ・アンド・ビルドしていたということになる。んー。



敬具



posted by kansasyoshi at 19:55| Comment(0) | TrackBack(0) |

2016年11月05日

切り裂きジャックの告白

拝啓



「切り裂きジャックの告白」
切り裂きジャックの模倣犯か。


カエル男を読み終わり、本日ドビュッシーを探して図書館をふらついていたところ、既に借り出し済み。てことで、今度は切り裂きジャックか、と思いながらパラパラめくってみると、古手川の名前が登場。さてはと思い、確認するとやはりカエル男と戦ったあの古手川でした。


しかしながら、刑事犬養とあるように、こちらでは古手川は二番手みたいか、と思っていたら2人の役割が明確化されてうまい具合にお互いを補完しあって直ぐに良いコンビに。犬養シリーズがあるみたいなんで、このコンビは続投ぽいなと思いながら読み進める。するとタイトル通りやはりあの切り裂きジャックを基にこの小説は、生まれたようだ。


テーマにあるのは臓器移植。ドナー、患者、医師、そして移植コーディネーターそれぞれが、移植に向き合う。臓器移植で論点になるのは、人はいつ死んだのか、脳死は死んだことになるのかという倫理と医療の狭間にあります。ドナーの意思表示を示していた人間が脳死になった場合、又は無くなった場合、意思表示があったからと言っても家族は納得出来ない。医者としては、その気持ちは分かるが、一刻も早く手術をしないと臓器移植の成功率が下がってしまう。非常に複雑な論点です。


この臓器移植に絡んだ切り裂きジャックの暴走。と思いきや、実はそうではない。ここが犯人がAだと思わせながら違ったと言う伏線でした。書きぶりも物語の展開もある一点以外はばっちりお前が犯人だ!となってましたから。


ただ、真犯人は、この動機だったら自身の犯行を切り裂きジャックに結びつける必要があるのか、ちょっと疑問です。カエル男のようなサイコパスなやつでもないですし。とはいえ切り裂きジャック通りにサイコパスまで踏襲するとカエル男と似通ってしまいますが、、、。


カエル男よりはサイコパスは抑えめな一冊。



敬具



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2016年11月04日

微笑む人

拝啓



「微笑む人」
理解できない犯罪が、一番怖い。


「人は他人のことをどれくらい理解できるものだろうか。わかっているつもりで、本当は何一つ知らないのではないか」。「夫や妻、子供、親、友人、会社の同僚といった自分がよく知っているつもりの人のことも、「何一つ知らない」のではないかという現実を小説に起こしたのが「微笑む人」だと思います。


☆あらすじ☆

エリート銀行員の仁藤俊実が「本が増えて家が手狭になった」という理由で妻子を殺害した。逮捕された仁藤は、取り乱すことなく、淡々と供述し、柔和な笑みを絶やさなかった。彼はどんな人間だったのか。仁藤の周りの人間に仁藤の印象を聞いたところ、返ってくる言葉は人格者・良い人というものばかり。仁藤さんは、本が増えたという理由だけで、殺人を犯す人物ではないと。小説家の「私」は、それでも一抹の疑念を払しょくできずに仁藤の過去を調べ続け、ある真実にたどり着く。



物語は、仁藤俊実という誰に聞いても好印象な人間が、なぜ愛すべき妻子を殺すに至ったのか、その理由を小説家「私」が、仁藤の周囲の関係者に取材にいくことで探っていく形で進んでいきます。会社の同僚、後輩、同期、学生時代の友人たち、刑事など多くの人物が、仁藤という一人の人間を一体どうみていたのか、特に友人や会社の関係者は、彼をどこまで理解していたのか。


知っていると思っていた人を実は知らない。そんな怖さが徐々に顔を出し、聞けば聞くほど仁藤が何を考えて殺人に染めたのかがだんだん見えなくなっていく。現実世界では「本が増えて家が手狭になったから殺す」という動機は流石にあり得ないと信じたいが、実際「カッとなって殺した」という動機が存在しているだけに、不条理は存在する。その不条理に対してどのように向き合うべきかを問うています。


そして最後の締め。仁藤の柔和な微笑みが、何を考えているかわからない不気味な笑みに変わり、真相は闇の中へ。ようは、すっきりと謎が解けないわけです。これは、ミステリーとしては消化不良。しかし、人はどのような理由で殺人を犯すのか、常識では考えられない犯罪が増えていく現代社会とは何かを、読者一人ひとりに考えてほしいとのメッセージという点では、Good。


とはいったものの、個人的には消化不良感が。「私」は、”彼が殺人を犯すなんて考えられない”、”仁藤さんみたいな人格者もいるんだ”といった善人の側面を知る中で、彼の異常性についても少しずつ知ることになる。さらに、重要人物”ショウコ”の登場により全てが引っくり返るような伏線が出てきて、どうどんでん返しが起こるのかと言うところまで来たかと思ったんですが、最終的に綺麗に終わりません。


仁藤が、なぜ殺人を犯したのか。その動機(おそらく異常な)を明確にしたうえで、常識では考えられない犯罪に対する警告を打つという形でもよかったんじゃないでしょうか。



敬具



posted by kansasyoshi at 22:22| Comment(0) | TrackBack(0) |

2016年10月30日

連続殺人鬼 カエル男

拝啓



「連続殺人鬼 カエル男」
恐怖が人を襲い、人を獣に変える。


本作は、中山七里の懐の深さが垣間見える快作である。と、解説で茶木則雄という書評家が言っている。連続殺人鬼カエル男というサイコパスな薫りしか漏れ出さないタイトルを掲げたこのミステリーは、「2009年第8回このミステリーがすごい!」に大賞を受賞することになる「バイバイ、ドビュッシー」と共に中山七里が送り出した作品である。


茶木氏曰く、新人賞に複数の作品を応募する作家志望は珍しくないらしいが、どちらも若しくは出来がよい作品であるのはとても珍しいらしい。しかも、ドビュッシーとカエル男は、青春・音楽ミステリーと猟奇ミステリーでありテイストが全く違う為、選考では甲乙つけ難かったとのこと。


私はこの賞の受賞作品ってハマるハマらないが大きく、というかハマらないのが多、敬遠気味ですが、カエル男がノミネートされるのは分かるかな。1つの賞に作風が違うもの、当然面白さも期待できる作品を出すなんて中山七里は、新人から懐深かったんだなと。


因みに、中山七里は、このカエル男を書く際にクリアすべき条件として、一気読みさせる、どんでん返しがある、最後の一行で必ず驚いて頂く、の3つを設定したらしい。


最後の一行で驚くってのはちょっとイマイチ。あれで驚くんだろうか。でも猟奇的事件に使命感に駆られる刑事が全てを注ぎ、結果彼は悲しみ、怒り、無力さ、裏切り等負の感情を全て丸め取ってしまうようなミステリーに仕上がっていて、犯人との格闘、市民の暴動、そして、ハードボイルドな主人公もキーとなり、一気に読ませる力はあると感じました。ちょっと恋模様もありでそこは王道かなと。


テーマは、刑法第39条を扱いながらも、結局はどんでん返しに使う辺りも小説の面白さに繋がっています。少し真面目な話をすると、私は刑法39条は改正すべきと考えます。責任能力の無さで罪に問われないというそもそものロジックに納得がいかないのが大きな理由です。また、殺人者の更生に対しても基本的に否定派ですね。


刑法39条は誰もが考えうる法であり、それをテーマにしながらも最後までサイコパス感は消さない辺り、とてもグロテスクな一品だ。



敬具



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