2016年09月30日

怒り(下)

拝啓



「怒り(下)」
私を裏切ったのは誰だ。



洋平は一緒に働く田代が偽名だと知り、優馬は同居を始めた直人が女といるところを目撃し、泉は気にかけていた田中が住む無人島であるものを見てしまう。日常をともに過ごす相手に対し芽生える疑い。3人の中に山神はいるのか。



一度疑いだしたらきりがない。もともとの出会いが普通じゃなく、出会った相手は身元不詳。そんな人物を信じ始めていた最中の疑いになると、なおさら疑いの渦に巻き込まれていくようなもがいても浮き上がってこれない感覚になるのではないか。読みながらそう思いました。


最初は、マイナスから始まり、なんだいい人じゃないかとどんどんプラスになり、あるきっかけでおかしいぞ!?となり、一気にマイナスに逆戻り。そのマイナスは限界値にたどり着き、ついに当人に訪ねてしまう。


登場人物の中で最も共感してしまうのは、父洋平です。愛子を信じてやりたいけど、娘の人生を考えると「まともな男ではないのではないか」と思ってしまう。父としての愛情と悲哀のような感情の入り混りの中でその気持ちを誰にも吐く事が出来ないなんて。


山神ではないかと疑われる3人は、それぞれ行動に出ます。個人的に一番納得がいかないというか、もやもやが残るのが、田代の行動ですね。借金に追われている中で匿ってくれた愛子・洋平親子を信じて、自分の思いを言葉で表すべきではなかっただろうか。自ら去るならば尚更だと思います。


愛子は”田代は信じてくれて私が裏切ってしまった”と言っているけど、田代は信じていたのだろうか。最後の最後まで彼ら親子に依存していたように思いますね。


山神は、衝撃的な最期を迎えます。ここまで正体不明の3人や彼らと接する人々の心の心情をうまく描写されていたけど、山神の動機だけをふわっと残しています。ここからは完全な私の思い込みですが、信じるものを裏切る、信じるものを疑う、信じるものを欺くといった心の外枠を外すようなところを描くのがメインであって、犯行が占める要素はそこまでなかったのではないかと思います。


でも、「怒」と書き連ねられていた風景には、その心の枠を乱暴にぶち壊した何かがあったはずなので、そこは描いて欲しかったかなーと。そこが、消化不良です。


しかし、全体的に面白いのは間違いない。



敬具



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2016年09月23日

葉桜の季節に君を想うということ

背景



「葉桜の季節に君を想うということ」
さてどんな小説だろうか。そう思って読んでいただきたい。



射精した後は動きたくない。胸も揉みたくない。たとえそれがジェニファー・ロペスであってもだ。そう考えるは、成瀬将虎。筋肉隆々、元探偵、女性大好き、紳士、後輩の面倒も見る。さらに男気もあるし、金は無駄遣いしない。実にナイスガイだろう。ある日、成瀬は、電車に向かって飛び込んだ麻宮さくらの命を助ける。彼女は、死のうとしていたのだ。さくらの心のケアをしながら、後輩からのお願いも快く受け入れる。しかも、悪徳商法の会社に騙されたというのだ。これは放ってはいけない。これは、きっと本格スピリットに満ちた小説。



「神様が俺に言うんだよ、人の世の生き血をすすって不埒な悪行三昧を繰り返す醜い浮世の鬼を退治してこいと」「君は、バイタリティーの塊だ」「好きなやつが死んでしまうと、胸がズタズタに張り裂け、その穴は1年やそこらじゃふさがらない。それが愛した女だとなおさらだ」なんとダンディズムなセリフたち。正義の味方が悪を退治して、恋愛も満点。そんなイメージ。


基本のベースは、悪徳商法の恐ろしさを描いています。商法にはまりどんどん泥沼化していく被害者。その被害者が、加害者になっていく。とても恐ろしい。そんな恐ろしい状況に対して成瀬は果敢に立ち向かっていく。


最後に仕掛けがあります。この仕掛けでいろいろとひっくり返るのが面白いですね。気づきそうで気づかない。そんな伏線が最後に活きてくる。個人的に、一番好きなのは「葉桜の季節」の使い方です。なんか書評としてあんまり書けない。とりあえず読んでみてくださいw


んー。何事にも遅すぎるなんてないのだ。



敬具



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2016年09月21日

七つの会議

拝啓



「七つの会議」
不正とその告発、そしてドーナツ。


★あらすじ☆

舞台は中堅メーカー・東京建電。業界随一の巨大企業であるソニックの子会社であり、当初は売り上げが伸びず苦戦したが、数年前から業績を伸ばしてきた企業である。その秘密は、モーレツに働くことを正義とする社風にあった。そんな社風の中で実績を伸ばしてきた坂戸は、1つの悩みを抱えていた。それは、係長の八角。彼は、会社の重鎮であるが、仕事にやる気がない。坂戸がそんな八角を疎ましく思いながらも日々課せられる高すぎるノルマに臨んでいた。そんなある日、坂戸は八角からパワハラを訴えられる。そこには、驚愕の秘密があった。



池井戸作品って長編のイメージが強かったけど、これはそうではなかった。複数の短篇が連なって長編になっており、原島が主人公かと思いきや、当然そうではなかった。まず、そこに驚き。あ、原島が主演じゃないんだと。


短編から成り立つ「七つの会議」は、会社という組織を様々な角度から映し出している小説です。エリート営業マンとして成果を上げ続ける坂戸からみる会社は、理にかなった組織であり、八角からすれは東京建電は、魂を悪魔に売り渡した組織。さらに不正を告発する側から見れば、自分にとって理不尽な組織構成で成り立っている妬ましい存在であり、不正を隠そうとする社長からすれば、組織はわが子のようなものだ。


様々な思いが交錯する中で、八角を中心とする視点から何を信とするべきかを問う。組織で働く人からすれば、坂戸をはじめ、複数の立場(役職)から見る情景には、何かしら思うところが出てくると思います。それだけ働く上での虚しさや無条理などのマイナス要素を描き切っているかと思います。


その中でスパイス的な要素として挙げれるのが浜本の存在です。彼女は、不倫相手である社員との関係性と会社での立ち位置から、東京建電を「寿退社」という嘘をついて退社の意を上司に示す。退職するまで特にすることもなく過ごすと思っていた最中、彼女は親友の他愛のない話からドーナツの無人販売機企画の提案・実現に奮闘することになります。


自分が会社の中でどんな意味を持っていたのかを証明したい。この彼女の思いは、実績を上げて兄を見返し、自責の念を晴らしたいと思っていた坂戸とは違うものだけども、働くものとしては間違いなくあっても良い思い。その思いが結実し、中盤以降で要所要所に出てくる”粋”な仕掛けもGoodです。


個人的には、池井戸作品の中でBEST3には入る面白さ。



敬具



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2016年09月18日

イレーナの帰還

拝啓



「イレーナの帰還」
生きたいと願った死刑囚の少女、第2章。


☆あらすじ☆

死刑宣告を受けながらも生き延びたイレーナは、故郷シティアに14年ぶりに戻ってきた。両親は涙ながらに娘を迎えるも、兄を始めとする他の者たちは、敵対国で育ったイレーナをあからさまに嫌悪し、密偵に違いないと疑う。またも四面楚歌となったイレーナに、さらなる危機と試練が。



異世界ファンタジーというと、甘くロマンティックで、幻想的なイメージがありますが、このシリーズの特徴は、クールでドライ、かつハードでさえある点と訳者宮崎真紀さんは言います。確かにその通り。


イクシアとシティアの関係性から生まれる軋轢だけではなく、各々の国における情勢や政治やらをドライでハードに描き切っているし、頻繁に発生する戦闘シーンは、ちょっと残酷でもある。クールという点は、ヴァレクを始めとするイレーナと敵対していた人物たちが徐々に彼女と親交を深めていくシーンでも随所に登場するし、アーリとジェンコの台詞の多くがクールなものです。


もちろん、ロマンティックと幻想的なイメージもちゃんと持ってます。魔法が個々の登場人物の初期設定であり、戦闘はもちろん馬と会話ができるなど、ファンタジー要素を生かした仕掛けもあります。で、ロマンティックなところ。ここは、海外小説ではよく見られるこちらが恥ずかしくなるシーンが多いですね。


いつも思うのですが、海外小説で恋愛模様を含めるものの場合、結構すぐいちゃいちゃ関係になるケースが多いような気がします。第1巻を読んでもらえるとわかるのですが、死刑にされる予定であったイレーナに対して毒味師の役割を与える事で生かしたヴァレクが、徐々にイレーナに惹かれていくのですが、そこがそこまで深く描かれていないような。イレーナは強固に拒みつつ、しかしゆっくりと信頼関係を築き始めて(それも最初は恋愛ではなく)行く過程が描かれているのですが、ヴァレクは一気に火がついちゃう感じですw


こういう展開、結構海外小説だと多いような気がするんですよねー。今回、ヴァレクは中盤から登場するのですが、かなり熱々に描かれており、そんなこと言っちゃうの!?ってことも平気で言っちゃいます。


「イレーナの帰還」でのテーマは、ヴァレクのロマンティックすぎる台詞ではなく、”家族”です。イレーナが行方不明になって以来ほとんど崩壊寸前だった家族がどう再生するか。特に自責の念からイレーナを恨みさえするようになっていた兄リーフは、イレーナとの間に大きな溝を抱えています。そんな二人の関係がどう修復されるのか。それが大きなテーマですね。


自責の念から恨み、怒り、それと同時にイレーナに再会したことや彼女が傷つくことで心に抱かれる”ほっとした気持ち”と”相手への怒り”。相反する想いがどう消化されていくのか。そこが上手く描かれているのかなーと思いました。


物語は、シティアに残る決断をとり、イクシアとシティアの懸け橋になるべく動き出すイレーナ。その道は、イレーナ(とヴァレク)の命を狙う奴らがいる中で、非常に困難な道。彼女は結び目やもつれや落とし穴が満載の、曲がりくねった長い道のよう。しかし、彼女は思う。


まさに、わたし好みだ。



常に前を向き突き進むイレーナらしい言葉である。



敬具



posted by kansasyoshi at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) |

2016年09月17日

人間性剥奪

拝啓



「人間性剥奪」
教室内で突如起こった、毒物混入殺人事件。


★あらすじ★

都内のとある中学校の給食時間。突然、複数の生徒が苦しみ出し、五人が病院へと搬送、うち二人が死亡した。デザートのフルーツみつ豆に毒物が混入されていたのだ。捜査を担当することになった刑事の岩崎尚子は、給食時の座席表を見て、被害者のひとり宮内祐里の席のまわりだけが、ぽっかりと空いていることに違和感を覚える。さらに生徒が撮影したスマホ動画を調べていると、皆が混乱しているなか、奇妙な動きをする男子生徒を発見し。



無差別殺人の現場となった中学校ではいじめが蔓延し、後に犯行声明を発表する”人間性”は、更なるテロを予告する。根底になるのは曲がった正義。その正義を実行しようとする”人間性”、そして忘れるべからず”報道”が、事件を皿更なる混沌へ導く。そんなミステリーです。


犯人と思しき人物、刑事 等複数の登場人物の視点で物語が進行し、犯人候補がどんどん出てきます。一人の犯行に対して、別の人間が犯行を被せ(犯行を行うことを人間性を剥奪することで出来ると、この小説では言い表している)、読者を惑わす設計になっているように思います。


一番、恐ろしいのは担任の女性の先生。女子トイレを盗撮したことを自白する際、”!”が出てくる表現に違和感が合ったのもあるのですが、介護の資金を稼ぐ為に盗撮に走るとは。恐ろしい。因みに盗撮を買っていた業者の逮捕から、彼女の犯行が露呈するのですが、結局、彼女の言い分が正しいのか業者の言い分が正しいのかよくわからず、話は終わってしまいます。全体的に、犯人候補がどんどん出てくる割には、その犯人候補が犯人ではなく別の犯行をしていたとわかると、さくっと描写は終了する傾向が強かったかなと思います。真犯人ではないにしろ犯罪は犯罪なのだからもう少し描写を描き切ってもよいような・・・。


全体的に警察は振り回されっぱなし。唯一一人の刑事だけが、真相についていくのですが、この刑事は主人公ではない立場で出てきたと思いきや、結局、彼がメインでしたw。犯罪者の思考が分かるという点では草g剛主演「スペシャリスト」の宅間と若干似ていますね。ちなみに、この刑事、一時犯人ではないかと疑われる始末。どうして犯人説が浮上したのかしっくりこないけど。


ミステリーとしては、さくっと読める仕上がりになっています。複数の犯行が被さって、本当の犯行が隠れ、最後に真犯人が出てくる。いったい誰が真犯人かを考えながら読み進める点は、王道を踏んでいるかなと思います。


人間は、人間性を剥奪するからこそ、犯行を犯す。だから真犯人の動機はすごく直感的なものだったんだろうと思います(おそらく、これが動機?と感じると思いますが、結局人が犯行を犯すときは、そんなもんだということを言いたいのではなかろうかと)。



敬具



posted by kansasyoshi at 11:29| Comment(0) | TrackBack(0) |

2016年08月26日

新潮文庫20世紀の100冊

拝啓



「新潮文庫20世紀の100冊」
与謝野晶子、夏目漱石、森鴎外の古典から谷崎潤一郎、三島由紀夫などの昭和の文豪、現代の村上春樹と宮部みゆきまで1年1冊として合計100冊の「20世紀の名著」を厳選。司馬遼太郎賞受賞経歴のある本読み魔・関川夏央氏による解説付き。


私は、この本をとりあえず参考書扱いで読んでみました。どんな本を読もうか、どんな本がこの「20世紀の100冊」に選ばれているのか、その本を読んでみようかなどなどの感情を持っていました。そして読んでみましたら、まぁ私の知らない本が多いこと多いこと。結果私には参考になりましたし、ちょっとした各書物の知識もつけれた気がしています。ちなみに夏川氏は挙がった100冊を鑑賞せずに歴史を読み取ろうとしたとのことです。何となく言わんとしていることが分かるような分からないような・・・w


私が個人的に気になったものをちょっと紹介します。


@みだれ髪-与謝野晶子 1901
私は与謝野晶子は教科書上でしか知らない文筆家です。それだけの理由でとにかく読んでみたいですね。


A月と六ペンス-モーム 1919
数少ない知っていた作家。短編集は持ってはいるが未だに読破できずw。モーム作品の中で月と六ペンスは最も有名な作品なので是非読んでみたいと改めて思いました。


B火垂るの墓-野坂昭如 1967
とてもないてしまった作品。


Cスタンド・バイ・ミー-スティーブン・キング 1982
スティーブンキングはダークタワーだっただろうか?あれ以来読んでいない。なのでこの作品から再スタートを狙う。


他にはスタインベックの怒りの葡萄、川端康成の雪国、井上靖の孔子、吉本ばななのとかげなどが紹介されています。参考書としてぐっと( ..)φメモメモ。



敬具



posted by kansasyoshi at 21:13| Comment(0) | TrackBack(0) |

2016年08月21日

クラインの壺

拝啓



「クラインの壺」
200万円でゲームブックの原作を、謎の企業イプシロン・プロジェクトに売却した上杉彰彦。その原作をもとにしたヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることに。


今年、いよいよプレイステーションVRが発売されます。でっかいサングラスみたいなものを装着することで仮想空間に入り込んでゲームをするというもの。凄そうだ。しかし、クライン2は、もっと凄い。体全体を包み込んだ装置により、完全に人間が仮想空間の中に入り込んでゲームをするのだ。


ゲームの中で体感する感覚は、現実の世界と遜色なく、登場人物も建物も仮想とは思えない。そんなゲームの原本を提供することになった主人公。最初は、自分の作品がゲームになることを喜んでいたが、次第に様々な謎に巻き込まれていく。そんなミステリー。


一番の驚きは、この小説が20年前に発行されているということ。パソコンも全然普及しておらず、VRという考え方なんてそもそもあったのかも不明。そんな時代でVRをコンセプトに持ってくるって、どんな経緯でそうなったのだろうか。それが非常に気になる。


VRで体感できることをメリットだけではなくデメリットの部分でも描いている点も、物語の展開をスリリングなものにする上で不可欠になっているし、そもそもメリット、デメリットにおいても、今の時代でも取り上げられているものと近しいと思いますし、作家の実力がもろに出ていると思いました。最後の展開も、現実と仮想世界が区別つかなくなり、主人公は孤独に落ちていくというもの。VRの面白さだけではなく、怖さも如実に描いていて、ここら辺の発想って、どうやって出したんだろう。


ミステリーに属するとは思いますが、実はミステリーではない。そんな作品。岡崎二人の最高傑作と言われている理由はよくわかるなー。



敬具



posted by kansasyoshi at 19:54| Comment(0) | TrackBack(1) |

2016年08月16日

コンビニ人間

拝啓



「コンビニ人間」
普通とは何か。


普通とは何か。コンビニで働く古倉恵子を通じて考えさせる。そんな小説だとは思う。しかし、それだけではないところに凄みを感じる。この「コンビニ人間」は、現代社会から疎外された人間が、自己のコアな部分に目覚めていく様が、非常にうまく描かれているように思います。


主人公は、36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。結婚もせず、正社員にもならずにコンビニのバイトを続ける。そんな彼女に侮蔑の目を向ける新たなバイトと彼女の夫達。彼女にとってコンビニで働くことは普通であるのに、彼女の外はそう捉えない。彼女と彼らの”普通”は違う。


そこに1つひねりが加わる。彼女は、いわゆる普通のバイトではない。彼女には独特の感覚があり、その感覚故、コンビニを独特な視点で捉えている。その為、”普通とは何か”に加え”果たして彼女は何者か”という思いが出てくる。


「完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、私を世界の正常な「部品」にしてくれる」と思う恵子。彼女にとってコンビニは聖域であり、1つの閉じた世界であり、そこが普通の世界。恵子を取り囲む好奇の目、心配の目、侮蔑の目。それぞれをとても丁寧に描いており、ちょっと心が折れそうになる。そんな目を、彼女は彼女なりの論理で論破する。


恵子は、コンビニに居続けることに安らぎを感じながらも、これではだめだと思い、飛び出そうとする。しかし、最後は、また戻ってきてしまう。それが幸福なのか、そうでないのか、正直わからない。


どこかぞっとするリアリズムを含んだ小説。



敬具




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2016年08月14日

ちょっと今から仕事やめてくる

拝啓



「ちょっと今から仕事やめてくる」
ブラック企業に心身共に衰弱した隆。そこに現れたヤマモト。


☆あらすじ☆

ブラック企業。この日本にどれだけあるだろうか。日々の深夜労働、休日出勤、退職金もない、上司の人格否定。そんな企業で働く必要はない。しかし、そう簡単に辞められない。やる気はある、しかし、努力がついてこない。隆は、心身ともに衰弱してしまい、無意識に線路に飛び込もうとしたところをヤマモトと名乗る男に助けられた。同級生と名乗るヤマモトに次第に心を開き、変わっていく隆。しかし、本当のヤマモトは3年前に自殺した男だった。



「ちょっと今から仕事やめてくる」。これは、隆がヤマモトに「ちょっと今から仕事やめてくる」と話し、クソ上司に思う存分思いを言い放ち、自分と自分を大切に思ってくれる人のために生きることを決意するまでの物語。


隆は、不器用ながらも仕事に意欲を持っていてがんばっていたが、クソな上司、仕事を横取りする先輩、助けてくれない同僚という環境が最悪の中で、次第に衰弱してしまう。そんな隆を見て心が痛む。劣悪な環境にいては、人がいかに努力しても効果は半減する。そんな現実を描いている。ヤマモト。彼もよい。にかっと笑って人を元気づける人間になりたい。


裏表紙に、スカッとできて最後は泣けるとコメントが記載されているけど、その通り。個人的に、最後の締めがとても好きだ。隆の人柄の良さがとても生きていて、それにヤマモトの優しいが呼応する。とても良い。


何より、自分の人生は、自分を大切に思ってくれている人のためでもあるというところが染みると思います。自分も当然そうですが、子の時は、何もかもが当たり前のように感じるところがありました。しかし、その当たり前と思っていたことは、どんなに大変でありがたいことだったのか。それを仕事をすることで徐々に感じていく。


何十年も働き、家族を守ってくれた父親。何十年もご飯を作ってくれて、家族を守ってくれた母親。とても偉大だなーと実感し、感謝の念が大きくなる。その念を隆は、死のうとしたときに感じる。それは、とても大きな気づきで、たとえ小説であってもとても大切なことです。


個人的に想定していた面白さを超えてきた1冊です。読んでない人には、ぜひおすすめですね。



敬具



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2016年08月12日

無事これ貴人

拝啓



「無事これ貴人」
外に求めない。


臨済禅師が説くところの「無事」とは、馳求心(外に向かって求める心)をすっかり捨て切ったさわやかな境涯。「無事」とはいわば、求めなくてもよいことに気づいた安らぎの境地。「無事是貴人」とは、そういった安らぎの境地を心の底から実感した人。そんなタイトルが付いたこのショートストーリーに、馳求心をすっかり捨て切った人が、たくさん出てくるのだろうかと思いきやどうやらそうでもない気がする。


☆あらすじ☆

明らかに遺産目当てで見舞いに訪れた甥を、「金目のものは全部処分した」と告げて追い返した男は、目の前の病院の女性スタッフに、涙混じりで唐突に過去を語り出す。その男を検温するために病室に入ってきた看護師は、ピンチになると、どこからともなく現れては救ってくれる謎の男が、実は死んだはずの父なのではないかと疑っていた。すべてはどこかで繋がっているのか。



本作がどんな経緯で書き上げられたのだろう。昔の名作「無事これ貴人」をオマージュしたものなのか。伊坂幸太郎の書き下ろしなのか。どちらにしろ伊坂幸太郎の色はしっかり出ています。


遺産目当ての甥を追い返した叔父→叔父が入院している病院の清掃スタッフ→叔父の検温に来た看護婦→看護婦を助ける為119番に電話した男→男を拉致した悪役→悪役の車にぶつかりそうになった運転手→その運転手にぶつけられたバンドマン(のち、運転手の元彼女登場)→そこに黒澤登場・・・


と人と人の出来事が連鎖していく様は、伊坂幸太郎の色(黒澤が登場したので、他の人物も何かの作品の登場人物かと思ったんですが、ぱっと浮かびませんでした)。ショートストーリーな分、その連鎖は分かり易い仕上がりになっており、最後の顛末までさくっと繋がる。1日のいろんな人々の出来事はもしかしたらこんな風に繋がっているかも知れない。ちょっと怖い展開も混じっているから繋がっていてほしくは無いんだけど。


無事これ貴人。求めなくてもよいことに気づくことは、難しいってことを言っているのだろうか。なぜこのタイトルなのかを知りたい。



敬具



posted by kansasyoshi at 22:50| Comment(0) | TrackBack(0) |
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