上杉鷹山が奨励したと伝わるウコギの垣根。これを見るべく、かつての下級武士たちの屋敷跡を訪ねました。
■芳泉町■
<芳泉町の空>
同市内の小野川からの帰り道。到着がちょっと遅すぎました。
<垣根>
秋深い夕暮れの屋敷跡。ウコギの垣根はこのエリアのシンボル・・・なのですが、既に暗くこんな画像となりました。更に枯れています。
今回の旅のテーマは上杉鷹山。小野川もそのつもりでしたが、ちょっと欲張り過ぎましたかね。晩秋の米沢。寒さ対策は完璧でしたが、暮れるのがここまで早いとは・・・。ということで、これでは何だかわからないので、また以前当ブログで使用した画像(7月訪問)を使わせて頂きます。
<下級武士屋敷跡>
<ウコギの垣根>
米沢のウコギは、直江兼続が栽培を指示したことに始まります。鷹山は、これを垣根とすることを奨励しました。ウコギはトゲがあることから防犯用になる一方、薬効もあり、非常食にもなります。
■原方衆■はらがたしゅう
この町並みは、上杉家が会津百120石から米沢30万石へ減封されたあと、野に散って荒地を開拓した下級武士達により造られました。知行を大幅に削減されながら、家臣団を抱えたままだった上杉家。このピンチにリーダーとして対処した智将・直江兼続も見事ですが、その影には、開墾に身を捧げた名もなき下級武士たちの存在があることを忘れてはなりません。財政を下から支えた「つわものども」は、原方衆(はらがたしゅう)と呼ばれました。
■原方の糞つかみ■
歳月とともに人の心はこうも変わるのでしょうか。当初は半農半士となる者たちに対する同情、そして何より理解があったようですが、鷹山が藩主となった頃には、城下の家臣団の間に彼らを馬鹿にする風潮があったようです。
原方のクソつかみ
そう呼んだそうです。
昔の農業ですからね。堆肥にまみれることもあったかもしれません。体面を気にする側からみれば、蔑みの対象にしたかったのでしょう。人とはそういうものでしょうか。小説『上杉鷹山』で、よそから来た鷹山がこの言葉と意味を知り、深い悲しみに顔を曇らせるシーンが思いだされます。
更に、馬鹿にされる側の原方衆も黙ってはいません。彼らは身分こそ低いものの、自分の田畑の収穫物を口にすることができます。これを逆手に取り、ろくな飯も食べられない城下の武士たちを「城下の粥っぱら」と呼んで反撃。
ようするに、お互いに罵っていたわけですね。この良くない状態。以下は小説『上杉鷹山』(著者:童門冬二)からの抜粋です。
『人間は貧しいとき、そして前途に希望がないとき、必ず自分のまわりを見渡す。それも、下ばかり見る。自分より下位にある者がいると安心する。そして、「あいつよりは、まだ自分のほうがましだ」と思う。この優越感はやがて、下位者に対する侮蔑に変わっていく』
人の嫌な部分を紹介してしまいました。ただ、この小説、絶望で終わるお話ではありません。上杉鷹山を描いた作品ですから。
きっかけがあれば人は変われる。米沢藩の人たちにとって、鷹山はそのきっかけでした。小説の表現をお借りすると『火種』だったわけですね。鷹山自身も、そのことを意識して行動しました。
■農業の奨励■
国は誰のためのものなのか。私たちにとっては共通の正解がありますね。むかしは主権などという概念はありません。まして、それが領民にあるなどと誰も思いません。鷹山はそんな時代に生まれながら、藩主が国を私物化することを否定し、領民を思って事を成すことを藩主の勤めとしました。ならば、それに従う家臣団にとっても同じことが言えますね。
鷹山はかつての家老・直江兼続の功績を讃えて、それを手本としました。兼続と同じように農業を奨励し、自らも手に鍬をとって土と向き合う者を勇気づけました。
<籍田の遺跡>
中国の故事にならって「籍田の礼」を行い、農業の大切さを改めて領民、そして家臣団に示しました。
<愛宕神社>
連日の干天を憂いた鷹山は、山に登って雨乞いをしました。
<石碑>
付き人は家来二人のみ。いかにも身軽な藩主です。そしてその日の夕方、本当に雨が降りました。領民は鷹山の祈祷が天に通じたと大喜びしたそうです。事実かどうかより、皆がそう思ったということにこの話の深さがあります。
本当に富を生み出している仕事。これを軽んじるようでは、その組織は衰退してゆきます。
倹約のみならず、鷹山は富を生み出す農業を基本とした改革を実現させました。米だけでなく、桑や紅花などの栽培も奨励。ウコギの生垣も、そんな流れの中の一つに過ぎません。
■つわものどもが夢の跡■
この屋敷跡は、藩政を支えるべく、武士の体面より土を選んだ「原方衆のなごり」です。彼らの暮らしを支えたものは、具体的には収穫物に他なりません。しかし、あくまで上杉の武士です。お屋形さま、つまり藩主たるものの理解が、どれだけ彼らの勇気となったことでしょう。
■参考にした文献■
小説 上杉鷹山(集英社文庫)
著者:童門冬二
お城巡りランキング
2017年12月26日
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