2012年10月22日
白き部屋の記録39
おんかーかかみさんまいそーわか B
先生は云う。「痛みの程度は本人でなければ分かりません、医者はレントゲンその他で診断の結果痛みのあることが分かるだけで、お婆ちゃんが今痛いことを医者が感じることは出来ません。痛いと云はれれば痛み止めの注射をするのです。」とお婆ちゃんは神経性で痛い痛いと思い込んでいるからどうしようもないのです。
お翁ちゃんの云った事を思い出しました。
一晩中何だ彼だとうるさいのでね、「ウルセェ」と一喝してやるんですよ、一寸黙るだけで効果はありませんがね、婆さんの親がいけないのよ、可愛そうだ可愛そうだと育てられて、甘えるんじゃねぇてんですよ、もっとひどい病気の人もいるんだ、と。
「痛い処をさすりましょう。」私は痛いと云う足や背中をさすって見た。
お婆ちゃんは寝たきりで居るけれど、ほんとうは立つ事も出来ることが分かったのは、リハビリの先生が来た時です。
この方はお婆ちゃんの気持ちがよく分かるので「可愛そうに可愛そうに、よしよしここ痛いのね」と云いながらマッサージをするのです。
「今日は立てないって?何時も立つじゃないの、まぁいい立てなきゃ寝てればいいわ」、こうして毎日毎晩同じ事の繰り返へしです。
立てる筈のお婆ちゃんは寝たきりで、手も痛い足も痛いし、胸も背中も痛いと云うのです。
「痛い痛いカンゴフさん、カンゴフサーン。」と呼ぶのです。私は看護婦さんを何辺でも呼びに行く、時間が来ないから看護婦さんは来ない、私はもう廊下に立っているしかない。
「看護婦さんは私の痛いのを分かってくれない、こんなに痛いのに。」看護婦さんは黙って注射をする。
私は云って見ました。「痛み止めを打ったら、ああこれで痛くなくなると思うんですよ、お婆ちゃん、
痛い痛いと思ってばかりいては折角の注射も何にもならないは、それでは何時までたっても療りっこないわよ、甘えてばかりいては駄目よ。」と。
お婆ちゃんの表情が変わりました。ヒステリー状です。「わたしゃ、こんな口惜しい思いをした事はない。ナイフ貸して、ナイフ下さい、喉を突いて死にます。」と。ナイフはお婆ちゃんの目の前にあるのですが目に入らないらしい。甘えると云ったのが気に障ったのか、その顔は怨めしいと怨んでいる顔でした。
お婆ちゃん、気をしずめて、気をしずめるんですよ、何か唱えてごらんなさい。
「ナムメョウホーレンゲキョウ ナムメョウホーレンゲキョウー。」私はその声の大きさに驚いた。
お婆ちゃんは日蓮宗なの?「トゲヌキジゾウさんを信心している。」とお婆ちゃん、そして私の妹に電話してトゲヌキジゾウさんはなんて唱えるか聞いてきて下さいと。
妹さんに電話しました。
その返事はこうでした。
「おんかーかかみさんまいそーわか」
先生は云う。「痛みの程度は本人でなければ分かりません、医者はレントゲンその他で診断の結果痛みのあることが分かるだけで、お婆ちゃんが今痛いことを医者が感じることは出来ません。痛いと云はれれば痛み止めの注射をするのです。」とお婆ちゃんは神経性で痛い痛いと思い込んでいるからどうしようもないのです。
お翁ちゃんの云った事を思い出しました。
一晩中何だ彼だとうるさいのでね、「ウルセェ」と一喝してやるんですよ、一寸黙るだけで効果はありませんがね、婆さんの親がいけないのよ、可愛そうだ可愛そうだと育てられて、甘えるんじゃねぇてんですよ、もっとひどい病気の人もいるんだ、と。
「痛い処をさすりましょう。」私は痛いと云う足や背中をさすって見た。
お婆ちゃんは寝たきりで居るけれど、ほんとうは立つ事も出来ることが分かったのは、リハビリの先生が来た時です。
この方はお婆ちゃんの気持ちがよく分かるので「可愛そうに可愛そうに、よしよしここ痛いのね」と云いながらマッサージをするのです。
「今日は立てないって?何時も立つじゃないの、まぁいい立てなきゃ寝てればいいわ」、こうして毎日毎晩同じ事の繰り返へしです。
立てる筈のお婆ちゃんは寝たきりで、手も痛い足も痛いし、胸も背中も痛いと云うのです。
「痛い痛いカンゴフさん、カンゴフサーン。」と呼ぶのです。私は看護婦さんを何辺でも呼びに行く、時間が来ないから看護婦さんは来ない、私はもう廊下に立っているしかない。
「看護婦さんは私の痛いのを分かってくれない、こんなに痛いのに。」看護婦さんは黙って注射をする。
私は云って見ました。「痛み止めを打ったら、ああこれで痛くなくなると思うんですよ、お婆ちゃん、
痛い痛いと思ってばかりいては折角の注射も何にもならないは、それでは何時までたっても療りっこないわよ、甘えてばかりいては駄目よ。」と。
お婆ちゃんの表情が変わりました。ヒステリー状です。「わたしゃ、こんな口惜しい思いをした事はない。ナイフ貸して、ナイフ下さい、喉を突いて死にます。」と。ナイフはお婆ちゃんの目の前にあるのですが目に入らないらしい。甘えると云ったのが気に障ったのか、その顔は怨めしいと怨んでいる顔でした。
お婆ちゃん、気をしずめて、気をしずめるんですよ、何か唱えてごらんなさい。
「ナムメョウホーレンゲキョウ ナムメョウホーレンゲキョウー。」私はその声の大きさに驚いた。
お婆ちゃんは日蓮宗なの?「トゲヌキジゾウさんを信心している。」とお婆ちゃん、そして私の妹に電話してトゲヌキジゾウさんはなんて唱えるか聞いてきて下さいと。
妹さんに電話しました。
その返事はこうでした。
「おんかーかかみさんまいそーわか」