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白き部屋の記録39

おんかーかかみさんまいそーわか B

先生は云う。「痛みの程度は本人でなければ分かりません、医者はレントゲンその他で診断の結果痛みのあることが分かるだけで、お婆ちゃんが今痛いことを医者が感じることは出来ません。痛いと云はれれば痛み止めの注射をするのです。」とお婆ちゃんは神経性で痛い痛いと思い込んでいるからどうしようもないのです。

お翁ちゃんの云った事を思い出しました。

一晩中何だ彼だとうるさいのでね、「ウルセェ」と一喝してやるんですよ、一寸黙るだけで効果はありませんがね、婆さんの親がいけないのよ、可愛そうだ可愛そうだと育てられて、甘えるんじゃねぇてんですよ、もっとひどい病気の人もいるんだ、と。

「痛い処をさすりましょう。」私は痛いと云う足や背中をさすって見た。

お婆ちゃんは寝たきりで居るけれど、ほんとうは立つ事も出来ることが分かったのは、リハビリの先生が来た時です。

この方はお婆ちゃんの気持ちがよく分かるので「可愛そうに可愛そうに、よしよしここ痛いのね」と云いながらマッサージをするのです。

「今日は立てないって?何時も立つじゃないの、まぁいい立てなきゃ寝てればいいわ」、こうして毎日毎晩同じ事の繰り返へしです。

立てる筈のお婆ちゃんは寝たきりで、手も痛い足も痛いし、胸も背中も痛いと云うのです。

「痛い痛いカンゴフさん、カンゴフサーン。」と呼ぶのです。私は看護婦さんを何辺でも呼びに行く、時間が来ないから看護婦さんは来ない、私はもう廊下に立っているしかない。

「看護婦さんは私の痛いのを分かってくれない、こんなに痛いのに。」看護婦さんは黙って注射をする。

私は云って見ました。「痛み止めを打ったら、ああこれで痛くなくなると思うんですよ、お婆ちゃん、
痛い痛いと思ってばかりいては折角の注射も何にもならないは、それでは何時までたっても療りっこないわよ、甘えてばかりいては駄目よ。」と。

お婆ちゃんの表情が変わりました。ヒステリー状です。「わたしゃ、こんな口惜しい思いをした事はない。ナイフ貸して、ナイフ下さい、喉を突いて死にます。」と。ナイフはお婆ちゃんの目の前にあるのですが目に入らないらしい。甘えると云ったのが気に障ったのか、その顔は怨めしいと怨んでいる顔でした。

お婆ちゃん、気をしずめて、気をしずめるんですよ、何か唱えてごらんなさい。

「ナムメョウホーレンゲキョウ ナムメョウホーレンゲキョウー。」私はその声の大きさに驚いた。
お婆ちゃんは日蓮宗なの?「トゲヌキジゾウさんを信心している。」とお婆ちゃん、そして私の妹に電話してトゲヌキジゾウさんはなんて唱えるか聞いてきて下さいと。

妹さんに電話しました。

その返事はこうでした。

「おんかーかかみさんまいそーわか」

白き部屋の記録38

おんかーかかみさんまいそーわか A

明るい廊下を調子のいい流行歌が走ってくる。

食器を満載した車に白い帽子、コック姿のお兄さん、次の車には頬っぺの赤いお姉さん。

若いことはいいなあ、と思いながらドアを開ける瞬間ギョッとする。

石膏のように白い顔に目の窪みが骸骨を思はせる丸い影を作っている。

「オンカーカカミサンマイソーワカ。」その顔は突然口を開いて唱えた。

ベッドにはやせこけた一人の老婆。

私の患者さんである。今日から一週間泊り込み昼夜通しの看病だ。

御主人であるお翁さんが看病疲れで休むと云うので一週間の約束、私もガクンとする思い。

「イチジク浣腸を買って来て下さい。」お婆ちゃんの声は蚊のなくような声でした。

病院で患者が何でイチジク浣腸を使うのか変だと思う。「浣腸は病院ですから看護婦さんがやってくれるんではないですか」と云って見る。

お婆ちゃんは首を振った。「一日三回はやってくれないの。」

何とお婆ちゃんは一日三回浣腸をやるつもりなのだ。それで浣腸三回、尿十五回と云う生活が始まったのです。昼も夜もお婆ちゃんは殆ど眠らない、ものの十分も目を閉じていると思うとすぐ目を開けるのです。結核であるのと、神経症なのであると云うのですがよく体がもつものだと呆れる。

浣腸は夜三回やる、その間「どうしてこんなに痛いのか看護婦さんと先生に聞いて下さい。」と繰返へす、血壓(ケツアツ)を計り痛み止めの注射をしても結果は同じ、度度の事に危険状態になるからと云はれても「先生は私の痛みを分かってくれない、こんなにつらいのに誰もわかってくれない。」と繰返すばかり、深夜も同じ状態、隣ベッドの患者さんも眠れないと訴える。私も全全眠る処ではない。

白き部屋の記録37

ラブホテルではない

瀕死のお婆ちゃんは弱弱しい声でイタイ、イタイ、と云い続けている。二人部屋を一人で借りているのだと云う空いているベッドには時時息子さんが看病に来て泊まるのだと云う。

付添が付いていないので隣の部屋の付添さんが手伝ってあげているのです。

その付添さんの話。

「困るのよその息子さん、五十才くらいの人だけど一週間に一度か二度来るだけ、髪を長く伸ばしているしサラリーマンではない見たいよ、口もろくにきかないし、何だか変な感じ、夜中にオムツを取替えてあげようと思ってカーテンを開けると、女の人が居てね、一渚に寝てるのよ、それも裸でね、もつれ合っているのよ、奥さんではないでしょうね、奥さんならお嫁さんだから、たまにはお婆ちゃんの看病する筈でしょう。

お婆ちゃんはイタイ、イタイ、と云っているのに聞こえないのか知ら、看護婦さんも怒っていたわ、病院をラブホテルと間違えてるって。」

白き部屋の記録36

元警官のおえら方

剣道の匂いのするご老体である。

白髪を整えた厳しい貌、その顔は苦痛の為だけではあるまい。

輸血の連続である。一本三十分で終わる、とても眠るどころではない。ベッドも出してはいけないとの事、動脈破裂を手術した方であると云う胸も腹部もコチコチにかたくなっている。

七十八才、体にふれてもいけないと云はれる。

奥さんと云うより奥方と云う方が似合うような婦人は椅子にかけて御主人を見守っている。

「口うるさい人でございましてねえ、ほんとに毎日毎日が大変だったでございますよ、私の云う事何一ッ聞き入れないんですから、宮中に召される事がございましてね、それを名誉に思ってる人なんですよ。」

翌日再び破裂、もう死んだような顔の御老体、ご子息が見える、がっちりと頼もし気な紳士てある。

「お父さん!!」と呼ぶ声に目を開いた御老体、死の顔が見る見る悦びに溢れる、久し振りに見る善き父とその子の像と云えるす姿、其処には父としての務めを立派に果たした恵まれた父の姿がありました。

続いて二男、三男、と駆け付ける御子息に悦びは絶頂に達したかに見えました。

こうした満足のうちに御老体は亡くなりました。

奥方云はく、「ああこれで済みました、これからは独リで気楽に暮らします。」と。
   
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