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白き部屋の記録47

白血病の人

つい一週間前外出を許されて、久し振りに家に帰へり車の運転までやって来た人、小さな会社の部長さんであると云う。

時時見える会社の人が部長部長と読んでいる四十二才、どうしたことか急に危險状態に陥る、サンソテントが運ばれ間のカーテンが引かれたので様子は分からないが苦しさが伝わって来るようだ、三十六才の奥さんが看病している。

「マコト、母ちゃんを見張るんだぞ、変な小父さん来たら追っぱらうんだ、マコトお前は長男だ兄ちゃんだからしっかりしろ、母ちゃんを離すんじゃない、父ちゃんの云うことをよくきけよ、母ちゃんから目を離すな。」

苦しそうだ、その息づかいの中で夢中で叫んでいる、だがマコトくんはここには居ない。

カーテンの陰から奥さんが顔を出し、ペロリと舌を出す。

この事があってから四、五日経つと又ケロリとして歩いている部長、私に吉川英治の新平家物語を買って来て欲しいと頼む、そして又一週間、奥さんは家に帰へると云い出しました、小さな子供が二人家に居るのだと云う、マコト君とで三人の子持ちだから妹に留守番して貰っているのだと心配そうでした。

それから二週間、再び危篤になった部長さんは亡くなりました。

真面目で働き者で建売住宅も買い車も持っていたと云うのに短い生涯でした。或日奥さんから電話があり、私に会って相談したい事があると訪ねて来ました。

小さな女の子を連れ、何と六十才位の男の人と一諸でした、応接室には一人で入りました。

「どおあの人、家に入り込んで来たのよ、同居してるんだけど貴女の目から見たらどんな人か分かると思ってね、弁護士さんだけど五拾万円渡しちゃったのよ、増やしてくれると云うから、ーー とても子供を可愛がってくれるの、パパパパって子供もなついているのよ。」私は呆れてしまいました、奥さんのある人だと云う、何おか云わんやである。ほんとに弁護士であるとしたら、てんで無知な私の助言など何の役にも立ちはすまい。

「若しよくない人だったら一諸に住んでいて貴女の力で追い出すこと出来るの?」

奥さんは笑って返事をしない。

「まあお金を増やすのは五拾万円だけにして、後は今までの預金をそのままにしておくことだわね。」

私は御主人が云っていた云葉を思い出していました。男がね、お前なんかをだますのはわけないんだよ、一目見ればね、どんな馬鹿な女かすぐ分かるんだからと。

応接室に男の人が入って来ました。子供を連れて。

「家内がいろいろお世話になりましたそうで、今後共よろしくお願い致します。」と。

三人は幸せそうに帰へって行きました。

白き部屋の記録45

酒盛りF

「此間ね、娘が五拾万持って来てくれたんだよ、働いているんでね、ボーナスでも貯めといたんだろ、俺涙が出たよ、そしてお父さん、お父さんは私が見てあげますからねと、俺断ったよ、可哀そうだもの。」

「一人娘でね、家内と暮らしているんだ、三十才だというのに結婚もせずにね、母ちゃんに似て美人だし、俺に似てスタイルがいいんだ、ファッションモデルやってた事もあるよ、俺は道楽もんでね、家内はたまりかねて離婚さ、百人もの女と遊んだんだから無理ないよね、今もいるんだ愛人がよ、二人だ、電話したら四,五日したら来るってんだ、彼奴のあれは最高でね、その為億万長者の翁さんと結婚したけど、時時来てくれるんだ、何翁さんより俺の方がいいにきまっているからね、来ても彼奴時間ばかり気にしてね落付かないんだ、翁さんに悪いと思ってんだね、これは五十だ、もう一人は俺より年上だ。」

全く驚いた話です。

この時電話のベル「ハイハイ何来れないってどうしてだ、楽しみにして帰へって来たのに、いいよ、もう来るな。」ガチャン。

「若い方が来れないってよ、まあいいさ、彼奴が来ると近所がうるさいんだ、子供の教育上よろしくないってね、彼奴泣いたりなんかしやがるんでね、隣の奥さん大変だよ、干してある布団をやけにパンパン叩き通しだよ、気の毒に。」

「話題をかえよう、あんた東大の〇〇教授を知ってるかい。」知りませんね。

「東大病院の〇〇博士を知ってるかい。」

「知るはずないでしょ、私家政婦ですよ、おえら方を知るわけがない。」

「俺の親しくしている人達なんだ、この近くの病院は殆ど入院、そして退院だからね、俺が苦しくて一一〇番しても救急車は来てくれないんだよ、もう東大病院にでも入るしかないと思うんだ、何とか入れないかなあ。」話は一転「あんた妻と愛人との異いを知ってるかね」

「妻とはおざなりの生活さ、愛人とはよくてよくてたまらないものなんだよ。」

酔うほどに話は妖しくなる。

この間一週間

白き部屋の記録44

酒盛りE


「昨日のカツまだあったかな、持って来て下さい、チャシューもね、サツマもだ。」よほど肉好きの人らしい、キャベツには手もつけてない。

棹を吹き洗濯物を干していると声がかかる。

「洗濯すんだらあんたも一服しなさい。」

飲んでるから面倒なんでしょう、シビンに尿を一杯ためてたのを渡されました、それを始末していると「それから座薬を入れて、痛みを止めてと、そして注射をして薬を飲むと。」と云っている、大丈夫か知らと眺めている私に「これはね僕が考へた治療法なんですよ、医者なんかにゃ僕の病気分からんですよ。」

これでは病院で困るわけです、それでも又病院に行くつもりだと云う。

薬を呑んでしまうとまた一升瓶にてが行く、何と今日は三本並べてある。

昨日のは特級酒だったが今日のは一級酒。

一級酒はまずいまずいと云いながら寿し屋の湯呑みでグイグイと呑んでいる。

一体病気はそれ程重体ではないのか、それとも病気など吹きとばす程の酒豪なのか、心臓病だけで歩けなくなるものなのか、合併症なのか全く分かりません。

一服しなさい一服しなさいと云うので座ると私の前にコップが出てビールがついであるのです。

水のようなものだと云うから水のつもりで飲みました。すると又ついでくれるのです、また飲むと「いやあよかった、前にあんたの会から来てもらった時、掃除洗濯、飯炊き。何でも実によくやる人でしてね、だけど酒呑むな酒呑むなと止めるんですよ、あれには困っちゃったなあ、俺酒呑みに帰へって来るんだからね、あんた呑むなと云わんし、ビールまで呑んでくれるんだ、いい人だよあんたは。」成程娘さんを断ったのもこの事だなと思いました。病気のお父さんに毒になる酒を娘さんが黙って呑ませる筈がない。

白き部屋の記録41

酒盛りB

歩けない方なのでゴソゴソと這って布団に入ってしまいました。一間だけ掃除して手早く布団を敷いて置いたのです。

その部屋は六帖だけれど四帖半程にしか見えません、続いてもう一間の方は四帖半だけれど三帖位、一尺程の濡縁がついていて、その前に小さな庭、一応全部掃除しようと掃除機を使っていると「掃除なんかいいです、后でいい、それよりこれをやりたくて退院したんですよ。」

何時の間にか何処から持ちだしたのか一升瓶二本、布団に坐って目の前にでんと置いてあるのです。心臓発作の人だというのにこれはどうした事か、「湯呑みを持って来て下さい、大きいのをね。」おかんをしますか?

「おかんはいらない、冷やで結構、ああうまい、うまい。」これではどうしようもない。電話を引寄せ「〇〇屋さんですか、今取りに行きますからね、厚いカツを三枚、チャシューを三百グラム、サツマ揚五枚、キャベツの刻んだのをたくさん付けて下さい頼みますよ。」

ここは東京の田舎、店は一軒しかない、届けて貰うと夜になると云うので、カツを受け取りに行きました。「又病院を出て来たんですか、もう何回目かな、今度入る病院あるかな、呑むために退院するんだからね」と店員さん。

白き部屋の記録31

付添さん3

にこやかに入って来たのは品のいい美人の付添さん、あっという思いである。

元看護婦であるという、五十才そこそこ、昔映画で見た愛染カツラの場面をなんとなく思い出す。

「もう死ぬんだから何でも食べさせろ」

患者さんが突然怒鳴る。

「ハイハイ只今」美人は白衣をつけてベッドへ。

白き部屋の記録26

オムツを縫う人

二人部屋である。入って行くと縫物をしている付添さんが居て、「どうぞどうぞ」と云いながらお茶を入れてくれる。「あんた若いんでしょ、何才なの、御主人はいるの、何してる人、子供さんは、アパートに居るの、家賃はいくら。」矢つぎ早やに小母ちゃんは聞く。

「みっちり働くことだね、ピンチヒッターぢゃ足りっこないよ、一人に永くにつくことだね、金を貯めなきゃね。」とこの間自分の事は一云も云はずせっせと針を運んでいる。縫っているのは洗いざらしのシーツの端切れらしい「私ねオムツをこさえてんだよ、もう六十だもんね、こんなお婆ちゃんの事見ていると自分の行き先を見るようでね、シーツの古いのなんか貰ってさ、自分のオムツを縫ってんだよ。」

お婆ちゃんは七十八才と名札に書いてある。

「私ねワンマンの亭主にはほとほと倦ちゃってね、別れてしまいたいと思うのよ、今朝も喧嘩しちゃった、だから老後の為にこうして働いて少しでも貯金して置きたいのよ。」

白き部屋の記録25

億万長者

ピカッと来たと思ったらソ連の放射能だったよ。

こんなに黒くなっちまって、と腕をまくって見せる。

皺で出来ているような腕である。左の方は余り当たらねえと見えてきれえだよ、子供だったらたまらねえべぇ。

それに風の神が来て持っていっただからこんなにきれえだ、と腕をさするお翁さん。

背中があつい、もう死んだも同じだ、ほめた事じゃねぇ、と。

前立腺の手術をした人だとの事で来たのですが、これでは脳の方もどうかと思う。

八十三才、億万長者である云う。個室の患者さん、点滴の瓶を見上げては「おさき、酒はおめえが呑めや。」と息子さんの奥さんでお酒の好きな方であると云う。

翌日お婆ちゃんが見える。八十四才ですと御自分でおっしゃる、元気なお婆ちゃんである。

息子さん五人、娘さん二人であると云う。

今は楽になりましたが子供達が小さい頃は苦しい生活でした。夕方薩摩芋を掘って、夜中に出かけたものです。
お爺さんが車を挽いて私が後押しをしましてね、お昼までに東京の市場に着くにはそうしなければならなかったんですよ。

その翌日息子さんが見える、次男の方であるとの事、名刺をいただく、何何副議長、何何会長、肩書き一杯の名刺である。

「今宴会中なんですがね、抜け出して来たんですよ忙しくて忙しくてね。」とそそくさと帰へって行く。
長男御夫妻、三男、四男、娘さん、と暇を見ては現はれる夜の客、今はこうして割合少ない人数ですが一時お翁ちゃん危篤状態の時は全部集まって大さわぎでしたと日勤の方のお話。

何しろ億万長者であるという翁ちゃん、危篤だというので、翁ちゃんはそっちのけで兄弟が財産分けの事で云い争って喧嘩のようであったと、その為私の前任の夜勤の方は頭に来たと云って止めたのだと云うのです。

一寸目をはずすとお翁さんは点滴の針を引っこ抜くのです。そしてベッドから片足を出し、ベッドから降りようとするのです。ガヤガヤと騒ぐ人達の中で勝手に動くお翁さんを看病するのは大変な事に異いありません。

夢中で争っている人人の声は夜だから一そう響くのです。婦長さんに注意されてからおとなしくなっている処だそうです。
こうして廊下に居ると、バタバタとスリッパの音を立てて女の人が電話の前へ、「いやだよいやだよ私ゃやらないよ」と、二階にひびくような大声、大きな方です。男をもひしぐような大女。

兄弟話し合いの結果二人の付添はぜいたくだと、他の婦人会から一人で出来る人を呼んだのだそうでした。病院にも私ども二人の付添にも相談なく、大女の付添さんはお翁ちゃんとお婆ちゃんと点滴を見て状況をパッと見てとり「いやだいやだ」と駈け出して行ったと云うのです。年末休みの為先生も看護婦さんも少なくなります。「お翁ちゃんも暫くして大部屋に移って欲しい。」との事。お翁さん云はく「貧乏人と一諸は嫌だよ。」

白き部屋の記録23

白い水蓮紅い水蓮

水蓮は朝開き夜眠る。

一面に緑の葉の浮かぶ池、白い花赤い花。

池の縁には白いアヒルが二羽、向こうの縁には台湾アヒルが一対(ツガイ)、広く取巻く白い建物。

バナナの林が一群、長い葉をひろげて高い空をのぞいている。

長い橋のような廊下。

左手に竹林が広がる、孟宗竹の竹林心地よし。

筍がニョキ、ニョキ、と伸びもう親竹の高さに届いているのもある。

鍬を持った人が三人、さては筍を掘り行くらしい。

何と入院の人達であると云う。

烏一羽枝上に鳴く雑木林。

小高い段段があり、木造の横長の建物が茶にくすんで建っている。

奥へ奥へと建物が続いているらしいので、行ってみる、横長の建物は何と段丘をそのまま利用して建てたものである。

建物の間にある草原には雑草の他背の高い黄色の花が咲いて揺れている。木の物干に竹が一本渡してあり、シャツが干してある。

建物の廊下を通って見る。

二十代から三十代の男の人達が呑んびりと机の上に碁盤をおいて向かい合っている。

鍋を持って行く人もいる、さては筍でも煮て食うつもりか、売店は橋のような廊下を左に曲がり又右に行く、薬屋あり、菓子屋あり、床屋あり、何と元患者であった人の経営であると云う。

此処は結核療養所。

白き部屋の記録22

独り暮らし

団地の部屋で倒れている処を助けられて救急車で来たのだと云う小柄なお婆ちゃん。

ベッドから滑り降りて床にうずくまり、しきりにお辞儀をしている。

「お婆ちゃん、ベッドで寝てください、そんな固い床に座っては冷えるわよ。」看護婦さんは軽軽と抱えてベッドに移す。

どなたも良い方ばかりでと歯のない口で云うお婆ちゃん、差の云葉はよく分かるのですが尚も何かもぐもぐと語りかけるその言葉はさっぱり分からない、暫くすると又ベッドから降りて今度は床の上に横になっている。

「お婆ちゃん、フワフワのベッドがあるのに、何でそんな処に寝るのよ」、看護婦さんは又抱き上げる。

六人部屋で軽い患者さんの部屋です。

人人は不審がる、こんなお婆ちゃんが何故たった一人で団地に暮らしているのか、生活費はどうしているのか、息子さんは、嫁さんは、と。

私がそばに行くと、突然お婆ちゃんは、髪がいい髪ですね、とこれははっきり聞こえました。

そして自分の髪の毛を一握りグッと引っこ抜いたのです。皆驚きました。

お婆ちゃんの手にある灰色の髪、髪の毛があんなにまとめて抜けるものなのか、痛くないのか。

お婆ちゃんは云う「私の病気は六神丸でなおるのです、何時もそうなのです、六神丸を持って来てください、私の家にあります。」と、これは又はっきりした口のきき方です。

「私は嫁を追い出したのです、汚い事をする嫁を我慢ならないのですよ。」皆にはさっぱり分からない、何が汚いのか、どんなきたない事なのか、後で事情が分かりました。

嫁さんが売春をやっているのをお婆ちゃんが見たのでした、怒った息子さんは子供を連れて関西へ、嫁さんは家を去ったのであると。

お婆ちゃんは暮らしには困らなかった、御主人の恩給があったのです。

二日后「どうも皆様、ご迷惑をおかけいたしましていろいろお世話になります。」と現はれたのは誠実そうな御婦人、息子さんの新しい奥さんであると云う。

「電話をしてもお婆ちゃんが出ないので、事務所に問合せたのです、心配致しました。」と

六神丸ならぬ点滴を受けて、お婆ちゃんは安心して目を閉ぢ、お嫁さんは新しい寝巻を着せて上げるのでした。



   
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