2012年10月16日
白き部屋の記録38
おんかーかかみさんまいそーわか A
明るい廊下を調子のいい流行歌が走ってくる。
食器を満載した車に白い帽子、コック姿のお兄さん、次の車には頬っぺの赤いお姉さん。
若いことはいいなあ、と思いながらドアを開ける瞬間ギョッとする。
石膏のように白い顔に目の窪みが骸骨を思はせる丸い影を作っている。
「オンカーカカミサンマイソーワカ。」その顔は突然口を開いて唱えた。
ベッドにはやせこけた一人の老婆。
私の患者さんである。今日から一週間泊り込み昼夜通しの看病だ。
御主人であるお翁さんが看病疲れで休むと云うので一週間の約束、私もガクンとする思い。
「イチジク浣腸を買って来て下さい。」お婆ちゃんの声は蚊のなくような声でした。
病院で患者が何でイチジク浣腸を使うのか変だと思う。「浣腸は病院ですから看護婦さんがやってくれるんではないですか」と云って見る。
お婆ちゃんは首を振った。「一日三回はやってくれないの。」
何とお婆ちゃんは一日三回浣腸をやるつもりなのだ。それで浣腸三回、尿十五回と云う生活が始まったのです。昼も夜もお婆ちゃんは殆ど眠らない、ものの十分も目を閉じていると思うとすぐ目を開けるのです。結核であるのと、神経症なのであると云うのですがよく体がもつものだと呆れる。
浣腸は夜三回やる、その間「どうしてこんなに痛いのか看護婦さんと先生に聞いて下さい。」と繰返へす、血壓(ケツアツ)を計り痛み止めの注射をしても結果は同じ、度度の事に危険状態になるからと云はれても「先生は私の痛みを分かってくれない、こんなにつらいのに誰もわかってくれない。」と繰返すばかり、深夜も同じ状態、隣ベッドの患者さんも眠れないと訴える。私も全全眠る処ではない。
明るい廊下を調子のいい流行歌が走ってくる。
食器を満載した車に白い帽子、コック姿のお兄さん、次の車には頬っぺの赤いお姉さん。
若いことはいいなあ、と思いながらドアを開ける瞬間ギョッとする。
石膏のように白い顔に目の窪みが骸骨を思はせる丸い影を作っている。
「オンカーカカミサンマイソーワカ。」その顔は突然口を開いて唱えた。
ベッドにはやせこけた一人の老婆。
私の患者さんである。今日から一週間泊り込み昼夜通しの看病だ。
御主人であるお翁さんが看病疲れで休むと云うので一週間の約束、私もガクンとする思い。
「イチジク浣腸を買って来て下さい。」お婆ちゃんの声は蚊のなくような声でした。
病院で患者が何でイチジク浣腸を使うのか変だと思う。「浣腸は病院ですから看護婦さんがやってくれるんではないですか」と云って見る。
お婆ちゃんは首を振った。「一日三回はやってくれないの。」
何とお婆ちゃんは一日三回浣腸をやるつもりなのだ。それで浣腸三回、尿十五回と云う生活が始まったのです。昼も夜もお婆ちゃんは殆ど眠らない、ものの十分も目を閉じていると思うとすぐ目を開けるのです。結核であるのと、神経症なのであると云うのですがよく体がもつものだと呆れる。
浣腸は夜三回やる、その間「どうしてこんなに痛いのか看護婦さんと先生に聞いて下さい。」と繰返へす、血壓(ケツアツ)を計り痛み止めの注射をしても結果は同じ、度度の事に危険状態になるからと云はれても「先生は私の痛みを分かってくれない、こんなにつらいのに誰もわかってくれない。」と繰返すばかり、深夜も同じ状態、隣ベッドの患者さんも眠れないと訴える。私も全全眠る処ではない。
【このカテゴリーの最新記事】
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image
-
no image