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2020年02月23日

はてなの茶碗

京都のお話ですが音羽の滝が御座います。
その滝の前に茶店が在ります。

そこに腰を下ろしてお茶を飲んでいたのは
歳の頃は五十前後のどっから見ても大店の主の格好をした方。
飲み終わった後に不思議そうに茶碗をひっくり返したり、日に透かして見たり首をひねって「はてな?」と言って茶碗をそこに、茶代を置いて出て行った。

横で同じようにお茶を飲んでいたのは電気の無い時代、行灯に入れる油を荷で担いで売る油屋さんです。

おやっさん

なんじゃいな油屋さん

ぼちぼち出かけるわ

もう少しゆっくりしていったらどうだ

こんな所で油を売っても一文にもならん
出て行って油を売らないと

面白い商売だな

頼みが在るだけどな。荷を担いでいると喉が渇く
得意先で湯を飲ましてほしいと頼むと気良く出してくれるんじゃが手が油まみれだ
茶碗に油がついてしまって水でゆすいでも落ちない
気兼ねなく自前の茶碗が欲しいんだ
悪いので構わないから安く一つ分けて貰おうと思って

そんな事かいな
籠の中に仰山ある持っていき

タダで良いの?

長年の馴染みだ

偉いすまんな
それじゃこれを貰っていくわ

あぁそれはあかん
こっちの籠に入っている方をもって行き

なんでだ?
同じじゃないか

あのな、その茶碗を大事に、丁寧に置きなされ
お前さんは知るまいが先ほど、この茶碗でお茶を飲んでいた方は
衣棚に住んでる茶道具屋の金兵衛っている人だ
人呼んで茶金さんという有名な方だ
京一の道具屋ってことは日本一って道具屋だな
あの人が目を付けて、「この品は」と指を一本差しただけで黙って十両の値打ちになる
どこが気に入ったのか最前から裏返したり、ひっくり返したりして首をひねって「はてな?」と言って置いて行った
ひょっとしたら千両の値打ち物かも知れないから、これはあげられん
こっちのはあげるから持っていき

なんや知ってたんか
茶金さんがえらいひねくり回しているさかいな
値打ち物かも知れんから上手い事を言って持って行ったれと思って

何を考えて、、、油断も隙も無い
あかんで

ばれたらしょうがない
ここにな小判が二枚ある
それで売ってもらいたい

申し訳ないが二両や三両では売らん
一つ間違えたら千両品物

そんなこと言うなよな
お前だって茶金さんこなかったら今日か明日にも割っていたかも知れないのに
小判二枚になったら御の字じゃないか

それはそうだがわしも運試し
これが千両になるか五百両になるか、それとも一文の価値も無い品か分からないが
ちょっと置いておきたいから堪忍して

わしから先に声をかけたんじゃないか
あるだけ出して頼んでるんじゃないか
もっとあったらもっと出す身代限りだ


そうか、もう良い諦めた
その代りお前も儲けさせない
この茶碗たたき割ってやる

おいおい無茶するな

無茶はそっちだ
こっちはこれだけ頼んでいるのに
・・え?願ごて出る?
あぁ願ごて出たらええ、こっちの手は油だらけ粗相で割ったと言ったら申し開きが立つ
黙って二両を貰うか、割ってしまうかどっちがええ?!

しかし二両は殺生だ・・・
あぁ!!待った待った売る!売る!
もう諦めた
儲ったら歩でも持ってこないとあかんで

みなまで言うな
わしはそんなケチな人間じゃない
儲かったら必ず挨拶に来るさかいな
それじゃこの茶碗確かに買うたぜ


乱暴な男が在ったもので強奪するように茶碗を持って帰ると
どっかから手をまわしましたか桐の箱へ右近の布に包んでこれを納めます。
この時分、更紗の風呂敷が流行ったものでこれを包み
自分も身なりを変えて道具屋の手代みたいな恰好をしてやってきました。

ちょっと茶金さんに見て貰いたくってやって参りましたが

へぇい
ちょっと主が手を離せませんもので番頭の私が代わりに拝見いたします。

あんたはここの番頭さん?
立派なものだな、これだけ大きなお店のご番頭なら立派な商人だけどな
この茶碗だけは茶金さんじゃなければ分からないと思うけどな
茶金さんに見せたら五百両、千両の値打ちに見てくれるんだけど
ほかの人が見たらただの安物ものだと

いやいやどのような品物でも一応店を預かります番頭の私が拝見いたしまして
目の届きません節に主の方に

規則ならしょうがない、見て貰おう
けどな、これを見たら笑ったらあかんで

笑いやしません

いいや、笑うかもわからん
笑いやがったらどつくさかい

笑いやしません
茶碗どすかいな
拝見いたします。

なかなかいい風呂敷ですな更紗もこの辺になりますと結構で

風呂敷を褒めいでもええねん
中の茶碗を褒めて

分かっております
拝見いたします



この茶碗ですか?お間違いはおまへんな?

偉い折角ですが手前どもでは目が届きませんでどっか他所さんへご持参を

だらかお前では分からんって茶金さん出したらええんや
茶金さんならこれを五百両、千両と!

いや、これは主を見せましても同じことで
左様ならば申し上げますが、これはなんぞのお間違えではおまへんか?
これはどこにでも転がっております清水焼でも一番安物の数茶碗
どこを見て五百両、千両と・・・
私かて商売人どすがな
そんな無茶を仰ったら(笑)

バシ!

何しなさる!

笑ったらどつくと始めっから言うてるやないか!
人の品物を見て!茶金さん出したらええんや!


店が騒がしいがどうした?

茶金さん、あんた見て欲しくて来てるのに
番頭のガキが横から出しゃばりやがって
人の品を見て鼻の先で笑ったりするさかい

人様のお品を拝見して笑うという事があるかいな
あんたもあんたじゃ
手をかけなさらいでも宜しい
私が拝見いたします。

あんたに見て貰ったら千人力だ
千両、五百両っていう品物さかいなこの茶碗

茶碗どすかいな
拝見を致します。



こ、この茶碗、、ふっ

あんさんに笑われたら心細いで
良く見ておくなされ

ちょいちょいあんたみたいなお方がお越しになる
妙なものを持ってきては五百両の千両言って
粗相でこっちが傷でもつけたらそれで因縁をつけて金にしようと
いやいや、あんさんがそうだって言うてんじゃない
ちょいちょいそういうお方があると申しております。
またそう思われてもしょうがない
番頭が笑ったのももっともな話どこにでも転がっている安茶碗

あんた箱から出しもせずそう言わはんな
もっと手にとて裏返したり、透かしたりしてみてなぁ
ほんまに値打ち無いの???
ただの安物か?

こら!お前さんくらいの人間になったらな世間の物はみんな知ってんねん
どこで迷惑する奴がおるか分からんのじゃ
ややこしい茶の飲みようさらすなよ

ややこしい茶の飲みよう??

あんたな、四、五日前に清水の滝の前の茶店で、この茶碗で茶を飲んでだろ

そぉか、どっかで見たようなお人じゃと思ってたら、傍におった人じゃ
もの言いましたがな、確か油屋さん

油屋さんやないわい
何でもない茶碗ならさっさと出て行かんかい
中のぞき込んだり、裏透かしたりして首ひねった後に
「はてな?」っと言って置いてったんや
あんたみたいな人が首にひねった後に置いてったんだから
これは掘り出し物だと思って茶店の親父と喧嘩までして・・二両

お前らはなぁ小判の二枚ぐらいどうってことないかも知らんがな
荷担いで、油売って回って小判二枚貯めようと思ったらな並大抵な事やないぞ
三年間食うもんも食わんでやっと貯めた小判放り出して来たんだ
何でもない茶碗ならなんで可笑しな真似しやがった

ちょっとお待ち
この茶碗どしたかいな
私お茶を頂いておりますと、茶がポタポタっと漏りますんでな
おかしいなぁ、ひび割れもあるかと見たら傷も無ければ
釉(うわぐすり)にもの何のさわりもない茶碗だけど茶が漏る
不思議な事があるもんだなぁと思い「はてな?」って言うて置いて帰った

・・・んなおかしな話ないでぇ
これ傷もんか?!
あ゛ぁエライことしたな
聞いておくんなされ実は大阪なの人間で極道が過ぎて親父に勘当された
しゃないさかい京に出てきて荷を担いで油を売って歩いてたけど
担ぎの油屋じゃうだつが上がらない

ぼちぼち親父も寄る年波や
久しぶりに顔を見せたいと思ってもまとまったものを握らな敷居が高くって
やっと貯めたこれで一山当てることが出来なか探していたら
あんたが茶碗をひねくり回している
これはと思って・・・誰も恨むわけにはいかんわ
博打はって目と出なかった
あぁ三年間棒の振ってもうたか
えらいすみません、そんなんさかい悪く思わんでくれ

まぁまぁちょっともう一遍お座りやす
あんさん大阪のお方?
そうでっしゃろうなぁ、京の人間はそんな真似は出来ん
やっぱり商いは大阪ですなぁ
たったそれでかの思惑で、失礼ながら二両と言ったらあなたには大金じゃろ
それを放り出しなさった
言わば茶金という名を買うて頂いた
あんたに損させてはわしの気が済まん
この茶碗、私が買わせて頂きます。

千両で?!

いやぁ千両では買わんがな
元での二両にもう一枚つけさせて頂きます
ここまでの足代、箱代、風呂敷代などとして納め下さい。
あんた一山当てようという気を犯したらあきません。
長年やっていても掘り出し物を探して損をするのはこの道や地道にお稼ぎやす。
親御さんだって憎くって勘当したわけじゃなかろう
あんたが三年間固く奉公し、一生懸命働いた
それが何よりも親御への土産じゃ
このお金をもって一日でも早く顔を見せに帰ってあげなされ

あほらしい、何を言ってなさる
己が勝手に思惑をはって当たったらわてが儲けて、外れたらあんさんが出してくれる。
そんな虫の良い、筋が通らん。
いやいや、そんな厚かましいことが出来まへん
いやぁあ、、
ねぇ・・・
なんぼなんでも・・

え?左様か?
実は明日油を仕入れる金もありませんのや
エライすみませんなぁ
そんならなぁこれはお借りいたしますわなぁ
いつ返せるか分からんが何とかなったらお礼と一緒に参上いたします。
この茶碗はどうぞ

こんなの要らんさかい持って帰りなされ

百貫のかたに笠一蓋ということも、まっまぁこれだけでも取っといて!
番頭はん堪忍しておくれよ
それではお騒がせいたしました
さようなら!!

逃げるように帰って行きました。

茶金さんくらいになりますと良い所にも出入りしております。
関白鷹司公のお屋敷に参上した折の話

茶金、最近世情で面白い話はないか?

この間手前どもの店でかようこのような事が御座いました。

それは面白い
麿(まろ)もその茶碗が見たい


早速人を走らせて茶碗を取り寄せました。
関白さんが水を注いでもやはりぽたり、ぽたり
覗いても調べても傷は無い

はてな?

面白茶碗だと短冊をとり
「清水の音羽の滝の落としてや茶碗もひびにもりの下露」

面白い狂歌がこれに添えられました。

公家さんたちの間これが評判になりその噂でもちきりです。
これが時も帝の耳に話が入りました。

朕も一度その茶碗が見たい

偉い事になりました。
茶金さんは桐の箱を新調致しまして、右近の布も更紗に変えて
精進潔斎して茶碗を御所へ持参いたしました。

どんな方の前に出ましても
茶椀に水を注ぐとぽたり、ぽたり

覗いても調べても傷は無い
面白い茶碗であると筆をとり箱の蓋に万葉仮名で
「波天奈」と箱書きが座った。

偉い値打ちものとして茶金さんの所に帰ってきた。
大阪の金持ち鴻池善右衛門がその話を聞いて

茶金さんその茶碗を千両で売って頂きたい。

有り難い事で御座いますがなぁ
尊い方の筆が染まったのでお売りする訳には参りません。

そんな事を言わんでなぁ
儂はその茶碗で一回茶会をやってみたいんじゃなぁ
その茶碗を一回預からして、あんたに千両を貸そうじゃないか
儂から千両借りてくれ、そして抵当としてとる。
質として千両貸すさかいはよ流せ。

偉い手間のかかる話ですが、早く言えば千両で売れという事です。
これをあの油屋に知らせてあげれば喜ぶだろうと思いますが
油屋は極まりが悪いので近所を通らないようにしています。

ある日の事

旦那

なんだい?

この間の油屋さんが隣の町内を歩いていましたよ

早く行って捕まえて来なさい!


え?!
誰や?引っ張ってくるのは?
ん?茶金さんところの子供さんじゃないか
え、旦那が会いたいって?
面目なくって会えるわけないじゃないか
そんなにひっぱたら油がこぼれるじゃないか

おぉ油屋さんこっちへ入ってきておくれ

茶金さん、こないだの三両返せって言ってももうないで

返せとは言わん、話があるんじゃ
まぁまぁそこへお座り
実はなあの茶碗

うわぁ!その話はせんように
茶碗と聞いただけで脇の下から冷や汗が出る

まぁ聞いておくれ
あれが千両で売れたんじゃ

・・・・え
そういうやつかお前は?!
京の人間はえげつないとは聞いていた
傷もんじゃ傷もんじゃと言って三両で値切って

まぁちょっと話を聞きなさい

え、
えぇ・・・
へぇ・・・
あの茶碗が・・・
鴻池さんが千両で!
恐れ入ったなぁ茶金さん
あんたは偉い人だなぁ
わしが持っていたら傷もんの茶碗、一文の値打ちも無いわ
あんたが持っていたからあれにそれだけの箔が付いた
仁徳でっせ茶金さん。良い話を聞いた
胸につかえていたんだけどその話を聞いてスーッとしたわ
これで気持ちよく商いが出来ます。
どうも有難う

ついてはわしはこの金を懐に入れるつもりはない
元はと言えばあんたがあんなものを持ち込んできたから起こった事
問い会えずは半分の五百両持って行ってもらおう
こんだけあったら大きな顔して大阪へ帰れるだろう
残った五百両は、この頃この京でも随分困っている方が大勢いるようになった
わしはこの金で出来るだけ施しを行いたい
取りあえずなこの五百両はあんたに持って帰ってもらわないと困る

何を仰ってるんです?!
渡した茶碗は三両貰った時に縁が切れております。
あれがこうなったのはあんたの仁徳でできたこと
筋が通らん

いやぁ五百両も貰えますかぁ

そんな厚かましい事・・・


左様か
それではこの中から、この間の三両を引いてもらって

三両くらいどうってことない

番頭さん小判五枚
この間頭を殴った膏薬代や
気にしてたんや、あんたが貰わんとわしもこの金貰いにくいんや
それとわしを見つけてくれた子供さん小判三両小遣いとしてとっておいて
それからお店に入る方に一枚ずつ

これこれ!小判をまきなさんな
大事にせなあかんで

これからな清水の茶店に行って親父さんを喜ばしてくる
有難う!


茶金さんも良い事をしてやった
これであの油屋さんも大阪に帰った事であろうと思っております

それから暫くたったある日のこと
表で騒がしくして何事かと覗いてみると
大勢の人が揃いの浴衣に向こう鉢巻でこっちに向かってきています。
一番前で扇子を広げて音頭をとっているのはあの油屋さん

偉いやっちゃ!偉いやっちゃ!
そこの家じゃ!担ぎこめ!

これ油屋さん

茶金さんか
十万八千両の金儲けじゃ

どうしたんじゃ

水がめの漏るやつ持って来たんじゃ



タグ:茶金 大阪 名作
posted by 落語の世界 at 16:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | 落語
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