2017年08月18日

往年の大スターが顔を揃える昼ドラマ 『やすらぎの郷』(3)

◆ 『グラン・トリノ』か、往年の日活アクションか!

やすらぎの郷
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 連ドラはまったく観ないのだけれど、4月から放映されているテレビ朝日系の『やすらぎの郷』は1話も欠かさず観ている。先週の金曜日(8月11日)は裏で雨上がり決死隊・宮迫の不倫生釈明があったから(こんなオモロイもの、見ないわけにはいかない)、生では「バイキング」(フジテレビ)を観て、『やすらぎの郷』はあとで録画で観たのだが、それにしても今週からこんな展開になるとは・・・。

 このドラマの癒やし的存在、養老施設内のバー「カサブランカ」のバーテンダー、ハッピー≠アとゆかり(松岡茉優)が地元の暴走族に輪姦され、その仇をとろうと施設内の男性スタッフ達が動く。まず暴行されたハッピーを助けた、彼女に気のある一馬(宮下勇樹)がゾクの働く工場に押しかけ、徹底的にブチのめされて、その姿に男スタッフ(施設の男スタッフ達はみな一時ヤバイ稼業にあった前科者や保護観察中の方々)はいきり立ち、早速、ハッピーと一馬の敵討ちを計画。
 そのことを察知した郷の住人・原田(伊吹吾郎)と那須(倉田保昭)、そして秀さん(=高井秀次、藤竜也)は、男スタッフを説得し、自分たちで落とし前を付けると宣言。勇躍、ゾクのたむろするスナックに乗り込む・・・ってのが第96〜99回(8月14〜17日)の放送内容。


 このドラマ、中高年の視聴者向けに企画されたシルバータイム・ドラマってことで、お昼のど真ん中、『徹子の部屋』のすぐ後に放送されるってのに、そんな時間帯に輪姦=Aレイプなんてもってきちゃっていいのかな、と心配した。描写としては昔のテレビドラマみたいに行為そのものを描いて見せてはいないのだけど、それにしても・・・といらぬ心配をまずはした。
 で、その後、一馬が自分がグレてた頃の仲間、すなわちハッピーを襲ったゾクの勤める工場に乗り込んでケンカするのだが、この件にしても、またヤラレた一馬とハッピーの敵討ちに出ようとする男スタッフにしても、なんというか、昭和の青春映画(ドラマ)的なノリを感じてしまうのです。これには少々、マイリました。

 昔だったらそういくかもしれないが、ネット、SNS、スマホ全盛時代の今(21世紀)ならば腕力でいかなくとも、ITを使ってもっと楽にゾクを追い込めることができるハズ。でもそうした簡便でスマートなITとは縁のない秀さん達にとって、落とし前を付けるとなれば、やることはひとつ(ケンカ)。秀さん曰く、

「今の法律はやわですからね。きっとヤツラもタカくくってンですよ。
 痛めつけてやンなきゃ、判らんですよ、アイツラ」


と言って腕力に打って出る。そして、ゾクをたたきつぶすのは老人の、すなわち老い先短い自分たちの仕事だ、とばかりに高井秀次以下3名は若くて凶暴なゾクの根城に突入し、大立ち回りを見せる。

 これはまるで『グラン・トリノ』(平成20=2008年)でクリント・イーストウッドが演ったウォルト・コワルスキーだ。自分より若い者のために身体を張って悪に立ち向かう、という犠牲的精神、誇り高き老いぼれの男の美学

 とはいえ、『グラン・トリノ』のイーストウッドは腕力や武器を使って悪とは闘わない。ただ撃たれて死ぬだけであったが、やすらぎの3人は闘うんですな。日活アクションの石原裕次郎小林旭、はたまた東映仁侠映画の(高倉)健さんみたいに・・・。


グラン・トリノ
▲ 『グラン・トリノ』(2008・米) 監督・主演:クリント・イーストウッド
ブルーレイ(2D) 2381円(税別) 
販売・発売:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 
https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=2661/
コピーライトマーク2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 この殴り込みの前に、倉田保昭がケンカ道具の中にあったヌンチャクを手にとって、バサッ、バサッ、バサッと振り回すシーンがあるのだが、懐かしかったねえ。『闘え!ドラゴン』(昭和49=1974年、東京12チャンネル)を思い出したゼ! しかも倉田さん、愚連隊のゾクをぶちのめすときに、脚を真横に挙げての水平キック!!! やー、まだ脚上がるんだなあ(と感心)。 それにこの蹴り方! 『Gメン'75』(昭和50〜54=1975〜79年、TBS)でなんぼ見たか。

 こうした派手な趣向も面白いのだが、例えばテレビドラマでセット美術を手がけたベテラン美術マン・ちのやん(=茅野大三郎、伊藤初雄)とその妻のカメコ(=茅野順子、長内美那子)が日をまたいで共に息を引き取る挿話(第71〜73回)も印象的だった。末期ガンで病床に伏していたカメコが亡くなる第72回の次の73と74回の「やすらぎの郷」のタイトルだけが、雨のそぼふる青に染まった悲しい色調にしてあって、その細やかな心配りに感銘を受けた(このタイトル、8月7日の第91回よりイラストが夏の草原から秋の草原に変わっている)。
 それに長内美那子さん! 私がガキの時に、淪落の恋に身を焦がす昼メロのヒロインとか時代劇に出てくる綺麗な町娘、武家の御妻女なんて役をなさっていて、憧れたもの。病床で亡くなる間際の役だから、囁くというか呻くような感じで台詞はほぼなかったが、その容姿は綺麗にお老けになったというか、若い時分のしとやかな美しさを備えていて嬉しかったし、若い頃の容貌が遺影の中にチラッとのぞいて、感動した。

 放送は9月末までだから、あと1ヶ月。一体、これからどんな事件が起こるのかな。


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『祇園の姉妹』や『浪華悲歌』で日本映画にリアリズムを打ち立て、『西鶴一代女』『雨月物語』などの名作を放った溝口健二の人生を、伊藤大輔・小津安二郎・黒澤明などのライバル監督&スタッフとの確執とともに描いた 『 ラストシーンの余韻 』、紙の書籍で発売中!

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2017年07月07日

日本の映画監督 天才監督・山中貞雄の皮肉な運命 <最終回>

◆ 山中貞雄に会ってみたい

 そうなのだ、山中貞雄は中国戦線に征かずにすんだのである。

 山本監督の本で紹介されている経緯が本当ならば、彼は日本に残っておれたのだ。戦争に行かずに、スタジオに戻ってまた映画を撮れたのだ。
 それが・・・召集した兵士が多すぎて、一旦、除隊させるとなった中に山中もいたというのに、その夜に自殺し損なった律儀な忠義者のせいで、再び戦地送りとなってしまったのだ。

 まったくなんてことだ! なんてことなんだよ!
 その作品を観た誰をも魅了する、素晴らしい映画を創った天才をむざむざ犬死にさせてしまうなんて・・・。

 悔しい、悔しすぎる・・・『丹下左膳餘話 百萬両の壺』みたいな、現代感覚満点のハイカラ&洒脱な時代劇コメディを作り得た天才を亡くした俺たちには、一体ナニが残っているというのだ・・・と「山中を偲ぶ会」で囁かされたかどうかは知らないが、おそらくそんなことでみなが沈んだ気持ちになった事は想像できる。

 今公開中の『ハクソー・リッジ』で敵も味方もとにかく助ける非武装の衛生兵(デスモンド・ドス)は見上げた信念の徒だが、除隊することになった応召兵がそれを恥と感じて死のうとしたのも信念の証。私ならデスモンドの生き方を選ぶ、と言いたいところだが、その時代に生きていなかった自分に果たしてそれが出来るかどうか(できないね、きっと)。おそらく自殺しそこなった応召兵や山中貞雄らと同じように、なすすべなく戦地に赴いたに違いない。

 戦時下というのは、そんな無力な、無慈悲な、異常な時間である。

 山中貞雄の皮肉な戦場送り、そしてその死は「戦争は悪だ」という当たり前のことを、改めて思い起こさせてくれる。


 因みに、私にはあの世に行ったら、肉親や友人以外に会ってみたい人が3人いる。


     伊藤大輔、小津安二郎、そして山中貞雄がその3人だ。   <完>


丹下左膳餘話 百萬両の壺
▲ 『丹下左膳餘話 百萬両の壺』(昭和10=1935・日活) 出典:amazon

<山中貞雄・餘話>
 今から15年くらい前の日曜の昼下がり、録り溜めたビデオの中からヒョイと選んで再生。オープニング・タイトルもロクに見ずに・・・ということはなんの映画かも知らずに観ていたら、なんとも言えない心地よい軽いタッチ、いや、その巧妙なる仕組みと演出にただならぬものを感じ、情婦の尻に敷かれた滑稽な大河内傳次郎のズッコケ左膳に大笑い。コメカルな作風がモダンなストーリーテリングとあいまって光り輝いている事に驚愕した。

       そーか、これが『百萬両の壺』か! これが山中貞雄なのか!!!


 巻き戻して見直したタイトルこそが『丹下左膳餘話 百萬両の壺』で、私は背中にゾクゾクッと嬉しい寒気を感じたのである。


※出典および参考文献
●『映画監督 山中貞雄』 加藤泰、キネマ旬報社
●『カツドウヤ水路』 山本嘉次郎、筑摩書房
●『日本映画監督全集』 キネマ旬報社
●『日本映画俳優全集・女優篇』 キネマ旬報社


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2017年07月03日

日本の映画監督 天才監督・山中貞雄の皮肉な運命 <4>

◆ 山中貞雄は戦地に征かずともよかったのだ!

カツドウヤ水路
▲『カツドウヤ水路』山本嘉次郎、筑摩書房
※同書は『続・カツドウヤ水路』等と合本され、『伝記叢書301 カツドウヤ自他伝(伝記・山本嘉次郎)』として大空社から刊行。


 山中貞雄はなぜ死ななければならなかったのか−−その重い運命は『やすらぎの郷』とは遠く離れてしまうのだけど、ついでだから紹介しておきたい。

 その、歯ぎしりしたくなるような皮肉な運命は、溝口健二を調べている時に読んだ山本嘉次郎監督の本の中にあった。以下にその全文を掲載するが、私は山本監督の本から抜き書きしたこのメモに、

         「運が悪いとしかいえない、山中の召集と戦死への道」

 というタイトルを付けた。読めば判るが、その道筋は運が悪い≠ニしか言えないのだ。


 彼〔山中〕の生れは京都だったので、伏見の連隊へ入隊した。そして、師団のある福知山へ集結させられた。
 そこで解除になったという電報が、東京の知人にとどいた。
むやみに召集したので、員数が余ったのである。その余ったなかに彼が入っていた。彼は帰されることになった。
「サドやん(山中の愛称)アゴが長いよってン、あいつのアゴに合うアゴヒモのシャッポンあらへンよって、帰されたンとちがうかいな」

 ところが、当然帰京して来る日がきても、彼は姿を見せなかった。心配して調べてみると、
彼の召集解除は取消しになって、ふたたび召集されてしまったことが判った。それには次のような事情があった。
 彼は除隊になり、その夜は他の除隊になった壮丁(つまり兵隊適合者である)たちと、福知山の駅前の旅館に同宿した。その夜更けに、
ひとりの自殺者が出た。短刀かなにかでノドを突いたが死に切れずに、大騒ぎとなったのである。自殺は未遂に終った。
 憲兵が飛んで来て事情を取調べると、その男は、
「歓呼の声に送られて、故郷を出て立って来たからには、
いまさらオメオメと生きては帰れません。今回は不幸にして一命を取り止めましたが、かならず死んでこの恥をそそぎます」
 というのである。これが憲兵から連隊長へ伝えられた。
「それほどに思いつめているならば……」

 男は、再び入隊が許されることになった。
「…(略)…。ほかにも再入隊志願のものがあろう。…(略)…」
 連隊長の好意のこもった言葉が同宿の青年たちに憲兵によってもたらされた。みな、われもわれもと再入隊を志願した。山中ひとりが、
「わたしは、ちがいます。帰してもらいます」とはいえなかった。
 そして彼は、みなと一緒に、ふたたび「帰らざる旅」へ出発してしまったのである。おそろしいことである。


 こうして山中は、行きたくもない戦争へヒョンなことから連れて行かれ、徐州会戦を前にして悪性の腸炎のため、あたら天才を中支の泥土のなかに埋めてしまったのである。
                 (『カツドウヤ水路』山本嘉次郎、筑摩書房) ※〔〕内、高村註。

 これを読んだ時、二、三日、気分が悪かった。持って行き場のない怒りがこみ上げてきて、腹が立って仕方がなかった。 <続く>

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2017年07月02日

日本の映画監督 天才監督・山中貞雄の皮肉な運命 <3>

◆ 山中の位牌の前で涙して・・・

映画監督 山中貞雄
▲『映画監督 山中貞雄』 加藤泰、キネマ旬報社


 女性に奥手な山中貞雄は映画で起用した深水藤子を気に入ったものの、積極的に口説いたりすることもなく、でもなんとなく気に入っているようだった・・・というのが山中関連の映画本(今、それが稲垣浩監督の本だったか、上記の加藤泰のだったか、どの本だったか判らないが)で知った二人の仲で、深水の方が「山中にお嫁さんにもらってもらえるのなら・・・」と乗り気だった、と書いてあった記憶がある。
 深水の本名は安田富士子、「安田」でピンと来る人もいるだろうが、彼女は後に大映でプログラム・ピクチュアを撮った安田公義監督の妹である。山中の作品には『国定忠治』『丹下左膳余話 百萬両の壺』『関の弥太ッぺ』『街の入墨者』(以上、すべて日活京都、昭和10=1935年)などに出演。この『街の入墨者』の頃から山中との仲が囁かれるようになる。

 ところが山中は兵役に取られて戦地に去り、そのまま北支戦線(中国)で戦病死してしまう−−昭和13年9月17日。数えで三十、満で二十八歳と十ヶ月(二十九歳)であった。

 内地(日本)には10月になってから悲報が届き、東京や京都で「山中を偲ぶ会」が有志によって数度開かれ、追悼上映会なども催された。
 そんな10月のある日、山中の位牌が置かれた京都の(貞雄の)長兄・山中作次郎宅を深水藤子は訊ねている。

 ……山中貞雄の位牌は、父、喜三右衛門、母、ヨソの位牌とともに置かれ、映画監督山中貞雄の写真が飾られ、燈明、供物が絶やさず供えられてあったのである。深水藤子は、その位牌に線香をと挨拶し、通されて、その仏壇の写真と対面したのである。そのときのことを〔貞雄の〕姪の道子がこう語っている。
「それでね、戦死、聞いたときに、(深水さん)家へ来はって、で、お仏壇にお詣りしはって、ちゃんと坐ったまま、しばらく動かはらへなんだもんね。ポロポロポロポロ、涙こぼして。うちら……どうしよう、言うて……。なぐさめようもないし。だいぶ長いこと坐ってはった……」
                      (『映画監督 山中貞雄』 加藤泰、キネマ旬報社)


 ずっと後年、深水藤子が山中について語った記録(インタビュー)もあるのだが、それがどの本の中にあったか判らないので、引用できない。引用できないけれども、上記の『映画監督 山中貞雄』の一文を読めば、深水藤子がいかに山中を慕っていたか、愛していたかが判ると思う。

 『やすらぎの郷』の姫こと九条摂子と千坂監督の悲恋もこんな感じじゃないのかなあ・・・と想像するのはとても楽しい。楽しいけれど、私が紹介したいのはこういう戦火の淡い悲恋話ではない。

 山中貞雄はなぜ死ななければならなかったのか、という重い運命についてである。 <続く>


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2017年06月28日

日本の映画監督 天才監督・山中貞雄の皮肉な運命 <2>

◆ 出征後、山中の家を訪れた深水藤子

深水藤子250
▲ 深水藤子(右上)
出典:ウエブサイト「昭和モダン好き」=「雑誌記事「深水藤子・吉野朝子・八雲理惠子・大川平八郎・藤原釜足」(1935)」より   http://showamodern.blog.fc2.com/blog-entry-1294.html


 昭和12年8月に山中貞雄が出征した時、彼はすでに京都(日活)を去って上京しPCL(現・東宝)で映画を撮っていた。彼は東京の青山南町に家を借りており、ここには友人で映画監督の滝澤英輔(本名・滝澤憲、名作『雄呂血』などの監督・二川文太郎は彼の兄)と同居のような状態であったが、そんな男所帯に「映画界で働きたい」と山中の従兄弟・加藤泰が押しかけて一緒に住むことになる。
 だが山中はPCL入社第1回作品『人情紙風船』(昭和12=1937年、山中作品としては21本目)を発表してすぐに戦争にとられる。

 かつて山中貞雄監督が召集令状を受け取った時、手が震えて煙草の火がつかなかったという話を聞いていた…(略)…。

 と書いたのは松竹大船の監督・吉村公三郎だが、吉村は赤紙が来た時、この山中の話を思い出し、わざと煙草に火を付けて吸ってみた。手が震えて火が付かないなんて事もなく、煙草の味も変わらなかった、と自著『あの人この人』(協同企画出版部)に記している

 山中は赤紙を恐れていた。それは、戦争に行けば自分は死ぬ、と判っていたからではないのか。
 作品論を挟むと長くなるのでやめたいが、『森の石松』など山中貞雄の後期の作品はおしなべて「暗い」との評判で、それを稲垣浩ら鳴滝組の仲間達は心配した。遺作の『人情紙風船』を観れば、生きるのを投げたようなその「暗さ」がいやというほど判るが、それが後に戦死する彼の運命を暗示していた、とはよく言われることである。

 主の山中なき青山の家で、一人留守番をすることになった加藤泰は、日がな一日、山中が置いていった本を読んでいた。すると玄関の方で声がした。

 それでノソノソ玄関に出て行った。パーッとその目に華やかなものが飛びこんだ。小柄な、目のパッチリした丸ポチャの、この世にこんな綺麗な女がいるのかと思うような女がそこに立っていた。その母親らしい年配の婦人がその横に立っていた。「山中さんは……?」とその年配が口をきいた。ぼくは飛び上がって坐って、シドロモドロで、「もう出かけた」という意味のことを口走ったようだった。綺麗で若い方が、その大きな、鈴を張ったような目をしばたたかせ、何か言って急いで、丁寧に腰を折って、二人は去った。 …(略)…。
 そして、ああ、深水藤子だったと気がついた。(『映画監督 山中貞雄』加藤泰、キネマ旬報社)


                                          <続く>

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2017年06月27日

日本の映画監督 天才監督・山中貞雄の皮肉な運命 <1>

◆ 『やすらぎの郷』第61話の〔 姫と監督 〕って・・・

やすらぎの郷
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 事件に継ぐ事件・・・といっても老人ホームのささやかな内輪揉めの連続であるが、老人ホームとはいえ入居限定の超高級な施設で、時代を彩った大物スターやバイプレーヤー、タレント、裏方のスタッフといったテレビ黄金期の要人たちが群れ集う、昼ドラマ『やすらぎの郷』は相変わらず快調だ。

 藤竜也扮する女殺しの二枚目スター・高井秀次の情けないギックリ腰事件や、富士真奈美が演じた落魄した元人気女優・犬山小春の限りなく切ない末路などを見、その折々に笑って泣き、特に犬山小春が歓迎会で物語ったNYで知り合った俳優の話(社長の座を放り出して50代で俳優を目指し、ついに『セールスマンの死』の主演を演じるようになった)は感動的で、胸に迫った(でもこの話、どこかで聞いたことがある)。
 そして野際陽子さんの死・・・こういった番組内外の事件について、【往年の大スターが顔を揃える昼ドラマ 『やすらぎの郷』(1)(2)】〔2017年4月6日付〕と同じようにリアルタイムで触れたかったが、野暮用に時間をとられて当ブログに書けずじまい。

 そうしたら6月26日放送の第61話、八千草薫扮する往年の大女優・九条摂子が、昔のロマンスを語るメランコリックなシーンを見ていたら、天啓のように背中にビビッと電流が走った。


       アレ、これはもしかすると、山中貞雄深水藤子のことなんじゃないか、と。


 九条摂子は戦前からの生き残りの大スターで、姫≠ニいう愛称で呼ばれている老女優。90歳を超えながらカワイイ容姿と物腰を有する、といった設定は宝塚歌劇団時代にお姫様役を演じていた八千草さんにはピッタリすぎるほどだが、その姫は自分を映画界に引っ張り上げて女優として磨いてくれた監督の千坂浩二(石坂浩二と一字違い)とアツアツで、熱愛の関係にあった。だが千坂監督は出征して戦地で亡くなる。以後、姫は誰とも結婚せず、その純愛を胸に秘めながら女優業を続けた。彼女は生前、千坂監督の爪をもらっていて、監督が亡くなったと知った時、悲しさのあまり、それをポリポリ食べた・・・というのが61話の内容だったが、戦死した映画監督ととり残された美人女優というキーワードは、日本映画界随一の天才監督との呼び声が高い山中監督と、彼の映画に出演してつかず離れずの仲であったという深水藤子を想起させずにはいられない。

 『やすらぎの郷』の作者・倉本聰さんは、映画界・芸能界に伝わるのゴシップや伝説などを巧みに織り交ぜてストーリーを進めているようだから、もしや、とも思うが、九条摂子と千坂監督の話は山中貞雄とはなんの関係もない、ただの似かよった話ってことかもしれない。それでもそれに<強引に>託けて見るのが映画ファンの楽しみであるから、この連想、間違いであったとしてもくれぐれもお許し願いたい。 <続く>

山中貞雄監督
▲ 山中貞雄監督 出典:ウエブサイト「DrillSpinデータベース」
http://www.drillspin.com/person/view/ARDSA0835723


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2017年06月26日

新作プレビュー 『 ハクソー・リッジ 』

◆ 今まで作られた戦争映画の中で、最高の1本かもしれない

ハクソー・リッジ
▲ 負傷兵を助けるために、武器を持たずに(?!)戦場を駆け巡る、
アンビリバボーなデズモンド(アンドリュー・ガーフィールド、中央) 
 (C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016



    こんな人物(へいし)が、あの時代、あの戦場(オキナワ)にいたなんて・・・。



 奇蹟を超えたなにものかに突き動かされる、炎のような誠実さと凄惨な戦場に胸をえぐられる、
真実の史実(ものがたり)。



              見るべし!!!




https://youtu.be/w20WhNIxySk

       ★★★★ 『 ハクソー・リッジ 』 公式HPhttp://hacksawridge.jp/


ハクソー・リッジ・ポスター
▲ メル・ギブソンの監督作品としては間違いなくベスト!
(C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

■  6月24日よりTOHOスカラ座ほか全国でロードショー  配給キノフィルムズ  ■


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2017年05月25日

新作プレビュー 『カフェ・ソサエティ』 (最終回)

◆ もうすぐ何かが終わるような・・・恋愛手帖の終章?

 ヴォニーに振られたボビーは、失意のままNYに戻っていき、そこで第二の人生を始める。そこで当初考えていたものとは違うけれど、かなりなサクセス・ライフをゲットする。あまり詳しくは書かないが、美人妻(ブレイク・ライブリー)を娶り、所帯を持って幸せ満喫。と、そこへかつての恋人ヴォニーが現れて・・・という第三幕がこの後に準備されているのだけれど、本妻にだまってヴォニーと逢うということが、かつてボビーが彼女にやられた背信行為を今度は自分の妻にしてしまうという皮肉な展開となり、それはいかにもウディ・アレンらしい展開ながら今回はそれだけでは終わらない。いや、それだけでは終わっていないような気がするのです。


数年後、再会した二人
▲ ボビーはヴォニーと道ならぬ恋に・・・。
Photo by Sabrina Lantos (C) 2016 GRAVIER PRODUCTIONS, INC


 言ってしまうと、今回のラストシーン、どこか未練ありげで、そしていつになく歯切れ良く終わらない。良く言えば《悠揚迫らざる》、悪く言えば《フラフラし続ける》キャメラワークにそれを感じる。
 その未練なキャメラの揺れ(横撮影)は、アレン氏がまるで今までの自分がしでかしてきた不埒な恋愛事件を、またはスキャンダルを反芻するかのような《心境》に思え、はたまた自分に関わった女性達をこの『カフェ・ソサエティ』のヒロイン2人(元恋人と本妻)にダブらせて集約させてしみじみと概観しているような、そんな感じに私には思えました。

       それは、まったくの思い違い、思い過ごし、なのかもしれない。

 それにその流れでいくと、
「じゃあ、コレはウディ・アレンの集大成? もう彼は映画を撮らないの?」
となってしまうのだが、そんてことはない。アレン氏はもう今年製作のプロジェクト(原題『Wonder Wheel』)に入っている。なぁ〜んだ、まだまだ撮る気じゃん・・・。

 でも、あのアレン氏の名声を失墜させた養女(幼女)への性的イタヅラとか、ミア・ファローと別れてその養女と結婚し、その女からもセクハラ行為を暴露された近年の騒ぎなどの事は映画には出てこないのだけれど(そりゃ、映画で少しでもそれを臭わせればマスコミに嗅ぎつかれてあることないこと書かれ、終いには逮捕されるもの。だから自分でそれを臭わせるわけがない)、それ以外の彼自身の女性関係について、冷めたというか諦観めいた心境を示したのが今回の『カフェ・ソサエティ』だという気が私はしている。

 ウディ・アレンの遺言と見ても良いけれど、さっきも書いたがまだ撮ってるんでね。今回の作品はその下書きってところかもしれない。 

       ★ 『カフェ・ソサエティ』 公式サイト:http://movie-cafesociety.com/

 ■ 5月5日よりTOHOシネマズみゆき座ほか全国で公開中 
                提供:KADOKAWA、ロングライド  配給:ロングライド ■



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2017年05月24日

新作プレビュー 『カフェ・ソサエティ』 (その3)

◆ ウディ・アレンとデイミアン・チャゼル

ヴェロニカ
▲ ボビーは自分が経営するクラブでゴージャスなヴェロニカ(ブレイク・ライブリー、中央)
と出会う。右はボビーの友人ラッド(パーカー・ポージー)。
Photo by Sabrina Lantos (C) 2016 GRAVIER PRODUCTIONS, INC


 ジェシー・アイゼンバーグがクリステン・スチュワートとのロマンスに酔い、それに破れて傷心するあたりの表情には、若い頃のウディがよぎるだけでなく、どうも黄金時代のハリウッドを背景にしているせいか、この春ヒットした『LA LA LAND』のイメージもそこによぎるのだ。あの女優志願のミア(エマ・ストーン)に惚れ、その女が大スターになるのと引き替えにひっそりとジャズクラブの主人に成り下がっていくセス(ライアン・ゴスリング)のイメージが・・・。

 というか−−『LA LA LAND』も大概ヒットして大勢の人が観たようだから、あの映画の好きなところをネタバレを承知で書くけれど−−そもそも『LA LA LAND』にはウディ・アレン作品からの引用がある。

        『マジック・イン・ムーンライト』(2014)だ。

 この作品のヒロインがこの度『LA 〜』でオスカーを射止めたエマ・ストーンであり、そのエマが彼女の霊能力を「インチキだ」と見抜くためにやってきたマジシャンのコリン・ファースと想定外のデートで訪れる場所が天文台。その中にあるプラネタリウムで二人は心通わすロマンチックな時間を過ごすのだが、この『マジック〜』のワン・シークエンスは『LA LA LAND』ではエマとゴスリングとが星降る夜空にふんわり浮かんで宇宙空間を優雅に舞い踊っていく、プラネタリウム(*)のファンタスティックなシーンへと大胆に転用(リブート?)されている。

 デイミアン・チャゼル監督がアレン作品をパクッたわけじゃないんだろうけど、偶然似ちゃったって事なのか。もっとも『LA LA LAND』にはエマ・ストーンの部屋の壁に大きなイングリッド・バーグマンの(『カサブランカ』のポスターとおぼしき)大きな肖像が描かれてあったり、ワーナー・スタジオ周辺をゴスリングと歩く時に、そのゴスリングが「あれが『カサブランカ』でボギーとバーグマンが寄り添った窓だよ」と言ったりする件があったり、という具合にオールドムービーへの言及や引用がある(そこが嬉しい)。

 その映画が『カサブランカ』ってことはもう、その『カサブランカ』を元ネタにしてウディ・アレンが脚本・主演した『ボギー! 俺も男だ』(1972・米、ハーバート・ロス監督)がただちに連想される。『カサブランカ』(1945・米、マイケル・カーチス監督)やイングリッド・バーグマンを介してチャゼル監督とウディ・アレンは容易にリンクするわけで、まあ、それはどうでもいいのだが、私はニヤニヤして観てました(あと、ジャズ・サウンドへの熱烈な傾倒と憧憬なんてところも二人は一緒だ)。


 1950年代のハリウッド映画のルックやセンスを現代の劇映画で、しかもミュージカルで描くという、誰もがやりたいと願い、やったとしてもそうは成功しないアプローチ(挑戦)を、まんまと成功させたデイミアン・チャゼル監督を私は絶賛する。


     アレ? ウディ・アレンの、『カフェ・ソサエティ』の話がどっかいっちゃいましたね。


 『LA LA LAND』は戦後のハリウッドの黄金時代である所の1950年代(風のタッチ、スタイル)を現代に移し替えて描いた(ってのは私見ですよ)ものだけど、『カフェ〜』はまんまその時代の話だから、ノスタルジック・ムードが横溢してくるのは当たり前。

 でもボビーがヴォニーに振られてNYへ里帰りしちゃう後半の展開からノスタルジックなムードは薄れ、いつものアレン映画のようで、そうじゃないような、ある種、黄昏た心境ドラマみたいになっていく。 <続く>

セレブになったヴォニー
▲ 秘書だったヴォニー(クリステン・スチュワート)も今やセレブに・・・。
Photo by Sabrina Lantos (C) 2016 GRAVIER PRODUCTIONS, INC

*『LA LA LAND』の天文台  プラネタリウムで二人が天空に舞い上がっていく『LA LA LAND』の天文台は、その名をグリフィス天文台。『LA〜』の劇中にも出てきたジェームズ・ディーン主演作『理由なき反抗』(1955・米、ニコラス・レイ監督)のラストに登場する有名な場所、今言うところの聖地≠ナあるが、そのグリフィスはアメリカ映画の父≠ニ呼ばれたデビッド・ワーク・グリフィス監督のファミリー・ネームと同じ。だから、あそこでグリフィス天文台が出てくるについては2つの思い入れ(オマージュ)があるんだろう、と見たが。

       ★ 『カフェ・ソサエティ』 公式サイト:http://movie-cafesociety.com/

 ■ 5月5日よりTOHOシネマズみゆき座ほか全国で公開中 
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2017年05月19日

インターミッション 桜の森の満開の・・・

 またまたひと休みクリップ≠ひとつ。
 白石サイクリングロード内の八重桜が咲き乱れたエリアはまさに「さくらのアーケード」。その下を駆け抜けた映像のみを連結。
 名付けて「The Cherry Corridor」。字幕に続いてオーパーラップ、ホワイトアウトにチャレンジ。ぎこちなさ満点ですが、何とぞよろしく!



https://youtu.be/66elXqjuHJw


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『 ラストシーンの余韻 』
巨匠・溝口健二監督の生涯をつづった『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』 を電子書籍(アマゾンKindleストア 及び 楽天ブックス)と紙の書籍(製本直送.com)で発売中。直近の各コラムの末尾にある発売告知から販売サイトに遷移、またはポップアップ画面が出ますので、そこからご購入ください。 
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