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2018年03月11日

『スリー・ビルボード』、地域社会で行動を起こすとは・・・(最終回)

◆ 煮えたぎる溶鉱炉のような群像劇をサラリと描くマクドナー監督

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▲ 対立するディクソンとミルドレッド
(C)2017 Twentieth Century Fox


 黒澤明監督の傑作に『酔いどれ天使』(1948・東宝)ってのがある。この映画を評した言葉に、(ドラマが)ぐつぐつと煮えたぎってる−−ってのがあるのだが、筋立てやキャラクターを比較すると、『スリー・ビルボード』もまさに煮えたぎった人間ドラマに違いない。

 ミルドレッド役のフランセス・マクドーマンドは、頭にバンダナ、地味な紺色のツナギ(戦闘服?)姿で出てくるが、口元を引き締めたその表情は“女イーストウッド”、または“女キース・リチャーズ”と言っていいような頑固な面構えで、もうテコでも動かない、って感じ。
 片やサム・ロックウェルが演じるチンピラ上がりのヘボ巡査ディクソンは、よくこんなのをオマワリにしたな、と思うようなヒステリックなヤツで、知性も教養もない男。
 ちょうどこの映画を試写で見た時(2017年11月)、アメリカで白人警官が黒人を無造作に射殺し、それに対して全米で抗議デモがあって、そのデモの行列に暴走車が突っ込んで女性ひとりが亡くなり、それに関してトランプ大統領がデモしてたヤツラも凶暴だったと言って、地元警察をかばうような発言をしたから事態がさらにややっこしくなった−−って騒動があったから、この狂犬としか思えないロックェルのバカ警官がひどくリアルに思えたモノだ(サム・ロックウェル、この役で助演男優賞獲ったけど、一世一代のいい役だったな)。


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▲ 町を闊歩するディクソン。 (C)2017 Twentieth Century Fox


 そしてこうした偏向したヤンチャ青年が、なぜ町の治安を守る警察官になれるのか、というその暗愚なプロセスもよく分かった。時の警察署長が、「この人物、警官良し、採用!」とお墨付きを与えれば、すぐにバッヂを付けてパトカーを乗り回せるようなイージーな取り決めがあるのだ(きっと州によって違うんだろうけど)。

 そうか、道理でこんなディクソンみたいなクソ野郎でもお巡りになれるんだ−−とそう理解したあたりで、ドでかい事件が起こり、その嫌疑がミルドレッドにかかって・・・とあんまりストーリーを話したくないのでここまでにするが、そこで彼女を救うのは意外な人物
 また後に挫折するディクソンがある意外な人間に救われるのだが、それもまたここで言うわけにはいかない。
 てな具合に予想外の、予想も付かないリアルな展開が後半うち続き、ミルドレッド、ディクソン以外にも憤怒を抱えた偏向した人物が集ってきて、まさにドラマは『酔いどれ天使』ばりにグツグツと煮えたぎっていく。

 しかしドラマ自体はグツグツ煮えているが、荒涼なミズーリ郊外の景観のせいか、印象としてはクールで淡々とした感じでドラマが進んでいく。このホットな劇をクールに設える、といった感じの作り方が「なかなかやるなー!」と思わせるのです。

 監督のマーティン・マクドナーが脚本も書いていて、今回、作品賞、脚本賞だけのノミネート(監督賞はノーノミネート)だったが、この人は素晴らしい。もっと評価していい逸材だ。

 そしてこの意外や意外、意表つきまくりの紆余曲折があって「一体、この映画、どんな具合に落ち着くんだろう?」と途中から気がかりになってくるドラマの果てには、これまた予想もし得ない、素晴らしいエンディングが待っている。
 これが、あまりにも、こっちの思惑を超えたオチだった。クエンティン・タランティーノとかスパイク・ジョーンズとかチャーリー・カウフマン、ミッシェル・ゴンドリーとかこうした人達も意外すぎる展開、あっと驚く新路線、てな脚本(シノプシス)でアッとは思わせるけれど、如何せん、その意外さを見せたいだけの場当たり(いい加減)的な路線変更で、結局は筋が通ってないパターンが多い。

 そこへいくとこの『スリー・ビルボード』のドラマと人間の練り方は理に適った一級品。褒めても褒めすぎってことはない。『シェイプ・オブ・ウォ−ター』を観に行って、いっぱいで入れなかったらコッチを観てね。失望はさせません。

 おまけに、この後、公開される『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』ってのも「観るべき」と言っておこう。

 偶然か、必然か、『スリー・ビルボード』も『シェイプ・オブ・ウォーター』も『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』もすべてフォックス・サテライト、つまり20世紀フォックスの配給作品。
 あゝ、『スター・ウォーズ』をディズニーに獲られる前後から大したヒットもなく、ディカプリオの暗い『レヴェナント 蘇えりし者』(2015)でオスカーを獲ったものの、長〜く沈潜していたフォックスだったが、ようやくここで春が来た。フォックス・ファンとしちゃ、嬉しい限りだ。


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▲ ディクソンと彼の母親の怠惰な日常。トランプ大統領の
言う、忘れられた白人貧困層、ってのは彼らの事?
(C)2017 Twentieth Century Fox

★『スリー・ビルボード』公式HP:http://www.foxmovies-jp.com/threebillboards/


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『スリー・ビルボード』、地域社会で行動を起こすとは・・・(3)

◆ 日本の地方都市(いなか)でも十分描けるシチュエーション

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▲ 3つの看板に“広告”を出したミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)
(C)2017 Twentieth Century Fox


 『スリー・ビルボード』、原題はそのまんま“THREE BILLBOARDS”
 ビルボード(BILLBOARD)って聞くと、アメリカの有名な音楽業界誌、またはそこが運営している音楽チャート(ランキング)をすぐに思い浮かべちゃうが、もともとは“看板”って意味。
 つまり、3つの看板・・・ン、でそれがどうした? と最初はそう思ったが、こんなそっけないタイトルを冠したこの作品は、強烈にアクチュアルでホットで巧緻な人間ドラマなのである。

 あらすじをば。

●STORY●
 ミズーリ州のド田舎の町エビング−−1日に数台しか車の通らない町外れの道路、そこにあった3つの大きな看板に突然、広告が張り出される。

「レイプされて死亡」
「なぜ? ウィロビー署長」
「犯人逮捕はまだか?」


 意見広告にも告発文にも思えるコレを出したのは、7ヶ月前に娘を暴行されて殺された母のミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)。一向に進まぬ捜査、犯人が逮捕されぬ状態に業を煮やした彼女が、地元警察を叱咤して事件を解決させるためにとった大胆な行動がコレだった。さっそくマスコミが彼女と娘の事件を取材に町を訪れる。
 名指しで職務怠慢を突きつけられた形のウィロビー署長(ウッディ・ハレルソン)は、すぐ頭に血が上る部下のディクソン巡査(サム・ロックウェル)を伴って、ミルドレッドの元を訪れ、広告の撤去を訴えるが、彼女は頑としてソレをはねつける。その頑固な態度をいまいましく思うディクソン。

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▲ ウィロビー署長(W・ハレルソン、左)とミルドレッド
ハレルソンも控えめな演技で助演男優賞候補に。
(C)2017 Twentieth Century Fox

 ミルドレッドの娘の事件の捜査は当然行っていたのだが、アメリカの何処でも起こるような行きずりのレイプ殺人なので、犯人の手がかりも少なく、暗礁に乗り上げていた。おまけにウィロビー署長は末期ガンで余命わずか。残された日々を少しでも安逸に過ごしたい、と願っていた矢先のミルドレッドの看板騒動である。これが重く心にのしかかって彼は思い悩む。
 その悩む姿を目の当たりにしたディクソンは、自力で広告を撤去しようと、町の広告屋に乗り込み、担当者のレッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)に交渉するが、それがやがて脅しとなり、怒り狂った挙げ句に、レッドを袋だたきにして二階の窓からほうり投げてしまう。
 エビングのあちこちで狂気がフツフツと熾り出し、やがてミルドレッドにも魔の手が・・・。



 事の発端はミルドレッドが広告を出した、ってこと。
 数年間、誰も広告を出してない、うち捨てられていた巨大看板に、地元警察のケツを叩くべく、ドーンとでっかい意見広告を出したことだったが、やったのはそれだけの事で、彼女は警察署に押しかけてガナリ立ててもいないし、町の大通で抗議パレードをやったり、デモッたりもしていない。なけなしの金をはたいて、巨大看板に1年の期限で広告を出しただけ
 それが、というかその広告の文章が意味深だったがゆえに、マスコミが取り上げ、それを気にした警察が「オイ、ちょっとそんなの止めてくれよ」と言ってくる。
 この“反響”こそがミルドレッドの狙いであり、このせいで警察も見て見ぬふりができなくなり、娘を殺した犯人捜しに精を出すだろう、と彼女は読んでいた。
 それはまさしく図に当たって、映画の途中まで彼女の書いた筋書き通りに進んでいく・
・・かに思えるのだが、それが途中からグワ〜〜〜〜ンと右旋回、左旋回!

 エエッ、この映画、どうなっちゃうの?!

<続く>

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▲ 魂が震えたゼ!
(C)2017 Twentieth Century Fox

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2018年03月06日

『スリー・ビルボード』、地域社会で行動を起こすとは・・・(2)

◆ サリー・ホーキンスに主演女優賞をあげたかった

イライザと卵
▲ “カレ”が大好きな卵を並べるイライザ(サリー・ホーキンス)
(C)2017 Twentieth Century Fox


 とにかくダーク・ファンタジー『シェイプ・オブ・ウォ−ター』が第90回のアカデミー作品賞を受賞したのはよかった。

 冒険的なまでに野心的で、かつ独創性に貫かれた、異才ギレルモ・デル・トロ監督らしい作品だった。

 どこが冒険的なまでに野心的で、独創的なのか、についてはきっと大勢のライターさんがブログやヤフーのなんとかに書くからそこで読んでもらうことにしましょう。
 私が残念に思うのは、主演女優賞を『スリー・ビルボード』のフランセス・マクドーマンドではなく、『シェイプ〜』のサリー・ホーキンスが獲ってほしかったってこと。そして作品賞を『スリー・ビルボード』が獲ればよかったのに、と。
 『スリー・ビルボード』のマクドーマンドは確かに素晴らしい。それには何の文句もないし、むしろ賞を進呈したいくらい。でも『ファーゴ』(1996)ですでに主演女優賞を獲っている。だから余計にサリー・ホーキンスにあげたかったのだ。

 喋れないというハンデを持ちながら、そのハンデゆえに異性体と恋に落ちることができるヒロインを、ホーキンスは演じています。まあ、普通に演じても別に感動は変わらない。
 ところがホーキンスは、悲劇的な境遇にあるイライザをただの可哀そうなヒロインというのではなく、(おそらくそれはデル・トロ監督の意向に拠るのでしょうが)生身の肉体をもった女性として演じている。
 確かオープニング・クレジットの終わりあたりで、バスタブに入ってくつろぐ彼女が映し出され、そこでちょっとあることをしてることが描かれる。ホンの一瞬なので気付かないもしれないが、このあることがドラマの中で何度も出てくる。

 それが凄いと思いましたよ。

 かつて私たちがガキの頃、深夜映画でこわごわ見た『大アマゾンの半魚人』(1954 ジャック・アーノルド)みたいなB級ホラーをネタにして、これを大胆にも切ない切ないラブストーリーに改変してのけた、ってだけでも拍手モノなのに、そのヒロインをただのお人形さんじゃなく肉体をもった存在(人間)として描くとは・・・。ホントはこれ、当たり前のことなんだけど、なかなかここまで深堀して描けない。
 ハンデキャッパーや障碍者を取り上げて同情を誘うように無難に、持ち上げるようにしか描けない日本の映画やテレビなんかには、逆立ちしてもできない芸当でっせ!

 メキシコ人の熱い血がそうさせるのかな・・・などと思いましたが、『パンス・ラビリンス』(2006)でダークサイドなファシズム世界とファンタスティックな表象とをブレンド、あるいは対比(対峙)させて描き切った、特異な演出力で(私みたいな)プロパーな映画ファンをも唸らせたデル・トロ監督のさらにチャレンジングな、そしてやさしさあふれるタッチがいいですな。
 さらに、さらに・・・これ書いちゃっていいのかな・・・劇中、ハリウッド・ミュージカルにオマージュを捧げたシーンが登場する。

 オー、マジかよーッ! ってね、ココも嬉しかった。昨年の『LA LA LAND』を思い出しちゃったぜ。デル・トロ監督自身もスタンリー・ドーネンのスタイルを参考にした、って言ってる。
 
 やっぱ、みんな好きなんだよな、スタンリー・ドーネン監督が。

 しかも今回、同作の音楽でアカデミー作曲賞を受賞したアレクサンドル・デスプラは、ニーノ・ロータ(*)ジョルジュ・ドルリューの作風を採用した、とか。へー、そうか、そんな裏ネタを知ったからにゃあ、観ないわけにはいかんな。

 ン、スタンリー・ドーネンもニーノ・ロータもジョルジュ・ドルリューも知らないって? 
 そうか、そんな人達とはとても“映画的友人”になれないから、早々にこのブログから立ち去るが宜しい。

 それはともかく『シェイプ・オブ・ウォーター』、ぜひ、ご覧ください。

 と褒めつつも、私は作品賞は『スリー・ビルボード』に獲ってほしかったのです。だって、どんなに褒めても褒めすぎにならないような、ローカル・タウンの衆愚な人間関係を描いた巧妙な社会派ドラマなんですから! <続く>

* ニーノ・ロータは、平昌オリンピックの男子フィギュアで、日本の田中刑事がフリーで滑った時の使用曲“フェデリコ・フェリーニ・メドレー”の作曲者。イタリアが世界に誇る映画音楽家で、フェリーニ作品はニーノ・ロータなしでは語れない。


悪人と善人
▲ 軍のクソ野郎、ストリックランド(マイケル・シャノン、左)と
ホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)。私はこのホフ
ステトラー博士が好きです。冷戦時代を舞台にした作品で、こうい
う心優しきロシア人(当時はソ連人ですが)を描いてくれた、って
ことが嬉しかった。
(C)2017 Twentieth Century Fox

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2018年03月05日

『スリー・ビルボード』、地域社会で行動を起こすとは・・・(1)

◆ 『シェイプ・オブ・ウォーター』の受賞は時代の変化か?

SOW サリー
▲得体の知れぬ、何者かを見つめるイライザ(サリー・ホーキンス)
(C)2017 Twentieth Century Fox


 例によって、今年もアカデミー賞が発表されました。第90回だから、ある意味、記念の式典なのだと思うけど、昨年“あんな事”があったので授賞にかかわるある部署は過敏なまでに神経質になっていたよう。
 “あんな事”ってご存知、昨年の授賞式でクライマックスの作品賞発表の時に、受賞封筒の間違い事件で、本来「A Winner is・・・『MOONLIGHT』」となるハズが「A Winner is ・・・『LA LA LAND』!」と発表された失態。プレゼンターのウォーレン・ベイティ&フェイ・ダナウェイ(言わずと知れたボニー&クライド、の二人ね。今年も出てたね)は慌てて発表し直したが、大喜びで舞台に集まった『LA LA LAND』のスタッフ一同と、モノホン受賞者『MOONLIGHT』一行がステージ上でひしめきあって、てんやわんやのドッチラケ。
 見世物としては逆にとっても面白くて、さすがハリウッドって感じがしましたが。
 受賞封筒を“ミスパス”した監査法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)は、今回も管理を担当したが、封筒の管理者を増やすなど最新の注意を払ったらしい。もっとも昨年、受賞作品のレターを誤配した会計士は、アカデミーから追放されたというから、ま、当然でしょうね。
 このエピソードに、1930年代のアカデミー授賞式で実際に起こったフランク・キャプラ監督の早トチリ&赤っ恥事件を紹介し、それをモチーフにした映画『オスカー』(1966、ラッセル・ラウズ監督)の事もこのコラムで紹介したハズ。関心のあるムキはそちらをどーぞ。

 ただ少々意外だった、今回の授賞結果には!
 『シェイプ・オブ・ウォーター』の作品賞に異論があるわけではないが、大体この手の映画−−ライト&ダークとりまぜのファンタジー系、SF系の作品−−ってのは、出来が良くても、今までの通例からいくと大ヒット作でも作品賞には選ばれなかったもの。
 スピルバーグなんてそれでどんなに割食ってるか! 『未知との遭遇』(1978)も『ET』(1982)も候補にはなっても本賞は逸している。ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』(1977)もしかり。
 いや、大体、アクションやミュージカルもハズされる傾向にある。『ダイハード』(1988)
なんて作品賞の候補にも入ってないし、昨年の『LA LA LAND』(この10年に一度の、スタンリー・ドーネン監督をリスペクトした傑作ミュージカル)も最後で落ちた。

 ミュージカルは作品賞でハズされる傾向にある、なんて書いたので、今、キネ旬の「アカデミー・アワード」で調べてみたら、これが結構あるんで驚いた!

『ブロードウェイ・メロディ』(1928〜1929) ハリー・ボーモント
『巨星ジーグフェルド』(1936) ロバート・Z・レナード
『巴里のアメリカン人』(1951) ヴィンセント・ミネリ
『恋の手ほどき』(1958) ヴィセント・ミネリ
『ウエスト・サイド物語』(1961) ロバート・ワイズ&ジェローム・ロビンズ
『マイ・フェア・レディ』(1964) ジョージ・キューカー
『サウンド・オブ・ミュージック』(1965) ロバート・ワイズ
『オリバー!』(1968) キャロル・リード



 ・・・の後、ず〜〜〜と下って『シカゴ』(2002 ロブ・マーシャル)。ま、『シカゴ』はどうでもいいんだけど、アカデミー賞90回の歴史の中で、その約1割の9本もあればなかなか立派なもんだ。60年代なんて4本もあるもんな。恐れ入りやした。
 ただ、ひと言文句を言わせてもらうなら、ミロシュ・フォアマンの『ヘアー』(1979)とかスタンリー・ドーネンの『ブルックリン物語』(1978)、メル・ブルックスの(ミュージカル版の)『プロデューサーズ』(2005)、『ドリームガールズ』(2006 ビル・コンドン)も本賞をゲットしてない。ミュージカルってエンターテイメント(大衆的な音楽劇、または芸⇒娯楽)って見られるから、時事ネタを反映した社会派の問題作とかヒューマン・ドラマなんかで秀作がノミネートされると、そっちに本賞を持っていかれちゃう。
 そうなると一番割食ってるのはアクション、特に西部劇かな。1900年代は1930〜1931年の『シマロン』くらいしかない。ず〜〜〜と後、60年ほど経ってからようやくケヴィン・コスナーの『ダンス・ウィズ・ウルヴス』(1990)が出て、イーストウッドの極め付きともいえる『許されざる者』(1992)にオスカーが与えられる。
 そうか、ウエスタンも3本あるのか。そうなると一番アカデミー賞に冷たくされてるのはアクション映画か。サスペンスで作品賞を得た作品というとヒッチコック『レベッカ』(1940)や『失われた週末』(1945 ビリー・ワイルダー)、『羊たちの沈黙』(1991 ジョナサン・デミ)なんかが出てくるけど、アクションとなると・・・。
 話は違いますが、2007年に作品賞を受けたコーエン兄弟の『ノーカントリー』ってのは何だったんだろう? あれが受賞する意図ってものが、背景ってものがわからない。よく出来てた、っていえば出来てたが・・・ま、どうでもいいけれど。  <続く>

★『シェイプ・オブ・ウォーター』公式HPhttp://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/

SOW ポスター
(C)2017 Twentieth Century Fox

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2018年01月01日

昨年末から音楽について書いてます。

◆ 音楽サイト oto kake(オトカケ)で、B_stallion名義で・・・

 あけましておめでとうございます!
 2018年、平成30年、戌年、明けてしまいました。めでたいことです。
 昨年、今年と年末にヘビーな書き仕事に忙殺されているのですが、今回は昨年の11月末に採用された音楽サイト「oto kake」の仕事に追われておりました。
 このサイト、締め切り厳守でござまして、否が応でも執筆&入稿(サイトへの入力もライターが行う)しないといけない。
 そういうわけで、毎回、必死で書いております。
 とはいえ、音楽に関しては知識があるわけでもなく、せいぜいカラオケで歌いやすい昔の歌謡曲やアニメ&特撮ソング、映画音楽やJ−POPを聴くファン・レベル。
 しかもギターはおろか楽器はなんにも弾けませんから、譜面なんか読めません。コード譜TAB譜もなんのことやら、です。
 なので感想程度のことしか書けないのですが、それでもガンバッて最近の若手−−Sexy Zoneとかback number−−について勉強しまして、せっせと書いてはアップしております。
 勉強−−そうですね、関連のネット記事やファン雑誌を読んでる程度ですが、それでも調べないと書けません、オッサンですから。

 興味と関心のある方は、下記URLから oto kake のサイトへどうぞ!

                 https://otokake.com/

 ちなみに、oto kake(オトカケ)とは、“音の架け橋”という意味。その略語です。ちょっとロマンチックでしょ。
 そのサイトでは高村英次ではなく、B_stallion(ビー・スタリオン)名義で書いております。このペンネーム、直訳すれば“Bの種馬”
 昔、『ワイルド・ブラック/少年の黒い馬』(1979)という映画がありまして、コレの原題が“The Black Stallion”。stallionは種馬って意味ですが、この単語はそれ以前に『ロッキー』(1976)で知っておりました。
 映画『ロッキー』の中で、シルヴェスター・スタローンが演じたロッキー・バルボアのリングネームというかキャッチフレーズが“Itallian Stallion”イタリアの種馬。それで覚えていたわけです。
 すると‘B’は、ブラック、黒いって意味か? 
 いえいえ、は私の好きなミュージシャンの頭文字です。

メロディ CLASSIC
Bach
Beethoven
Brahms

♫ JAZZ
Bill Evans
Bud Powell
Benny Goodman
Art Blakey
Booker Little
Clifford Brown
Chet Baker
Branford Marsalis
George Benson

♬ SCREEN MUSIC
Irving Berlin
Elmer Bernstein
Bernard Herrmann
Burt Bucharach
Bill Conti

メロディ ROCK
The Beach Boys
Bee Gees
Bay City Rollers
The Band
Matt Bianco
Billy Joel
Bruce Springsteen

♪ J-POP
BLUE COMETS
BOX(杉真理・松尾清憲・小室和幸・田上正和・橋本哲)
back number

and

The Beetles


“Bの種馬”転じて、“好きなミュージシャンの遺伝子を(語り)継ぐもの”の意でございます。少々、こじつけてますが。

 で書いてる記事ですが、例えばこんなもの・・・

● 伊藤万理華(乃木坂46)が年内卒業を発表! 卒業後の進路は○○って本当? お洒落な彼女の画像を紹介♪  https://otokake.com/matome/bW4pXj

●【Sexy Zone/Sexy Zone】デビューシングルは嵐以来の〇〇!?歌詞の内容を解説!
      https://otokake.com/matome/g1wDoc

●【A MY GIRL FRIEND/Sexy Zone】タイトルに〇〇の意味が!?歌詞も徹底解釈!
      https://otokake.com/matome/mZuwyD

●【カサブランカ・ダンディ/沢田研二】タイトルは映画△△のことだって知ってた?!歌詞&コードはこちら!  https://otokake.com/matome/gGWmu1

● たどり着いたらいつも雨ふり/吉田拓郎の歌詞の意味が深い・・・。気になる歌詞&コードを紹介!
      https://otokake.com/matome/fuBZ62

 以上、よろしくお願いいたします。

            2018年が皆様にとって良い年になりますように!


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2017年10月03日

往年の大スターが顔を揃える昼ドラマ 『やすらぎの郷』(最終回)

◆ ・・・そして石坂浩二は名優になった <後篇>

石坂さんと鶴瓶師匠
▲石坂浩二と笑福亭鶴瓶
出典:テレビ朝日のHPから Copyrightコピーライトマーク tv asahi All rights reserved.


 話を『やすらぎの郷』の最終回に戻すが、この最終回に金田一耕助を演じた事のある片岡鶴太郎(今ではコメディタレントというよりも俳優、もしくはインド・ヨガの達人)が出て、石坂さんと絡むところが面白かった。それに笑福亭鶴瓶も一瞬ながら出てくる。『やすらぎの郷』の第1、2話あたりではオープングにナレーションが入るのだが、その声がどうも鶴瓶ぽかった。ノークレジットだったので「誰だろう?」と思っていたが、やはり師匠だったのね。粋な出方だったんじゃないでしょうか。

 本当は石坂さんを巡る元本妻(浅丘ルリ子)と元恋人(加賀まりこ)のことなんかも書きたかったが、番組が終わってしまったので、このコラムも終わりにしますが・・・でも、じゃあ明日から何を観ればいいのかな。
 エ、『トットちゃん!』? 『トットちゃん!』は観ようかどうか、今ちょっと考えている。アザミ役でのびのびした演技を見せた清野菜名チャンが主役だから気になるが、今更『窓際のトットちゃん』でもないだろう、って気も。
 しかも山本耕史が脇で出るようだが、彼は今NHKで『植木等とのぼせもん』でクレージーキャッツの植木等を演じてる。こちらも録画はしているが1挿話も観ていない。だって、まったく似合ってないんだもん、植木さんに。彼は植木等のイメージじゃない。
 むしろ『トットちゃん!』でやってる役柄の方が彼らしいのでは?

 それに加えて、この『トットちゃん!』って企画、番宣を観ている限りではまるでNHKの朝ドラみたい。同じ15分のミニドラマでも、『やすらぎの郷』と続けて放送されてた朝ドラ『ひよっこ』は描いてる内容もインプレションもまったく違っていたから、『やすらぎ−』は成功したな、と思った。爆笑問題の太田光も先日放送された「ENGEIグランドスラム」(フジテレビ、9月23日)の中で、司会の松岡茉優(ハッピー)に向かって、

「オレもやすらぎの郷に入れてくれェー!!」

って叫んでたくらいだからね。
 お昼時に、主婦層や若年層をバッサリ見切って、ヒマでテレビばっか観てる(であろう)高齢者をターゲットにしたっていうのは冒険だったが、うまくいった。きっとこの枠がホンモノになるのは次の『トットちゃん!』の結果次第なんだろう。がんばって欲しいネ。


 とにもかくにも・・・石坂浩二さん、お疲れさまでした。
 七十、八十になって私も石坂さんのように老けられたら本望です(とても無理ですが)。


やすらぎの郷
           Copyrightコピーライトマーク tv asahi All rights reserved.
★公式ホームページ:http://www.tv-asahi.co.jp/yasuraginosato/


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2017年10月02日

往年の大スターが顔を揃える昼ドラマ 『やすらぎの郷』(その5)

◆ ・・・そして石坂浩二は名優になった <中篇>

DVD犬神家の一族
▲『犬神家の一族 角川映画 THE BEST <デジタル・リマスター・コレクション>』
監督・市川崑 1976年版  出典:amazon

 ステキだったよね、カッコ良かったよね、『犬神家の一族』で那須湖の湖畔を走る若き石坂・金田一の姿って。痩せてて軽快で。

 『犬神家の一族』横溝正史原作の推理小説で、70年代から80年代を席巻した横溝ミステリー・ブームの、探偵・金田一耕助シリーズの火付け役であり、斜陽化著しかった当時の日本映画界の中で13億円もの興行収入を上げた(今の貨幣価値ならこの4、5倍強じゃないか。もっとかな)、ブロックバスターな大作サスペンス。今、KADOKAWAの中にある映画部門=角川映画はコレが第1作である。
 昭和51年10月16日、この作品は全国公開に先駆けて、日比谷映画劇場(※)で封切られたが、その時の熱狂ぶりをオリジナル・サウンドトラックCD『犬神家の一族』のライナーノーツの中で、小林淳さんと森遊机さんが書いている。小林さんの解説にこうある。

 1976年10月16日、東京・日比谷の(旧)日比谷映画劇場。この伝統ある洋画系ロードショー劇場におびただしい数の群衆が押し寄せた。この日、ある日本映画の先行ロードショーの幕が切られたのである。(中略)
 劇場には異様な熱気が渦巻いていた。立ち見客が何層にも重なり、超満員となった場内の観客は心の底からこの映画を楽しんだ。(中略)……事件を解決した金田一が汽車で那須を去っていく大団円に映画の興奮を覚えた。劇場には二種の興奮が充満していた。これから話題作『犬神家の一族』を観ようとする客たちの期待感、場内から出てきた人々が発する『犬神家の一族』を観たという満足感。こういった劇場風景はそうそうお目にかかれるものではなかった。
(「角川映画コレクション1 犬神家の一族 オリジナル・サウンドラック」〔発売元:カルチュア・パブリッシャーズ、販売元:ワーナーミュージック・ジャパン〕のブックレット解説より)



 私がこの映画を観たのは中2、つまり公開の翌年(1977年)で大ヒットによるリバイバル上映だったと思うから、小林さんが書いてるようなこれから話題作『犬神家の一族』を観ようとする客たちの期待感、場内から出てきた人々が発する『犬神家の一族』を観たという満足感。こういった劇場風景はそうそうお目にかかれるものではなかった≠ニいうような、初物に触れる異様な興奮、感動というものは場内に漂っていなかったが、初めて全本篇を観た私は(というのは、殺しの場などの一場面が当時ちょくちょくテレビで流されていたのだ)、それこそ異様な興奮でもって頭がガンガンしてたし、金田一耕助が汽車に飛び乗って那須の町を去って行くラストシーンには感動して、その余韻に浸った。

           この人(金田一)、いい人だなあ・・・って感じで。

 またそうそうお目にかかれない、上映前後の興奮状態の劇場風景≠ヘ、当時ならばスピルバーグ監督の『未知との遭遇』の初日、アービン・カーシュナー監督の『スターウォーズ/帝国の逆襲』(今言うところのEPISODE5ね)で味わうことができた。ギッシリ満員の札幌日劇、帝国座の上映前のロビーにはその興奮が漂っていた。ああいう雰囲気ってもうないね(日劇も帝国座も今はない)。
 もっともその頃の映画ファン大期待の、超大作だったフランシス・コッポラ監督の『地獄の黙示録』、黒澤明監督の『影武者』(両作とも1980年公開)にも上映前≠ノは、そんな興奮状態が確実に劇場内に充満していた。ところが上映後は、どちらも恐ろしいまでに、その熱気が冷めていて「エ、コレなの? これが地獄の黙示録≠ネの? 影武者≠ネの?」というような、シラケた空気が流れていた。私自身、「たった今観た作品とは別な地獄の黙示録≠竍影武者≠チて作品が、他にあるんじゃないの???」と思い、妙にナットクできない、疑わしい気持ちで劇場を出たことを昨日のことのように思い出す。

 ま、コッポラやクロサワさんの事はどうでもよい。市川崑監督の『犬神家の一族』は期待を裏切らなかった、いや、期待以上の映像体験を観客に提供した、と言っていいと思うし、その証拠に金田一シリーズはあちこちで作られ、テレビでも石坂さん以外の俳優さんが金田一を演じて、それはもう雨後の筍のように作られたのだから。

 でも、まあ、やっぱり一番良かったのは、市川=石坂コンビによる70年代の金田一シリーズ−『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』『獄門島』『女王蜂』『病院坂の首縊りの家』−だね(同じ市川監督でも1996年に東宝で撮った『八つ墓村』はいただけなかったが)。


▲ 『犬神家の一族』予告編(1976年版)  https://youtu.be/7onKhHoJEy0


 『犬神家の一族』は市川監督が亡くなる直前にセルフリメイク(2006年・東宝映画)して、その時、石坂さんは再度、金田一を演じたが、他のドラマ(例えばテレビの『白い巨塔』とか『相棒』等)ではまだまだ若々しく思えた彼の容姿が、とった年齢なりに貫禄が付いていて、もはや金田一耕助とは思えぬ体型、また老顔になっていたのでシュンとなったものだ。この映画の最後、事件が解決し、すべてが終わった後で、田舎の小径を画面の向こうに歩いて行く金田一耕助が、立ち止まって観ている観客の方に振り返って、小さくお辞儀をして去って行く−−という印象的なシーンがある。あまり巧くいってなかったセルフリメイク作の中で、僕が唯一感動したのがこのシーンで、コレを観れただけでも幸せだった(本当はコレを、当時、市川=石坂の金田一シリーズの最後と言われた『病院坂の首縊りの家』でやって欲しかったのだ)。

 金田一耕助を愛したファンのみなさん、ありがとう、さようなら−−というようなメッセージが聞こえてきて嬉しかった。リアルタイムでこのシリーズを観ていた僕らとしては。<続く>


※日比谷映画劇場  今の日比谷映画(今、日比谷映画とされている映画館は、かつて千代田劇場と呼ばれていた)ではなく、現在のTOHOシネマズシャンテ及び日比谷シャンテの位置にあった大劇場で、日劇有楽座と並ぶ東宝ご自慢の豪華なロードショー館であった。


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2017年10月01日

往年の大スターが顔を揃える昼ドラマ 『やすらぎの郷』(その4)

◆ ・・・そして石坂浩二は名優になった <前篇>

石坂浩二 現在
▲ 『やすらぎの郷』で主役の菊村栄を演じた石坂浩二
出典:テレビ朝日のHPより  http://www.tv-asahi.co.jp/yasuraginosato/cast/
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 4月からテレビ朝日系でお昼に放送されていた『やすらぎの郷』が9月29日をもって終わった。春からずっと見続けていたウォッチャーとしてはなんとも淋しく、やすらぎ≠ヌころかやすロス(喪失感)を噛みしめているのだが、ものみなすべて終わる、のだから番組終了は致し方がない。とはいえエンディング、殊にラストシーンを見る限り、来春あたりに『続・やすらぎの郷』として戻ってくるような気もする(そんな終わり方だったよね。だって石坂浩二ほか、浅丘ルリ子、加賀まりこといったメインどころは亡くなりもせず、シャンとしたまんま《終了》したから)。

 それはともかくこの終り方、特に9月の最終週で描かれた終章にはちょっと文句がある。結局、石坂浩二演じる脚本家・菊村栄がライター志望の若い女学生アザミ(かつて自分と関係のあった女優の孫)との老いらくの恋を成就できるか、否か、というところに焦点を当ててそこで締めくくってしまった感があるのだが、若き石坂さんが主演した『犬神家の一族』(1976年、角川春樹事務所=東宝)で三國連太郎が好演した犬神家の当主・佐兵衛翁じゃあるまいし(佐兵衛翁は老いてから若い女を溺愛し、身ごもらせる)、80歳の菊村が二十歳そこそこのアザミとどうなるこうなる、なんて話は、老いらくのロマンス(メルヘン)としても「どうなのかなあ」というような生々しさで、それが年喰ったオッサンの偽らざる感情(願望)だとしても、観ていてあんまり気持ちのいいものではなかった。

 45分にブローアップされた最終回のスペシャルでは、若い娘のアザミと飲んでヘベレケになり、テレビ界や自分に対する不満や愚痴を言いまくって正体なく寝込み、翌日、起きたら下の世話(暴飲暴食の末、漏らしたのだ)までアザミにみてもらった、と知り、悄然として己の不明を恥じて落ち込む・・・というような出だしでスタートし、菊村は清野菜奈扮するアザミからショッキングな事実を告げられると同時に、彼女の恋人を紹介されて、再び正体もなく慌てる。

 謝罪するアザミと男(神木隆之介)を交互に見つめ、アタフタと慌て、たじろぐのだが、その様子、表情はまるで森繁久彌のようだった。

 あー、石坂さんもこんな、飄逸味のある老いた、いい芝居≠するようになったんだなあ、とつくづく思った。

 私たち50代の映画マニアは、石坂さんが金田一耕助を演じる前後からスクリーンやテレビで彼を観ている。若くてハンサムだった、いやハンサムは今もホントにハンサムだ。そこらの、いや、私なども着たらダサいようにしか見えないジャンパーやジャケット姿も石坂さんならものすごく若く、お洒落に、スマートに見える。それは『やすらぎの郷』の最初からそうで、しかもそれに石坂さん独特のモノローグが加わる。

 主演者の気持ちや考えが心の声≠ニしてナラタージュされる、倉本聰の叙述スタイルは代表作『拝啓、おふくろ様』『北の国から』などでお馴染みだが、ここでは菊村栄に扮した石坂浩二がそれを担当する。

 その語りがいいんだな。語る声のトーンがいい。観る者に思わず聴く耳を立てさせて、話の中、人物の内面にググッと引きずり込む。

 思えば石坂さんのこの語り(ナレーション)は、1980年代にNHKで放送されたドキュメンタリー)『シルクロード』(NHK特集、今のNスペ。音楽は喜多郎)で大評判を取った「伝家の宝刀」であり、その訥々とした語り口は素晴らしいの一語に尽きるのだが、それをこういう老境を描いた、石坂さん自身の俳優人生とリンクする、同時進行のドラマで聴けた、というのがとても貴重な気がした。

 老境が演じる俳優の人生とシンクロするドラマ・・・「そうか、僕らの金田一耕助も老いたものだなあ」と感慨にふけることしばしであったが、そういう自分も五十の坂を過ぎている。年を取るって残酷だ。<続く>

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2017年08月18日

往年の大スターが顔を揃える昼ドラマ 『やすらぎの郷』(3)

◆ 『グラン・トリノ』か、往年の日活アクションか!

やすらぎの郷
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★公式ホームページ:http://www.tv-asahi.co.jp/yasuraginosato/


 連ドラはまったく観ないのだけれど、4月から放映されているテレビ朝日系の『やすらぎの郷』は1話も欠かさず観ている。先週の金曜日(8月11日)は裏で雨上がり決死隊・宮迫の不倫生釈明があったから(こんなオモロイもの、見ないわけにはいかない)、生では「バイキング」(フジテレビ)を観て、『やすらぎの郷』はあとで録画で観たのだが、それにしても今週からこんな展開になるとは・・・。

 このドラマの癒やし的存在、養老施設内のバー「カサブランカ」のバーテンダー、ハッピー≠アとゆかり(松岡茉優)が地元の暴走族に輪姦され、その仇をとろうと施設内の男性スタッフ達が動く。まず暴行されたハッピーを助けた、彼女に気のある一馬(宮下勇樹)がゾクの働く工場に押しかけ、徹底的にブチのめされて、その姿に男スタッフ(施設の男スタッフ達はみな一時ヤバイ稼業にあった前科者や保護観察中の方々)はいきり立ち、早速、ハッピーと一馬の敵討ちを計画。
 そのことを察知した郷の住人・原田(伊吹吾郎)と那須(倉田保昭)、そして秀さん(=高井秀次、藤竜也)は、男スタッフを説得し、自分たちで落とし前を付けると宣言。勇躍、ゾクのたむろするスナックに乗り込む・・・ってのが第96〜99回(8月14〜17日)の放送内容。


 このドラマ、中高年の視聴者向けに企画されたシルバータイム・ドラマってことで、お昼のど真ん中、『徹子の部屋』のすぐ後に放送されるってのに、そんな時間帯に輪姦=Aレイプなんてもってきちゃっていいのかな、と心配した。描写としては昔のテレビドラマみたいに行為そのものを描いて見せてはいないのだけど、それにしても・・・といらぬ心配をまずはした。
 で、その後、一馬が自分がグレてた頃の仲間、すなわちハッピーを襲ったゾクの勤める工場に乗り込んでケンカするのだが、この件にしても、またヤラレた一馬とハッピーの敵討ちに出ようとする男スタッフにしても、なんというか、昭和の青春映画(ドラマ)的なノリを感じてしまうのです。これには少々、マイリました。

 昔だったらそういくかもしれないが、ネット、SNS、スマホ全盛時代の今(21世紀)ならば腕力でいかなくとも、ITを使ってもっと楽にゾクを追い込めることができるハズ。でもそうした簡便でスマートなITとは縁のない秀さん達にとって、落とし前を付けるとなれば、やることはひとつ(ケンカ)。秀さん曰く、

「今の法律はやわですからね。きっとヤツラもタカくくってンですよ。
 痛めつけてやンなきゃ、判らんですよ、アイツラ」


と言って腕力に打って出る。そして、ゾクをたたきつぶすのは老人の、すなわち老い先短い自分たちの仕事だ、とばかりに高井秀次以下3名は若くて凶暴なゾクの根城に突入し、大立ち回りを見せる。

 これはまるで『グラン・トリノ』(平成20=2008年)でクリント・イーストウッドが演ったウォルト・コワルスキーだ。自分より若い者のために身体を張って悪に立ち向かう、という犠牲的精神、誇り高き老いぼれの男の美学

 とはいえ、『グラン・トリノ』のイーストウッドは腕力や武器を使って悪とは闘わない。ただ撃たれて死ぬだけであったが、やすらぎの3人は闘うんですな。日活アクションの石原裕次郎小林旭、はたまた東映仁侠映画の(高倉)健さんみたいに・・・。


グラン・トリノ
▲ 『グラン・トリノ』(2008・米) 監督・主演:クリント・イーストウッド
ブルーレイ(2D) 2381円(税別) 
販売・発売:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント 
https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=2661/
コピーライトマーク2009 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.


 この殴り込みの前に、倉田保昭がケンカ道具の中にあったヌンチャクを手にとって、バサッ、バサッ、バサッと振り回すシーンがあるのだが、懐かしかったねえ。『闘え!ドラゴン』(昭和49=1974年、東京12チャンネル)を思い出したゼ! しかも倉田さん、愚連隊のゾクをぶちのめすときに、脚を真横に挙げての水平キック!!! やー、まだ脚上がるんだなあ(と感心)。 それにこの蹴り方! 『Gメン'75』(昭和50〜54=1975〜79年、TBS)でなんぼ見たか。

 こうした派手な趣向も面白いのだが、例えばテレビドラマでセット美術を手がけたベテラン美術マン・ちのやん(=茅野大三郎、伊藤初雄)とその妻のカメコ(=茅野順子、長内美那子)が日をまたいで共に息を引き取る挿話(第71〜73回)も印象的だった。末期ガンで病床に伏していたカメコが亡くなる第72回の次の73と74回の「やすらぎの郷」のタイトルだけが、雨のそぼふる青に染まった悲しい色調にしてあって、その細やかな心配りに感銘を受けた(このタイトル、8月7日の第91回よりイラストが夏の草原から秋の草原に変わっている)。
 それに長内美那子さん! 私がガキの時に、淪落の恋に身を焦がす昼メロのヒロインとか時代劇に出てくる綺麗な町娘、武家の御妻女なんて役をなさっていて、憧れたもの。病床で亡くなる間際の役だから、囁くというか呻くような感じで台詞はほぼなかったが、その容姿は綺麗にお老けになったというか、若い時分のしとやかな美しさを備えていて嬉しかったし、若い頃の容貌が遺影の中にチラッとのぞいて、感動した。

 放送は9月末までだから、あと1ヶ月。一体、これからどんな事件が起こるのかな。


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2017年07月07日

日本の映画監督 天才監督・山中貞雄の皮肉な運命 <最終回>

◆ 山中貞雄に会ってみたい

 そうなのだ、山中貞雄は中国戦線に征かずにすんだのである。

 山本監督の本で紹介されている経緯が本当ならば、彼は日本に残っておれたのだ。戦争に行かずに、スタジオに戻ってまた映画を撮れたのだ。
 それが・・・召集した兵士が多すぎて、一旦、除隊させるとなった中に山中もいたというのに、その夜に自殺し損なった律儀な忠義者のせいで、再び戦地送りとなってしまったのだ。

 まったくなんてことだ! なんてことなんだよ!
 その作品を観た誰をも魅了する、素晴らしい映画を創った天才をむざむざ犬死にさせてしまうなんて・・・。

 悔しい、悔しすぎる・・・『丹下左膳餘話 百萬両の壺』みたいな、現代感覚満点のハイカラ&洒脱な時代劇コメディを作り得た天才を亡くした俺たちには、一体ナニが残っているというのだ・・・と「山中を偲ぶ会」で囁かされたかどうかは知らないが、おそらくそんなことでみなが沈んだ気持ちになった事は想像できる。

 今公開中の『ハクソー・リッジ』で敵も味方もとにかく助ける非武装の衛生兵(デスモンド・ドス)は見上げた信念の徒だが、除隊することになった応召兵がそれを恥と感じて死のうとしたのも信念の証。私ならデスモンドの生き方を選ぶ、と言いたいところだが、その時代に生きていなかった自分に果たしてそれが出来るかどうか(できないね、きっと)。おそらく自殺しそこなった応召兵や山中貞雄らと同じように、なすすべなく戦地に赴いたに違いない。

 戦時下というのは、そんな無力な、無慈悲な、異常な時間である。

 山中貞雄の皮肉な戦場送り、そしてその死は「戦争は悪だ」という当たり前のことを、改めて思い起こさせてくれる。


 因みに、私にはあの世に行ったら、肉親や友人以外に会ってみたい人が3人いる。


     伊藤大輔、小津安二郎、そして山中貞雄がその3人だ。   <完>


丹下左膳餘話 百萬両の壺
▲ 『丹下左膳餘話 百萬両の壺』(昭和10=1935・日活) 出典:amazon

<山中貞雄・餘話>
 今から15年くらい前の日曜の昼下がり、録り溜めたビデオの中からヒョイと選んで再生。オープニング・タイトルもロクに見ずに・・・ということはなんの映画かも知らずに観ていたら、なんとも言えない心地よい軽いタッチ、いや、その巧妙なる仕組みと演出にただならぬものを感じ、情婦の尻に敷かれた滑稽な大河内傳次郎のズッコケ左膳に大笑い。コメカルな作風がモダンなストーリーテリングとあいまって光り輝いている事に驚愕した。

       そーか、これが『百萬両の壺』か! これが山中貞雄なのか!!!


 巻き戻して見直したタイトルこそが『丹下左膳餘話 百萬両の壺』で、私は背中にゾクゾクッと嬉しい寒気を感じたのである。


※出典および参考文献
●『映画監督 山中貞雄』 加藤泰、キネマ旬報社
●『カツドウヤ水路』 山本嘉次郎、筑摩書房
●『日本映画監督全集』 キネマ旬報社
●『日本映画俳優全集・女優篇』 キネマ旬報社


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巨匠・溝口健二監督の生涯をつづった『 ラストシーンの余韻 酒乱と失態、女難と頑迷、監督・溝口健二の狂おしき人生 』 を電子書籍(アマゾンKindleストア 及び 楽天ブックス)と紙の書籍(製本直送.com)で発売中。直近の各コラムの末尾にある発売告知から販売サイトに遷移、またはポップアップ画面が出ますので、そこからご購入ください。 
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