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2016年06月26日

張作霖爆殺ソ連関与説

張作霖爆殺事件は1928年6月4日に瀋陽の皇姑屯で張作霖の乗った汽車が爆発され暗殺された事件で、広く信じられている説では爆発物を仕掛けたのは関東軍の河本大作とされている。ところが数年前に航空自衛隊幕僚長だった田母神氏が張作霖爆殺はソ連のコミンテルンの陰謀だったとする論文を発表して話題となった。またユン・チアンの毛沢東伝『マオ』においてもソ連の関与が示唆されている。彼らの根拠とするところはソ連の作家ドミトリー・プロホロフの著作やソ連のコミンテルンに関する資料だ。意外なことに中国でも張作霖の爆殺にソ連が関与していたことを示唆する本が出版されていて、それが托托著『皇姑屯事件真相』遠方出版社2011年出版の書である。

張作霖

この書の著者が依拠しているのも田母神氏らと同じプロホロフの著作が主だが、それ以外のソ連やコミンテルンの文献も参考にされている。この書の結論としては確かに張作霖の暗殺にソ連のコミンテルンが関与した可能性があるが、それは関東軍や河本大作が無関係だったことを意味するわけではない。真相は関東軍の一部や河本大作がソ連やコミンテルンと連携を取って起こした事件というのがその主張だ。

ソ連が張作霖の暗殺に動いた理由の一つは、張作霖が北京を統治していた際にソ連大使館が保護していた共産党員の李大サを処刑したことにあるという。本来は大使館は国際法で現地の政府が無断で入り込むことは許されていないのだが、張作霖はソ連大使館を許可なく襲撃し中に踏み込んで李大サを処刑してしまった。張作霖の国際法を無視したこの態度にソ連側が激怒したことが暗殺の理由の一つだった。

もう一つの理由はソ連が権益を握っていた東清鉄道に対抗して、張作霖が並行する鉄道を建設することでソ連の権益を奪おうと計画していたことであった。東清鉄道とは満州里からハルピンを経てウラジオストックに抜ける鉄道で、ソ連はシベリア鉄道と連結してユーラシア大陸を横断する鉄道を建設する計画だった。日露戦争により長春から大連への南満州鉄道は日本に権益が移譲されたが、長春より北の鉄道路線は引き続きソ連が権益を握っていた。張作霖はこの鉄道に関する利権をソ連から奪おうとしたのである。

しかしソ連に張作霖爆殺の動機があったとしても、関東軍がソ連のコミンテルンと提携した証拠は何かという謎が残る。提携の証拠の一つは爆破状況だが、河本大作が線路に仕掛けた爆弾以外に張作霖が乗っていた列車の内部にソ連の工作員により爆弾が仕掛けられていた可能性が高いという。張作霖の乗っていた列車はもともと西太后のお召し列車で特別な張作霖一行の専用列車であったから、ソ連の工作員が関東軍や張作霖側の協力者の手引きなしに乗り込んで爆弾を仕掛けるのは不可能である。つまりソ連の工作員が張作霖と同じ列車に乗っていたとすれば、それは関東軍や張作霖側にも協力者がいたことを示している。

では関東軍内部にはコミンテルンに通じたエージェントがいたのであろうか。エージェントである可能性が高いのは張作霖の顧問で直前まで同じ列車に乗っていたものの、途中の天津で降りた関東軍の町野武馬と張作霖の手下であった張宗昌である。二人は事前に張作霖暗殺の情報を知っており、しかも暗殺のためにソ連のエージェントと共に爆薬を列車内部に仕掛ける工作を見届けた後に列車を降りた可能性が高い。

では河本大作の役割とは何だったのかということだが、河本大作の仕掛けた爆薬はソ連の工作を隠蔽するための補助的な役割に過ぎなかったのではないか。張作霖に致命傷を与えたのは河本大作の仕掛けた爆薬ではなく、ソ連のエージェントにより列車内部に仕掛けられた爆弾だった。

ではなぜ河本大作が補助的な役割を果たすことになったかと言えば、河本大作とコミンテルンの間をつないだのは岡田啓介であったという。岡田啓介は張作霖爆破事件当時は田中義一内閣で海軍大臣を務めていたが、以前よりソ連のエージェントと連絡があったらしい。そして張作霖爆殺事件の責任を取って辞任した田中義一に代わってまんまと総理大臣の位についたのであった。そして、これが2・26事件で岡田啓介が陸軍青年将校に狙われた隠された原因だった。岡田啓介とソ連との繋がりは、その後もゾルゲや義理の甥にあたる瀬島龍三らを通じて続いたという。

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