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豊富な栄養素が摂れる健康食品として知られているユーグレナ（和名：ミドリムシ）ですが、実は食品以外にもその可能性が注目されています。

そのひとつが、自動車などのエネルギーとして使うというもの。

健康問題や食料問題という文脈で紹介されることの多い「ユーグレナ」ですが、今回はエネルギーという立場から、オールアバウト「社会ニュース」ガイドの松井政就さんと解説していきます。

社会の動きと切り離せないエネルギー問題


時代とともにエネルギーは変わっていった

昨今、メディアなどで取り上げられることが多いエネルギー問題。私たちにとって、エネルギー問題とは生活に身近なものである一方で、政治や経済とも密接に結び付くものでもあります。

松井さんはエネルギー問題を「いつの時代も社会と切り離せない問題だった」と言います。

松井さん「たとえば電力という面では、古くは水力発電や火力発電が中心でしたが、水力発電の場合、ダムによる河川への影響が次第に明らかとなり、また石油など化石燃料を用いる火力発電は地球温暖化を招く二酸化炭素を排出する点から、世界のエネルギーは原子力発電に舵を切られてきました。

ところがチェルノブイリ原発や福島第一原発など、原子力発電はいったん事故が起きると人類の手に終えないほど苛酷なものとなるリスクを抱えた技術であることも明らかとなったのです。

そうした事情から、最近では風力あるいは地熱、太陽光といった再生可能エネルギーの利用が進められています。クリーンである点や事故のリスクが小さい点では大変評価できますが、課題もあります。太陽光や風力は気候天候に左右されますし、発電用の装置を設置するため広大な土地が必要となるからです。特に、国土の狭い日本では悩ましいところです。」


エネルギー問題にも寄与する健康食品！？


バイオ燃料　そのメリットとデメリット


バイオ燃料は食料と競合しやすい

松井さんはまた、「これまで研究開発が進められてきた再生可能エネルギーには、もうひとつの弱点がある」と言います。

松井さん「これまでの再生可能エネルギーはどれも、『電気エネルギー』なのです。自動車に関しては電気だけで動くものも増えてはいるものの、航空機となると電気だけで飛ばすのは難しいのが実情です。操縦系統を油圧式から大幅に電気式にした機体としてボーイング787がありますが、搭載している大容量のバッテリーが発熱や発火などでたびたびトラブルを起こしたように、まだまだ大容量の電気を蓄えることが発展途上の技術であるのも事実です」

その点で期待がかかるのがバイオ燃料です。バイオ燃料とは再生可能な生物由来の有機性資源を原料に、発酵、搾油、熱分解などによって作られた燃料のことを言います。トウモロコシやサトウキビを使った燃料のことを、聞いたことがあるのではないでしょうか。

松井さん「これらは電気エネルギーではなく、『燃料』となるエネルギーです。その点が他の再生可能エネルギーと本質的に異なります。当然のことながら、品質が確保できれば自動車などの燃料としても使用できます」

ただし、バイオ燃料にもいくつかの課題はあります。そのうちのひとつが食料との競合です。先進国の企業によってそうした植物がエネルギー源として使われてしまうことで、食料が足りなくなるという恐れもあるのです。現に、近年の穀物の値段の高騰の原因には、バイオ燃料への転換もあると言われています。


新たなエネルギー源として期待されるユーグレナ


ユーグレナはエネルギー問題の救世主と成り得るか？


ユーグレナの高速大量培養に成功

こうした現状を目の当たりにし、あるバイオテクノロジー企業が立ち上がりました。その名は株式会社ユーグレナ。その社名にもなっているユーグレナ（和名：ミドリムシ）を使った健康食品「ユーグレナ・ファームの緑汁」などの製造と販売を行っている会社です。

同社は独自にが開発した高速大量培養の技術を利用して、ユーグレナからバイオ燃料をつくることに成功。ユーグレナのエネルギー利用の現実性を高めました。

実はユーグレナには100以上の種類が存在するのですが、豊富な栄養素をもつものや、油分を多く含むものなど、その特徴はさまざまです。株式会社ユーグレナでは、その中から用途に合うユーグレナを選別し、食用や化粧品、エネルギー利用といった形で使い分けているのです。

松井さん「ユーグレナを利用する一番のメリットは、ユーグレナが現在主食とされていないことです。今後、どんどん増産され、バイオ燃料として利用が加速してもトウモロコシのような食料問題に発展する心配はないからです」

ユーグレナは、培養する際に農地を必要としないのもポイントです。理論上は、工場の中でも砂漠の真ん中でも生産でき、限られた農地を食料と奪い合わなくてよいため、バイオ燃料による食料価格への影響が少なくてすみます。

その他にも、現在バイオ燃料として使われている、もしくは候補として挙げられている植物よりも敷地面積当たりの油脂生産性が高いこと、油のしぼりかすは飼料の原料として使用できるため、処理費用を節約できて生産施設を簡略化できることなど、利点は数多くあります。

また、ユーグレナは、CO2を吸収して酸素を生み出す「光合成」で育ちます。CO2を吸収しながら成長する過程で油をつくりだします。この油からつくられた燃料を燃やして排出されるCO2は、もともとユーグレナが吸収したCO2なのです。つまり、石油などと違ってエネルギーを消費しても地球環境への負荷が少なくてすむのです。


エネルギー問題の救世主


ユーグレナ燃料を使って、ジェット機が空を飛ぶ日はいつ？


ユーグレナはジェット機の燃料にも

ユーグレナからは比較的軽質な油を取ることができ、現在その油をバスや飛行機の燃料にするための研究を米国石油大手シェブロン子会社のChevron Lummus Global（シェブロンラマスグローバル）社などと共同で行っています。

尚、株式会社ユーグレナは、いすゞ自動車株式会社とともに、DeuSELプロジェクトとして、ユーグレナからつくった燃料DeuSELを入れて運行するシャトルバスを走らせるなどの実証実験を行っています。ユーグレナの燃料を使って、ジェット機が空を飛ぶ日も近づいているようです。

ユーグレナを利用したエネルギーが普及するために今後クリアすべき点として、松井さんは「基準を満たす質のものを安定的に大量に生産できること」を挙げます。

松井さん「既存のエネルギーと肩を並べるかあるいは置き換わるほど普及させるためには、安定した供給体制は最低限必要なことです。その一方で、エネルギーとして供給するためのインフラも整えていかなければなりません。充電スタンドが普及しなければ電気自動車が普及しないのと同じ理屈です」


あらゆる分野で期待が集まるユーグレナ


ユーグレナがつくる未来の社会とは


自分たちでエネルギーを選択できる日がくる

ユーグレナをはじめとする再生可能エネルギーにより、将来、どんな社会が実現されるのでしょうか？

松井さん「現在、ガソリンの価格はペットボトルの水より安いのが事実です。採掘し、運搬し、精製するといった大変な手間とコストがかけられているガソリンが水より安いことへの疑問はなぜか語られることはありません。また、コンセントにつなげば使える電気も、どのようなプロセスで生み出されてきたか、福島第一原発事故以降にはじめて知った人もいるでしょう。既存のエネルギーは高度に政治的な存在として扱われ、その供給プロセスは意識の外に置かれ、気づいた時にはすでにそこにあったというのがこれまでの姿です。

しかしユーグレナをはじめとする再生可能エネルギーは、生み出されるプロセスやその普及を今の社会に生きている私たちがリアルタイムで見ることができます。つまり、既存のエネルギーのように、気づいた時にはすでにそこにあったというのではなく、どんな用途にどれだけのエネルギーが必要かを考えながら、社会に適した形で推進し、自分たちで選択できる形のエネルギーが、まさに再生可能エネルギーと言えるでしょう。

製品や乗り物などもその利用に適した形に改良が加えられ、今後は、さらに一層再生可能エネルギーの利用が加速していくのではないでしょうか」


未来の社会をつくるユーグレナ


気鋭のベンチャー企業が研究を重ねた作った
ユーグレナを使った健康食品「ユーグレナ・ファームの緑汁」

ユーグレナには食品やバイオ燃料のほかにも、化粧品や飼料としての研究、さらには医療分野への転用なども考えられているそうです。

松井さん「藻類が異なるとはいえ、口に入るものからエネルギー源までカバーする物質があることは、社会ではほとんど知られていませんし、その技術で日本企業が先駆者となっている点は大変誇らしいことだと思います。

あとはどのように特許で守り、当技術に関して日本および株式会社ユーグレナがリーダーの地位を確保していくかだと思います」

たった全長0.05mmという小さなユーグレナの大活躍に、これからも注目していきたいですね。