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2019年03月06日
権力者が看護されるシーンと亡くなるシーンの資料
実にお久しぶりな更新であるが、今日ご紹介したいのは、
讃岐典侍日記 (講談社学術文庫 193) 森本元子 著 である。
この本は、堀河天皇という天皇に仕えた女官である、藤原長子という人の日記である。
讃岐典侍日記は「さぬきのすけにっき」と読む。
典侍(すけ)というのは、昔の時代の高級女官の官職名である。
女官なので、だから正式な妃というわけではないが、まあ実質上は天皇の奥さんの一人ということでもあったようである。
そしてこの典侍の藤原長子さんの親父さんが讃岐守という役職についていたので、讃岐典侍と呼ばれるということであったようである。
さて、まあそういう諸々はどうでもいいとして、この本のワナビから見た資料的価値ということである。
この本の何が貴重なのかというと、堀河天皇がご発病なさって、それからひと月ほどをかけて死に至る過程を、もっとも近くで看護した讃岐典侍さんの目線から克明に描いてあるというあたりである。
なろう小説なんかだとヨーロッパ風ファンタジー世界な作品が多くて、そこに王様とか出てきたりすることも多いのであるが、その王様が病気でなくなるという展開だってそりゃあり得るというものである。
そういう展開のときに、単に想像で書くか、似たようなシーンが実録されている資料を参考にして書くかで、読者が読んだときに臨場感がだいぶん違ってくるんではなかろうかと思われるのである。
だからそこらへんワナビ的には実に貴重な資料になろうかと思われるんであるね。
また、堀河天皇の寝所で、その讃岐典侍の藤原さんが休んでいると、なんか用事があったらしき人がやってくるのであるが、その時に堀河天皇が、ついっと膝を立てて藤原さんを隠してくれたわけである。
それでそういう堀河天皇の優しさというか思いやりというかそういうのが嬉しいとか書いているんである。
そこらへん実にリアルで何とも言えない臨場感リアル感でなかろうか。
これもまたワナビ的には実に資料的価値ありであるね。
あともう一つ注目ポイントだったのは、この本の作者はつまりは女官という名の側室だから、他に正室の方もいて、それは中宮というか皇后さまなのである。
それでその中宮様が堀河天皇が病気だからって、お見舞いに来たよ的なことが書いているんである。
つまりコレは正室 vs 側室のシーンなわけである。
まあネタばらししておくと、別に正室 vs 側室だからってキャットファイトが勃発したりはしないのである。
まあ皇居内なので当たり前であろうが。
というかこの讃岐典侍日記には、主人公の中宮に対する嫉妬心とか、そういう類の感情は書かれていない。
これは、主人公が特に何も感じていなかったのか、それともそういうことをあからさまに書くべきではないと自制していたのかはよく分からないのであるが、そこは色々想像してみるのも良いだろう。
まあそれはいいとして、本物の側室から見た正室の姿、みたいなものが書かれた資料がここに現存するわけである。
これもまたワナビ的にはポイント高いと言えるかもしれない。
まあわずかであっさりした記述なので言うほど参考にならないだろうが。
そしてまた、そういうワナビ的視点ではない、一般的な視点から言うと、
夫を病魔で亡くした女性の追慕や悲しみが胸に迫る非常に心を揺さぶる名著ということになるだろうか。
なかなかの名作であると思うので是非とも確保していただきたいと思ふ。
私が読んだのは講談社学術文庫での版であるが、在庫数がそんなにないようなので、商品リンクは他の出版社からでているものも貼っておく。
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