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2017年03月26日
ひとりで何体もの体を動かすという発想
今日ご紹介したい本は、
『叛逆航路 (創元SF文庫) 』 アン・レッキー (著) 赤尾 秀子 (訳)
である。
SFのテーマのひとつに、人間の能力の拡張というものがある。
これは何も難しい話ではなくて、例えば望遠鏡とか自動車もそうである。
望遠鏡があれば視力の限界を超えて遠くのものが見えるし、自動車があれば脚力の限界を超えて、早く移動したり、遠くまで移動したりできる。
このように、人間の能力の拡張は、SFの中だけではなくて、現実の世界でも普通にあるわけであるが、SFの世界だと、やっぱりそこはSF的なガジェットを用いて、能力拡張の幅も、より凄まじいものになるんである。
そのようなSFのひとつとして、当ブログでは以前に『司政官シリーズ』をご紹介した。
2013/12/23 ワンマン行政官(司政官シリーズ) の記事へのリンク
詳細はリンク先を見ていただくとして、この『司政官シリーズ』では能力拡張の手段としてロボットが用いられる。
行政官たるたった一人の人間に、高度な知能をもつ、何千体ものロボット群をつけて、人間には判断だけやらせるという方式である。
『知能の高いロボットを人間の補助として何千体もくっつければ、人間はたった一人しかいなくても、なんでもできるんじゃね?』という考え方なんであるね。
で、今回ご紹介する『叛逆航路』ではどういう方式をとっているかというと、
なんでも『属躰』っていう方式をとるのである。
『属躰』っていうのは、まあ元は異星人なんであるが、これにある一つの人格を転写して、それらを接続して、ひとつの意識で動かすというやり方なんである。
つまり『ひとつの意識で何千体も体を動かせばいいじゃん』という方式なんであるね。
ひとりに何千体もロボットつけるか
ひとつの意識で何千体も体を動かすか
それぞれに長所と短所があるので、詳しく論じたいところであるが、これを論じてしまうと、幾らかストーリー展開上のネタバレになってしまうので、まあ詳しくは読んでいただきたい。
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それで、そういうSF的なガジェット以外の評価なのであるが……私には正直よくわからないんである。
ヒューゴ賞、ネビュラ賞など英米で計7冠! とか宣伝の文には書かれてたりするので、すごーく面白いのかと思いきや、私としてはあんまりだった。
でもアマゾンのレビューとかでは星を五つつけて絶賛してるのもあるし、まあ面白い人には面白いというか、そういう読み方をする人には面白いのかなという感じなのでしょうかね?
値段も新品だと高いかと思うので、個人的には中古があれば確保程度でいいように思う。
というわけで広告も中古のほうで貼っておいた(´・ω・`)
2015年03月11日
商船を主役に据えたSFは案外めずらしいぞ!
なんだか久しぶりであるが、今日ご紹介しようとしているのは、
『大航宙時代』−星海への旅立ち− ネイサン・ローウェル著・中原尚哉訳 である。
この本は商船員を主人公に据えた小説だ。
あらすじとしては、母親が事故でなくなったので、その家に住めなくなって、仕方がないから商船の船員になる、というような筋立てである。
あんまり血が沸いて肉が躍るような描写はない。
主人公も大体のことを順調にこなしていく、ある意味ストレスフリーのなろう小説にも似ていると言えるかもしれない。
でもじゃあハラハラドキドキしないから、面白くないのかと言えばそんなことはない。
主人公が新しい環境に適応していく様子を描いた青春小説めいたものとしても読めるし、なにより主人公たちが交易でお金儲けをしようとするのであるが、そういうお金儲けにまつわるワクワク感を表現している小説としても面白いと思う。
本格的に自分で商売をしたことがなくても、例えばアフィリエイトサイトを作ってみたり、株をちょっと買ってみたり、あるいはネットオークションで何かを出品してみたりというようなときに感じるある種の密かな楽しさみたいなものは皆様も覚えがあるかもしれない。この小説はそういう楽しさがあるも思う。
ディビットウエーバーのオナーハリントンシリーズなんかを筆頭として、ホーンブロワ―みたいな海洋冒険小説の舞台を宇宙に移し替えた系の小説はこれまであって、そしてそういう物語の主人公は大抵が軍人なのである。
けれども、海洋での冒険は何も軍人や軍艦に限らないのであって、むしろ大航海時代の主役は商人と商船であると思う。
だからそれの宇宙バージョンである本作品は、やっと来るべきものが来たか! という気もするんである。
この作品の設定で、乗組員がその職位?(階級?)に応じて船の?株を持つという描写がある。
例えば主人公は一番の下っ端だから四半株である。
(出世するとこれが半株とか一株とかになるらしい)
そんで、その持ち株に応じて、船員各自に割り当てられた「質量割り当て」があって、主人公たちはその割り当てのなかで物品を売り買いして交易をするんである。
でも、こういう制度はこの小説の発明した設定ではなくて、昔からあったようで、例えば昔のヴェネチアのガレー船の船員は幾らか私物を持ち込んで個人交易ができたとか、アフリカで象牙とか金とか買い付けてた船の船員は、自分個人用にも幾らか買って、無事にヨーロッパに戻れたらそれを売って大儲けとかしてたらしいとものの本で読んだことがある。
つまりこの小説は故事にならって実にツボを押さえた良い設定がなされているといえるだろう。
この小説シリーズは非常に、非常に期待できるといえるだろう。
とってもオススメである!
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2014年01月12日
リアルな異星人との交流
今日紹介する本は 『緑の少女』 というSF本である。
あまり有名な本ではないようで、
私も、ブックオフで安かったから何の気なしに買ったという程度のものだったと思う。
が、読んでみるとこれがアタリなのである。
何がそんなに良いのかというと、
この本に限らずSFでは、異星人との交流、ファーストコンタクト、などをテーマにしたものはある。
けれども、SFのなかに登場する異星人というものは、なんと言うか人間の変形物でしかないものが多い。
例えばスタートレックのミスタースポック、クリンゴン人、スターウオーズのヨーダなど、
それなりに特徴付けはしていても、それは、人間という生き物がもっている性格、特性の一部を誇張しただけのものだったりして、単に見た目が違うだけで、精神的な部分は人間とほとんど変わらなかったり、まったく同じだったりするパターンは多い。
例外として今、思いつくのは 『ソラリスの陽のもとに』 ででてくるものくらいだろうか。
それで、この 『緑の少女』 で出てくる宇宙人は、見た目はもちろん、精神的にも人間とかけ離れたものであることが示される。
この宇宙人は、自分たちの幼生体を食糧にする習慣があるのである。
もう主人公びっくりである。
主人公 「なんでそんなことするんじゃあ!?」
宇宙人 「え、なにが?」
てなもんである。
よく考えれば、カマキリとかは交尾の後にメスがオスをむしゃむしゃ食べてしまうようである。
だから、幼生体を食糧にする習慣も宇宙人的には、まああり得ない話じゃないということなのだろう。
異星人と地球人が似通った価値観で簡単に交流できる、なんていうのは幻想だよねー。
っていう話なのである。
とてもオススメの本なので、ぜひご一読あれ。
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2014年01月10日
潜水艦もの
今日は、その昔にSFの大家であったジュールヴェルヌの本を紹介しようと思う。
『海底二万里』 である。
あらすじは、
謎の生物による衝角攻撃で艦船が沈没するという、海難事故が相次いでいた。
フリゲート艦で調査に向かった主人公、海洋生物学者アロナックス博士とその仲間たちが調査に向かったが、調査中にアロナックス博士らの乗った船がその生物の攻撃を受けて沈没してしまう。
が、アロナックス博士らは、ネモと名のる男の乗る潜水艦に救助され無事だった。
そう、謎の生物とは衝角を備えた潜水艦だったのである……
というようなお話である。
この本には、現在でいうところの原子力潜水艦なみの性能を備えた潜水艦が主要なメカとして登場する。
しかし、この本が書かれたのは1870年のことである。
つまり、この本は、書かれた当時には存在しないメカについて書かれた本なのである。
ある種の未来予測に基づく、いまだ空想に過ぎないメカが登場する物語。
そう、この本は書かれた当時にはSFであったのである。
そして、いまとなっては、この小説が書かれた当時には存在もしなかった、原子力潜水艦という、この小説に書かれたメカよりも性能が上のメカが現実に存在する。
SFは未来予測のひとつの形であり、目指す夢の表れなのだということが良く分かる。
現在まで百数十年にわたって読み継がれている名作SFである。
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2014年01月07日
人間を見守るロボット
先日 『ヨコハマ買い出し紀行』 というマンガを紹介したが、
この作品は文明が衰退した世界であり、その衰退した世界で人間を補助し、あるいは見守るロボットを描いた作品なわけである。
この作品のなかに、ムサシノ運送という会社で配達員として働いている、鷹津ココネというロボットが出てくる。
配達員というのは、現在では人間が行う作業であるが 『ヨコハマ買い出し紀行』 の作品世界では、ロボットが人間が果たしてもよいような役割を人間の代わりに果たしているロボットなわけである。
今日紹介する 『ポストガール』 という作品も、文明の衰退した世界で郵便配達員として働く少女型ロボットを主人公に置いた作品である。
この作品は、ロボットの自意識という問題が主要なテーマになっており、主人公たるロボットの少女は、配達先に郵便を届け、その過程で、あるいは配達先で、物語を紡いでいく。
ロボットに自意識というものが存在し得るのかということは、非常に難しいテーマではある。
けれども、そのロボットを視点人物として一人称の小説を書いているのであれば、
その作品世界では完璧な人間としての自意識が発生している、
という結論が最初から出ているということになってしまうのではないかと個人的には思う。
だから、私は、この作品については、主要テーマである、ロボットの自意識ということよりも、
むしろ、人間を見守るのはなぜロボットなのかということが気にかかった。
人は小さなころは大人に見守られ、年老いると子供に見守られる。
けれども、人類の社会が衰退するという設定の作品では、人を見守るのはロボットなのである。
本作品の主人公も、人を助け、補助する、見守るロボットの類型に当てはまるだろう。
人間と、人間を見守るロボットという関係性についての描いた貴重な作品のひとつなのである。
この本は、短編集の形式をとっており、収録された短編には第1回電撃hp短編小説賞受賞作も入っている。
非常にレベルの高い佳作であるのでとてもオススメである。
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2014年01月03日
人類の穏やかな黄昏を描いた本
昨日は 『人類は衰退しました』 というラノベを紹介した。
その題名の通り、人類の衰退を描いた本である。
それで、今日は衰退つながりということで 『人類は衰退しました』 と同じように、人類の穏やかな黄昏を描いたマンガを紹介しようと思う。
『ヨコハマ買い出し紀行』 というマンガである。
海面の上昇によって文明が衰退しつつある世界。
そのような世界で、主人の帰りを待ちながら喫茶店を経営するロボットのお話である。
主人公のロボットが喫茶店で使うためのコーヒー豆を買いに行ったりだとか、
近所の人やらロボットのお仲間やらが主人公を訪ねてきたりだとか、
そういうどうということのない日常を描いており、人類の黄昏を描いてはいても、悲愴感はない。
ゆるい時間が流れていくのみである。
それでも、子供の数が少なくなったこととか、
人類を見守る、あるいは看取るものとしてのロボットの存在とか、
ちょっとしたことがさりげなく、本当にさりげなく作中に示される。
描かれている内容に大げさな描写はまったく無いのに、
それでも、本当に穏やかな人類の黄昏をみていると、
文明の意味ってなんだろうとかそんなことを考えてしまう。
間口は広く奥行きは深い、名作だと言える。
とてもオススメである。
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2013年12月29日
もうちょっとで実現しそうなSF
SFっていうと、銀河帝国だのワープ航法だのビーム兵器だのがでてくるので、
どうも絵空事めいていて、あんまり読む気になれないという方も多い。
そういう方にオススメなのが、今日紹介する、
『星のパイロット』 という小説である。
小説の舞台となるのは、現代より少しだけ未来の、少しばかりの技術の進歩があって、民間の宇宙開発が盛んになった時代である。
小説中には銀河帝国だのワープ航法だのといった、とんでもSFガジェットはでてこない。
登場する機械などはすべて現在の技術の延長線上にあるものばかりである。
SFというよりは、わりと現実的な宇宙開発をテーマにした小説といえるだろう。
主人公である女性宇宙飛行士の羽山美紀が零細民間航空会社へやってきて、そこで色々な宇宙開発のお仕事をするというようなお話である。
宇宙とか航空とか、そういうことに関心がある人でないと、ちょっと面白くない本かもしれないが、逆にそういう分野に関心がある人にとってはたまらない本である。
戦闘機から武装を外して自家用機にしていたり、とか、そういう胸熱な描写がたくさんある。
そういうのが好きな人には本当にオススメの一冊である。
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2013年12月28日
女性型巨大ロボット
今日紹介するのは 『ARIEL 1 (ソノラマノベルス) 』 という本である。
作者は笹本祐一さんである。と言っても分からなければ、
アニメの 『モーレツ宇宙海賊』 の原作者だと言えば分かるかもしれない。
さて 『ARIEL』 の話であるが、このシリーズは色々な要素から成っている。
まず、宇宙人が攻めてきて、これに対抗するために開発された女性型巨大ロボットに、女子大生と女子高生の三人組が搭乗して戦う、というようなドタバタコメディー。
さらに、非常に雰囲気のある良質なタイムスリップもののSF中篇など。
さらに、宇宙人がわに視点を移しての、大宇宙を舞台にしたスペースオペラのような艦隊戦など。
これらが混ざり合って非常にコクのあるシリーズに仕上がっている。
シリーズの最初のほうは、メカに対する愛が溢れた、女性型巨大ロボットを主軸に置いたドタバタコメディーであるが、しかしシリーズのこの時点では、オススメするほどに面白いものではない。
だから、読むのをやめちゃおうかなと思う人もいるかもしれない。
けれども、本当にお願いだから、少しばかり辛抱してシリーズの中盤まで読み進めてほしい。
なぜなら、このシリーズは巻が進むにしたがって、本当に尻上がりに面白くなっていくのである。
タイムスリップやらスペースオペラ的艦隊戦などは中盤以降になってやっと始まるのである。
そこまでたどり着けば非常に面白いものになるので、ぜひとも読んでいただきたいと思う。
たぶん、使った時間に見合うだけの面白さはあるだろう。
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2013年12月24日
藤子・F・不二雄SFの世界
亡くなって惜しいひとばかり早死にするような気がするが、
ドラえもん作者の藤子・F・不二雄さんが亡くなってだいぶんたつ。
というわけで全集が発売されているようだ。
私はかつて大学生だったが、1年生のころから真面目にやって、単位をひとつも落とさなかったので、大学の3年生の後半から4年生にかけて、超絶暇人になってしまった。
なにしろ週に1回、3時間程度のゼミに行く以外に、なにも用事がなかったんである。
今から考えれば、バイトなどをして有意義に過ごすべきだったと思うが、まあ実際にはネットをしたりブックオフで古本を漁ったりして時間を過ごしていたのであった。
そして、その漁った古本のなかにはドラえもんもある。
小学生が指をくわえて見つめる前で、大人の財力を発揮して、持っていなかった巻を大人買いである。
ドラえもんは、子供のころの懐かしいノスタルジーに浸ろうと思って買ったわけだが、
読んでみると、大人の感覚からしても、普通に面白いのだ。
考えてみるにドラえもんっていうのは、確かに子供向けの漫画であるが、純粋の子供向けっていうばかりの作品でもない。
ドラえもんやらスネ夫やらの発するセリフが、ときどき黒い、というかシビアなのもそうだし、恐竜やら何やらが登場するような話では、わりと難しい科学用語でも、解説付きではあるが、普通に使ってくる。
そしてそれこそが作品に、いわゆる『お子様向け』ではない『本物感』を与え、それが逆に子供を引き付ける結果になっているのだと思う。
つまり子供向けじゃない要素が、ドラえもんに魅力を与えている要素のひとつになっているわけである。
じゃあ、その子供向けじゃない要素だけで藤子・F・不二雄が作品を書けばどうなるだろう。
というわけで、今日紹介するのが、
『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編シリーズ』である。
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藤子・F・不二雄の描くSF短編は非常に質が高く、極端なエロ・グロ・暴力などもない、が、子供に見せたらちょっとトラウマになりそうなものもあって、そういう意味では大人向けだ。
例えば 『ミノタウロスの皿』 という作品がある。
ある宇宙船のパイロットが、とある惑星に不時着したら、そこは、牛そっくりの宇宙人がいて、その宇宙人は、人間そっくりの生物を『家畜』として飼っているのだった。
宇宙船のパイロットは、その人間そっくりの『家畜』の女性としたしくなるが……
というような筋立ての話である。
この作品などを読むと、藤子・F・不二雄の原型はこっちで、この原型を子供向けに多少ソフトにして、それに夢の要素を追加するとドラえもんになるんだなと思う。
普通のSF短編小説、例えば星新一の諸作品とかと比べても、漫画だから絵があるわけで、そのぶん臨場感もあって、とても良い。
藤子・F・不二雄ファンでかつお金があるなら、ドラえもんも含めて、この全集は全巻揃えるべきだろう。
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2013年12月23日
ワンマン行政官
唐突だが 『銀河英雄伝説』 などのSFのスペースオペラには、巨大宇宙戦艦どうしの、
大艦隊決戦とかいうものが、たまにでてくる。
それで、何千隻という艦船が沈み、というか爆発し、何十万という死者がでたりするのである。
でも、私はそういう類の小説を読むたびに疑問に思っていたことがある。
つまり、宇宙戦艦が爆発して膨大な死者が出るということは、その爆発した宇宙戦艦に多数の乗組員が乗り込んでいたということに他ならない。
しかし、それってどうなのだろうか? ということである。
現代でも、最新鋭の石油タンカーなどは、数人で運用するのが普通のようである。つまり高度な自動化の結果、少人数で運用できるようになっているんである。
もちろん、軍艦なんかだとタンカーなどよりは、ずっと必要な人員が多くなるわけであるが、それでも、なんであれ機械というものは自動化して、少人数あるいは無人でも運用できるようになっていくのが自然な流れであると思うのだ。
昨今の無人戦闘機などもその流れの一端であろうと思う。
人間というものは経済的にも、あるいは戦争で死んだりされると政治的な意味でも大きなコストがかかってしまうからだろう。
それなのに、宇宙空間で超音速ミサイルやらビームやらを撃ちあっているはずの、未来の宇宙戦艦が、乗組員の数だけは、現代の海上をいく戦闘艦のように、多数を必要とするというのが、どうにも解せないのである。
というわけで今日紹介するのは 『司政官 全短編 (創元SF文庫) 』 眉村 卓 著
というSF本である。
この本は、地球連邦内にある、原住民が居住する殖民惑星を統治するために派遣される行政官、すなわち『司政官』を主人公として書かれるSFである。
それでこの作品の設定の特異なところは、その『司政官』は統治するさきの惑星の行政権をほぼ一手に握る行政官として派遣されるのにも関わらず、なんと、おおむね単独で派遣されるのである。
他の行政官僚の手伝いは無し!
たった一人で全部の仕事をしなきゃならないんである。
惑星をまるごとひとつ統治しなきゃあイカンのにそんなんじゃあどうするんだ。
ということで登場するのがロボットの群なのである。
『SQ1』などのように、役割ごとに記号やナンバーで体系化された、
官僚ロボット群、警備・軍事用ロボット群。
これらを司政官は自由自在に使いこなして、ことを進めていくのである。
ある意味で、非常にリアルな、面白い設定のSFであると言えるだろうし、
昨今の、SFであるはずなのに、なぜかやたらと宇宙船から地上に降りて、原始的な肉弾戦などをやらかしたりしがちな、アメリカ的ミリタリーSFへのアンチテーゼともなっている作品だと言えるとも思う。
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◆2017/03/23追記◆
今日は上記でご紹介した『司政官シリーズ』の別の作品を読み終わったのでご紹介しようと思う。
『消滅の光輪』 眉村 卓 (著) である。
司政官シリーズというのは、たった一人の行政官が無数のロボット官僚の助けを得て、惑星を統治するという思考実験のようなSFである、ということは上に述べたとおりであるが、そのシリーズの長編作品である。
今回はその司政官が、母恒星の新星化によって消滅してしまう予定になっている植民惑星ラクザーンに赴任する。
司政官たる主人公のマセ・PPKA4・ユキオは、刻限までに惑星上の住民全員を退避させるという難事業に挑まなければならないのであった……
というような筋立てである。
退避をしようとしない先住民がいたり、退避計画に反発する植民者がいたりとか、そんなこんなを解決してゆく司政官というところで、なかなかに面白いSFになっていると思う。
司政官とロボット官僚のかかわりとか、そういう設定的においしいところもたっぷり味わえるというところでは良いとも思う。
しかしまあ上・下巻の大部であるし、だから値段も高い。
無理してまで買う必要があるとは思わないので、もう中古しかないところであるし、お金に余裕があって、気が向いたら確保程度で良いと思う。
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このシリーズの作品を読む順番としては、
『司政官 全短編 』を読んだ後で、
『消滅の光輪』に進むのが良いと思う。
なぜなら、『司政官 全短編 』の巻末のほうに、司政官シリーズの詳細な解説がついてあって、ロボット官僚群の構成とか、その時代ごとの変遷とかが細かく書いてあるんである。
実に素晴らしい解説で、目新しい設定のお勉強として読むのであれば、作品そのものよりも、そっちの解説のほうが価値が高いくらいである。
だからまあ設定の資料本として買うなら『司政官 全短編 』のほうだけ確保しておけばそれでいいかなという気もするんである。
それで『消滅の光輪』を読むうえでも、その解説を読んでおいてからのほうが圧倒的に作品が理解しやすくなるので、読む順番は上記の通りでお願いしたいところである。
……とここまで言うとなんだかつまらない作品であるかのように聞こえたかもしれないが、『消滅の光輪』もじっくり読める優良なSF巨編であるのでそういうの好きな方にはお楽しみいただけると思うので、これはこれでオススメである。