2013年12月23日
ワンマン行政官
唐突だが 『銀河英雄伝説』 などのSFのスペースオペラには、巨大宇宙戦艦どうしの、
大艦隊決戦とかいうものが、たまにでてくる。
それで、何千隻という艦船が沈み、というか爆発し、何十万という死者がでたりするのである。
でも、私はそういう類の小説を読むたびに疑問に思っていたことがある。
つまり、宇宙戦艦が爆発して膨大な死者が出るということは、その爆発した宇宙戦艦に多数の乗組員が乗り込んでいたということに他ならない。
しかし、それってどうなのだろうか? ということである。
現代でも、最新鋭の石油タンカーなどは、数人で運用するのが普通のようである。つまり高度な自動化の結果、少人数で運用できるようになっているんである。
もちろん、軍艦なんかだとタンカーなどよりは、ずっと必要な人員が多くなるわけであるが、それでも、なんであれ機械というものは自動化して、少人数あるいは無人でも運用できるようになっていくのが自然な流れであると思うのだ。
昨今の無人戦闘機などもその流れの一端であろうと思う。
人間というものは経済的にも、あるいは戦争で死んだりされると政治的な意味でも大きなコストがかかってしまうからだろう。
それなのに、宇宙空間で超音速ミサイルやらビームやらを撃ちあっているはずの、未来の宇宙戦艦が、乗組員の数だけは、現代の海上をいく戦闘艦のように、多数を必要とするというのが、どうにも解せないのである。
というわけで今日紹介するのは 『司政官 全短編 (創元SF文庫) 』 眉村 卓 著
というSF本である。
この本は、地球連邦内にある、原住民が居住する殖民惑星を統治するために派遣される行政官、すなわち『司政官』を主人公として書かれるSFである。
それでこの作品の設定の特異なところは、その『司政官』は統治するさきの惑星の行政権をほぼ一手に握る行政官として派遣されるのにも関わらず、なんと、おおむね単独で派遣されるのである。
他の行政官僚の手伝いは無し!
たった一人で全部の仕事をしなきゃならないんである。
惑星をまるごとひとつ統治しなきゃあイカンのにそんなんじゃあどうするんだ。
ということで登場するのがロボットの群なのである。
『SQ1』などのように、役割ごとに記号やナンバーで体系化された、
官僚ロボット群、警備・軍事用ロボット群。
これらを司政官は自由自在に使いこなして、ことを進めていくのである。
ある意味で、非常にリアルな、面白い設定のSFであると言えるだろうし、
昨今の、SFであるはずなのに、なぜかやたらと宇宙船から地上に降りて、原始的な肉弾戦などをやらかしたりしがちな、アメリカ的ミリタリーSFへのアンチテーゼともなっている作品だと言えるとも思う。
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◆2017/03/23追記◆
今日は上記でご紹介した『司政官シリーズ』の別の作品を読み終わったのでご紹介しようと思う。
『消滅の光輪』 眉村 卓 (著) である。
司政官シリーズというのは、たった一人の行政官が無数のロボット官僚の助けを得て、惑星を統治するという思考実験のようなSFである、ということは上に述べたとおりであるが、そのシリーズの長編作品である。
今回はその司政官が、母恒星の新星化によって消滅してしまう予定になっている植民惑星ラクザーンに赴任する。
司政官たる主人公のマセ・PPKA4・ユキオは、刻限までに惑星上の住民全員を退避させるという難事業に挑まなければならないのであった……
というような筋立てである。
退避をしようとしない先住民がいたり、退避計画に反発する植民者がいたりとか、そんなこんなを解決してゆく司政官というところで、なかなかに面白いSFになっていると思う。
司政官とロボット官僚のかかわりとか、そういう設定的においしいところもたっぷり味わえるというところでは良いとも思う。
しかしまあ上・下巻の大部であるし、だから値段も高い。
無理してまで買う必要があるとは思わないので、もう中古しかないところであるし、お金に余裕があって、気が向いたら確保程度で良いと思う。
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このシリーズの作品を読む順番としては、
『司政官 全短編 』を読んだ後で、
『消滅の光輪』に進むのが良いと思う。
なぜなら、『司政官 全短編 』の巻末のほうに、司政官シリーズの詳細な解説がついてあって、ロボット官僚群の構成とか、その時代ごとの変遷とかが細かく書いてあるんである。
実に素晴らしい解説で、目新しい設定のお勉強として読むのであれば、作品そのものよりも、そっちの解説のほうが価値が高いくらいである。
だからまあ設定の資料本として買うなら『司政官 全短編 』のほうだけ確保しておけばそれでいいかなという気もするんである。
それで『消滅の光輪』を読むうえでも、その解説を読んでおいてからのほうが圧倒的に作品が理解しやすくなるので、読む順番は上記の通りでお願いしたいところである。
……とここまで言うとなんだかつまらない作品であるかのように聞こえたかもしれないが、『消滅の光輪』もじっくり読める優良なSF巨編であるのでそういうの好きな方にはお楽しみいただけると思うので、これはこれでオススメである。
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