2018年07月21日

拓馬篇−9章2 ★

「なあ、俺たちっていつになったらここを出させてもらえるんだ?」
 拓馬は自分たちを監禁した者の縁者に問う。銀髪の少女はヤマダに寄り添ったままだ。
「わかんない」
「あの大男はお前にも教えてないのか?」
「うん……」
 少女がうなずいた。知らないのなら仕方ない、と拓馬は別の質問に切り替える。
「あいつはどこにいるんだ?」
「いちばん広いへや」
 拓馬は学校でもっとも広い一室がどこかを考えた。図書室、職員室、食堂、校長室、道場など、一通り思い浮かべてみたがどれもピンとこなかった。一番面積の広い場所はグラウンドだが部屋ではない。その次に広い場所は体育館。現在は扉が開かない箇所だ。
「体育館を部屋って言うか……? まあいいや、その男はそこでなにをしてる?」
「まってる」
「なにを待ってるんだ? 俺たちか?」
「もうひとりまってる」
「それはシズカさんか?」
「その人のつかいがくるんだって」
「『つかい』?」
「きたよ」
 教室の戸からコツコツと固い物が当たる音がした。拓馬が音の出所へ注目すると白い烏がアクリル窓をつついていた。その烏はシズカの仲間だ。拓馬は助けがきたのだと心の中で歓喜する。即座に席を立ち、烏を教室へ入れた。烏はヤマダの近くにある机に着地する。その足には細長く折りたたんだ紙が結んである。拓馬がその紙を広げる。差出人不明だが、拓馬宛ての手紙だった。
≪タクマくんへ。ヤマダさんを守らせていた子と連絡ができなくなった。その子は毛が白くて首に鈴を付けた狐だ。ヤマダさんの近くにいるだろうか? 返信求む。≫
「……キツネって……」
 拓馬はヤマダを見た。彼女を護衛する狐はいない。そもそも今朝から狐は見ていなかった。試験中にヤマダが襲われたことはシズカに伝えてあり、現在は日中もヤマダを守る手はずになっている。姿を見せなくとも付近にいるもの、と拓馬は楽観視していた。だが狐がシズカと連絡を取れないのなら、狐は正常な状態ではないことになる。
 拓馬はこのことも少女にたずねる。
「……お前は白いキツネを見たか?」
「うん」
「いまはどこにいる?」
 少女は「あのへん」と中庭を挟んだ校舎の上部を示した。反対側の校舎の二階だろうか。
「キツネがどうなってるか、わかるか?」
「生きてないし死んでもない」
「どういう意味だ?」
「ヤマダかシズカ、もとにもどせる」
「なんでその二人なんだ」
「そういう力、もってるから」
 少女は正直に話しているのだろうが、拓馬の要領を得ない。
(引き出しの開け閉めができるのと、関係あるのか?)
 拓馬や赤毛にはできないが、ヤマダにできること──いまのところ、特定の机と箱の引き出しの開閉はヤマダの特権となっている。それ関連の能力かと拓馬は心に留めた。
 突然、烏が拓馬の手をつついた。返信を書け、と催促しているらしい。
「あ、わるいな。いま返事を書くよ」
 拓馬はヤマダの文具を用い、メモ用紙に現状報告を書く。狐は姿を消したこと、自分たちが妙な学校に閉じこめられたこと、狐はこの閉じた空間の中にいるらしいことを記した。紙を折りたたみ、烏の足に結ぶ。役目を達成した使いは羽ばたき、飛び去った。
(無事にとどけてくれよ)
 拓馬はそう念じた。あの烏が拓馬たちの生命線であると信じて。
 烏が通ったあとの戸は開けっ放しである。拓馬は廊下の様子を確認したのち、引き戸を閉める。シズカと連絡がとれた歓喜のせいか、戸を強くうごかしてしまった。ドンという音とともに戸が反動する。拓馬は力加減をまちがえたことを反省し、そっと戸を閉めた。
 拓馬が出した物音のせいだろうか。ずっとうつむいていたヤマダの頭がうごいた。拓馬は彼女の私物を使ったことを伝える。
「お前がねてるあいだ、紙とペンを使わせてもらったぞ」
「……んー? あれ、居眠りしてた?」
 寝起きの生徒が頭を上げた。ヤマダがはじめて少女姿の化け物と対面する。ヤマダはわずかに身を引き、驚愕した。少女と手をつないでいることに気付くと、もとの姿勢にもどる。だが見開いた目は変わらない。
「あー……そうだ、大変なことになってるんだったね」
「ああ。でもシズカさんの使いがきたんだ。ちょっとは状況がよくなるぞ」
「それは心強いね。……あれ?」
 ヤマダは席にもどってきた拓馬の顔を見る。
「そういえばわたしのそばに白いキツネがいるんだっけ。その子はどうしてるの?」
「今朝から見てないんだ。シズカさんも、連絡が取れないと手紙に書いてた。んで、そいつが言うには、向かいの校舎の二階あたりで捕まってるらしい」
 拓馬が「そいつ」と称した銀髪の少女を指し示す。ヤマダは少女の顔をまじまじと見た。元黒い化け物だった者へ向けた視線は、しばらく経つと拓馬へ移される。
「この子が、さっきの黒い子?」
「そうだよ、お前がこの姿を想像したからこうなったんだとさ」
「たしかに、声が女の子かなーと思ったのと、シド先生を思い出しちゃって……」
「なんで先生のことを思い出してたんだ?」
 ヤマダは口ごもった。「なんでって……」と少女と見つめ合う。
「ほんとは試験の時間なのに、こんなことになっちゃって……先生、心配してるかなーと思ったんだよ。そんな想像で、この子が人間に変身できるんだね」
 やや早口でヤマダが答えた。本心とズレた理由を言っている、と拓馬は直感する。
(ほんとうは先生が化け物の仲間だって、思ってんじゃないか?)
 いまにして思うと、追試のはじまるタイミングで異変が起きたこと、謎解きの数々が英語を使用する二点は怪しい。これらは新任の英語教師を騒動の原因だと疑える事実だ。
(わかってても、認めたくないのか……?)
 その気持ちがわからなくはなかった。あれほど友好な関係をきずいてきた相手が、自分たちをあざむいていたとは信じられないのだ。
 拓馬は彼女を傷つけぬよう、あえてヤマダのごまかしの言葉にのっかる。
「シズカさんの猫はいろんな人間に化けられるっていうからな。異界の連中はわりとカンタンに人に化けるもんなんじゃないか?」
「化け猫と一緒かあ……ところで、この子の名前は聞いた?」
「ないらしい」
「んー、ないのは不便だね。パッと思いついたところで……」
 ヤマダは首をひねった。十数秒が経過したのちに少女を正視する。
「黒人女性歌手に、本名がエリノーラという人がいたの。ほかに偉い女性のなかでエレノア・ルーズベルトという人もいてね。そこからとって、エリー。仮にそう呼んでいい?」
 少女は「うん」と二の句を告げずに快諾する。あっさりしたやり取りだ。
(こいつ、けっこう素直だな……)
 少女の従順さをを逆手にとって、大男の計画を根掘り葉掘り聞き出すことはできる。だが赤毛が教室の戸をがらがらと開けて入室したため、その聴取は中断さぜるをえなかった。

posted by 三利実巳 at 23:59 | Comment(0) | 長編拓馬 
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