2017年10月20日

拓馬篇前記ー校長3

 校長室に一年生の担任が二人招集された。一人は仙谷を受け持つ男性教師。彼は功刀(くぬぎ)といい、普段は物腰柔らかな性分だった。今は男性らしい剛健さをまとっている。もう一人は久間という女性教師。彼女は仙谷以外の三人を受け持つ。気立てが優しい常識人だ。
 教師らはソファに座り、テーブルをはさんだ真向いに校長が座る。
「お二方に集まってもらったのはほかでもない、仙谷くんたちのことなんだがね」
 功刀が「はい」と神妙に答える。
「事情は聞いています。他校の生徒とのトラブルがあった、と」
「そうなのだよ。他校の者が迷惑行為を長期にわたってし続け、それを仙谷くんたちがやめさせようとした」
「非は全面的に他校の生徒にあります。このことで仙谷たちを責めるのは気が進みません」
 久間が「同意見です」と賛同した。校長も「気持ちはわかる」と二人の心を汲む。
「彼らが善良な心根を持つがゆえの行動だ。それはいい。だが乱暴な行為を認めるわけにはいかない」
 校長が糾弾することは危険な行為、その一点。教師らは異を唱えない。
「今回は怪我人がいなかったようだが、次はどうかわからん。いずれまた同じ騒動が起きて、取り返しのつかない事態になってからでは遅い」
「再発を防ぐ方法は、あるんでしょうか?」
 功刀がそう言ったきり、三人は黙った。主原因が外部にあるかぎり内部努力は効果的でない。校長は苦々しい声で「難しいね」とつぶやく。
「仙谷くんの熱意をおさえればいいんだろうが、それでは彼の良さを潰すことになる」
 二人の担任はうなずいた。学校における仙谷は優等生そのもの。行事には率先して加わり、他者のいさかいを見れば仲を取り持ち、彼がいることで円滑に事が運んだことは多々ある。それらの動機は「皆の役に立ちたい」との思いから生まれる。その長所が不良退治にも活かされただけなのだ。
「他校の生徒の素行を正すのは、もっと難しい」
 黙っていた久間が「そうですね」と同調する。
「仮に他校の先生がたへ、問題行為のある生徒の指導をお願いしても……『それができればとっくにやってる』と言われそうです」
「子どもたちの行動を変えさせるのは現実的でない、ということかな」
「はい。できるとしたら、この才穎の教員がうちの生徒を見守るくらいでしょうか」
「放課後や休日も?」
「毎日は厳しいですね。でも、事件が起きそうな時期を察知できるかも」
「ほう、どうやって?」
「校長先生の情報網を使って」
 校長は盲点を突かれた。たしかに校長には生徒たちの近況を知らせる仲間がいる。しかし不良がたむろする場所を特定することは、その近辺に仲間を派遣することにつながる。仲間も危険にさらすはめになる。それでは元も子もない。仲間の中には現役の生徒もいる。
「少しリスクがあるな。私が雇う情報屋を危険な場所へやることはできない」
「できる範囲でいいんです。その情報屋さんがどんな人なのか知りませんが、主婦の噂話を拾うくらいでも」
「それはわかった、善処しよう。でも『どこそこに不良が出没する』と知ったとして、だれが対処するのだね?」
 久間は返答に窮した。非力な彼女が不良をどうこうする技術を持つはずはなく、功刀も屈強とは言えない。
「……八巻先生はいかがです?」
 功刀が提案したのは武芸の心得のある若い男性教師だ。体格もよく、彼なら荒っぽいことにも対応できるだろう。性格は仙谷に通じる部分があり、仙谷たちとの意思疎通の面でも不足はない。ただ現在の八巻は休職中だ。彼は半年前に交通事故に遭い、生死の境をさまよう重体を経ている。医者に言わせれば「生きていることが奇跡」という状態から復活を遂げた人だ。
「八巻先生は……いまどんな状態だろうか? 骨折は治ったそうだが」
「体に入れたボルトやプレートの除去をしに入院しているそうです」
「ふうむ、新学期から復帰できると考えてよいのかね?」
「そのように聞いています。ですが一度お会いになってはどうでしょう」
「そうだな、見舞いもかねて行ってみよう。彼に仙谷くんたちの監督を任せてもよいか、私が交渉する」
 方針が一つ決まった。外はまだ明るい。校長はさっそく会いに行くことにし、その支度を整えはじめた。

タグ:羽田校長
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