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2017年01月20日

マイルドセブン



イベント関連の仕事で千葉のホテルに一週間ほど滞在しました。

普通のビジネスホテルで、滞在してニ日目の夜、タバコが切れたので、
階に設置されてる自販機で買おうと部屋を出ました。

自販機の所まで来たのはよかったのですが、小銭がないことに気づき、
フロントまで行って両替してもらおうかどうか考えていました。

通りかかったホテルの従業員に「何かお困りですか?」と話しかけられ、
小銭がないことを話しました。

すると後ほどお部屋にお持ちしますので、お部屋でおまちくださいと言われました。

私は部屋番号と、タバコの銘柄を告げ、
代金は部屋の料金に加算してくれるというので、そのまま戻りました。

部屋で一時間くらい待ったでしょうか……忘れたのかな?という思いと、
夜も遅かったので寝てしまうか、とその日はそのまま寝ました。

翌朝、タバコは外で買えばいいので、
さほど気にせず外出。ホテルの部屋に夕方くらいに戻り部屋に入り、
しばらくして、あるものに気づきました。

机の上にタバコが置かれていました。

私はマイルドセブン(現メビウス)を吸っていて、
置かれていたタバコもマイルドセブンなんですが……そのタバコが
……古いんです。

私が小学生の頃、父親もマイルドセブンを吸っていたため、
良く覚えていますが1980年代のパッケージのマイルドセブンが置かれていたんです。


怖いというより薄気味悪く、すぐにフロントに電話をしたら
従業員の方が三人ほど駆けつけてくれ、経緯を話しました。

話している内に、従業員が深夜にお客様が泊まる階をうろつくような事は
基本的にないと言われ、まず持ち物など無くなっていないか確認して欲しいと
言われたので確認し、特に異常がないと話しました。

それと部外者がイタズラで侵入した可能性などを考え、
安全のため他の部屋を用意すると告げられ、
まっていた部屋より四部屋ほど奥の部屋に移動しました。

置かれていたタバコを渡し、念のため警察にも連絡して調べるとの事で、
後味が悪いながらもとりあえず考えないようにしました。

その後数日は何もなかったのですが、宿泊予定最終日の深夜、
私が寝ていると、ドアを叩く音が聞こえました。

寝ぼけているかと思ったのですが、だんだん音が大きくなり、
深夜に何事かとドアに近づくと音がやみ、覗き穴から外を見たのですが、誰もいません。

さすがにドア開けるのは怖かったので、恐る恐るベッドに戻りましたが、
またドアがドンドン叩かれ、めちゃくちゃ怖いのでフロントに電話をしたら音がやみ、
従業員が駆けつけてくれました。

外から声をかけられ、恐る恐るドアを開けると、
表情がすぐれない従業員が一人立っていました。

その時に外側のドア部分を見たら、
炭のような黒い汚れで手形が何か所もついていました。

ものすごく怖くなって、ホテルがまた部屋を用意するというのを振り切り、
漫画喫茶に避難。

結局その後何も私の周りには起きてないので、
あれは何だったのか今でもわからないです……

悪行の果て



俺は、五年前に結婚してすぐにアパートを借りて嫁と2人で暮らし始めた。

すぐに町内会に入会して、二年目には早くも班長の役が回って来た。
回覧板や広報誌などの配布と町内会費の集金などが基本的な毎月の仕事。

厄介なのは集金業務で、いつ伺っても留守の家が数軒あって、
中でも一番面倒な家は、Kさん宅だと聞いていた。


80過ぎの爺さんが一人で暮らしている。Kさんは足腰が悪く耳も遠いらしい。
近所付き合いは無く、どちらかと言うと嫌われ者の部類だと聞かされた。

班長の引き継ぎの時には、Kさんはいつも居留守を使って
町内会費を払いたがらないから根気よく通って、毎月必ず集金して下さい。
あの爺さんは確信犯で、耳が聞こえないフリをしているだけ。全く人を馬鹿にしている。
…と少し興奮気味にアドバイスされた程だった。

班長になって9ヶ月目。Kさん宅へ集金に伺い、
靴があることを確認した後いつもの様に大声で『Kさーん!
町内会費をお願いしまーす!』と叫ぶ。

いつもと同じで反応は無い。そして、いつもの様にもう一度叫ぶ。
これを3回繰り返すと奥の部屋からKさんが『おう。今行く…』と返してくる。
俺は、話に聞いていた程厄介な爺さんではないと思っていた。

しかし、今月は5回繰り返しても反応が無い。仕方なく出直す事にして、
2時間後に再びKさん宅へ伺った。さっきと同じように叫ぶが反応は無い。
3回目の叫びに、ようやくKさんが反応して『お前は来るな…』と言ったように聞こえた。

その言葉に少し腹が立った俺は、もう一度『Kさん!お願いしますよ!』
と叫んだけど反応はなかった。

仕方なく明日改めて伺う事にしたが、さっきのKさんの言葉が気になって、
その足で前年の班長宅へ相談に行った。
前班長は、明日私が君の代わりに集金に行ってやると言ってくれた。





翌日の夕方、前班長はKさん宅へ伺っていつものように何度も叫んでみたようだが、
反応は無く、しびれを切らした前班長は家に上がって奥の部屋に向かったらしい。
Kさんが居るであろう部屋の襖を開けると、暖房も入っていない身震いするような
寒い部屋の布団の中に、Kさんが横になっていたという。

前班長は近づいて『Kさん!Kさん!』と呼び掛けてみたが反応は無いので、
思い切ってKさんの身体を揺らしながら、顔を覗き込んだその瞬間、
前班長は固まった。Kさんはすでに死んでいたらしい。

警察の調べに寄るとKさんの死因は脳卒中。しかしそれとは別に重大な問題があった。

それは、身体の至る所に煙草で焼きを入れられた痕や
爪で引っかかれた傷が見つかったという。

警察の捜査が進む中。Kさんが亡くなって半月後、
前班長は突然精神障害を患って入院した。

聞くところによると前班長の状態は、
夜な夜な『助けてくれ〜!許してくれ〜!俺が悪かった!』と
病室のベッドの上で叫びながら怯えているらしい。

警察は捜査の末、Kさんに暴行を加えた犯人は前班長と断定した。

班長だった当時、Kさんの対応に業を煮やした末、
集金の度に弱っているKさんの身体に熱い煙草で焼きを入れたり、
爪で引っ掻くなどの陰湿な暴行を繰り返していたようだ。


亡くなったKさんの怨念が、前班長の精神を狂わせているのか…。
それとも自責の念に駆られた前班長が、Kさんの幻を見て狂ってしまったのか…。

Kさんが俺に言った『お前は来るな…』には、
Kさんの様々な思いが込められていたような気がする。
おそらくKさんは自分の死期が近い事を悟って、最後の気力を振り絞って、
その言葉を発したんだと思う。上手く言えないが、そんな気がする。


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…最近、病院に行き前班長の様子を見て来た人の話では、
とても正視出来ない程に変わり果てた姿だったという。

家族には見捨てられ、親戚にも見捨てられ、友達にも見捨てられ、
病室のベッドに縛り付けられ、日々壊れ続けて行く前班長を見捨て無いのは、
ただ一人。Kさんだけ。





タグ:町内会 怨念
posted by kowaihanashi6515 at 17:09 | TrackBack(0) | 人怖

白いのっぺらぼう



高校時代から現在(27歳)まで毎日といっていいほど使っている道だから、
その日も特になにも考えず車で通勤。このときは何事もなかった。

問題は帰り道。その日は急な仕事で少し帰りが遅くなった(23時頃)
街灯もロクになく、時間も時間なので車もほとんど走ってない、
もちろん歩行者なんて一人もいない…と思ってたら
一人の背の高い人が横断歩道の手前で立ち止まっていた。

こんな時間にこんな暗い道を散歩か〜物好きやな〜なんて考えながら
俺は車内で信号が青になるのを待っていた。…が、よく考えるとおかしい。

俺が自動車用の信号に引っ掛かって止まっているんだから歩行者信号は青のはず、
何故渡らないんだ?
暗いので目を凝らしてその人を見ると、全身真っ白。

白い服を着ているとかそういうことじゃなく、ただひたすら白い。
次の瞬間俺はゾッとした。こいつ両腕がねぇ!
しかも身長が高いという次元ぞゃない、細長すぎる。
後から思い出すと顔まで真っ白で、のっぺらぼう状態だった気がする。

不気味で仕方ない、信号が青になった瞬間俺はアクセルをベタ踏みして急発進。
あんなものを見たのは初めてだったので一刻も早くその場を離れたかった。
サイドミラーに映る白い奴がどんどん小さくなっていく、
ベタな怪談話のように追っかけてくる気配もない、俺はホッとしたが体の震えが止まらない。

温かい飲み物でも買おうとバイパス沿いにあるセブンイレブンに車を停めた。
車から降りるとすぐ近くのバス停にあいつがいた。
こちらを見ているのかどうかはさっぱりわからないが、
コンビニの光のせいで先程より鮮明に奴の姿が見えた。

やっぱり両腕がない、そして上半身だけ左右にゆらゆら揺れている。
ヤバイ、直感的にそう思った俺は降りたばかりの車に飛び乗り家まで直帰した。

自宅に逃げるように駆け込むと居間に母が座っていた。母が振り向き俺に言った。
あんたどぎゃんした?鼻血垂れ流しとーがね。
鼻血が出たのなんて産まれて初めてだった、これがあいつのせいなのか、
恐怖のあまり鼻血が出たのか、それともただの偶然かはわからない。

しかしいずれにしてもあの道は二度と使わない。
よく考えるとあいつを最初に見た交差点の少し奥には階段があって、
その先には草がおいしげし手入れなど全くされていない神社がある。

あいつはあの神社関係の何かだったのかもしれない。
文章に起こすと全く怖くないね、
でも実際体験してとんでもなく怖かったので書き込ませて貰いました。

2017年01月19日

あやこさんの木 【学校であった怖い話】




私が通っていた小学校に、あやこさんの木というのがあった。
なんという種類かはわからないが、幹が太く立派な木だ。

なぜあやこさんの木というのかはわからない。

みんなそう呼んでいたが由来はだれも知らない。
そんな名前の木だから、あやこさんの木にはいろいろな怪談があった。

あやこさんの木の下には、
あやこさんが埋められているとか、
あやこさんが首吊りをしたとか、
夜中にあやこさんが枝に座っていたとか。

そのあやこさんの木が切られることになった。

整地されたグランドには不釣合いな木だし、
100m走のスタート位置のすぐ後ろに立っていて、
体育の時間や運動会の時はかなり邪魔になっていた。

あやこさんの木が切られる日は、
危ないから休み時間に校庭で遊ぶのは禁止され、
体育も体育館で行われることになった。

授業中にチェンソーの音が聞こえ、
そのチェンソーの音が木を切っている音に変わった瞬間、

「ぎゃああああぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁ」

という凄まじい叫び声が聞こえた。

男なのか女なのかもわからないほど歪んだ声。
どこから聞こえてくるのかわからない。
教室から聞こえてくるようにも思えるし、遠くから聞こえてくるようにも思える。

先生はすぐに授業を中断し廊下に出て、他の先生と話し合いを始めた。
その間もずっと叫び声は続いている。
数分たって、校庭に避難することになった。
避難してる最中も叫び声は聞こえる。

叫び声は学校中に響いていて、やはりどこから聞こえてくるのかわからない。
校庭に避難してからも、学校の中から叫び声が聞こえる。

しばらくしてあやこさんの木が切り倒されると、叫び声は止んだ。

その日は何も持たずに、そのまま集団下校をすることになり、
夜になって保護者説明会があり、次の日は休校ということになった。
保護者には、誰かが放送室に侵入していたずらをしたと説明したらしい。

翌日に友達と学校へ行ってみたが、校門は閉じられていて中に入れない。
道路から校庭が見えるので、あやこさんの木を見てみると、
大人が何人かいて、切り株になったあやこさんの木の周りを
白い紐で囲っている。

どうもお祓いをやっているような感じだ。

その日の夜、スイミングスクールの帰りに、
自転車で学校の前を通り、何気なく校庭のあやこさんの木を見ると、
あやこさんの木の切り株に、女の子が座っているのが見えた。

うちの小学校は一箇所だけ夜間照明があり、
それがあやこさんの木のすぐそばにある。
だから遠いが結構はっきりと見える。

間違いなく女の子が切り株の上で体育座りしている。

夜の10時過ぎだ。

こんな時間に女の子が、あやこさんの木の切り株に座っている。
あやこさんだ。間違い無くあやこさんだ。
恐怖もあったが、明日はこの話題で持ちきりになるだろうという
嬉しさのほうが強かった。

早く家に帰ろう、そう思い自転車をこぎ出すと、市内放送が流れた。
こんな時間に市内放送が流れるなんてめったにない。
自転車を止めて聞いていると、どうやら小学生の女の子が
行方不明になっているらしい。

小学生の女の子?
さっきの切り株に座っていた女の子が頭をよぎった。
あの子かな?でも、なんであんなところに座っているんだろ?
正直かなり怖かったが、女の子を見つければヒーローになれる。
その誘惑に勝てず、一人で校庭に忍び込むことにした。

校門の前に自転車を止めて、校門をよじ登り飛び降りた。
その瞬間にゾクッという悪寒が走った。
ただでさえ夜の学校は怖いのに、その上、あやこさんの木の切り株の上に
女の子が座っている。

どうしようか迷った。
一度家に帰って親と一緒に来ようか?
でもやはり一人で見つけたかった。

校門からあやこさんの木まで、100メートルちょっとある。
ビクビクしながらあやこさんの木に近づいていった。
女の子は顔を伏せて、切り株の上で体育座りをしている。

異常な光景を目の当たりにして、声を掛けることができなかった。

ここまできて引き返そうかとも思った。
それほど目の前の女の子が怖かった。
でも足が動かない。

1分ほど黙って女の子の前に立っていたが、
意を決して「どうしたの?」と声をかけた。
女の子は顔を伏せたまま

「・・・・たの?」と言ったが、ボソボソと話して聞こえない。

「え?」と聞き返すと、「どうして切ったの?」と訊いてきた。

あやこさんの木のことかなと思ったが、
私にどうしてと言われてもわからない。

答えられずにいると、
女の子はゆっくりと顔を上げて私を見つめた。
普通の女の子だ。

だが、女の子の顔が怒りの表情に変わっていく。
立ち上がって切り株から降り、近づいてきた。
逃げ出したかったが、やはり恐怖で足が動かない。

女の子は私の目の前で止まり、
「どうしてだーーーーーーーー」と叫んだ。

その瞬間に

「あ゛あああああああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ」

という、あの歪んだ声が学校から聞こえてきた。

学校の窓は全て閉めてあるが、声が漏れて聞こえてくる。
あまりのことに、私は女の子を突き飛ばし全速力で逃げた。
校門まで遠い。

振り返りたい衝動に駆られたが、絶対に振り返ってはいけない気がして、
とにかく全力で走った。

走ってる最中も、学校からはあの声が聞こえる。

校門の前にパトカーが止まっているのが見えた。
助かった。涙が出そうなほど嬉しかった。

「助けてーーーー」と夢中で叫んだ。

警官が「どうした?なにがあった?」と聞いてきても、泣いて答えられない。
何人かが校庭に入っていき、女の子を抱えて出てきた。
パトカーの中で落ち着かせてもらって、やっと話せるようになり、
ありのままを話した。

信じてくれたかどうかはわからないが、校庭に入った警官は、
学校から聞こえてきたあの声を聞いてるはずだ。

あの女の子はやはり行方不明になっていた女の子だったようで、
母親が泣きながら女の子を抱きしめている。

私は夜も遅かったので親に連絡をして呼んでもらい、一緒に帰った。

翌日は土曜日だったこともあり、学校を休むことにしたが、昼過ぎに、

「またお祓いをするから、一緒にやってもらったほうがいいんじゃないか」

と担任に言われ、
昼過ぎに学校へ行くことにした。
あの女の子も同じ小学校の下級生で、お祓いをしてもらうために
親と一緒に学校へ来ていた。

少し話をしたが、私のことを覚えていないどころか、
昨日の記憶がほとんど無いらしい。
校長も教頭も、小学校の先生がほぼ全員一緒にお祓いを受けた。

なんだか葉っぱのたくさんついた樹の枝みたいなので、
頭をバサバサやられたりしたのを覚えている。

お祓いが効いたのか、それからは何も起こらなくなった。
先生達にあやこさんの木について聞いてみたが、何も知らないという。
昔からある木だから、何かが宿っていたのかもしれない。

あの小学校の前を通る時は、今でもたまにゾクッとする。
見ないほうがいいと分かってはいるが、あの切り株を見てしまう。
もう何の変哲もない、ただの切り株になっていることを願う。
タグ:小学校 校庭

心霊物件




つい先日の話。

うちは競売にかけられた不動産の調査を請け負ってる会社なんだけど、
こないだ、前任者が急に会社に来なくなったとかなんだかで、
やりかけの物件が俺に廻ってきた。

まぁ正直うちの会社は、とある筋の人から頼まれた”訳あり物件”を
取り扱うようなダーティなとこなもんで、こういうことはしょっちゅうだから、
たいして気にもとめず、前任者が途中まで作った調査資料(きたねーメモ書き)持って、
遠路はるばるクソ田舎までやって来たわけですよ。

その物件はかなり古い建物らしく、壁とか床とかボロボロで、
あちこちにヒビが入ってたり、湿っぽい匂いがしたりで、相当テンション下がってたんだけど、
まぁとにかく仕事だからってことで気合入れ直して、せっせと調査を始めたわけですわ。

1時間くらい経った頃かな、ふと窓から外を見ると、
一人の子供が向こうを向いてしゃがみこんで、なにやら遊んでるのに気づいた。
よそ様の庭で何勝手に遊んでんの?って注意しようかと思ったんだけど、
ぶっちゃけ気味が悪かったんだよね、その子。
なんか、覇気がないというか、微動だにしないというか、
一見すると人形っぽいんだけど、しゃがんでる人形なんてありえないし、
でもとにかく、人って感じがしなかった。
クソ田舎だけあって、辺りはありえない位に静まり返ってるし、
正直少し怖くなったってのもある。

建物の老朽化具合からみて、3年はほったらかしになってる感じだったので、
そりゃ子供の遊び場にもなるわなと思い直し、
今日は遊んでも良し!と勝手に判断してあげた。
ひとんちだけど。

んで、しばらくは何事もなく仕事を続けてたんだけど、
前任者のメモの隅の方に、『・台所がおかしい』って書いてあった。
調査資料は、その書き込みのほとんどが数字(部屋の寸法等)なので、
そういう文章が書いてあることにかなり違和感を感じた。

で、気になって台所の方へ行ってみると、
床が湿ってる以外は特におかしそうなところはなかった。
でも、向こうの部屋の奥にある姿見っていうの?全身映る大きな鏡に、
子供の体が少しだけ映ってた。
暗くて良くわかんなかったけど間違いない、さっきの子供だ。
そうか、入ってきちゃったんだな。
とぼんやり考えてたけど、ほんと気味悪いんだよねそいつ。
物音1つたてないし、辺りは静かすぎるし、
おまけに古い家の独特の匂いとかにやられちゃって、なんか気持ち悪くなってきた。
座敷童子とか思い出したりしちゃって。

もうその子を見に行く勇気とかもなくて、
とりあえず隣にある風呂場の調査をしよう、
というかそこへ逃げ込んだというか、まぁ逃げたんだけど。

風呂場は風呂場でまたひどかった。
多分カビのせいだろうけど、きな臭い匂いとむせ返るような息苦しさがあった。
こりゃ長居はできんなと思ってメモを見ると、風呂場は一通り計測されてて安心した。
ただその下に、『・風呂場やばい』って書いてあった。
普段なら「なにそれ(笑)」ってな感じだったんだろうけど、
その時の俺は明らかに動揺していた。
メモの筆跡が、書き始めの頃と比べてどんどんひどくなってきてたから。
震えるように波打っちゃってて、もうすでにほとんど読めない。

えーっと、前任者はなんで会社に来なくなったんだっけ?病欠だったっけ?
必死に思い出そうとしてふと周りを見ると、
閉めた記憶もないのに風呂場の扉が閉まってるし、
扉のすりガラスのところに人影が立ってるのが見えた。
さっきの子供だろうか?
色々考えてたら、そのうちすりガラスの人影がものすごい勢いで動き始めた。
なんていうか、踊り狂ってる感じ?頭を上下左右に振ったり、
手足をバタバタさせたり、くねくね動いたり。
でも、床を踏みしめる音は一切なし。めちゃ静か。
人影だけがすごい勢いでうごめいてる。
もう足がすくんで、うまく歩けないんだよね。手がぶるぶる震えるの。
だって尋常じゃないんだから、その動きが。人間の動きじゃない。

とは言え、このままここでじっとしてる訳にもいかない。
かといって扉を開ける勇気もなかったので、そこにあった小さな窓から逃げようと、
じっと窓を見てた。

レバーを引くと手前に傾く感じで開く窓だったので、開放部分が狭く、
はたして大人の体が通るかどうか。
しばらく悩んでたんだけど、ひょっとしてと思ってメモを見てみた。
なんか対策が書いてあるかもと期待してたんだけど、やっぱりほとんど読めないし、
かろうじて読めた1行が『・顔がない』だった。誰の?

そのとき、その窓にうっすらと子供の姿が映った。気がした。多分真後ろに立ってる。
いつの間に入ったんだよ。
相変わらずなんの音も立てないんだな、この子は。
もう逃げられない。意を決して俺は後ろを振り返る。
そこには…、なぜか誰もいなかった。

会社に帰った後に気づいたんだけど、そのメモの日付が3年前だった。
この物件を俺に振ってきた上司にそのことを言うと、
「あれおかしいな。もう終わったやつだよこれ」って言って、
そのまま向こうへ行こうとしたんで、すぐに腕をつかんで詳細を聞いた。

なんでも、顔がぐしゃぐしゃに潰れた子供の霊が出るというヘビーな物件で、
当時の担当者がそのことを提出資料に書いたもんだから、
クライアントが「そんな資料はいらん」と言ってつき返してきた、
といういわくつきの物件だそうだ。

清書された書類を見ると、確かに『顔がない』とか『風呂場やばい』とか書いてあったw
まぁこういった幽霊物件は時々あるらしく、
出ることがわかった場合は、備考欄にさりげなくそのことを書くのが通例になってるそうだ。
他の幽霊物件の書類も見せてもらったが、なるほど、きちんと明記してあった。

なんで今頃こんなものが出てきたんでしょうかね?と上司に聞いたら、
「んー、まだ取り憑かれてるんじゃないかな。当時の担当者って俺だし」
posted by kowaihanashi6515 at 22:57 | TrackBack(0) | 洒落怖

2017年01月18日

バス停の先



彼とは高校からの知り合いで、大学も同じ所に進学した。

お互いあまり社交的な性格ではなく、地味なもの同士かなり親密で仲の良い間柄だった。

そんな彼が、大学に通い始めて半年ほど経った頃から急に変わり始めた。

それまで気にもかけなかった服装にお金を掛け始め、
口数が少なかったのが嘘のように社交的な態度になり、
学内の色々な所で彼がそれまで口を聞いたことのなかった人と話しているのを
頻繁に見かけるようになった。

恋人でも出来たのかと思い尋ねてみると
「いや、残念ながら違うよ」とぎこちない笑顔を見せた。

では心境の変化は一体何なんだと訊くと、
何か上手くごまかされて答えを聞くことが出来なかった。

自分も彼と同じように少しは社交的になるべく努力しようかと思ったものの、
どうも気が乗らなかった。

それに彼も社交的になったからといって友人である自分と
距離を置くということはしなかったし、一緒に話をしたりする時間は減ったものの
それまで通りの付き合いがあった。

彼の変化はその後も続いていき、
「社交的」という言葉ではちょっと当てはまらないほどになっていた。

躁状態が常に続いているようで、
昔の彼を知っている自分としては彼の変化に僅かな恐怖心さえ抱いた。

その彼がある日、突然姿を消した。

初めはただの欠席だと思い誰も心配などしなかった。

しかし何の連絡もなく二週間ほど休みが続き、
流石におかしいなと思ったので彼のアパートを訪ねてみた。

部屋には鍵がかかっており、何度ノックをしても返事がない。

心配だったので新聞受けから部屋を覗き込むと、家財道具などが一切なくなっていた。

そして薄暗くてよく見えない部屋のちょうど真ん中あたり、
畳の上に何か妙な形をした像のようなものが置かれているのが見えた。

アパートの人に尋ねてみると、少し前に引っ越したと言われた。

しかも引越しの時には彼以外に何人か、
明らかに引越しの業者には見えない手伝いの人が来ていたとも知らされた。

何か厭な感じと不安な気持ちを抱いたので彼の両親に電話してみると、
彼からは何も知らされていないと告げられた。

とりあえずお互い何か分かったらすぐに連絡するとだけ言い、そのまま電話を切った。

結局何の進展もなく数週間過ぎた後、彼から突然電話が入った。

「ごめんな、ごめんな、お前のことをあいつらに知らせてしまった。
ごめん、ごめん、本当にごめん」

そう震える声で何度か繰り返した後、
こちらから何か言うことも出来ずに電話は切られてしまった。

次の日、学校から彼が退学したという連絡があった。

そこで彼の両親に電話すると、

「外国へ行ってボランティア活動してくる、と電話があった。
声は確かに息子の声だったが何か変だった」

という話だった。

それから先、彼が学校に姿を見せることは一度もなかった。

彼との最後のやり取りでの言葉が不気味で自分でも気になったが、
その後自分の身に何か起こるということも変な電話や勧誘が来ることもなかった。

彼のアパートで、あの隙間から見えた像も妙に脳裏に焼きついて離れなかったが、
あれが何だったのか確かめる為に彼のアパートに再び行くという気には何故かなれなかった。

その彼が、ある療養施設に入っているという知らせが先日突然やってきた。

それは一枚の手紙だった。

差出人の名前はない。あて先はきちんと自分の住所になっている。

大学を卒業してから何度か転職もしたし、引越しもしている。

彼の両親とはあの後、殆ど連絡を取っていない。
それどころか自分自身の両親とさえ疎遠になっている。

久しぶりに両親に電話してそれとなく尋ねてみたものの、
どうやら手紙の差出人ではないようだった。

他に彼と自分の両方を知っている人間でこの手紙を出しそうな人物は思い当たらなかった。

ちょっとした恐怖心を抱いたが、それよりも好奇心の方が強かった。

それに自分の中に何か彼に対して申し訳ない気持ちがあった。

あの時もっときちんと調べたり、
彼の状況を知ってあげたりすることが出来たのではないか、そんな気がした。

彼に対する友情よりも変なことに関わりあいになりたくない気持ちの方が
あの時は強かった、そのことに対する後悔がその手紙によって強く思い起こされた。

手紙には彼と彼がいるという施設の名前、そしてその住所が簡潔に書かれているだけだった。

とにかく週末の休みを利用して、その手紙を頼りにそこへと向かうことにした。

ローカル線の終着駅から運行されているバスの最終停留所、
そこからさらに歩いて三十分ほどのところにその施設はあった。

山の中腹、木々に囲まれたかなり大きな建物。入り口には老年の警備員が一人駐在していた。

建物を囲う塀も低く、こういった施設に感じられるある種の威圧感のようなものはまるでなかった。

警備員に見舞いに来たことを告げると、何の手続きもなくすんなりと中へ通してくれた。
門から敷地内へと入った瞬間に不思議なものが目に入ってきた。バス停だ。

それもさっき、三十分ほど前にたどり着いた停留所とそっくりに出来ている。

ベンチには三人の老人が黙って座っているのが見えた。

それぞれ視点定まらない目つきで宙を呆けたように見つめている。

妙な光景だなと思いつつも先へ進んでいき、
建物の中に入り受付で彼の名前と見舞いに来たことを告げた。

すると、ここでもすんなりと部屋の番号とそこまでの行き方を教えてくれた。

部屋に向かっている間に、
この施設にいるのはどうやら殆どが痴呆性老人だということが見て取れた。

数人若い人も見かけたが、目つきや言動から凶暴性などは感じられないものの、
明らかに普通の社会生活を送ることが難しい状態の人たちのようだ。

それでも窓などに鉄柵も張っていなかったし、特別にドアが厳重になっている様子もない。

ここに滞在している人たちも比較的自由に歩き回っているように思えた。

教えられたとおりに進むと、やがて彼の部屋にたどり着いた。

半分ほど開かれたドアをノックすると、中から「どうぞ」という女性の声が聞こえた。

中は大部屋になっていて六つのベッドが置かれている。

そのうち三つは誰も使用していない様子で綺麗にベッドメイクされた状態になっていた。
彼は一番奥の窓側に立っていた。後ろ姿ですぐに彼だと分かった。

ふと横を見ると老婆がこちらに手を振っている。
さっきの「どうぞ」はこのおばあさんが発したようだ。

軽くお辞儀をして彼の元に向かうと、彼が何か呟いているのが聞こえてきた。

彼は窓に向かって、

「ごめんな、ごめんな、お前のことをあいつらに知らせてしまった。
ごめん、ごめん、本当にごめん」

と繰り返し呟いていた。

口調もあの時のままだった。

しかし彼の姿は驚くほど老け込んでいた。

目つきや雰囲気、そしておそらくその精神状態もやつれきっていて、
とても自分と同じ年とは思えない外見をしている。

久しぶり、と声をかけたが彼は何の反応も示さなかった。

相変わらず同じ言葉を繰り返し続けているだけだ。

彼の視線の先、窓の向こうに目を向けると、
ちょうど自分が通ってきた門と敷地内の庭が見える。

例のバス停にはさっきと同じように老人が座ったままだ。

不思議そうに見ていると、いつの間にか部屋に来ていた施設のスタッフが

「バス停ですか?」と声をかけてきた。

「ええ、どうしてあんなところにバス停があるんですか?」

そう尋ねると、彼はバス停に関する経緯を説明してくれた。

危険性のない人々が入院しているということもあって、
この施設自体の警備はそれほど厳しくない。

それで以前、入院している老人達が脱走してしまうことがあった。

そんな老人達が向かう先は決まって、歩いて三十分ほど先にあるバスの停留所。

そこからバスに乗って知人に会いに行くつもりなのだ。

しかしその知人というのは、もうとっくに死んでしまってこの世にはいない人たちばかりだった。

そのことを老人達にいくら説明しても、
すっかり痴呆が進んでしまっているのでまったく話にならない。

繰り返し施設を抜け出して、知人に会うためバス停へと向かってしまう。

何かいい方法はないかと考えた末、
敷地内にあのバス停そっくりの偽物のバス停を作ってしまうことにした。

すると見事思惑通り老人達は門から外へ向かうことなく、
新しく出来た敷地内のバス停で日がな一日、
来ることのないバスをベンチに座って待つようになったという。

「ちょっと残酷ですよね、でも同じようなことは他の施設でもあるようですよ」

そう言って、彼は用が済んだのか部屋から出て行った。

何か切ない思いで窓越しにバス停に座る老人達を見つめていると、突然

「哀れだと思っているんだろ」

ずっと同じことを繰り返し呟いていたはずの彼がはっきりとした口調で、
こちらに向かってそう言った。

呆気にとられていると、今度は

「バスは来る、バスは来る、バスは来る、バスは迎えに来る」

と以前のような口調で呟き始めた。

その後こちらから何を話しかけてもずっと同じことを繰り返すだけで、
まったく会話にならなかった。

結局、会ったら訊きたいと思っていたことなどを打ち明けることも出来ずに
「あの時、力になれなくてごめんな」とだけ言って部屋を後にした。

帰り際、施設スタッフに彼がここに来ることになった経緯を尋ねると、
一年ほど前に両親が同伴でやってきて入所したと教えてくれた。

しかし入院以来、両親は一度も見舞いには来ていないらしい。

悲しい気持ちにうな垂れながら建物を出て行くと、
やはりバス停ではさっきまでとまったく同じように老人が並んで座っているのが見えた。

家に帰る途中、電車の中で例の手紙を広げて見ていると、
妙に乗客の視線が気になった。
何だか自分がこそこそ見つめられているような気がしたのだ。

その視線は電車を降りてからも続いた。

自分の家に戻り、
手紙を机の引き出しにしまってからも何だか妙に気持ちがそわそわする。

窓に駆け寄りそっとカーテンを開いて外を覗くと、怪しげな男が二人、
こちらを見ていた。

堪らず外に出て確認してみたが、そこに男達を見つけることは出来なかった。
あたりは静かで誰の姿も確認できない。

その日以来どうも落ち着かない毎日が続いた。

そしてついに会社の同僚から

「どうしたの、何か最近心あらずって感じじゃない、恋人でも出来たの?」

そんなことを言われた。

同僚の「恋人でも出来たの?」という言葉にどきりとした。
自分があの時彼に投げかけた言葉とまるで同じに思えたのだ。

そう思うと急に気分が悪くなってきた。吐き気さえ感じながら何とか終業まで耐え、
「大丈夫?」と言う同僚の言葉にも答えず、すぐさま家に帰った。

家の周りに数人怪しげな人物がいたが、それが本当に怪しいのか、
それとも調子の悪い自分の所為でそう見えているか、それすら不確かに思え、
怯えるようにして部屋に駆け込んだ。

服を適当に脱ぎ捨て、
頭痛薬を何錠か口に放り込んでから布団にもぐりこむとすぐに眠りに落ちた。

そして不思議な夢を見た。

夢の中で自分はあの施設の、例のバス停留所に座っていた。

横にはあの時見た老人達があの時と同じような表情で座っている。

そこに座っていると不思議と心が落ち着いた。
ここ数日の不安定な気持ちがまるで嘘のようだった。

やがて隣の老人が「バスじゃ」そう呟いて、指を差し出した。

指の先に視線を向けると確かに一台のバスがこちらに向かってくる。
至って普通のバスだ。

ブレーキ音を響かせてバスが止まると、
老人達はすっと立ち上がり開いたドアから中へと入っていく。

自分もなぜか同じようにしてドアに向かっていった。

一段目のステップに足をかけると、中から「乗車券をお出しください」という声がした。
声の方に顔を向けると、制服を着た辛気臭い男が運転席からこちらに向かって
切符を出せと身振りで示していた。

切符など持っていたかな、と着ている服を探っていると、運転席の男が

「これは独り言ですが、シャツの胸ポケットに入っているかもしれませんね」

といやらしく呟いた。

その言葉に促されるように手を胸ポケットへ伸ばそうとした瞬間、
「待て、それは僕がもらっていく」
という声がした。

振り向くと、すぐ後ろに彼がいた。彼は昔のままの姿で、
もの凄く自然な笑顔を見せながら、すっと僕の胸ポケットからキップを取り出して
バスの中へと乗り込んでいった。

「ステップから降りてくださいね、切符がないとバスには乗れませんので」

運転席の男が告げた。言われたとおり後退ると、
ドアが目の前で閉まりバスは発進していってしまった。

朝、目覚めると目元が濡れていた。

わけが分からないはずなのに、
何か妙に色々なことがすとんと心の中で収まったような気分だった。

そのまま会社に行くと、同僚には「普通に戻ったね」と言われた。

次の週末に再びあの施設を訪れた。

門を通り過ぎてすぐにバス停を確認すると、以前と同じように老人が三人座っていた。

しかしあの時の三人ではなかった。まったく別の老人達が三人そこにいた。

受付で彼について尋ねると「居なくなった」と言われた。

突然姿を消して、そのまま戻ってきていないらしい。

警察にも届けたがまだ見つかっていないということだった。

彼がいた部屋に行くと、彼が居たベッドはすっかり綺麗に片付けられていた。

彼の消失には別に驚かなかった。あの夢を見たときからこうなるのではないかと感じていた。

帰り際、以前バス停に居た三人の老人達について尋ねると、全員亡くなったと知らされた。

皆穏やかに老衰で死んでいったらしい。

建物から出て門に向かうと、視界にまたあのバス停が入ってくる。

老人達は静かにバスを待っているようだ。



タグ:バス停 病院
posted by kowaihanashi6515 at 23:08 | TrackBack(0) | 洒落怖

ガチャ……カチャッ…  【温泉ホテルでの怖い話】




母の友人から聞いた話です。

札幌中心部から車で1時間ほどの場所に、
登別温泉などと並ぶ知名度を持つ温泉街があります。
その中でも一番大きい温泉ホテルの旧館に当たる建物で起きている事だそうです。

旧館といっても立派なもので見かけも綺麗で部屋もオートロック、
数百人ほどは軽く泊まれる規模の建物です。

そのホテルでは部屋が満杯でない時は5階の客室には
あまり人を泊めない事にしているそうで、旅行シーズンでもないその日は
5階にはだれも泊っている客いなかったそうです。

ホテルの新人従業員のBさんという男の人が、
お客がチェックインする前のタオルなどの補充や客室のチェックをしていた時のことです。

4階のチェックを終え6階に行くためにエレベータに乗りこみました。

6階についてみると、そこは他の階よりも何か少し薄暗く感じ、
「設定か電球の玉かがおかしいのかな?後でフロントに報告しとかないとなぁ」
と思いながらも部屋のチェックに向かいました。

すると、どこか廊下の奥の方で「…カチャ……ガ…ッャ」というような
小さな金属音が聞こえました。

Bさんは「他にも誰か作業でもしてるのかな?」と思いながらも
自分の仕事をするために客室に向かい、
6階用のマスターキーでカギを開けようとしましたがなぜかキーが回りません。

「おかしいなぁ…」と思い、部屋の号数を確認するとそこには「5××」とかかれていました。

「エレベータのボタンを押し間違えたのか」と内心で自分の失敗に呆れながら
エレベータに戻ろうとしましたが、そこで気付きました。

「5階はしばらく使う予定がないし、工事の予定なんかもないはずだから
人が居るはずないんだよなぁ……さっきの音は何なんだ?」

Bさんは不審に思い耳を澄ませてみると先ほど聞いた音はまだ聞こえます。

「…ガチャ……カシャ……」

「まさか不審者でもいるんじゃないだろうな……」と思ったBさんは
問題の音の聞こえる廊下の奥の方に歩いて行きました。
廊下は相変わらず薄暗く、そのせいか空気までなんとなく澱んでいた感じがしたそうです。

そんなことを考えていると問題の音が近くなってきました。
音はどうやら3つ先の客室のノブが動いている音のようだと気づき、
中にだれか入り込んでいるのかもしれないと気持ちを引き締め
おもむろにその部屋に向かって走り出しました。

しかし、そこでBさんが見たのは自分の想像外の物でした。
ノブは部屋の内側からではなく外側から回されていたのです。……
しかしドアノブを回していたのは手でした。
右手首から肘に向かう5cm位までの手だけがそこにありドアノブを回していたのです。

Bさんはあまりの恐怖に声すら出せずにその場を逃げ出し、
階段を走り下り従業員室に駆け込みました。

そこには古株の従業員のAさんとマネージャーが居て、
Bさんは自分の体験したことを震える声で話しました。
Aさんとマネージャーは特に驚く様子もなく、顔を見あわせ、深いため息を吐きました。

Aさんが、「確認してきます。」と一言発し部屋を出ていくと
残ったマネージャーがBさんに説明をしてくれました。

「あの部屋は昔、宿泊客に自殺者がでて以来
たびたび色々な事が起こるようになったんだ。」
特に感情を出すわけではなく淡々と話すマネージャーは
一息いれて更に話し出しました。

「他にも、あの部屋はシャワーが勝手に出たりするトラブルが続いたんで
何回も修理を頼んだりしたんだが何も異常はなくてな、それでも勝手に水は出る。
5階の給水自体を停めた時にはさすがに水は出なかったが、そんなこんなで普段は
できるだけ5階は使わないようにしているんだ。」どうにかならないものかな……と
苦笑しながらマネージャーは話してくれました。

その後さらに話を聞くと「人に実害が出ることは今のところない」
「部屋に向かい歩く足だけが見られたこともある」
「不思議と泊まり客が幽霊を見たということはない」
「全身を見た従業員はまだいない」ということを話してくれました。

あまりと言えばあまりの内容にBさんは声も出せませんでしたが、
そうこうしているうちにAさんが戻ってきて「特に異状ありませんでした、
マスターキーや荷物は回収してきました」と報告しました。

Aさんはすでに何回も体験していて今や特に驚くこともなくなったと話してくれました。

その後、マネージャーが五〇〇〇円を自分の財布から出し、
「今日はもう上がっていいからこれで何か食べて休んでいなさい」と言いました。

Bさんは今もこのホテルで働いているようですが、
この状況は未だに解決されていないようです。

この話はこの地元に住んでいる人の間ではよく知られている話ということです。

もし、この温泉街に旅行にくることがあれば5階があたった時は
部屋を変えてもらう方がよいのかもしれません。……
他に部屋が残っているかどうかは定かではありませんが。

長文失礼しました。

2017年01月17日

相反する神社 【神社にまつわる怖い話】



27歳の時、妹と共に上京してた頃の話。

当時働いてた会社の近くに隣接するように二つ神社があった。
両方とも駅前にある。
一方はK神社、一方はY神社。有名な神社で
受験シーズンはY神社はテレビに出る事もある。このY神社は学問の神様と 有名だが・・・・

非常にヤバイ。
それが神社周辺だけの事なのか、神社自身なのかは中に入って確認していないから
定かではないが・・・。様子を見るにも昼間でも入りたくなかった。
会社も駅から徒歩五分ほどの場所に在ったのだが、駅からの道が二つ別れる。
K神社ルートと、Y神社敷地を一部は居るルート。
Y神社ルートの方が断然早く会社に入れる。
駅から二分ほどだ。朝の時間は貴重だ。特に私は喫煙者で、会社に行って早いうちから
ぼんやり煙草を吸うのに時間が多いに越したことは無い。

Y神社ルートに気付く前は、K神社ルートだったが、時間短縮に朝だし大丈夫だろうと
Y神社ルートを毎日使うようになっていた。
Y神社の前を通ると、何か腐ったような匂いがしていたのは気になった。
臭いな・・・と 思いながらも毎朝、そして帰りも通っていた。
二ヶ月ほど過ぎたある日、会社から帰ってぐったりと部屋で横になってうとうとしていたら
夢を見た。

古い古い大きな座敷のある屋敷の一室で、私を含めて数人の男がいた。
私は大きな姿見の前で、遊女らしき女をうつ伏せにして押さえ込んでいる。
女は髪が振り乱れ、着物もみだれて、あられもない姿だ。
私は何も思うことは無く、女の髪をわしづかみにして力任せに引っ張り、
首を仰け反らせている。
白い白い綺麗な首があらわになる。 その首に他の男が、鋭い刃物を埋めてゆく。
髪を引っ張り仰け反らせているから傷口がくの字で広がっていく。

そこで夢の中で私の意識が起きる。けど、行動はそのまま。
うわぁ・・・・いやだ。
そんな事を思っていたら、女の首を切り終えた刃が、私の足のふくらはぎに食い込んだ。
そこで私が、着物を着た男だと知る。
男の意識と私の意識が重なる。男は、仲間が誤って自分に怪我をさせた。
治療されて当たり前だと思う。私は事情が分からずに、パニックになる。
怪我をした男が顔を上げて仲間を見ると、仲間の男は笑っている。
三人いたと思う。三人とも手に、惨殺目的のために作られたとしか思えないような
凶器を持っていた。そして私を見てニヤニヤ笑い迫ってくる。

だめだ!やばい!!逃げなくては!!
男の意識は訳が分かっていないようだった。私は完全にロックオンされた!!と思った。
無理矢理覚醒しようともがいた。同時に酷く金縛りになっている。
迫ってきた男たちの持っていた凶器が生きたまま頭をつぶすためのものだ。と思いながら
無理矢理に何もかもを振り払って目を開けた。

夢から醒めて目を開けて、体も起こしたけれど、視界が夢の片鱗を残している。
体から力が抜けて、すぐにでも気絶しそうだった。気合と根性で肉体の感覚を現実に
引き戻そうとして 私は、鞄の中の携帯電話を取り出した。
その間もざわざわざわと聞こえない気配と音が、私を飲み込もうとしているように感じた。
じっさい、がっくがっくがっくがっくと、無理矢理金縛りを解いた影響か、全身が痙攣のように
震えて止まらなかった。

でも、そこで怯えて縮こまったら、事態が悪化すると思い。本能的な危機感から動いていた。
携帯を開いて、霊感のある友達の番号を引っ張り出す。その間も視界は何度も見えなくなる。
何とか電話をかけることが出来て、コール音を聞きながら、頼むから出てくれ!と祈った。
少し待って、友達が出た。

「・・・うわ・・・どうしたん!?」
「ご・・ごめ・・・ちょ・・とぉ・・こあい・・ゆめ・・み・・れ・・」
未だに痙攣の様な震えも治まらず、呂律も上手く回らない。声が震えても居た。
「大丈夫!?話し聞くから、落ち着いて・・大丈夫!?」

友達の声に安心して張り詰めてたものが溶けて、私は声を上げて泣いた。
泣きながら、自分の意識を必死に保とうと何か色々話してた。友達はそれを聞いてくれた。
落ち着いてから、ちゃんと話そうと思ったときに、さっき見た恐ろしい夢の前に
もう一つ奇妙な夢を見ていた事を思い出した。

夢の中で私は葬儀屋で、顧客の家を訪問するという夢だった。
夢の中で訪ねた家で、髪の長い女が 私を出迎えて、家の中に招かれるのだが、
一歩玄関に入った途端。

何かやばい気がして、入ってはいけない気がして、女に適当な言い訳をして出ることにした。
「大事な書類を車に置きっぱなしにしてきてしまいました!すみません、すぐ取ってくるので
お待ちくださいね!!ほんとうに、間抜けですみません」
苦笑しながら和やかな雰囲気で話しを持って言ったのだが、
一歩玄関に踏み入れた足を外に向けたときに、手遅れだったと気付く。

両足に先ほどまで私の対応をしていた女の長い髪の毛と首が巻きついていた。
それを思い出したときに、夢の遊女とその女が同一だと感じた。

兎に角逃げなくては!
玄関から出たら、生首も髪の毛も消えていた。マンションの一室と言う場所だった。二階の。
マンションから下りる階段が消えていた。
何とか逃げなくてはと廊下から見える外に目を凝らしたら
こちらに背を向けて何か作業している男がいた。
恰幅のいい男だった。黙々と何かをしているが何をしているのかわからない。
その男に声をかけて、場の流れを変えようとおもった・・・・が。
いざ口を開けて声を出そうとすると。
「気付かれるな!!!!」
という意識が起きた。

意味不明だが、気付かれたら危険だと感じて・・・。そうしたら男が黙々としている作業が
なにやら禍々しく思えて・・・・逃げ場を失いどうしたものかと思案した時に
すとんと、あの屋敷の夢に入った。友達に、その話しを全てした。
友達が、何時に無く静かな声で・・・・「普通の夢や無いよね」と呟いた。
「ごめん・・・こんな話して」
「いや、いいねんけどな・・・うん。この電話取った時にな、なんかが突然首に巻きついたと
思ったんよ。あんたな・・・その女の身代わりにされかけてん」

友達が話し始めた。
なんか霊団?のような悪霊の巣の様な空間があって、そこのものに目をつけられた、
というのだ。

目をつけたのは、延々とその空間で残忍に殺されるばかりを繰り返している女で、
私を身代わりにと 目をつけたというのだ。そして身代わりにしようとして夢で引っ張り込んだら、
他のものにも 気付かれて標的にされてる、と・・・・。
「どこでこんなもの拾ってきたん?もうなんか・・・人の形してないやん・・なにこれ?」

心当たりは一つしかない。Y神社だ。
友達はY神社の話しを聞いて「すごい臭いな」と呟いた。
「イチョウの木があるのかなとか思ってるんやけど」
「いいや・・これ・・死体の腐ったにおいやろ」
友達は断言した。
「・・・・・・・多分、あんたそこで目ぇつけられたな。なんでやばいって分かってて
そこの道とおるんさ!?」
「朝やから・・・かまわんと思って・・・」

「気ぃつけや。しつこいで。面白くて楽しくて殺しするような連中やで」
震えは治まったけれど、気配はまだ近くにあるのは分かった。
笑いながら私の怯える様子を見ている。
「笑い声が聞こえるし。ほんまに気ぃつけや!?」

心霊現象として終わるとは限らないと・・・ひしひし感じた。
例えば、今から一人で夜道を歩けば・・・通り魔に会う。殺される。
そう感じていた。精神的に囚われてたんだと思う。
煙草を吸うにも、室内禁煙でベランダが無い部屋なので、
携帯灰皿を持って玄関外で吸っていたんだが
外に出るのが怖くて仕方が無かった。帰宅後禁煙が数日続いた。
外と言う世界に触れたときに、連中のゲームが始まりそうで・・・。
殺される。本気でそう思った。

でも、社会人。そんな理由で休むわけにも行くまい。稼がねば生活が出来無い。
翌朝、怯えながらも出社した。仕事をしているといつもどおりのペースが戻ってくる。
昼休みに一人でK神社にお参りをした。時々お参りをしては応援してくださいとお願いしていた。

その日は、こんな事がありました、怖いことが起きませんように。負けませんように。
とお願いしていた。ちょっと泣きながら。
もうY神社ルートは通らないようにして、K神社ルートで大回りして行き帰り歩いた。
そんな折に、会社の上司と世間話をしていた時に、部長の話しを聞いた。
部長はかなり霊感が強いらしく、その上司はたまにその話しを聞かされているようで

「隣のY神社さ、やばいって言うんだよね〜。君そう言うの分かる?」
「・・・・・・・ああ〜・・・・。はいマジヤバイので、参拝はオススメしません。
敷地に入るのもオススメしません。K神社はオススメです。とても良い神社です」
なんて話した。その上司はほんと良い人で、心霊系統は信じてないけど、否定まではせず
話しを聞くという人だった。

もう年末近くなって、会社を出る時間には日が暮れていたが、K神社のルートを通ったら
全く怖くなかった。とても空気が澄んでいて気持ちが良いくらいだった。
出来るだけY神社から意識を逸らして、出来る限り昼休みにK神社に通っていたら
救いの神がやって来た。私があの日電話した友達から連絡があり
私が地元へ戻れるように采配してくれたというのだ。(当時家庭の事情でちょっとあったので)

友達のお母さんに、友達が私の話しをしたらしく、友達よりも霊感の強いおばさんは
「あの子・・・このまま東京におったら・・・死ぬな」
と言ったらしい。
もう、ほぼ強引に、私が自分の意思で戻れるようにと動いてもらって、
私の東京生活は終わることになった。

話しを聞いた一週間後には、私は新幹線に乗っていた。
新幹線の中で、京都に入った時に、空気が変わったのが分かった。そこではじめて
「東は私には合わなかったのか・・・」と感じた。
Y神社の連中も、京都に差し掛かった途端、気配がなくなった。
体から緊張が消えていった。
地元に帰ってきて、友達の家にお邪魔した、時散々言われた。
「このままやったら、死んでしまうからって、もう急いだよ〜」
と、おばさん笑いながら・・・。
「死ぬって?」
「まぁ、大病するか自殺か」
友達はあっさり言ってくれた。今振り返ってみたら、
不安な気持ちが現象を増徴させて より恐ろしく感じてたんだろうし、
隙も大きかったのだろうと思う。

けれど、Y神社はやばい。シャレにならん。と言う思いは今でもある。
この話数年過ぎてやっと、人に話せるかな?と判断して投下。

思ったよりも長くなってしまった・・・。申し訳ない。
そして最初に書くべきだったが、感覚の鋭い人(特に東の方)影響出たら
ごめんなさい。
タグ:神社

魔漏 【神社にまつわる怖い話】





昨年の大晦日、私(Y)は夫のRと妹のA美と三人で、

北関東にあるRの実家に出かけた。

夫の実家は、近県では有数の古い歴史を誇る
H神社を擁する、山間の町だ。

私達は、H神社に参拝しながら年を越そうと思った。

ところが、山道に入ると渋滞が酷く、
とても0時前にH神社に到着できそうにない。

この後、1時頃に夫の実家に着く予定だったので、
0時半迄には神社を出たい。


車中で話した結果、
その夜はH神社への参拝を諦め、
元旦過ぎに出直すことに決めた。

車を回して山を降ろうと脇道へ入った時、
夫が「そういえば、この先にも神社があるよ」

と言い、そこで年を越そうと提案した。

H神社の流れを汲み、
火産霊神(ホムスビノカミ)を祀るその神社(G神社)は
地元では知られており、住人の間ではそこで年を越し、
大混雑するH神社には、年明けにゆっくり参拝するのが
慣例だそうだ。

H神社に行けずに愚痴を溢していた妹のA美は、
その提案に飛びついた。


私達は、畦道に車を止めてG神社へ向った。



中規模な神社の割には、
参道に地元の人が長い行列を作っていた。

既に0時も近く、列に並んだら、
夫の実家に着くのは何時になるか見当もつかない。

そんな時、A美が境内の右の外れを指差し、

「あの御社がすいているよ」

と言った。

見れば、参道から少し外れた処にある、
細く長い石段の先に、小さな境内社が見える。

時間もない為、私達はそこへお参りすることにした。

境内社には青白い灯りが燈っていた。

社の隣には授与所があり、年老いた巫女が、
御守を並べて黙って立っている。


「この社は町の文化財なんだよ。
 G神社は、戦時中に一度火事で焼け落ちた。

 その日も丁度、今日と同じく大晦日で、
 沢山の参拝客が火に捲かれて亡くなる
 大惨事だったけれど、この社は火の手を免れて、
 戦後、この境内社に移設されたんだ。

 本殿は、戦後建て直されたものだよ」

Rが薀蓄を述べた。

私達は賽銭を投げ、来る年の安寧を祈願した。

目を瞑り願をかけていた時、突然A美が、

「え、なに、なに!?」

と怯えた声を出した。

私も夫も驚いて目を開けた。

A美は腰を両手で押え、
私達を見て何かを訴えようとした。


が、すぐに腰から手を離し、
今度は誰かを探す風に周囲を見回した。

「どうかしたの?」

と夫が尋ねると、A美は不安げな顔で、

「誰かが私の腰に抱き付いた様な気が」

と言い、次いで付け加えた。

「それと、『あそんで』って 声が聞こえた」

私は「気のせいでしょ」

とA美に告げたが、
薄暗く人気のない社の雰囲気も手伝い、
少し怖くなった。

隣では、夫が眉を顰めていた。

「とにかく、帰ろうか」

夫が呟いた。


参道から、年越しを告げる歓声が沸き起こった。

私達がその社を去ろうとした際、
授与所にいた巫女がポツリと、

「おまもりを持ってお行き」

と呟いた。

私と夫は、その老婆が俯いて、
目を閉じたまま語りかける姿が気味悪く、
また、御守自体も、剥き出しの木に紋様が刻まれた、
得体の知れない代物である為、受け取らなかった。

ところが、A美は一つ貰ってきた。

代金はかからなかった。

帰りの車の中、A美が

「腰が痛い」

と頻りに訴えるので、
私は彼女の腰をさすってあげた。

「そんな変な御守どうするの?」

と私が訪ねると、妹は

「なんか怖かったから、厄除けにもらった」

と答えた。


Rの実家には、
予定の午前1時より少し前に着いた。

義父と義母が私達を出迎え、居間に通してくれた。

義父は町役場の古株で、義母は教員。

二人ともこの町の生まれで、
郷土史研究を趣味にしている。

新年の挨拶を手短に済ませた後、
私と妹は客間で寝ることになった。

寝屋の支度をしていると、
A美が小さな飾り棚に置いてあったお手玉を手に取り、

「珍しいね。私、やったことがないや」

と言った。

私達は、程なく床に就いた。



その夜更け、私は物音で目を覚ました。

慌てて部屋の明かりを点けると、
隣で寝ていたA美が白目を剥き、
口から泡を吹いて痙攣している。


私は驚いて、

「A美、A美」

と何度も妹の名を呼んだ。

声が聞こえたのか、
隣の部屋で寝ていた夫が飛び込んできた。

気が付けば、妹の発作は治まっており、
スヤスヤと寝息を立てている。

私達は安心し、寝床に戻った。

明け方、私は再び物音で目が覚めた。

A美が隣にいない。

台所から音がする。

私は恐る恐る台所を覗いた。

A美が屈んでいた。

冷蔵庫の扉が開いている。



なにやら、ぐちゃぐちゃと音がしていた。


見れば、A美は片手に大根を、片手に生肉を持ち、
凄まじい形相で貪り喰っている。

私が

「親戚の家で、なんて真似を!」

とA美を叱り、腕を掴んだが、
妹は従うどころか私を振り払い、
無言で食事を続けた。

彼女の口の周りは、牛肉の血で染まっていた。

妹は存分に食物を喰らった後、すっと立ち上がり、
私には目もくれずに脇を通り過ぎて、客間へ戻った。


私は急いで妹の後を追った。


客間に戻ると、
お手玉で遊ぶA美の後姿が
目に入った。


何故か異様に上手で、耳慣れない唄を口ずさみ、
五つ一遍に延々と投げ続けた。


その顔には、
不思議な薄ら笑いが浮かんでいる。

私は気味悪く感じたが、
とにかく気にしない事にして、
三たび床に就いた。


眠りについた私は、
直ぐに誰かに揺り起こされた。

目を開くと、A美が私の上に覆い被さり、
目を大きく剥いて、鼻がくっつく程近くで、
無表情に私の顔を見つめていた。


「お話して。

 あんころもちとか、瓜子姫とか」

彼女が言った。

私は驚いて、すぐに顔をA美から離して、

「あんころ?何?わかんない」

と答えた。

すると妹は、突然私の首を両手で締め上げた。

その余りの力の強さに、私は声も出せず、
必死に足をばたつかせ抵抗した。

A美は薄ら笑っていた。

すぐに隣室のRが、
続いて義父と義母が飛び込んできて、
三人がかりでA美を取り押さえた。


両手足を封じられたA美は、
狂人の如く?いて、義父の腕に齧り付く。

義父はすぐに逃れたが、腕には鮮血が迸り、
深い口創が刻まれた。


それでも、三人は何とか荒れ狂うA美を御し、
紐で何重にも柱に括り付けた。


A美は大きく目を剥いて私達を睨み、
頭を激しく振回して


「殺してくれるわ!!」

と、大声で喚き続けた。

時折、おぞましい声で泣き叫んだ。


朝になって、義父がH神社の宮司に電話をかけ、
宮司が家に駆けつけた。
宮司は暴れる妹の姿を見て苦笑しながら、

「あれはどこだね?」

と義父に尋ねた。

義父は私と夫に、

「何か御守の様な物をもらったか?」

と訊いた。

私は飾り棚の上から例の御守を取ってきて、
宮司に渡した。


「やはり。こりゃ、マモリだ」

宮司はそう呟き、H神社でA美に処置を施すからと、
義母に同行を求め、すのこで妹を簀巻きにして、
車に載せて去って行った。



一行を見送った後、
義父が突然Rを怒鳴りつけた。

「お前が一緒に居たんだろうが!!」

夫は下を向き、唇を噛んだ。

「あれは、『魔漏』つー物だ」

義父は私にそう告げ、
何処で手に入れたか説明を求めた。

私が初詣の状況を詳しく伝えると、

「やはりG神社なぁ」。

義父は溜息をついた。


「Rには幼少から、
 この町の歴史や伝承を教えたんだがなぁ。

 御霊信仰(ゴリョウシンコウ)は、 
 只の言い伝え程度に思ってたか?」

私は、昨晩夫が眉を顰めたことを思い出した。

義父は淡々と語った。

「G神社は、本来、御霊信仰から興った。
 禍津日神(マガツヒノカミ)
 を祀ることで災厄を抑え、
 逆に、邪悪な神力を政に転用するものだ。

 それを、戦後の 神道指令を契機に、
 H神社の一神である火産霊神を主に祀り、
 禍津日神を境内社に祀ることで、事実上、
 そこに封じ込めた」


その時、黙っていた夫が口を開いた。


「禍津日神を頼んで、
 あの一角には幽世(カクリヨ)に行けず、
 現世(ウツシヨ)に迷う怨霊が集まる」

義父は深く頷いて、話しを続けた。

「そう。でも、
 だから参拝するなつーことではないよ。

 あの社で禍津日神に祈りを捧げれば、
 禍力は鎮まるし、


 本来、御霊や怨霊の類は境内社の外には出られん。

 だが、その目的を理解せずに参拝すると、
 おかしなことになる」

義父は暫く私を見つめ、言葉を続けた。

「授与所が在ったと言ったね。
 年老いた巫女が魔漏を配っていたと」

私は頷いた。

「あの境内社に、授与所なんぞないよ」

義父は、そう言って苦笑した。


「あそこで他の神に祈れば、禍津日神が怒り、
 禍を増長させる結果になる」

義父が、諭す様に私に言った。

「だが、禍霊共が外に出るには媒体が必要だ。

 魔漏は、その代表だよ。

 その巫女は、神霊の権化かも知れん。

 若しくは、町の何者か。

 昔からここに居る者の中には、
 未だに御霊信仰に傾倒する者も皆無ではない」

義父は私に、初詣中にA美に異変があったか訊ねた。

私は、妹がおかしな声を聞き、
何かに怯えていたこと、
腰を痛がっていたことを伝えた。


義父は、

「曲霊(マガツヒ)の好き嫌いもあるからなぁ」

と呟いた。

そして言った。

「A美ちゃんは波長が合ったのかね、
 霊に気に入られたんだなぁ。

 で、そ奴は魔漏に入り込み、
 まんまと境内社の外に出て、
 A美ちゃんに取り憑いた」

私が俄には信じられない様子でいると、
義父が優しく言った。

「A美ちゃんは大丈夫だ。

 宮司にしてみりゃ、手馴れたものだよ。

 信じようと信じまいと、
 これからは、神仏の意味を理解して、
 お参りすることが大事だなぁ」

妹と義母は、元旦はH神社から帰らず、
二日の朝に家に戻ってきた。


A美はH神社から戻った後、
何事もなかったかの様に明るく振舞っていた。

私達は三箇日をRの実家で過ごし、
四日に東京へ戻った。


別れ際、義母がA美に、

「一霊四魂。
 自分を見失わず、危うきには近づかず、
 直霊(ナホビ)にて御魂が統治される様、
 何時もしっかりと自分の心に耳を傾けるんだよ」

と伝えた。


帰りの車中で、私は妹に、
己の奇行を覚えているか訊ねた。

だが、妹は何も答えなかった。

追究しようとする私を、夫が諌めた。

あれから一年近くが経ち、次の正月が近づいている。

私は夫と、今年も実家に帰る日程を話し始めた。

そんな折、私の家に遊びに来たA美が、
どういう心境からか、件の一日のことを語った。

「去年の大晦日、私があの神社で、
 誰かの声が聞こえたと言ったの覚えてる?

 あの夜、私は誰かの声で目を覚ましたよ。

 目を開けると、辺りは真っ暗なのに、
 不思議と良く見えた。

 すると天井の隅の方から、

 『あそんで。あそんでよ』

 と聞こえたから、私は声の主を探したの。

 その時、見ちゃった。

 天井を這って、私に近づいて来たんだよ。

 裸なのに真黒な女の子が。

 焼け爛れた皮膚が、所々体からずり落ちていて、
 全身は黒焦げだった。

 その子は逆さのまま首をぐるりと捻って、
 大きな黄色い目で私を捉えて、
 嬉しそうに笑ったんだ。

 更に怖かったのは、
 異常に長い髪の毛が天井から床まで垂れ下がって、
 その子が髪をずるずる引き摺りながら、
 這い寄ってきたこと」

「それが、ゆっくり私の真上まで這ってきて、
 髪の毛が私の顔に被さった。

 で、赤い歯を剥きだして笑ったんだ。

 そしたら、上半身だけがずずずっと天井から伸びて、
 私の目の前に、女の子が両手を差し出して迫ってきた」


私は、

「それから後は覚えている?」

と訊ねた。

A美は頷き、続けた。

「その後は、私は灰色の空間にいたの。

 周囲に、丸いものが四つ漂っていた。

 少し離れた処にあの子がいて、
 四つの玉を操る様子で、何か唱えてた。

 私は動くことも、声を出すこともできず、
 ただ立たされたままその光景を見ていた。

 四つのうち、
 赤っぽい一つが極端に大きく膨らんで、
 激しく乱舞していたよ。

 それから随分時間が経って、
 私はその空間から引きずり出されたの。

 気が付くと、目の前に宮司さんがいた」

私が、奇行について訊くと、

「自分では覚えていないけど、叔母さんからきいた」

と笑って答えた。



宮司はその後、A美に滔々と理を説いたそうだ。

神社のことや神のこと、
魂の成り立ち、現世と幽世のこと。

妹は話を聞くうちに、
段々と恐怖感が薄れていったという。

話しを終えて妹は言った。

「今年は、ちゃんと禍津日神を鎮めるために
 参拝したいな」

夫は私に、

「A美ちゃんは良く理解しているよ。  
 僕なんかより、余程」

と囁いた。

私は俄には信じがたい話に唖然としつつも、
参拝には同意した。

今年の正月もあの社へ行く。

だが、あの授与所があっても、
おまもりは絶対に貰わない。

そういえば一つ、
私が気になっていることがある。

A美はあれ以来、
お手玉で遊ぶことが多くなった。

H神社で処置を受け、家に戻ったあの日、
妹は上手にお手玉ができるようになっていた。

彼女は時折、私の家の和室でもお手玉をする。

耳慣れない唄を歌いながら、
延々と投げ続ける妹の背中を見ていると、

あの夜に客間で遊んでいた、
得体の知れないA美の後姿が脳裏をかすめ、
不安を覚える。


夫も少し引っかかる様子で、
それを見る度に

「気にしない、気にしない」

と、決まって独り言をいった。

私も深く考えない様に努めている。









古い神社 【神社にまつわる怖い話】



当時を思い返して書いてたら、超長くなってしまったのでとてもお暇な方どうぞ。

俺が小5の時、夏休みに家族と父の弟家族とで軽井沢の貸し別荘へ旅行に行ったんだ。 
山の中にある別荘のせいか、周囲にレジャー施設等は無し。

が、この旅行には、Hというスゲエ可愛い従姉妹もいたので俺はまったく無問題。
Hは同い年で、仲も良かったもんだから俺はこの旅行を前から楽しみにしてた。

 別荘に到着して二日目、俺とHは2人でこの辺りを探検しようと言うことになり、
別荘から少し離れた山道を探索。
しばらく山道を登ったところで、山道の横脇にボロボロな石の階段を発見。

石段の幅は子供二人が横に並べばキツイ位。見上げれば15メートル程先に石の鳥居が見えた。
怪しい雰囲気ぷんぷんでこりゃ冒険にはもってこいだと思った。早速俺はあそこを探検しようぜ!と提案。
天気も良く、時間も昼をまわった頃で怖いという雰囲気もあまり無かった。

しかし普段は男勝りなほどに元気なHが「何か怖い感じせん?」とか、
「階段とかボロボロやん。私らだけで行くの叱られるて。」と短い髪ブンブン振って頑なに拒否。
俺としてはこういう怪しげな場所をHと一緒に冒険するのが重要だったわけで、割と必死に説得。
しかしそれでも渋るH。しまいにはどうしても行きたいなら一人で行ってきて、的な雰囲気に。
さすがにこりゃ無理か?と俺もそろそろ諦めかけていた。

が、おもむろにHが「Yちゃん(兄の名前)が一緒に行くなら行く」と提案。

兄は俺と10歳近く離れており、デカい上に鍛え込んでるからえらくゴツい。
外見がまんま熊みたいなプロレス系ガチムチ兄貴。
しかし、性格はおおらかなプーさんで面倒見も大変良かったので、
年は一回り程離れていたが俺と兄の仲はかなりよかった。

Hも兄には非常に懐いており、俺も3人での不思議探索というのも面白いと考え直した。
早速別荘に戻り、兄に事情を説明して同行を依頼。兄も「おっしゃ、わあった」と笑いながら快諾。
今度は三人で例の石段まで向かうことに。

んで到着して石段を登ってみると、人気のまるでない古い神社があった。
それほど広くない境内の割に少し大きめな拝殿があった。
特に見る物もなく、周りの木々のせいで多少薄暗く感じる程度だった。
早速俺は拝殿に突撃まっしぐら。
兄という大人がいるという状況とHに格好良い所を見てもらう事を意識して気が大きくなってた。

拝殿見ながら「うっわこれ絶対中に幽霊いるね!!」とか「やべえ、本物出てきたらどうする!?」等々
わざわざ大声上げながら少し怖がってるHをチラ見チェック。
俺こんなん全然怖くないぜ、的な所をHに向けてさらにアピールしたかったので、
そのまま勢いづいて兄に「入っていい!?いい!?」と質問。
が、 まあ当然なことに「バチぃ当たっから止めとけ」とやんわり止められた。

それでも俺は「大丈夫、大丈夫、余裕余裕」と、それを軽く聞き流し拝殿の扉の前に立ち、
鍵がかかってないかチェック。正直少しヤバイかな?とも思ったが、
こういう誰もしないことが格好いいんだ、と実に子供じみた発想で突っ切った。


観音開きの扉に手をかけて、少し力を込めて引いてみるとこれがあっさり開いた。
薄暗い拝殿の中を見ると広さは縦横10bほどで相当ボロい。
床は何処かしこも軋んでる上に予想以上に何もなかった。
拝殿と言うより板張りの物置場とか言われた方がしっくりする位だった。

しかしよく見ると扉から向かって正面奧の上の方に神棚みたいなものがあった。
神棚には元は何か置いてあったのだろうが、御神体のような物もなく、
今は何も置かれていない神棚があるだけだった。
そして拝殿内の四方のうち、扉から見て
左奧にボロッボロな小さい和太鼓が一つ縦に置かれてた。
叩く部分に紙が貼ってなかったので、パッと見、和製の木ダルのようにも見えた。
少なくとも最近人が出入りしている様子は見あたらなかったと思う。

早速兄とHを呼んだ。Hも少しは興味があったのか、「うっわ、古いなあ・・・」と恐る恐る入り、
結局最後には兄も「あんま悪戯したらいかんぞー」と注意しながらも入ってきた。

俺は奧にあった太鼓の中を覗いたり、つま先で蹴ったりとわざと乱暴に遊んでた。
その横で「T(俺の名前)いかんて、蹴っちゃいかんて。」とHが涙目で必死に止めてきたので、
俺はさらに調子に乗ってた。
兄は飾られてた神棚を見上げながら時折横目で俺に注意してた。

妙な事が起こったのはそん時。

背後で僅かに観音扉が動く音がした。
最初は風だと思い無視した。けど、扉の動く音が何故か止まらなかった。
えっ?とようやく俺が振り返ってみれば、すでに観音扉は半分以上閉まりかけてるところだった。
そのまま結構大きな音を立てて扉が閉まるまで、俺も、Hも完璧にフリーズ。
扉が閉まり、薄暗い拝殿内がさらに暗くなった。途端にびびり始める俺。
唯一兄だけ「おう、風か?」とかいいながらノシノシ扉の方に向かっていった。
慌てて俺たちも兄の背後にぴったりとくっつくよう後を追った。

入るときは引いて開けたので、兄は扉を押し開けようとしたらしいが、中々扉が開かない。
中々扉を開けられない兄に、すでに周囲の暗さでテンパり始めている俺は
「早く早くっ」とおもっくそ急かし、Hはすでに泣きそう。

しかし兄は「閉まった拍子で枠ぅ歪んだかもしれん」と普通に返してきた。
「じゃあ壊せばいいじゃんっ」とさらに急かす俺。
「いや、壊したらいかんだろ」と至極真っ当な兄。
実際、俺もおもっくそ押してみたけど、ガタガタいうだけでホントに開けられなかった。

そしてさらに異常な事態が起きた。

俺らが扉の前で格闘していると、今度は後ろの離れた場所で床板が軋む音がした。
ビクッとして振り返るが誰もいない。けど確かに音は、太鼓のあった左奧の隅から鳴った。
そんで聞き間違いと思う暇もなく、もう一度左奧から”ギィッ”という音が鳴った。
今度の音は一回で終わらずに”ギィッ”という音が一定のテンポで続いた。
意味が解らない上に怖かったのはその音が、
人が板の上を歩いて横ぎるように左端から右端に移動したこと。
軋む音は右隅の床板までいったと思ったら今度は其処から移動せず、
ずっと一定の調子でギッ・・・ギッ・・・ギッ・・・ギッ・・・って音が鳴り続いてた。

それがなんもいない空間から聞こえてくるもんだから、もう俺、完全にパニック。
極度の緊張でホント何にも動けない。
足もふわふわして立ってる感覚もあんまなかった。たぶんHもそんな感じだったと思う。
軋む音はずっと続くし、俺は頭真っ白で固まったままだしで、
とにかく音のする場所を見てるしかなかった。


が、そこで固まってる俺の背後からのっそりと兄が前に出てきた。
そんでそのままノシノシと音のする部屋の隅に近づいて行った。
そしたら部屋の隅に近づく3歩ほど直前で急にピタリと音が鳴り止んだ。
少しだけ其処を調べた後にこちらに「?」みたいな顔をして戻ってきた兄。

そんで俺とH、特にHが限界ぽかったのを見て、
さすがにまずいと思ったのか兄はもう一度扉の前に立った。
んで軽く気合い入れたと思ったら今度は全力で扉を押し始めた。
そしたら確かに扉の外側からミシミシミシ木か何か軋んでる音がしてきた。
そのまま兄がウンウン押し続けてたら、とうとう負荷が限界まで来たのか
外から大きくバキッと木か何かがへし折れたよう音が聞こえた。
そしたらそのまま一気に扉が開いた。

兄が「開いたぞ」と言い終わる前に転がるように飛び出る俺。
Hは泣きながら兄の腰に引っ付いて出てきた。
外は相変わらず天気も良くて蝉の声もうるさかった。

俺は早くここから離れたかったが、
兄は腰に泣いているHを引っ付けたまんま今度は扉を調べていた。
「なにしてんの?」と、もはや半泣き気味で聞く俺を尻目に、
「さっき絶対どっか壊しちゃったからなぁ・・・」と
先程の折れた音を気にして扉の隅々を調べていた。
程なくして泣いてるHにバシバシせっつかれながら兄はこちらに戻ってきた。

兄は不思議そうな顔で「何処も壊れてなかった」と首をひねっていた。

10年程前の夏の話です。
絶対思い出補正入ってると思うけど不思議な体験だったので今でも覚えてます。
長文、お目汚し共々失礼いたしました。
タグ:神社

【怖い話 実話】神社でも手におえない 危険すぎる最も危ない話




2年ほど前の話。
その年の夏、俺は大小様々な不幸に見舞われていた。

仕事でありえないミスを連発させたり、交通事故を起こしたり、
隣県に遊びに行って車にイタズラされた事もあった。

原因不明の体調不良で10キロ近く痩せた。

そして何より堪えたのは、父が癌で急逝したこと。

そんなこんなで「お祓いでも受けてみようかな・・・」
なんて思ってもない独り言を呟くと、彼女(現在嫁)が、
「そうしようよ!」と強く勧めてきた。

本来自分は心霊番組があれば絶対見るくらいのオカルト大好き人間なんだけど、
心霊現象自体には否定的(こういう奴が一番多いんじゃないか?)で、
お祓いが利くなんて全く信じちゃいなかった。

自家用車に神主が祝詞をあげるサマを想像すると、シュールすぎて噴き出してしまう。
そんなものを信用するなんて、とてもじゃないが無理だった。
彼女にしてもそれは同じ筈だった。

彼女は心霊現象否定派で、なお且つオカルトそのものに興味がなかった。
だから俺が何の気なしに言った『お祓い』に食いついてくるとは予想外だった。

まぁそれは当時の俺が、いかに追い詰められていたかという事の証明で、
実際今思い返してもいい気はしない。

俺は生来の電話嫌いで、連絡手段はもっぱらメールが主だった。
だから彼女に神社に連絡してもらい(ダメ社会人!)、お祓いの予約を取ってもらった。

そこは地元の神社なんだけど、かなり離れた場所にあるから地元意識はほとんどない。
ろくに参拝した記憶もない。

死んだ親父から聞いた話しでは、やはり神格の低い?神社だとか。
しかし神社は神社。

数日後、彼女と二人で神社を訪ねた。

神社には既に何人か、一見して参拝者とは違う雰囲気の人たちが来ていた。
彼女の話しでは午前の組と午後の組があって、俺たちは午後の組だった。
今集まっているのは皆、午後の組というわけだった。

合同でお祓いをするという事らしく、俺たちを含めて8人くらいが居た。
本殿ではまだ午前の組がお祓いを受けているのか、微かに祝詞のような声が漏れていた。
所在なくしていた俺たちの前に、袴姿の青年がやって来た。

「ご予約されていた◯◯様でしょうか」袴姿の青年は体こそ大きかったが、
まだ若く頼りなさ気に見え、(コイツが俺たちのお祓いするのかよ、大丈夫か?)、
なんて思ってしまった。

「そうです、◯◯です」と彼女が答えると、もう暫らくお待ち下さい、と言われ、
待機所のような所へ案内された。
待機所といっても屋根の下に椅子が並べてあるだけの『東屋』みたいなもので、
壁がなく入り口から丸見えだった。

「スイマセン、今日はお兄さんがお祓いしてくれるんですかね?」と、
気になっていた事を尋ねた。

「あぁ、いえ私じゃないです。上の者が担当しますので」

「あ、そうなんですか(ホッ)」

私はただ段取りを手伝うだけですから」と青年が言う。
すると、待機所にいた先客らしき中年の男が青年に尋ねた。
どうやら一人でお祓いを受けに来ているようだった。

「お兄さんさぁ、神主とかしてたらさ、霊能力っていうか、幽霊とか見えたりするの?」

その時待機所に居る全員の視線が、青年に集まったのを感じた(笑)。
俺もそこんとこは知りたかった。

「いやぁ全然見えないですねぇ。まぁちょっとは、何かいるって感じることも、ない事はないんですけど」

皆の注目を知ってか知らずか、そう笑顔で青年は返した。

「じゃあ修行っていうか、長いことその仕事続けたら段々見えるようになるんですか?」と俺の彼女が聞く。

「ん〜それは何とも。多分・・・」青年が口を開いた、その時だった。

シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、入り口にある結構大きな木が、微かに揺れ始めたのだ。
何事だと一同身を乗り出してその木を見た。
するとその入り口の側に、車椅子に乗った老婆と、その息子くらいの歳に見える男が立っていた。
老婆は葬式帰りのような黒っぽい格好で、網掛けの(アメリカの映画で埋葬の時に婦人が被っていそうな)帽子を被り、真珠のネックレスをしているのが見えた。
息子っぽい男も葬式帰りのような礼服で、大体50歳前後に見えた。
その二人も揺れる木を見つめていた。
シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ、と音を鳴らして、一層激しく木は揺れた。
振れ幅も大きくなった。
根もとから揺れているのか、幹の半分くらいから揺れているのか不思議と分からなかった。
分からないのが怖かった。
ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!
ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!
木はもう狂ったように揺れていた。
老婆と男は立ち止まり、その木を困ったように見上げていた。
すると神主の青年が、サッと待機所から飛び出すと、二人に走り寄った。

「△△様でしょうか」木の揺れる音のため、自然と大きな声だった。
頷く男。

「大変申し訳ありませんが、お引取り願いませんでしょうか。我々ではどう対処も出来ません」

こちらに背を向けていたため、青年の表情は見えなかったけれど、わりと毅然とした態度に見えた。
一方老婆と男は、お互いに顔を見合わし、頷き合うと、青年に会釈し引き上げていった。
その背中に青年が軽く頭を下げて、小走りで戻ってきた。
いつの間にか木の揺れは収まり、葉が何枚か落ちてきていた。

「い、今の何だったの!?」と中年のおじさん。

「あの木何であんなに揺れたの?あの二人のせい?」と彼女。
俺はあまりの出来事に、言葉が出なかった。
興奮する皆を、青年は落ち着いて下さい、とでも言うように手で制した。
しかし青年自体も興奮しているのは明らかだった。
手が震えていた。

「僕も実際見るのは初めてなんですけど、稀に神社に入られるだけで、ああいった事が起きる事があるらしいんです」
「どういう事っすか!?」と俺。

「いや、あの僕もこういうのは初めてで。昔居た神社でお世話になった先輩の、その先輩からの話しなんですけど・・・」

青年神主の話しは次のようなものだった。
関東のわりと大きな神社に勤めていた頃、かつてその神社で起きた話しとして先輩神主が、さらにその先輩神主から伝え聞いたという話し。
ある時から神主、巫女、互助会の組合員等、神社を出入りする人間が、『狐のお面』を目にするようになった。
そのお面は敷地内に何気なく落ちていたり、ゴミ集積所に埋もれていたり、賽銭箱の上に置かれていたりと、日に日に出現回数が増えていったという。
ある時、絵馬を掛ける一角が、小型の狐のお面で埋められているのを発見され、これはもうただ事ではないという話しになった。
するとその日の夕方、狐のお面を被った少年が、家族らしき人たちとやって来た。
間の良いことにその日、その神社に所縁のある位の高い人物が、たまたま別件で滞在していた。
その人物は家族に歩み寄ると、「こちらでは何も処置できません。しかし◯◯神社なら手もあります。どうぞそちらへご足労願います」と進言し、家族は礼を言って引き返したという。

「その先輩は、神社ってのは聖域だから。その聖域で対処できないような、許容範囲を超えちゃってるモノが来たら、それなりのサインが出るもんなんだなぁって、言ってました」
「じゃあ今のがサインって事か?」とおじさんが呟いた。

「多分・・・まぁ間違いないでしょうね」
「でもあのまま帰しちゃって良かったんですかね?」という俺の質問に青年は、「ええ、一応予約を受けた時の連絡先の控えがありますから。
何かあればすぐに連絡はつきますから」「いやぁでも大したもんだね、見直しちゃったよ」とおじさんが言った。
俺も彼女も、他の皆も頷いた。

「いえいえ!もう浮き足立っちゃって!手のひらとか汗が凄くて、ていうかまだ震えてますよ〜」と青年は慌てた顔をした。

その後、つつがなくお祓いは済んだ。
正直さっきの出来事が忘れられず、お祓いに集中出来なかった(多分他の皆も)。
しかしエライもので、それ以後体調は良くなり、不幸に見まわれるような事もなくなった。
結婚後も彼女とよくあの時の話をする。
あの日以来、彼女も心霊番組を見たりネットで類似の話しはないかと調べたり、どこで知ったのか洒落コワを覗いたりもしているみたい。
やっぱり気になっているのだろう。
もちろん俺だってそうだ。
しかし、だからといってあの人の良い青年神主に話を聞きに行こう、という気にはならない。

「もしもだけどさぁ、私たちが入った途端にさ、木がビュンビュンって、揺れだしたら・・・もう堪んないよね〜」

彼女が引きつった笑顔でそう言った。
全くその通りだと思う。
あれ以来神社や寺には、どうにも近づく気がしない。




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