ガキの頃に体験した話だ。
俺がまだ小学生の頃、友達数人と伊藤君の家へ遊びに行った。
伊藤君の家は結構大きな一軒家で、
俺達はインターホンを押して伊藤君を呼んだ。
しかし伊藤君は中々出ず、
調子に乗った俺達はインターホンを連打する。
しばらくした頃、伊藤君が玄関から出てきた。
伊藤君は玄関の扉を開けたまま俺達の横に並び、
「・・・ったく、うるさい〜」
と少し怒った表情を見せた。
さらに調子に乗る俺達は、「ピザの宅配で〜す」などと、
インターホンを連打しながらふざけていた。
その間も伊藤君の家の玄関の扉は開きっぱなしだったため、
家の中の構造が良く見えた。
玄関を通って直ぐ右側に部屋の扉、その先にはトイレのドア。
さらに奥にはリビングへと繋がる扉が見える。
前述した通り伊藤君の家は広いため、リビングの先にもまた別の部屋があり、
いくつ部屋があるんだ?と考えていた。
伊藤君が出てきてからもインターホンで遊ぶ友達はさらにヒートアップし、
俺は家族に迷惑が掛かるんじゃないかとようやく思い始めた。
そんな時、
『ガチャッ、バタンッ!』と、
伊藤君の家の中から扉が開いて勢いよく閉まる音が聞こえた。
「家族の人かな?」
俺も悪乗りする友達も顔を見合わせた。
『ガチャッ、バタンッ!』
また聞こえる。
リビングの奥からだ。
『ガチャッ、バタンッ!』
次は2階から聞こえた。
(家族の人が怒ったのかな?)
俺は、
「お母さんたち居たんだ?」
と伊藤君を見た。
伊藤君は絶句した表情で俺を見ると、自分の家へと視線を移した。
「今、家に誰も居ない・・・」
悪乗りしていた友達もそれを聞いた。
もうインターホンには触っていない。
緊張した表情で伊藤君の家をじっと見る。
俺も見ていた。
『ガチャッ、バタンッ!』
リビングの扉が開いた。
開けた人は見えなかった。
(開けてすぐ隠れたのか?)
『ガチャッ、バタンッ!』
今度はトイレの扉が開いた。
(中にずっと入っていたのか?)
誰かが言った。
「近づいて来てる・・・」
『ガチャッ』
一番手前の部屋の扉が開いた。
今度はゆっくりと開く。
新しく、まだ綺麗な扉なのに、
古びたドアのような『キィィ』と響く嫌な音が聞こえてくる。
(誰も居ない・・・)
扉からは誰も出て来ないし、音も聞こえない。
安堵した俺達は口々に、
「故障か?」
「イタズラしてんだろ(笑)」
などと伊藤君を責めた。
伊藤君は未だに不安そうな表情で自分の家を見つめている。
俺もホっと一息ついた・・・その瞬間、
『バタンッ!!』
玄関の扉が勢いよく閉じた。
俺達はまた瞬時に固まって、伊藤君の家を見つめる。
誰も動き出せない。
伊藤君ですら動けない。
・・・その時、インターホンから音が聞こえた。
「お前まだインターホンで遊んでるのかよ!」
俺は悪乗りが過ぎる友達を叱咤する。
しかし友達は、
「インターホンになんて触ってない・・・」
と半べそで答えた。
(はあ?)
インターホンから音が聞こえる。
『・・ザザ・・・───ッザザ』
雑音ばかりで、
何を言っているのか分からない。
「お前・・・やっぱりお前がインターホンにイタズラしたんだろ!」
と俺はまた友達を責めた。
「インターホンの向こうから音が聞こえる・・・」
伊藤君がボソッと言った。
俺「だからこいつがイタズラしたんだって」
伊「それでも、誰が家の中からインターホンに応答したんだよ・・・」
俺達はまた固まって、伊藤君の家を見る。
玄関の扉にある郵便受けが、ゆっくりと開いているのが見えた。
最初に伊藤君が逃げた。
続いて友達が逃げた。
玄関の扉が少し開いたのを見て、俺も逃げた。
その後は人通りの多い公園で休んだ。
門限の時間になるまで、黙ってみんな一緒に居た。
みんなが帰って伊藤君のお母さん達が帰る時間まで、
俺は伊藤君と一緒に居た。
それからは、伊藤君の家には行っていない。
数年後、伊藤君は登校拒否になってしまった。
彼と最後に会った時には、ゲッソリと痩せていた記憶がある。
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