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2018年11月18日

フィンランドの夜【怖い話】






こないだ親父が物置の整理をしててね。


一日中あさくってたかと思ったら、

夕方居間にガラクタの山を積み上げて昔を懐かしんでいた。


古着やら、レコードやら陶人形やら。。。

ふと一枚の写真が目についた。

そこにはソファに座った若かりし頃の親父と

若い白人女性が写っていた。


親父は痩せていて当時の流行りなのか

中途半端に長い髪がおかしい。



女の方はやや顎が弛んでいるがまあ美人の範疇だ。

写真について聞くと、大学3年の夏にヨーロッパを

放浪した時のものだと話してくれた。

「この子については未だによくわからないことがあるんだよ」

親父は意味ありげに言った。


俺はまさか一夜のチョメチョメ話じゃなかろうかと

警戒して部屋へ戻りかけた。


「気味が悪い話でな」

「なになに。怖い話?」

「ああ……」

ヨーロッパに来て一月半くらい経った頃だった。

俺は北欧に足を伸ばした。

フィンランドだ。

まず首都のヘルシンキに行ったが物価が高くて早々に出た。


そして北部のラップランドと呼ばれる地帯へ向かった。


地名は忘れたが小さな町に3日ほど滞在した。


都会よりは物価も安かったし、
日本人が来たのは初めてらしく歓迎してくれた。



地元新聞に記事まで載ったのには驚いたよ。

それに味をしめて今度は西部の田舎へ行った。

海沿いの町だった。

そこでもやはり日本人は珍しくて、

色々と質問攻めにあったりした。


中でも泊まったホテルのウェイトレスをしていた

女の子が日本に興味津々でね。


大学で東洋の文化を研究しているとかで。


その子は夏休み中ホテルに住み込みで働いてるそうで、

仕事がひけてからお喋りしたりした。


カタコトの英語でも結構通じるもんだ。

正直下心もあった。

ワンナイトラブってやつだ。

と言ってもナンパなんてしたことないから

自然とそんな雰囲気になればいいななんて


虫のいいことを考えてた。


そのために無理して一週間くらい滞在しようかとまで思った。

アホだよな。

で、3日目の夜。

その日も夕食後しばしロビーで彼女と話した後部屋へ戻った。

いつもは割とすぐ寝てしまうんだが、

その日は何故か寝付けなくてベッドに入ったままだらだらと

時を過ごしていた。


不意に声がした。

甲高い悲鳴のような女の声だ。

オーッ オーッというような。

俺はギョッとして時計を見た。

夜中の2時半。

カーテンをめくって外を見た。



フィンランドは夜中でも比較的明るいが、

町の人は夜更かししないのでいつも人気はない。


ホテルの前は広場になっていて敷き詰められた石畳が

美しい紋様を作り出している。



俺は広場を見回した。

だが悲鳴を上げた人物は見当たらない。

窓を開けて左手の道を見た。

かすかに人影が見える。

どうやらこちらへ来ているようだ。

そしてまた悲鳴が聞こえた。

さっきよりも大きく体の隅々まで行き渡るような

不快な声だった。


こちらへ向かう人影の速度が速くなった。

俺は窓を閉めた。

でもカーテンの陰から外を見るのは止めなかった。

悲鳴はひっきりなしに聞こえていた。


もはや悲鳴というより鳴き声のようだった。

かなり五月蝿いのだが、

周りの家からは誰も外には出て来ず、

明かりすら点かなかった。



そして不快な声の中遂に人影が広場に入ってきた。

それはネグリジェを着た女だった。

やたらと首を振りブルネットの長髪を振り乱しながら

広場を駆けずり回っている。



それはかなり異様な光景だった。

俺はそれに見入っていた。

あの女は何なのか。

何故誰も出てこないのか。

まさかこの世のものではないのか……。

ふと女が立ち止まった。


広場のど真ん中。

いつの間にか静寂が支配している。


ヤバい。

強烈な寒気が襲ってきた。

俺は身を引いてベッドに戻った。

毛布を引き上げた瞬間ノックの音が聞こえた。

俺は飛び上がりそうになった。

夜中に誰が訪ねて来たんだ。

ぐずぐずしていたらまたノック。

そう強くはないが、はっきりと聞こえた。

恐る恐る覗き穴で確認したら、彼女だった。

何をしにとか考える余裕もなくドアを開けた。

彼女は何やら切羽詰まった様子で

俺の襟首を掴んで引き寄せ耳元で囁いた。


「決して外を見ないで。静かにしていて」

そしてあっと言う間に出て行った。

俺は呆気に取られてしばらくドアの前に立ち尽くしていた。

と背後から絶叫が聞こえてきた。

体が跳ねて思わず声が漏れた。


一足飛びにベッドへ戻り毛布にくるまった。

絶叫は止まない。

まるでこの部屋をピンポイントで狙っているかのようだ。

しかも……

心なしか段々近付いているように聞こえる。

ここ5階なのに。


2階、3階、4階……

とうとう窓のすぐ外から……

バンバンバン バンバンバン

俺は気絶した。


翌朝は寝坊した。

あんなことがあった割には目覚めは悪くなく、

顔を洗うとサッパリして悪い夢を見ただけだと思えた。



人の少ないレストランで朝食を取っていたら

彼女が水を注ぎにきた。


昨夜とは打って変わって飛び切りの笑顔だった。

昨日のことを聞こうとしたが

笑みを浮かべたまま行ってしまった。


後ろ姿を見ながら首を傾げて向き直ると、

コップの横に小さく折り畳んだ紙片が置かれていた。


これはもしや……

ラブレター?

いよいよ旅先で金髪美人とアバンチュールかと期待に

股間が膨らんだ。


紙片をポケットに入れ急いで食事を済ませると

部屋へ戻った。

ドキドキしながら紙を広げた。


「あなた生け贄にされる。早く逃げて」

何だこれは。意味が解らない。


何で生け贄にされなきゃならないのか。頭が混乱した。

彼女に聞かなければと立ち上がったら、ノックがした。

ホテルのご主人だった。

気のいいおっさんだ。

手塚治虫の漫画に出て来るヒゲオヤジに似てる。


「あんた××日まで滞在の予定だったな」


「はい」

「もう少しおらんか。

 わしらももっと日本のことを聞きたいし。安くするから」

「え……と」

「ウェイトレスもそうして欲しいと言っとるぞ」

ハッとした。


「いえ、折角ですがもう出発しなくちゃいけなくなりました。

 その、友達と合流する約束をしていたのを忘れていまして」

ご主人は残念そうに引き留めたが重ねて断ると

案外あっさりと申し出を引っ込めた。



俺はすぐに荷物を纏めると午前中にホテルを出た。

彼女に一言別れを告げたかったが見当たらなかった。


ロビーにも通りにも人影はまばらで、

それなのにやたらと視線を感じた。


その日の内にフィンランドを出た。

「今思い返してもよく解らん出来事だった。

 その後 デンマークで知り合ったフィンランド人に話してみたんだが、

 彼も説明がつかないようだった。


 担がれたんだろうなんて言われたが田舎の人が

 そんなことするとは思えない」

「叫んでる女が地方に伝わる化け物で、

 現れたら必ず生け贄を捧げなきゃいけないとか?」


「俺も似たようなことを考えたが、

 そのフィンランド人はそんな化け物の伝説は

 聞いたことがないと言っていた」

親父は写真をじっと眺めていた。

「話はそれで終わりだ」

「あ、女の顔は見たの?」

「いいや。不思議と顔の記憶はない」

親父は写真から目を離して俺を見た。

「不思議と言えばこの彼女。ホテルのウェイトレス。

 どうしても名前を思い出せない。

 聞かなかったはずはないんだが……」
posted by kowaihanashi6515 at 19:57 | TrackBack(0) | 洒落怖

2018年11月14日

幽霊はデジタル化されるのか?【怖い話】





俺の地元は宮城の仙台なんだが、大学4年の頃に友達と面白半分で

「幽霊はデジタル化されるのか?」

という実験がしたくて、地元で有名な八木山橋にビデオ撮影にきた。



八木山橋についてはググってくれればわかると思うので、

軽く説明させてもらうと


1.昔はつり橋で、自殺の名所だった

2.つり橋じゃなくなっても自殺者が後を絶たなかったので柵を作った

3.橋の下は竜の口という谷になっており、

10年程前に閉鎖(がけ崩れの危険があるためと 好評してあるが、

自殺した人の遺体が回収しきれずに多数あるためのとの噂も)


興味がある人はググってくれ。



ビデオを撮影した時期はちょうど今ごろ。

時間は午前1時を過ぎてた頃だったと思う。



友人の車で八木山橋に向かい、

橋から少し離れたところに停車して歩いて橋に向かった。



当日は天気がよく、星が綺麗に見えてたのを覚えている。

橋に着いて車が来ないタイミングを見計らって撮影を開始。

友人はフェンスを背にして、仙台の夜景をバックにポーズを取ってた。


俺はビデオを三脚に固定し、

10分ほど撮影してたが途中で飽きてタバコをふかしてた。



さらに暇になったので、カメラ固定で録画ボタンを押してるまま、

俺も友人の隣に行って 一緒にタバコをふかしたりふざけあっていた。



30分ほどしたら二人とも飽きてしまったので、

停止ボタンを押してビデオを止め、友人の アパートへと帰った。

この帰る時点での時間は午前1:35くらいだったと思う。



友人宅に戻り、早速上映会開始。


・・・案の定画面には友人がアフォなことしてる姿が映ってた。

撮影して野次を飛ばしてる俺の声ももちろん入ってる。

10分ほど経過して、飽きた俺が友人と二人で写ってる場面になった。

この直後、画面右に白い物が写ってた。



背景が夜景だけに、

光の加減で写ったのであろうと最初は思ったが、

動きがどうもおかしい。


よく見ると、何か布のように見える。


その布はだんだんと左によっていき、その全貌が見えてきた。


白いスカートだった。


だんだん左に行くにつれて、全貌が見えてきた。

白いワンピースをきた女性が画面の中に入ってきた。


入ってきた位置からして丁度↓のような感じ


         ■←カメラ

         ○←女性
     →友人● ●←俺
________________________
        フェンス


もちろんであるが、当時の俺たちはそんなのを見なかった。


女性はうつむき加減で画面におり、

白いワンピースに裸足、長い黒髪だった。


カメラに背を向け、俺と友人の間をすり抜けると、

フェンスの手前まで歩いてきた。



そしてそのままフェンスを登り始めた。


フェンスの上部は「ねずみ返し」のような構造になっており、

さらに鉄条網があって 普通には超えられないようになっているが、

それが無いかのようによじ登って行く。



そしてそのまま橋の下に落下・・・。



画面を見てる俺と友人は呆然。


その時には何が起きたのか分からなかった。


画面では俺と友人がアフォなことをして、

見てる俺たちは凍り付いていた。



女性が落ちた10数秒後、また女性が画面右から現れた。



最初と違う点は、以下の通り

1.ワンピースが血まみれ

2.髪の毛がボサボサ

3.皮膚の所々が裂けてる&腫れあがってる

4.内臓(多分小腸?)を引きずってた


表情は相変わらず分からない。


間違いなく「落ちた」と分かるような姿で再び現れ、

またもや俺と友人の間をすり抜けて フェンスによじ登り、

そのまま落ちていった。



そしてまた画面右から現れ・・・

と、どんどん悲惨な状態になって

現れては落ちての繰り返し映像になった。



何度落ちただろうか。


白かったワンピースは赤茶色に染まり、見るも無残に敗れていた。


左足も折れてたような気がする。


今まで見たどんなグロ画像よりもグロいのが画面に写ってた。



また落ちるのかと思ったら、フェンスを登る直前に動きが止まり、

画面を振り向いてきた。


その時に初めて顔を見たのだが、両目が無かった。


正しくは

「両目がある場所が空洞になっていた」

感じかな。

そしてそのまま画面に向かって歩いてきた。



カメラは人の胸の高さ150cmくらいに固定してたので、

女性が近づくと画面一杯に 女性の服が映った。



写った部位は丁度乳〜鎖骨らへん。

この部分も血まみれ&変色してグロかった。



女性が画面に近づいたと思ったら、

カメラのアングルがスーっと上に上がった。


感覚としてはカメラを持ち上げた感じ。

そしてそのまま女性の顔のドアップが画面いっぱいに・・・。



女性は何かぶつぶつ呟いていたが、よく聞き取れなかった。

口がボソボソと動いて、間違いなく何かしゃべっていた。



そしてそこで撮影が切れたようで、砂嵐になった。


当時は帰るまでキチンと撮影状態にあったので、

なぜ勝手に撮影が終わってるのか、

なぜ砂嵐になってるのか見当もつかなかった。



この映像を見た後、二人でしばらく凍ってたが、

とりあえず寝て明日教授に見せようと

結論を出したところでお互いに寝た。



友人は二階の寝室へ、俺は布団+タオルケットで寝た。


精神的に疲れてたせいか、すぐに眠れたと思う。


ふと目が覚め、首を動かして時計を見たら4時ちょっと前だった。


俺は寝る時に横を向いて寝る癖があるのだが、

その時に人生で初めて金縛りにあった。



首を動かして時間を確認し、

またもとの位置に戻した時に金縛りにあった。


目の前には足が見えた。


目しか動かせる状態で、

視線を↑に向けると白いヒラヒラしたのが見えた。


「あー、ビデオに写ってた女性か」


俺は冷静にそんなことを思ってしまったのを覚えている。



目は閉じようと思っても閉じられなかった。

ただ、瞬きだけはできた。



スカートを確認し、視線を目の前の足に戻した所で、

女性の足を血がツツーと流れ落ちてくるのが見えた。



布団はみるみる染まって行き、

だんだんと染みが広がっていく様子が分かった。


横を向いてる俺の耳〜頬にかけても、血?が垂れてきてた。


血と分かった理由は、明らかにヌルっとしていて、

生暖かかったからだ。


それがポツポツと垂れてくるのが分かる。



もう((((;゚Д゚)))ガクガクブルブルしてしまい、パニック状態だった。



もう帰ってくれと思った時に、

目の前にビデオでアップになった女の顔が現れた。


正確には、

「俺の枕もとに立ってたが、

 立ちながら俺の顔を覗き込むようにして見て来た」

そんな感じ。



鼻と鼻がくっつきそうな距離まで近づかれて、

何かをブツブツ言い始めた。


この距離でいても、鼻息どころか声を出した時の息さえ感じなかった。


最初は何を言ってるか分からなかったが、徐々に聞き取れてきた。


「・・・見てたよね?・・・ずっと見てたよね?・・・何で?・・・何で?」


この言葉を聞き取れた所で気を失ってしまったらしいorz


気が付いたら時計を見た時から30分程時間が経っていた。


布団には血の後はおろか、足跡も何も残っていなかった。


恐る恐る布団を出て、友人の部屋に報告に行った。


友人の部屋に入ると、友人は部屋の隅で膝を抱えてうずくまってた。


「('A`)スンマセンデシタ・・・・」


こんなことを繰り返してた。


友人を連れて下の部屋に下りて、

明るくして落ち着かせたところで話を聞いた。



友人は寝る時には仰向けになって寝る癖があるらしく、

当時もあお向けで胸元まで タオルケットをかけて寝ていたそうだ。



ふと夜中に目が覚めたら金縛りにあってたらしい。


動けない!と思った時に、両足を誰かにつかまれたそうだ。


その手は血のようなものでヌメってたらしく、

非常に気持ちが悪かったと言ってた。



その掴んでる手がどんどん上に上がってきたそうだ。


足首→もも→腰→胸元・・・と


どんどん布団の中から這い上がってくる感じ。



 ___ ←布団
 ○□= ←何か
●■=  ←友人



丁度こんな感じで布団と友人の間を上がってくる感じ。



視線を胸元に移したら、何かがこっちを凝視してたそうだ。

それで怖くなり目を閉じたらしい。


その直後にガバっと一気に這い上がってきて、

顔を付き合わせるような感じになったらしい

(そういう気配がしたそうだ)



びっくりして目を開けると、

目の前にはビデオに写ってた女性がいた。



俺の時と同じように、何かブツブツとしゃべってたらしいが、

友人には聞き取れなかった らしい。



友人の記憶はそこでプッツリと途切れて、

俺が部屋に来た時になぜ部屋の隅にいたのかさえ 覚えていなかった。



その日のうちに大学の教授にビデオを送り、

この体験を話した後で「自己責任で見て下さい」と付け加えた。



数日後に教授から電話があり、

「お前たちだけしか写ってないぞ?」と言われた。



夜中にも変なことは起きなかったようで、

俺と友人の話は鼻で笑われたorz



それ以来このビデオは誰にも見せておらず、友人が今も保管している。


俺も友人もその日以来その女性の霊?には合ってないし、

変な体験も無い。


・・・その日以来霊感が少しばかり強くなった気がするけど(;´Д`)


以上が俺が昔体験したヤバスな出来事。









posted by kowaihanashi6515 at 21:28 | TrackBack(0) | 洒落怖

2018年11月12日

けんけん婆あ【怖い話】





子供の頃、近くの山が遊び場で、

毎日のように近所の同世代の友だちと一緒にそこで遊んでた。


この山の通常ルートとは別の、獣道や藪をつっきった先には、

謎の廃屋があり、俺たちにしてみれば格好の遊び場だった。


小さな山だったから、
俺たちは道のあるとこ無いとこ全て知り尽くしていた。


山はある意味、
俺たちがヒエラルキーのトップでいられる独壇場だった。


しかし、俺たちにも天敵がいた。それが"けんけん婆あ"だ。


廃屋に住み着いているらしい年取った浮浪者で、
名前の通り片足がなかった。


けんけん婆あは、
俺たちに干渉してくることはなかったが、
俺たちは山で遊んでいるとき、
よく視界の端で捉えては気味悪がっていた。


しかし、好奇心旺盛な子供にとっては、
格好のネタであったのも確かで、

どれだけけんけん婆あの生態を知っているか、
どれだけけんけん婆あに気付かれずに近づけるかが、
一種のステータスになっていた。


俺の知る限り、
どちらかがどちらかに声をかけた、なんてことは皆無だった。


その日、俺たちはかくれんぼをすることになった。


隠れることのできる範囲は山全体。


ものすごい広範囲のように聞こえるが、
実はこの山でまともに隠れることのできる範囲というのは
ごく限られている。


どちらかというと、
鬼はそれら隠れることのできる場所を巡回するだけという、
隠れる側としてはほとんど運次第な遊びだった。


で、俺はその定番の隠れ場所のひとつである、
廃墟に隠れることにした。


廃墟の壁には錆付いたトタン板が立てかけてあり、
俺はそのトタン板の下に隠れていた。


耳を澄ましていると、

「○○ちゃんみーつけた!」

という声が遠くの方でしたりして、その声の方向から、
今鬼がどこにいるのかを推察しながら、ドキドキしていた。


で、鬼のいる場所が次第に近付いてきて、あっち行け!
でもそろそろ次は俺かな、とか思っていたとき、

「けんけん婆あが基地ンほうに行ったぞー!!」

という鬼の叫び声が聞こえた。


基地というのは、俺の隠れている廃墟のことだ。
(俺たちは秘密基地と呼んでいた)


しかしこれは、
カマをかけて隠れている人間を
燻り出す鬼の作戦かもしれないし、

例え本当でも、
これはけんけん婆あをすぐ近くで観察して
英雄になれるチャンスだ。


そう思って、俺はそのまま隠れ続けていたんだ。


とさっ とさっ とさっ

まさに『けんけん』するような足音が聞こえてきたのは、
そのときだった。

この時点でもう後悔しまくり。

とさっ とさっ とさっ

片足で枯葉を踏む音が、もう廃墟のすぐ前、
俺から5メートルほどしか離れていない場所まで近付いている。


見つかったら殺される!


そんな考えに取り付かれて、俺はもうマジビビリだった。


そこで俺はよせばいいのに、
いきなり隠れ場所から飛び出して猛ダッシュで逃げる、
という選択肢を選んだ。


もう飛び出すやいなや、
けんけん婆あのほうは絶対に見ないようにしながら、
必死で友だちの所まで逃げた。


で、事情が良く分かっていないみんなを、
半分引きずるかたちで下山。


そこで始めて詳しい事情をみんなに説明した。


でもやはり、あの恐怖は経験した本人にしか分からないわけで。


逆に友だちは、そんなに近くまでけんけん婆あに近付いたことを、

「すげぇすげぇ」

と褒め称える始末。


俺もガキだったからすぐに乗せられて、恐怖なんて忘れて、
多少の誇張を交えつつ誇らしげに語りまくった。

(実際は、けんけん婆あの姿は見ないまま逃げ帰ったわけだし)

でも、その話をすぐそばで聞いていたのがうちの母親。


「そんな危ないことは絶対にしてはだめ」

とめちゃくちゃ怒られた。俺号泣。


その晩に俺の母親は、他の両親や近所の大人、(婦人会の人たち)
それにこの山の所有者の人を集めて、話し合いを開いた。


なんでも、子供の遊び場付近に
浮浪者の人が寝泊りしているのは、
何があるか分からないので危ない。


だからといって、
子供に山で遊ぶなというのは教育上良くないので、
ここは浮浪者の人に出て行ってもらおうと。



大人は山に浮浪者が住み着いているということを
知らなかったらしく、皆すぐに同意。


もともと私有地の山だったので話も早く、
所有者の人を先頭にぞろぞろと山に出かけていった。


でも結局会えなかったらしく、1時間もすると帰ってきた。


廃墟の入り口に退去願いの張り紙だけして、戻ってきたらしい。


でもここで、俺たちは訝しげな顔をした大人たちに、
本当に浮浪者が居ついているのか、ということを質問された。


子供の俺たちにとっては考えもつかなかった疑問の数々。


まず、例の廃屋は、屋根と壁の半分が腐り落ちている状態で、
浮浪者といえどとても人間の住める場所ではなかった。


暖を取ることはおろか、雨風すらしのげない。


生活の跡らしきものも見当たらなかったらしい。


それにその場所。


『獣道や藪をつっきった先』

と書いたが、途中にかなりスリリングな崖や
有刺鉄線で遮られた場所があって、
健常者でも辿り着くのに一苦労だ。

(俺たちは有刺鉄線の杭の上を上っていた)


ましてや片足の老婆が、日々行き来できる場所ではないと。

また、大人は誰もけんけん婆あを見たことがないらしい。

特に山のふもとに住んでいる人間なら、
必ず目撃しているはずなのに、誰一人として見た人間がいない。


断言できるが、あの山で自給自足することなんて不可能だ。

そんなこれまで考えもしなかった疑問に困惑しているとき、
俺の父親が帰ってきた。


話を聞いた父はすぐに、

「なんだあの婆さん、まだいたのか……」

初の俺たち以外の目撃者。


父が何人かに電話をかけると、
近所のオッサン連中が2人ほどやってきた。


父を含め3人とも同世代の地元の人間で、
子供の頃よくこの山で遊び、俺たちと同じように、
けんけん婆あに遭遇していたらしい。


なんと"けんけん婆あ"という呼び名は、当時からあったようだ。


懐かしそうに思い出を語る3人だったが……


ここで、山に入る前から黙りがちだった山の所有者のひとが、

「実は……」

と口を開いた。


彼はいわゆる地主様の家系で、彼の祖父の代には、
家に囲われていた妾さんがいたらしい。


しかしあるとき、その女性は事故か何かで片足を失った。


それが原因で彼女が疎ましくなった地主は、
女性を家から追い出して、自分の持っていた山に住まわせたらしい。


それ以降ずっと山に住んでいたらしいが、

「そう言えば死んだというような話も聞かない」と。


ただそれが本当だとすれば、
けんけん婆あは軽く150歳を超えていることになってしまう。


それに例の廃屋も、もとはなんだったのか分からないが、
30年ほど前は山を整備するための道具置きとして使われていて、
その時点ではすでに誰も住んでいなかったと。


さっきまではしゃいでいたオッサン3人組も、
婦人会の人たちも、これを聞いて絶句。


地主さんがぽつりと、

「明日、宮司さんに頼んで御払いして貰うわ」

という言葉で、静かにお開き。


普段気丈な両親も、目に見えて沈んでいました。


それ以降、
私たちはけんけん婆あを見ることはありませんでした。

彼女が何だったのかは、未だに分からず終いです。


はたして150歳を超える老怪だったのか、
それとも何かの霊だったのか。

ただ未だに、あの『かさっかさっ』という
足音を忘れることができません。


今でもあの山で耳を澄ますと、
どこか遠くのほうからこちらに向かって近付いてくる、
片足の足音が聞こえるようで、怖くてなりません。



posted by kowaihanashi6515 at 14:27 | TrackBack(0) | 洒落怖

2018年11月11日

車中泊をやめた理由が怖すぎる…【怖い話】





俺は車中泊が趣味で、

休みの前の日とか適当にブラーっと出掛けて

車中泊をするという、

他人から見たら何だそれっていう行為をしてます。



警察に声をかけられたり、

若い奴らに覗かれたりするので

場所選びに結構悩むのですが。


去年の夏頃、今日はどこで寝ようかなと

ブラブラ走っている時、

山奥に廃墟みたいになってる展望台があって、

そこの駐車場でよくトラックの運ちゃんが

寝てるのを思い出し、

その場所にしようと思い、車を走らせました。



駐車場にはやはりトラックが2台止まっていました。


はしっこに止まっているトラックと距離を置いて

駐車場の真ん中の街灯の下に停めました。



後部座席を倒し、その上に毛布を引いて

眠くなるまで携帯をいじっていましたが、

そのうちウトウトとし始め、眠りにつきました。



しばらくしてパッと目を覚まし、

喉が渇いたので前座席にあったバッグから、

飲み物を取り出そうと起き上がると同時に、

急に後ろの方からコツンみたいな小石がぶつかるような

音がしました。



反射的に後ろを見ると、特に何にもなく、虫?かなと思い、

そのままジュースを飲んで寝ました。



翌朝4時半頃に目が覚め、トイレ行きたいな、

と車から降りました。



古い展望台で、外にトイレはなく、

仕方なく建物の後ろで立ちションをしていると、

トラックのドアをバンと閉める音がしました。



ちょうど立ちションも終え、起きたのかな?

なんて思いながら車に戻ろうとすると、

前からトラックから出てきたであろう、

同じ年頃のメガネの兄ちゃんが

「昨日、寝れなかったんじゃね? 怖かったろ?」

と話しかけて来ました。


俺は何の事かわからず

「ん?何が?」

と返すと

「あれ?気付いてねえの?」

と驚いています。


それからその兄ちゃんが話してくれた事なのですが、

兄ちゃんがトラックでDVDを見ていると、

俺がやってきて駐車場の真ん中に停めた。



普通車が珍しいな、

カップルか?なんて思いながらDVD見てたそうです。



DVDを見終わり寝ようかなと思い、

後部座席に行こうとした時に、

何気なく俺の車を見ると車のボンネットの前に

女が立っていたそうです。



彼女か? 何してんだ?と思いつつよく見て見ると、

ボンネットに手をついて車をおさえる感じで立っていて、

何か気持ち悪いなと思ったそうです。


そのまま、嫌なもん見たなあと思いつつ、

後部座席に移動し寝ようとしたのですが、

妙に気になってまた俺の車を見てみると、

今度は運転席の窓の横に女が移動していて、

またおさえるように窓に手を突き出していたそうです。



うわあ!気持ち悪いなと思い、

一瞬目を離したすきに今度は助手席側に。



これはマズイ! ヤバイ!とゾッとしながらジーッと見ていると、

女が一瞬兄ちゃん側に頭をグイっと動かしたので

あわてて身を屈めたそうです。



しばらくジッと身を屈めたあと、

もういいかな?と見ると女はいなくなっていたそう。


その後は、もう無理と後部座席に移動し寝たそうです。


「本当に見なかった?すげえヤバかったよ」

「そういえば何か変な音したかも…」

「だろ?なあ車見た方がいいって!

 手形とかついてんじゃねえかな」

とか言い出したので、2人で車に行って見てみると

手形は全くなかったのですが、

何とボンネットの先端?がペコッと小さく凹んでいました。


何だこれ、とぼうぜんとしていると、

後部を見ていた兄ちゃんが

「後ろにも何かキズある!」

と言うので見ると、

確かにエンブレムの上に

小石でもぶつけたかのような細いボコボコが。


2人で何これ怖い。


どうしようと話しといると、

もう一台のトラックからおじさんが降りてきて

俺らに歩みより一言

「女の話しだろ?」

と話を聞くと、

おじさんも普通車が来たので珍しいなと思いつつ

ウトウトしてたそう。


しばらくして俺の車を見ると、

女が窓の横に立っていて車の中を覗いてた。


どこから来たんだ?と思い駐車場を見渡したけど、

それらしい車はなく、

ああ、この車に乗ってたのかと思ったそうです。


おじさんは特に不気味とは思わず、

ジーッと見ていたら、突然女がパッと横を向き、

ツカツカともう一台のトラックの方に歩き始めたそうです。


そして、今度はトラックの前方に立ち、

ジーッとフロントガラスを見上げ…

「いやいやいやいや」

ここまで聞いてメガネの兄ちゃんは顔面蒼白。


俺が「え?その人その後は?」

と聞くと

「気持ち悪くなって寝た」

との事でした。


俺は地元だけどそんなの初めて聞いたし、

2人はよく利用してるけど初めて見たそうです。


ちなみにどんな人? って聞いたら

「髪が長くて、 ガリガリの人でスカート履いてる」と。


2人は俺の知り合いじゃないか?

とか言ってきましたが、全く身に覚えもないです。


それから車中泊はしていません。

板金代かかりますし。







posted by kowaihanashi6515 at 00:33 | TrackBack(0) | 洒落怖

2018年11月08日

集落【田舎の怖い話】






もう20年以上前、少年時代の話である



俺は名は寅、友達は雄二と弘樹と仮名をつけておく



あれは小学校六年生の夏休み

俺達は近所の公園で毎日のように集まり、遊んでいた



夕焼け空が真っ赤に染まりだした頃



「そろそろ帰ろうか」と弘樹が言い出す



片親で家に帰っても一人ぼっちの雄二は

「もう少し遊ぼうや」と俺達2人を引き止める



門限に厳しい弘樹は

「ごめんな、また明日遊ぼうや!」と言い帰って行く



弘樹の姿が見えなくなると、決まって雄二は

「あいつ毎回付き合い悪いのー」と愚痴りだす



すっかり暗くなった公園には俺と雄二の2人きり



雄二の話に適当に相槌を打つも、
早く帰らねば俺も親に叱られる



そんな俺の挙動が伝わったのか、
雄二は少しイラついた顔をして


「寅も帰りたいんやろ?かえればいいやんか」

と言い放つ



少しムッとしたが、
何時ものことだと自転車にまたがろうとすると



「俺、こないだ廃屋みつけつたんよねぇ」

雄二が言う



どうせまた引き止めようと
興味を引こうとしてるんだと思い


俺はあえて聞こえないふりをし、
自転車を走らせようとすると



「俺今夜、廃屋に探検しに行ってくるわ〜」

とさっきよりも大きな声で言った




廃屋、探検、興味はあったが、
親に怒られたくなかったので



「雄二、お前もはよ家帰れよ〜」

と言って、家へ帰った



どうせ一人で行く勇気もない癖にとその時は思ってた



家へ帰り、風呂に入り、晩飯を済ませた頃だった、
ジリリリリンと電話がなる


もしもし、と電話に出ると
雄二の母親からであった



「あんたんとこにうちの雄二いっとらんかね!?」



乱暴な言い方に軽くムカッときたが


「雄二君ならまだ公園であそんでるかも」

と言うとガチャっと電話を切られた




雄二の母親にはムッときたが、
雄二が帰宅してないと聞き少し心配だった



雄二は少し悪ガキで、夜遅くまで遊んでいる事が多く、
悪い連中と付き合いがあると噂されていた





夜も十時をまわり、床に就くと遊び疲れか、
すぐに眠ってしまった





翌朝早朝、母親が血相を変えてたたき起こしに来た



「雄二のお母さんから電話がかかって、
 昨日から家に帰ってないってさ!
 ここにいるんじゃないかって怒鳴り散らすんよ〜」



またかよ、と思ったが
一晩も家に帰らないのは初めてだし


本当に昨日言っていた廃屋へ探検しにいって
何かあったんじゃないかと心配になってきた





弘樹に電話をして、事の経緯を話すと、
弘樹の家にも同じ様な電話がかかったらしい



取り合えずいつもの公園で待ち合わせをして、落ち合った



「雄二とはもう付き合うなって母ちゃんに言われて大変だったよ」



弘樹が疲れた顔で言う



「あいつの母ちゃん変わってるよな」

と俺が言うと



弘樹が


「まあ、それも解る気がするわ・・」

と意味深な事を言った



「???解る気がるって??」

俺が聞くと





「あ。なんでもないよ、それより雄二の行きそうな場所探さんと」





そして俺達はよく三人で遊んだ場所を
ぐるぐる回ったが雄二は見つからなかった



一旦公園へ戻り、水を飲み休憩していると

公園の横を雄二の母親が車で通りかかった



俺達に気がついたのか
車のスピードを落としゆっくり通り過ぎていく



雄二が帰ってこなかったせいか、



充血した眼でギロっと俺達を睨みつけ去っていった



心なしか口元がぶつぶつ何かを言っているようにも見えた





「おっかねぇな・・」

弘樹が言った



「・・・・はは・・」





「そういえば寅さぁ昨日俺が先に帰った後、
 雄二なんか言ってなかったんか?」





「ああああああ!!」



アホな俺は廃屋の話を弘樹に言われ思い出した





昨日の会話を弘樹に伝えると



「廃屋かぁ・・多分あそこにあるやつやないかなぁ・・」





弘樹は何か知っている風だった



「弘樹、場所わかるんか?わかるんなら行って見ようや」

そう俺が言うと



「う〜ん・・あんまし行きたくない〜・・」


と弘樹がごねる



煮え切らない弘樹に業を煮やして



「お前、雄二が心配やないんか?はよ行くぞ!」





嫌がる弘樹に案内させ、自転車を漕ぐ事1時間

道路も途中から舗装されてなく、砂利道に変わった





「この集落の先にあるんやけど・・・」



たどり着いた場所は川沿いの小さな集落だった





「ここって・・・もしかして○○地区ってとこ??」





「・・・そうそう」





弘樹が嫌がった理由がわかった



ここは絶対に近づいてはいけないと
親達にいつも言われている地区だった





集落の家屋は半分以上朽ち果てたようなものばかり

歩いている人の身なりも煤け汚れていた





数人の老人がこちらに気がつくと
足を止めてこちらを凝視してくる





その眼はどれも荒んで、
憎しみさえ感じられるほど強い視線





よく見ると、日本の物ではない
小さくボロボロな国旗が風に揺れていた





「弘樹・・例の廃屋ってのはこの地区の中にあるんか?」





「いや、確かこの地区の少し先の山の中だったはず」

と小さく答えた





「そこへ行くにはこの集落の中通らんと行けんのか?」







「・・・・うん」





50メートル先では数人の住民が俺達の事をじっと見ている





恐ろしかったが、友達も心配だ


俺達は腹を決め、
怪しまれない程度の速度で自転車を走らせる





なるべく視線をあわせないよう進んでいく


少し進んでいくと、数人の老人が地べたに横になっていた



自転車で進む俺達に気がつくと、
上体をむくっと起こして、俺達の事を見ている



見ない振りをしながら先へ進む



集落を抜けた辺りで、弘樹の自転車が急に止まった



そして転がり落ちるように道の端へ走りだした



「おい、弘樹どうしたんか!?何してるん!?」



声をかけると弘樹は急に道の端でげーげーと嘔吐した




「大丈夫か??具合が悪くなったんか??」

背中をさすりながら声をかける



すると弘樹が


「寅・・・あそこ・・」



弘樹が涙目で指を差す




弘樹の指差した場所には、
たくさんの頭のない鶏が木に吊るされていた



食べる為に血抜きをしているのか、
地面には真っ赤な血の水溜りが出来ていた



それを見た俺も思わず嘔吐してしまった





慌ててその場を離れ、
少し休憩しようと山に入り人目につかない木陰に
自転車を隠し腰を下ろした





「弘樹よぉ・・廃屋がここにあったとしてもよ、
 雄二の奴一人でこんな場所これるかな?」

と言うと



弘樹は少し俯き、小さな声で


「これるよ」

と言った





「う〜ん、俺なら絶対無理やな。うん、無理だ」





「寅よぉ、お前、知らんのか?」

不意に弘樹が言う





「ん?何を?」

そう聞き返した時だった





数人の男が集落のあった方向から山へ入ってくるのが見えた





「やばい、寅、隠れよう!」





俺達は木陰に身を低くし、様子を伺った





大きなズタ袋を老人が数人で担ぎ、山を上がっていく



老人達はニヤニヤしながら
俺達にはわからない言葉で会話している





「あいつらなんて言ってるんだ??」





「それより寅、あいつら廃屋の方へ行っとるかも・・・」





仕方なく俺達はびくびくしつつも

老人達と距離をとって後をつけた





しばらく進むとバラック小屋のような建物が見えてきた





「寅、あれが例の廃屋だよ」

弘樹が言う





「そういえばずっと気になっとったんやけどさ

 弘樹はなんでここ知ってるん?」

俺がそう聞くと



「ん?ああ、

 お前とは六年になってから仲良うなったよな

 俺は雄二とは三年の頃から友達での

 いっぺんだけ来た事があるんよ」





「はは、お前等俺の知らんとこで色々冒険しとるねぇ」





「冒険っちゅうかの、雄二のだな・・・・・
 う〜ん、やっぱやめとくわ」







「何々??気になるやんか、教えれよ!」





「そのうちわかる事やけん、気にすんな」





そんな会話をしていると、男達は廃屋の中へ入っていった





弘樹に促されゆっくりと廃屋へ近づいていく



物音を立てないように廃屋の裏手にまわった





裏手にまわると、廃屋の中からの声が聞こえてくる



日本語ではない言葉で

大勢の男達が怒号のような声を上げ騒がしい





「寅、こっちに窓がある」



先に進んだ弘樹が手招きしている



近づき煤けたガラス越しに中の様子が少しだけ見える



さっき見かけた老人がいる



部屋の中央へ向き拳を振り上げ何か言っている





「くそぉ、弘樹、肝心な所が見えん・・・」





「う〜ん、何をしとるんやろうか・・

 もうちょっと中の様子が見える場所探すけん、
 寅はここにおってくれ」





そう言って弘樹は身をかがめ廃屋の別の窓を探しに進んだ





時折廃屋の中から大きな声がドッと上がるたびにドキっとする





しばらく覗いていると





「あっ!」

と弘樹の声が聞こえた



一瞬廃屋の中が静かになったが

気付かれなかったのか、またざわざと騒ぎ出した





俺は弘樹の声がした場所へゆっくりと近づく



弘樹は尻餅をつきガクガクと振るえており、涙を流していた



中にいる連中に気付かれない様に小さな声で



「弘樹、どうしたんか?大丈夫か?」


と尋ねると





弘樹はぶんぶんと首を横に振り声を殺し泣いている



震える弘樹の肩をぽんと叩き、廃屋を覗いてみる



先程と同じ様に煤けた硝子窓があり

中を覗いてみると何かを取り囲むように男達が座っていた



どの男達も部屋の中央を見て騒いでいる



ゲラゲラ笑っているものもいれば、
怒鳴り散らすように怒号を上げているものもいる



不気味な光景に鳥肌がぶわっと立った





男達の視線の先には、丸くか困れた柵があり

その中から、羽毛の様なものが舞い上がっている



柵の中がよく見えなかったので

足元にあった切株に乗り背伸びをしてみると

そこには雄二がいた





衣服は脱がされ、口と両腕両足を縛られ

顔には殴られた後があった


木の杭のようなものにくくられており

身動きがとれない状況になっていて
雄二の周りには鶏のようだが鶏より遥かに大きな
鳥が暴れていた





よくみると大きな鳥は脚に短い刃物が縛ってあり

雄二は脇腹の辺りから出血し、痙攣していた





あまりのショックと恐怖に身動きが取れずガタガタ震えていると



正気を取り戻したのか弘樹が俺の手をぐっと引っ張った



「逃げよう」





弘樹に促され、
震える身体を奮い立たせその場から離れた



自転車を隠してある場所まで戻り

少しでも早くこの場を去ろうと俺達は突走った





途中、例の集落を通ったが

皆廃屋へ行っているのかもぬけの殻だった様子





地元まではどんなに飛ばしても1時間近くかかるが

田舎の為、駐在所も少なく、俺達は必死に自転車を走らせた





やっとの思いで地元へ帰り、
俺達は見てきた事をぐしゃぐしゃに泣きながら親達に話した


母親は

「あんた達、あそこへ行ったんか!?
 あんた達死にたいんか!?」

と涙を流しながら怒鳴った





父親が警察へ通報し、少しすると、
数台のパトカーが家の前を走っていく

その中の一台に雄二の母親が乗っているのが見えた



通り過ぎる瞬間、
雄二の母親は俺と弘樹をじっと睨みつけていた



氷の様に冷たい眼で



目の前を通り過ぎても振り返り睨み続けていた



その目は、あの集落で見た目つきにそっくりだった





弘樹を父親の車で送り


「また明日な」

と声をかけると弘樹は少しだけ笑って見せた




弘樹を無事に送り届け家へ帰ると

親戚やばあちゃんまで来て俺は叱られた





そして父親が俺に言った



「寅、お前はまだ子供で難しい事はわからんと思うが聞いてくれ」



俺は黙って頷いた



「今日お前達が言った場所はな、
 日本であって日本じゃねーんだ



 道路も舗装されとらん、電柱も立ってねぇ



 住んどるもんをみたか?

 みんなまともな格好はしとらんかったやろう?



 そんな土地に頑なにいつまでん住んじょる


 そして”こっち側”の人間を遠ざけとるんや



 あの地区にはわしらとは全く違う文化や風習があるんよ



 あの地区の連中からすりゃ、わしらは敵に見えるようや



 わしらはいつだって”こっち側”へ迎え入れる準備はしとる



 学校へもちゃんと通えるし、仕事だってある



 あの地区から”こっち側”へ来て
 普通に生活しとるもんもたくさんおるんよ



 お前の友達の雄二んとこもそうや



 ただ中には出て行ったもんは裏切り者なんて
 捻くれた感情をもつもんもあそこにはおる



 きっと雄二は小さい頃から遊んどった場所やけん



 安心して遊んでたつもりなんやろうけど



 一部の捻くれもんに眼をつけられてしもうたんやろうな





 んで今回、雄二が酷い目にあったのは



 お前達のせいだと雄二の母ちゃんは言いよる



 お前達が遊んでやらんから、余所者扱いするから

 あそこへ行ってしまったと思い込んどるんよ



 考え方が変わっとるっちゅうか、被害妄想っちゅうかの



 捻くれとるんじゃのまぁ寅も弘樹も気にせんでもいい事や



 ただ、子供だけであの土地へ行くことはもう許さんぞ」



それだけ言うと父親は仏間で横になり寝てしまった





俺も昼間の疲れからか布団に入った瞬間寝てしまった





翌日、弘樹といつもの公園で待ち合わせた



昨日の事はお互い言わず、なんとなく一日公園にいた





夕焼け空が真っ赤に染まる頃、俺達は帰路へついた



そして夏休みが終り新学期になり、雄二が転校した事を知った



先生に行き先を聞いたが、家庭の事情だからと教えてもらえなかった





そして、いつの間にか十年の時が経ち

大人になった俺達はあの土地へ行ってみた





そこにはあの朽ち果てた集落はなく県道が走り、
廃屋のあった山にはトンネルが通り街へ出る
主要道路として使われている





あの集落の住人達は、一体何処へいったのだろう


あの日見た荒んだ目は今でもどこかで

”こっち側”を睨みつけているのだろうか・・・








2018年11月07日

分からないほうがいいこともある【田舎の怖い話】






わたしの弟から聞いた本当の話です。

弟の友達のA君の実体験だそうです。


A君が子供の頃、

A君のお兄さんとお母さんの田舎へ

遊びに行きました。

外は晴れていて、

田んぼが緑に生い茂っている頃でした。



せっかくの良い天気なのに、

なぜか2人は外で遊ぶ気がしなくて、

家の中で遊んでいました。


ふと、お兄さんが立ち上がり、

窓のところへ行きました。

A君も続いて窓へ進みました。



お兄さんの視線の方向を追いかけてみると、

人が見えました。

真っ白な服を着た人が1人立っています。

(男なのか女なのか、その窓からの距離では

 よく分からなかったそうです)

あんな所で何をしているのかなと思い、

続けて見ると、

その白い服の人は、

くねくねと動き始めました。


踊りかな?

そう思ったのもつかの間、

その白い人は不自然な方向に体を曲げるのです。


とても人間とは思えない

間接の曲げ方をするそうです。

くねくねくねくねと。

A君は気味が悪くなり、

お兄さんに話しかけました。


「ねえ。あれ、何だろ?お兄ちゃん、見える?」

すると、お兄さんも

「分からない」

と答えたそうです。

ですが答えた直後、

お兄さんはあの白い人が

何なのか分かったようです。


「お兄ちゃん、分かったの?教えて?」

とA君が、聞いたのですが、


お兄さんは

「分かった。でも、分からない方がいい」

と、答えてくれませんでした。


あれは一体なんだったのでしょうか?

今でもA君は分からないそうです。


「お兄さんにもう一度聞けばいいじゃない?」

と、私は弟に言ってみました。


これだけでは私も何だか消化不良ですから。

すると弟がこう言ったのです。

「A君のお兄さん、

 今、知的障害になっちゃってるんだよ」







おまえだれ?【怖い話】





築平成元年のアパートにすんでます。


ロフト付の6畳キッチン付で

快適とまでは言わないが普通に暮らせるアパート。


入居したのはもう1年ぐらい前だが、

ここ半年ぐらい前からロフトが怖い。


夜仕事から帰って来て部屋に入ると、

電気をつける前に目に入る位置にロフトがある。


この暗いロフトから誰かが

こちら見ているような気配がする事が。


最初は疲れている事からくるものだろうと、

余り考えないようにしていた。


それが仇になるような事が昨日起きてしまった。


ロフトには寝床が敷いてあり、

寝る時になると今度はキッチンに通じる玄関が目に入る。


寝るときいつも意識せず玄関に目を配るのだが、

その時もたまに視線を感じる時が。


そういう時、

昂ぶった精神を落ち着けるため

読書して寝るようにしている。



いつも部屋の灯りを消し、

枕もとのスタンドライトを点けて本を読む。



すると妙な感じがすることに気づいた。

灯りを消しているロフト下部屋から

なにか音が聞こえるのだ。


じっと耳を澄ます。


暗い階下から聞こえる音、それは呼吸音だった。

気がついた瞬間私はギョッとしてしまい動けなくなった。

誰かいるのか…と思うと鼓動が早くなる。


重々しい空気が私を包んだ。

視界に入るのは薄暗い室内。

しかし確かにその音は響いてくる。


ロフトの下、丁度死角にあたる部分から。

何者かがロフト沿いの壁にいて様子を伺っている。


そんな様子が想像できてしまい、

私はさらに縮こまってしまった。



暫く、膠着状態のようになり何も出来なかった。

すると呼吸音が唐突に止んだ。

私はそれが解放の兆しと思い、ホッとした。


その瞬間。


ロフトへ昇るための梯子から軋む音が。

丁度人一人が上がってくる感じの音だ。

またも虚を突かれた形になった私は動けなくなった。



何か、いったい何でこんな事がおこるのかと

頭の中がくちゃぐちゃになった。



私はせめてなにが昇ってこようと

対処しようと気がまえることにした。



音は続く。


もう少しで何かが見えてくる筈。


時間にして数秒。

だが、何時間にも感じられた。

しかし、身構えた私の視界には何も見えてこない。


音が止んだ。


もうすでにロフトに上がっている。


これは一体何なんだ。

そう思った瞬間だった。

スタンドライトが消えた。

一瞬で真っ暗闇になる。



その時。


「おまえだれ?」

と耳元で声がした。


気がついたら朝だった。

どうやら気絶してしまったらしい。


訳はわからないが体験した事追求する気になれない。

それをするともっと大きな事になる気がするからだ。

私は今、この部屋を借り続けるかどうか悩んでいる。


またあんな事があったら耐えられそうに無い。







posted by kowaihanashi6515 at 01:36 | TrackBack(0) | 洒落怖

海を見たらあかん日【ほんのり怖い話】





9月にうちのばあちゃんの姉(おおばあ、って呼んでた)
が亡くなって、

一家揃って泊まりで通夜と葬式に行ってきた。



実質、今生きてる親族の中では、おおばあが最年長ってのと、

うちの一族は何故か女性権限が強いってのもあって、

葬式には結構遠縁の親戚も集まった。





親戚に自分と一個違いの
シュウちゃん(男)って子がいたんだけど


親戚の中で自分が一緒に遊べるような仲だったのは、

このシュウちゃんだけだった。



会えるとしたら実に15年振りぐらい。



でも通夜にはシュウちゃんの親と姉だけが来てて、

期待してたシュウちゃんの姿はなかった。




この時ふと、
小学生の頃に同じように親戚の葬式(確かおおばあの旦那さん)
があって葬式が終わってからシュウちゃんと一緒に遊んでて、
怖い目にあったのを思い出した。





うちの父方の家系はちょっと変わってて、

家督を長男じゃなくて長女が継いでるらしい

父方の親族はおおばあもみんな日本海側の地域いるんだけど、
うちは親父は三男ってのもあって、地元では暮らさず、
大阪の方まで出てきてて、

そういった一族の風習とは無縁シュウちゃんの家も
うちと同じように地元を離れた家みたいで、神奈川在住。




夏休みは毎年、
お盆の少し前ぐらいからおおばあの家に集まって、

法事だの地元の祭に行ったりだの、親族で揃って過ごす。



うちとかシュウちゃんの家なんかは、
他の親族と違ってかなり遠方から来ることになるので、
おおばあの家で何泊かすることになる。




おおばあの本宅が海に近い
(道路挟んで少し向こうに海が見えてる)から、

朝から夕方までシュウちゃんと海に遊びに行ってた



俺が小学校2、3年の冬に、おおばあの家で葬式があって
(死んだのは旦那さんのはず)、



その時もうちは泊まりがけで通夜と葬式に出席。




シュウちゃんところも同じように泊まりで来てた。



元々俺は脳天気な人間なんだけど
その頃は輪をかけて何も考えてなくて、


葬式云々よりもシュウちゃんと
遊べるってことしか頭になかったw




朝出発して、おおばあの家に着いて、
ご飯食べてしばらくしてから通夜


この辺は何かひたすら退屈だったことしか覚えてない。


全然遊べないし。

泊まる時は「離れ」が裏にあって、
そこに寝泊まりするんだけど、


その時は他に来てた親族がほとんど泊まるから離れが満室。



自分たちは本宅に泊まった



晩飯終わってから、



「何でこんな日に亡くなるかねえ」



とか親戚がボソっと口にしたのを覚えてる。





翌朝起きたら(大分早かった。6時とか)、

おおばあとかばあちゃん、他の親戚の人がバタバタしてて


家の前に小さい籠?何か木で編んだ
それっぽいものをぶら下げて、


それに変な紙の短冊?
みたいなものを取り付けたりしてた。




ドアや窓のあるところ全部に吊してて、
紐一本でぶら下がってるから、

ついつい気になって手で叩いて遊んでたら、

親父に思いっきり頭殴られた

そのうち雨戸(木戸って言うのかな)とか
全部閉めはじめて、


雨戸の無い台所とかは
大きな和紙みたいなのを窓枠に画鋲でとめてた



人が死んだ時の風習かなあ、ってのが最初の感想だった。




朝も早いうちから告別式がはじまって、
途中はよく覚えてないけど、

昼少し過ぎた辺りにはほとんど終わってた




薄情な子供かもしれないけど、

これ終わったら遊べるってことしか頭になかったなあ





途中、昼飯食べたんだけど、
みんなあんまりしゃべらなかったのを覚えてる


何時頃か忘れたけど、
結構早いうちに他の親戚は車で帰っていって、

本宅にはうちの家族とシュウちゃんの家族だけ残った。




夏みたいに親戚みんなで
夜までにぎやかな食事ってのを想像してたんだけど、


シュウちゃんとちょっと喋ってるだけで
怒られたのが記憶に残ってる。




家の中でシュウちゃんと遊んでたら

「静かにせえ」

って怒られた



夕方にいつも見てるテレビ番組が見たくて

「テレビ見たい」

って言っても怒られた



「とにかく静かにしとけえ」

って言われた




今思ったら、親もおおばあもばあちゃんも喋ってなかった


あんまりにも暇だからシュウちゃんと話して

「海見にいこう」

ってことになった




玄関で靴をはいてたら、
ばあちゃんが血相変えて走ってきて頭叩かれて、
服掴んで食堂の方まで引っ張っていかれた。




食堂にシュウちゃんのお父さんがいて、
ばあちゃんと二人で



「今日は絶対に出たちゃいかん」



「二階にいとき」



って真剣な顔して言われた。



そのままほとんど喋ることなく、

シュウちゃんとオセロか何かして遊んでて、

気が付いたら2階で寝かされた



どれぐらい寝たのか分からないけど、
寒くて起きたのを覚えてる




2階から1階に行く時に、魚臭さのある匂いがした
(釣場とかよりももうちょっと変な潮臭さ)



時計を見に居間を覗いたら、
おおばあとかうちの親が新聞読んだりしてて、
誰も喋ってなかった




何か妙に気持ち悪くて、トイレで用を足した後、

2階に戻ろうとしたら廊下でシュウちゃんと出くわした。





「あんね、夜に外に誰か来るんだって」



とシュウちゃん。




おおばあ達が今朝、
何かそれらしいことを口にしていたらしい。




それをシュウちゃんが聞いたようだ。



ちょっと確かめてみたいけど、
2階も雨戸が閉まってて外が見えない。



「便所の窓開くんちゃうかな」



さっきトイレの小窓がすりガラスで、
雨戸がなかったのを思い出した。




便所は家の端で海側(道路側)に窓があるから、

二人で見に行こうと言うことになった。





冬のトイレは半端じゃなく寒いんだけど、

窓の一つ向こうに何かがいるという思いこみから、


秘密基地に籠もるような、奇妙な興奮と、
同時に背筋に来るような寒気を覚えた。




「ほんまにおるん?(本当にいるの?)」



小声でシュウちゃんに話しかけ、
シュウちゃんもヒソヒソ声で



「いるって、おばあが言ってたもん」



トイレの小窓は位置が高く、
小学生の自分の背丈では覗けない。




便器の給水パイプが走ってるから、
そこに足を乗せて窓を覗く形になる

最初は自分が外を見ることになった。




音を立てないように静かに窓をずらして、外を見た。



軒の下で籠が揺れてる。



視界の端、道路から家まで、何か長いものが伸びていた。





よく分からないけど、
その長いもののこちら側の先端が、

少しずつこっちに向かってきている。



10秒ほど見てから、
何か無性に恐ろしくなって身震いして窓を閉じた。




「誰かいた?」



「よく分からんけど、何かおった」



「僕も見る」



「何かこっちに来てるみたいやし、逃げようや」




多分、自分は半泣きだったと思う




寒さと、得体の知れない怖さで

今すぐ大声で叫んで逃げたかった。





「な、もどろ?」



トイレのドアを開けて、シュウちゃんの手を引っ張った



「僕も見る。ちょっとだけ。ほんのちょっとだけだから!」



シュウちゃんが自分の手を振り切って戻り、
給水パイプに足を乗せた



窓をずらしくて覗き込んだシュウちゃんは、

しばらくしても外を覗き込んだまま動かなかった



「なあ、もうええやろ?もどろうや」



「**くん、これ、」



言いかけて途中で止まったシュウちゃんが、
外を覗き込んだまま



「ヒッ ヒッ、」



と引きつったような声を出した



何がなんだか分からなくなってオロオロしてると、
自分の後ろで物音がした。



「お前ら何してる…!」



シュウちゃんのお父さんがものすごい形相で後ろに立ってた





言い訳どころか、一言も喋る前に、
自分はシュウちゃんのお父さんに襟を掴まれ

便所の外、廊下に放り出された。




一呼吸おいてシュウちゃんも廊下に放り出された

その後、トイレのドアが叩きつけるように閉められた。



音を聞きつけたうちの親と、おおばあが来た



「どあほう!」、


親父に張り手で殴られ、おおばあが掴みかかってきた




「**(自分の名前)、お前見たんかい?見たんかい!?」



怒ってると思ったけど、

おおばあは泣きそうな顔をしてた気がする。





何一つ分からないまま、周りの大人達の剣幕に、
どんどん怖くなっていった。



「外見たけど、何か暗くてよく分からんかったから、
 すぐ見るのやめてん」



答えた自分に、おおばあは

「本当にか?顔見てないんか!?」

と怒鳴り、



泣きながら自分は頷いた。



そのやり取りの後ろで、親父と後から来たばあちゃんが

トイレの前に大きな荷物を置いて塞いでた。



シュウちゃんのお父さんが

「シュウジ!お前は!?」

と肩を揺すった。




自分も心配でシュウちゃんの方を見た。




シュウちゃんは笑ってた。


「ヒッ ヒッ、」

としゃっくりのような声だけど、

顔は笑ってるような泣いてるような、突っ張った表情



「シュウジー!シュウジー!」



とお父さんが揺さぶったり呼びかけたりしても
反応は変わらなかった。



一瞬、みんな言葉に詰まって、

薄暗い廊下で見たその光景は歯の根が合わないほど怖かった。



シュウちゃんが服を脱がされて、
奥の仏間の方に連れていかれた。



おおばあはどこかに電話している。


居間でシュウちゃんのお母さんと姉が青い顔をしていた。




電話から戻ってきたおおばあが



「シュウジは夜が明けたらすぐに
「とう**さん(**は聞き取れなかった)」

 とこに連れてくで!」



と、まくし立てて、
シュウちゃんの親はひたすら頷いてるだけだった。





自分はばあちゃんと親に腕を掴まれ、2階に連れていかれた。



やっぱり服を脱がされて、すぐに着替えさせられ、

敷いてあった布団の中に放り込まれた。



「今日はこの部屋から出たらいかんで」



そう言い残して出て行ったばあちゃん。



閉められた襖の向こうから、
何か短いお経のようなものが聞こえた。



その日は、親が付き添って一晩過ごした。




明かりを消すのが怖くて、
布団をかぶったまま親の足にしがみついて震えてた。



手足だけが異様に寒かった。





翌朝、ばあちゃんが迎えに来て、
1階に降りた時にはシュウちゃんはいなかった



「シュウジは熱が出たから病院にいった」



とだけ聞かされた




部屋を出る時に見たんだけど、
昨日玄関や窓にぶら下げてあった籠みたいなものが

自分の寝てた部屋の前にもぶら下げてあった。



朝ご飯食べてる時に、おおばあから

「お前ら本当に馬鹿なことをしたよ」

みたいなことを言われた



親は帰り支度を済ませてたみたいで、
ご飯を食べてすぐに帰ることになった



おおばあ、ばあちゃんに謝るのが、
挨拶みたいな形で家を出た



家に帰った日の夜、熱が出て次の日に学校を休んだ。



ここまでが子供の頃の話。





翌年の以降、
自分はおおばあの家には連れていって貰えなかった



中学2年の夏に一度だけおおばあの家に行ったが、

その時も親戚が集まってたけど、シュウちゃんの姿はなく



「シュウジ、塾の夏期講習が休めなくてねえ」



と、シュウちゃんのお母さんが言ってた。




でも今年9月のおおばあの葬式の時に、他の親戚が



「シュウジくん、やっぱり変になってしまったみたいよ」



と言ってたのを聞いた




あのときシュウちゃんが何を見たのかは分からないし、

自分が何を見たのかははっきり分かってない



親父にあのときの話を聞いたら



「海を見たらあかん日があるんや」



としか言ってくれなかった







2018年11月04日

神社で不思議な少年に出会った【神様・神社系の怖い話】





私はいわゆる「見える人」だ。



といっても

「見える」「会話する」

ぐらいで他に特別な事が出来るわけではない。


例えば事故現場にボケっと突っ立つ、
どことなく色の薄い青年。

私と目が合うと照れくさそうに目をそらす。



20余年こんな自分と付き合っていて、

生きている人間と同じくらいの「何か」に

引き留められている色の薄い(元)人を見てきたが、

彼らがこちらに害を加えようとした事はほとんどない。




ある人は何かを考えこんでいるような。

またある人は虚空を睨むように、その場に留まっている。

自由自在に移動しているような奴は本当に極稀である。




正直、オカルト好きな私にとって

この体質は非常にありがたい。

ラッキーと思っているくらいだ。




これまで「オカルト好き」と「見える」のお陰で

色んな体験をしてきたが、

私は私の体質が生まれつきのモノなのかどうか知らない。






記憶に残る一番幼い頃の話をしようと思う。




私の実家は近江で神社をしている。


店でも開いているような口ぶりだが、

父、祖父、曾祖父・・・かれこれ300年は続いている

それなりの神社だ。




幼稚園に行くか行かないかぐらいの時分。

毎日境内を走り回っていた私はある日、

社務所の裏手にある小山にこれまた小さな池を発見した。




とても水が透き通っていて1m弱の底がとても良く見えた。

脇には当時の私の背丈をゆうに超える岩がある。




私はその岩によじ登ってはすべり降り、

よじ登ってはすべり降りるという何が面白いか

よくわからん遊びに夢中になっていた。




何回目かの着地後、不意に気がついた。


地面を見つめる私の視界に、ぞ

うりを履いた小さな足があった。



顔を上げると前方に浅葱色(あさぎいろ)の

変な着物(じんべいみたいな服)を着た

私より少し大きいくらいの男の子が立っている。




私が何をしているのか。


さも興味有り気といった表情でじっと私を見つめている。




中性的でとても奇麗な顔。

私は参拝にきた人の子供かな、ぐらいにしか思わず、

構わずまたあの儀式の様な謎の遊びを再開した。




すると男の子は何も言わず私の真似をする様に、

岩を登っては降り、登っては降りをやり始めた。




当初私は自分が考案した

最高の遊びを真似されたと憤慨しましたが、

まぁ子供というのは得てして

誰とでもすぐに仲良くなるもので。




男の子は名前を「りゅうじ」といった。

私は彼を「りゅうちゃん」と呼んで

ほぼ毎日小山で遊んでいた。




りゅうちゃんは虫取り名人であり、虫博士でもあった。


ナナフシを見つけたのは、

後にも先にもりゅうちゃんと遊んでいた時だけだった。




この頃、

父に私は小山で遊ぶ時は

池に近づくなと言われていた。


当たり前だ。

小さい子が池の周囲で遊ぶなんて、

こんな危険な事はない。




ある日いつものようにりゅうちゃんと

小山で遊んでいた時、

池の底にとても奇麗な石を見つけた私は、

それを取ろうと池に腕をつっこんだ。




もう少しで取れそう。

そんな思いがきっと油断を招いた。

重心がすっかり前にいった私の体は、

池の淵をずりずりと滑り落ちてしまった。




もう訳がわからなかった。

突然奪われた酸素、上下がわからない。

どっちが上なのか。息を吸いたい。

もがく私の腕を誰かが力強くつかみ、そして引き上げる。




助けてくれたのはりゅうちゃんだったが、

今考えれば幼い私と、

そう年頃も変わらない男の子が

水の中から人一人を引き上げるなんてありえない。




当然ながら当時の私にそこまでの思考力はなかった。

溺れた恐怖にただただ泣きじゃくりながら

そのまま家路についた。




ぼたぼたと水を滴らして

泣きじゃくる私に母は仰天し、

池に落ちたこと、

近所の男の子に助けてもらった事を

告白した私にきついお灸を据えた。




母に腕を引っ張られ、たどり着いた先は納屋。

私はあの薄暗さが嫌で普段から納屋には近づかなかった。




そんなところに一人放り込まれた

私の恐怖といったらそれはもう、

今でも当時の私に同情するくらいだ。




暗い納屋で一人しくしく泣いていると

誰かが入ってくる気配があった。


すわお化けか何かかと、

恐怖に顔面を強張らせたがすぐにその表情は緩んだ。

りゅうちゃんだ。




りゅうちゃんは、

ひくりひくりとしゃくり上げる

私の横で静かに寄り添ってくれた。




すっかり心が丈夫になった私は、

母が呼びかけてくるまでしばらくの間

すっかり寝こけていた。


すーすーと寝息を立てる私を見て母は、

この子にはどんなお灸もきっと効かないと感じたそうだ。




この頃から両親は「りゅうちゃん」の存在を知る。

近所の遊び相手。そんな認識だったそうだ。


幼稚園へ通い始めても、小学校へ上がってからも、

私はほぼ毎日りゅうちゃんと遊んだ。




りゅうちゃんが同じ小学校にいるのかどうか、

疑問は感じていたがあまり気にしていなかった。




私が8歳になるかならないかくらいだったと思う。


8歳になる(もしくはなった)と言って、

はしゃぐ私にりゅうちゃんは、

黄色い果物のような物をくれた。




私たちはその果物を池で洗い、二人で仲良く食べた。




なんだかちょっと酸っぱくて

美味しくなかった記憶がある。


私は家に帰った後、

夕食中両親にその事を自慢げに話した。




先のお池転落以来、

池に近づくと怒られると思ったので

もちろん池で洗った果物である事は伏せた。




両親も最初はニコニコと話を聞いてくれていたが、

私があまったその果物を食卓に持ってきたとたん、

両親の、特に父の顔色が真っ青になった。




まず、その果物はドロドロに腐ってしまっていた。


昼間はあんなにみずみずしかった果物が

ゼリー状になっていたのだ。




父が果物を睨みつけながら

強い口調で私に問いただした。


池で洗ったとゲロった私を父は抱きかかえ、

もつれる足を何とか交互に動かし祖父の部屋へ滑り込む。




私が〜〜様に魅入られた(何て言ってたかわからないw)




キヌ(?)を喰うてしまっているようだ、

と父が叫ぶと祖父は目を見開き、


​放心といった様子で私を見つめていた。​




神社の近くで農家をしている

おじさんが家に飛び込んできて、

玄関で何やら騒いでいた。


あわてている様子だった。


母が対応し、すぐに父と祖父が玄関へ向かった。




何やら訳が分からない喧騒の中、

ふと縁側に目をやるとりゅうちゃんが立っていた。


いつも通りの奇麗な顔。


だが一点、いつもと違う

背丈ほど長くて白い髪の毛。


必ず迎えに行くから待っててくれ。


りゅうちゃんが私にそう言うので、うん、と返す。




それはいつ?

言葉になるかならないかくらいのタイミングで

私の視界は急に奪われた。


祖父が麻布のような物で私の全身を覆ったのだ。




私はそのまま祖父に抱きかかえられ、

どこかに連れて行かれ(恐らく本殿)

生ぬるい酒のような液体を、

麻布の上からかけられて車に乗せられ、

そのまま町を出て行った。




しばらくゴトゴトと揺られていると

車は緩やかに止まった。


布の口が解かれ、

父と母が不安そうな顔で私を見ていた。




何がなんだかわからない私に母は、

もう二度と家には帰れない事。


父、祖父と離れ、

母方の祖父母の家で母と暮らす事を告げられた。




わかったと素直に返事した私を

両親は呆けた顔で見ていたが、

私は大して気に留めなかった。



父や祖父と離れるのは寂しいが、

会いたいと言えばむこうから来てくれる。




なにより、

りゅうちゃんが迎えに行くと言ったのだから

待っていればいい。


そんな心境で私は古都の住民になった。




色んな物が「見える」ようになったのも

その辺りからだと思っている。




いや、単にそれまでは限られた範囲の中でしか

生活していなかったのもあって、

たまたま遭遇してこなかっただけかも知れない。




でも私はりゅうちゃんがくれたあの果物のせいだと、

今でも思っている。





2018年11月02日

森守りさま「どうにもならん。可哀相だが諦めておくれ」【山・森・田舎・集落】【怖い話】





2ヶ月ほど前の出来事なのだが、

数年後が心配になる話。



俺の田舎は四国。


詳しくは言えないが、高知県の山深い小さな集落だ。



田舎と言っても祖母の故郷であって、

親父の代からはずっと関西暮らし。


親類縁者もほとんどが村を出ていた為、

長らく疎遠。



俺が小さい頃に一度行ったっきりで、

足の悪い祖母は20年は帰ってもいないし、

取り立てて連絡を取り合うわけでもなし。



全くと言っていいほど関わりがなかった。



成長した俺は車の免許を取り、

ボロいデミオで大阪の街を乗り回していたのだが、

ある日どこぞの営業バンが横っ腹に突っ込んで来て、

あえなく廃車となってしまった。



貧乏な俺は泣く泣く車生活を断念しようとしていたところに、

田舎から連絡が入った。



本当に偶然で、

近況報告のような形で電話をしてきたらしい。



電話に出たのは親父だが、

俺が事故で車を失った話をしたところ、


「車を一台 処分するところだった。

なんならタダでやるけど 要らないか?」

と言ってきたんだそうだ。



勝手に話を進めて、俺が帰宅した時に

「新しい車が来るぞ!」

と親父が言うもんだからビックリした。



元々の所有者の大叔父が歳食って、

狭い山道の運転は危なっかしいとの理由で、

後日に陸送で車が届けられた。



デミオより遥かにこちらの方がボロい。

やって来たのは古い71マークUだった。


それでも車好きな俺は逆に大喜びし、

ホイールを入れたり、程良く車高を落としたりして、

自分の赴くままに遊んだ。



俺はこのマークUをとても気に入り、

通勤も遊びも全てこれで行った。


その状態で2年が過ぎた。



本題はここからである。


元々の所有者だった大叔父が死んだ。



連絡は来たのだが、


「一応連絡は寄越しました」


という雰囲気で、死因を話そうともしないし、

お通夜やお葬式のことを聞いても終始茶を濁す感じで、

そのまま電話は切れたそう。



久々に帰ろうかと話も出たのだが、

前述の通り祖母は足も悪いし、

両親も専門職でなかなか都合もつかない。



もとより深い関わりもなかったし電話も変だったので、

その場はお流れになったのだが、

ちょうど俺が色々あって退職するかしないかの時期で

暇があったので、これも何かのタイミングかと、

俺が一人で高知に帰る運びとなった。



早速、愛車のマークUに乗り込み、高速を飛ばす。



夜明けぐらいには着けそうだったが、

村に続く山道で深い霧に囲まれ、

にっちもさっちもいかなくなってしまった。


多少の霧どころではない。


かなりの濃霧で、前も横も全く見えない。



ライトがキラキラ反射して、とても眩しい。


仕方なく車を停め、タバコに火をつけ窓を少し開ける。



鬱蒼と茂る森の中、離合も出来ない狭い道で、

暗闇と霧に巻かれているのがふっと怖くなった。


カーステレオの音量を絞る。

何の音も聞こえない。


いつも人と車で溢れる大阪とは違い、ここは本当に静かだ。


マークUのエンジン音のみが響く。



「ア・・・・・」


何か聞こえる。


なんだ?



「ア・・・・・アム・・・・・」


なんだ、何の音だ?


急に不可解な、

子供のような高い声がどこからともなく聞こえてきた。



カーステレオの音量をさらに絞り、

少しだけ開いた窓に耳をそばだてる。



「ア・・・モ・・・ア・・・」


声が近付いて来ている。

尚も霧は深い。


急激に怖くなり、窓を閉めようとした。



「みつけた」


一瞬、身体が強張った。


なんだ、今の声?!


左の耳元で聞こえた。


外ではない。車内に何かいる。



「ア・・ア・・・ア・・・・」


子供の声色だ。

はっきりと聞こえる。

左だ。車の中だ。



「アモ・・アム・・アモ・・」


なんだ、何を言っているんだ。


前を向いたまま、前方の霧から目を逸らせない。



曲面のワイドミラーを覗けば、

間違いなく声の主は見える。


見えてしまう。


ヤバイ。見たくない。


「・・・アモ」


左耳のすぐそばで聞こえ、俺は気を失った。



「おーい、大丈夫かー」


車外から、

知らないおっさんに呼び掛けられて目を覚ました。


時計を見ると朝8時半。



とうに夜は明け、霧も嘘のように晴れていた。


どうやら、俺の車が邪魔で後続車が通れないようだった。



「大丈夫です、すぐ行きますので・・・ すみません」


そう言って、アクセルを踏み込む。


明るい車内には、もちろん何もいない。


夢でも見たのかな。


何を言っていたのかさっぱり意味が分からなかったし・・・。



ただ、根元まで燃え尽きた吸殻が

フロアに転がっているのを見ると、

夢とは思えなかった。



到着した俺を、大叔母たちは快く出迎えてくれた。


電話で聞いていた雰囲気とはうってかわってよく喋る。


大叔父の葬式が済んだばかりとは思えない元気っぷりだった。


とりあえず線香をあげ、

茶をいれていただき会話に華を咲かせる。



「道、狭かったでしょう。

 朝には着くって聞いてて全然来ないもんだから

 崖から落ちちゃったかと 思ったわ」


「いやぁ、それがですねぇ、変な体験しちゃいまして」


今朝の出来事を話してみたが、

途中から不安になってきた。


ニコニコしていた大叔母たちの表情が、

目に見えるように曇っていったからだ。



「モリモリさまだ・・・」


「まさか・・・ じいさんが死んで終わったはずじゃ・・・」


モリモリ?なんじゃそりゃ、ギャグか?



「・・・あんた、もう帰り。

 帰ったらすぐ車は 処分しなさい」


何だって?


このあいだ車高調整を入れたばっかりなのに

何を言っているんだ!


それに来たばっかりで帰れだなんて・・・。


どういうことか理由を問いただすと、

大叔母たちは青白い顔で色々と説明してくれた。



どうやら、俺はモリモリさまに目をつけられたらしい。


モリモリとは、森守りと書く。


モリモリさまはその名の通り、

その集落一帯の森の守り神で、

モリモリさまのおかげで山の恵みには事欠かず、

山肌にへばり付くこの集落にも大きな災害は

起こらずに済んでいる。



但し、その分よく祟るそうで、

目をつけられたら最後、魂を抜かれるそうだ。



魂は未来永劫モリモリさまに囚われ、

森の肥やしとして消費される。



そういったサイクルで、

不定期だが大体20〜30年に一人は、

地元の者が被害に遭うらしい。


・・・と言っても、


無差別に生贄のようなことになるわけではない。



モリモリさまは森を荒らす不浄なものを嫌うらしく、

それに対して呪いをかける。



その対象は獣であったり人であったりと様々だが、

余計なことをした者に姿を見せ、

子供のような声で呪詛の言葉をかける。



そして、姿を見た者は3年と経たずに

取り殺されてしまう。


(おそらく、アムアモと唸っていたのが呪詛の言葉だろう)


流れとしては、

山に対し不利益なものをもたらす人間に目をつけ、

呪いという名の魂の受け取り予約をする。



じわじわと魂を吸い出していき、

完全に魂を手に入れた後は、

それを燃料として森の育成に力を注ぐ。


そういう存在なのだそうだ。



今回の場合、

大叔父が2年前に目をつけられたらしい。


それも、あのマークUに乗っている時に。



モリモリさまを迷信としか思っていなかった大叔父は、

山に不法投棄している最中に姿を見たそうだ。


慌てて車を走らせ逃げたそうだが、

ここ最近は毎晩のようにモリモリさまが

夢枕に立つと言っており、

ある日に大叔母が朝起こしに行くと

心臓発作で死んでいた。



だが、大叔父だけでなく、おそらく車も対象になっていて、

それに乗って山を通った俺も祟られてしまった。



・・・というのが

大叔母たちの説明と見解である。



そんな荒唐無稽な話を信じられるはずもなかったが、

今朝の出来事を考えると、

自然と身体が震え出すのが分かった。



何より、大叔母たちの顔が真剣そのものだったのだ。



大叔母がどこかに電話をかけ、白い服を着た老婆が現れた。



聞くところ、その老婆は村一番の年長者で事情通らしいが、

その老婆も大叔母たちと同じような見解だった。



「どうにもならん。 可哀相だが諦めておくれ」


そう言い残し、さっさと帰って行った。



俺が来た時の明るい雰囲気はどこへやら、

すっかり重苦しい空気が漂っていた。



「すまない。お父さんが 連れていかれたから

 しばらくは 大丈夫やと 思ってたんやが・・・」


すまない、すまないと、

みんながしきりに謝っていた。


勝手に来たのは俺だし、

怖いからそんなに頭を下げるのはやめて欲しかった。



大叔父が車を手放したのは歳がうんぬんではなく、

単純に怖かったのであろう。



そんな車を寄越した大叔父にムカっとしたが、

もう死んでいるのでどうしようもない。



急にこんな話を捲くし立てられても

頭が混乱してほとほと困ったが、

呪詛の言葉をかけられた以上は

どうしようもないそうなので、

俺は日の明るいうちに帰ることになった。



何せ、よそ者が出会ってしまった話は

聞いたことがないそうで、

姿を見ていない今のうちに関西へ帰り、

車を捨ててしまえばモリモリさまも手が出せないのでは、

という淡い期待もあった。



どうやら、姿を見ていないというのは幸いしているらしい。


大叔母の車に先導されて市内まで出ると、

そこで別れて俺は一目散に関西へ帰った。



「二度と来ちゃいかん。

 そしてこの事は早う忘れなさい」


大叔母は真顔でそう言った。



帰った後、すぐに71マークUは処分し、

最近になって新しく100系マークUを購入した。


俺はマークUが好きなんだな、きっと。


この出来事、信じているかと言われたら、

7割ぐらいは信じていない。


家族にも話してみたし、

親父は直接あちらと電話もしたそうだが、

それでも信じていないというのか、

イマイチ理解できない様子だ。



肝心の祖母はボケてきて、どうにもこうにも・・・。


ただ気がかりなのは、村を出る道すがら、

山道で前を走る大叔母の車の上に乗っかり、

ずっと俺を見ていた子供の存在だ。



あれが多分、モリモリさまなんだろう。







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