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2019年07月15日

『つばめ』を詠む
【樋口一葉】十三歳の歌

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いづこにか しるしの糸はつけぬらむ

年々来鳴く つばくらめかな




(いずこにか しるしのいとはつけぬらん
としどしきなく つばくらめかな)


『どこに目印になる糸をつけたのかしら
毎年毎年つばめが来て鳴いている』




この歌は、樋口一葉が十三の年に詠んだものです

毎年春になると、必ず同じ場所へやって来ては巣を作るつばめを見て、「どこかに目印になる糸でもつけてるのかな?」と、優しくも面白い想像をしている歌です

ちょうど今、自分の住んでいる町へつばめがやって来ていて、巣を作り、子を育てている姿を毎日のように楽しく静かに観察しているところですが、この歌を知ってからというもの、つばめの巣を見つける度に「どこかに目印の糸あるかな?」と、そーっと巣を覗いては、十三歳の『一葉』を頭に浮かべています

こんな風に、色々の事に想像を巡らせていくのは、普段何気なく見る景色を、全く違ったものにも変えてしまうので、想像遊びを意識した生活というのも、面白く生きていくための一種の知恵のような気にさえ感じます


この歌を詠んでいた十三歳の時には、すでに『許嫁者(いいなずけ)』がいた一葉。その波乱に満ちた人生は、今を生きる人達に『自分と向き合う』事の大切さを、改めて教えてくれるものだと思わせてくれます
(許嫁者・・親が結婚を認めた間柄の人「婚約者」)

慎ましくも、自分というものをしっかり持ち、強く生きた女性

お札の顔、女流小説家、また四千首余りの歌を残した歌人でもあるその女性の生涯を、優れた名著『樋口一葉ものがたり(日野多香子作○山本典子絵)』を元に、次回より少しだけ紹介していきたいと思います



参考引用資料
『和歌ものがたり』佐佐木信綱著
さ・え・ら書房

『樋口一葉ものがたり』
(日野多香子作・山本典子絵)
教育出版センター

画像
photographer『Joachim_Marian_Winkler
by pixabay















posted by KOREIIYO at 13:13| 樋口一葉

2019年08月12日

『一廉の者になる』【樋口一葉】(幼少期)

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『一廉の者(ひとかどのもの)』・・・『ひときわ優れた人』


幼き日の一葉(夏子)

樋口夏子(本名は奈津)。明治五年三月二十五日、樋口家の次女としてこの世に生を受ける

小学校に通っていた七歳の夏子は、何もかもがズバ抜けて良くできると評判の少女。六歳の頃には屋敷の中の土蔵に籠り草双紙(くさぞうし)を読みふけるような女の子で、その物語に登場する宮本武蔵や佐々木小次郎に思いを馳せては、あのような華々しい人生を送りたいと、大きな夢を抱く少女でもあった
(草双紙・・女性や子ども向けの優しい読み物)

家に隣接している法真寺の『ぬれ仏』に向かって『ぬれ仏様、私は一廉の者になりたいのです』と手を合わせお祈りをする姿からも、その夢にかける思いが強く伝わってくる

夏子の父である則義(のりよし)は、一代で財を成した努力家だ。山梨県の山村からたき(妻)と二人江戸へかけおちをして来て、元は農家出身だったのが、苦労して東京府の役人にまでなった。高利貸しなどの事業も行うようになり、大きな屋敷にも住めるようになった。夏子は、そんな父が仕事から帰ってくると、妹の邦子と一緒に「今日のおみやげはなぁに?」と父の腕につかまり、おねだりをするというような、平和な日々を過ごしていた


夏子十三歳〜

樋口家とゆかりの深い松永家へ和裁を習いに行っていた時、東京専門学校に通う『渋谷三郎』を紹介された。三郎が祖父と同じ『運動家』だと知った夏子の心は動く。いつしか二人はほのかに惹かれ合い、恋仲となり、やがて許婚(いいなずけ)として親も認める仲になった。十三歳の夏子は、やがて夫になる三郎と幸せな日々を過ごしていた
(祖父・・幕末の百姓一揆首謀者)
(三郎・・自由民権運動家)

明治十九年八月。十四歳になった夏子は、新たに開かれようとしている学問の扉の前にいた。中島歌子の家塾『萩の舎(はぎのや)』だ

当時、中島歌子は女流歌人として著名であり、宮家や貴族、実業家の令嬢などがこぞって歌子に和歌の教えを受けに来ていた。その歌子に教えを受けるべく夏子も弟子入りをした

歌子の教え方は新鮮で、稽古を受ける夏子の内からは、次々と歌が生まれていった

萩の舎の門下生には、貴族の令嬢などがいるグループもあったが、夏子は同じ年の伊藤夏子と、三十歳を過ぎている未亡人の田中みの子と『平民組』なるものを結成し、月一回の例会の時には進んでお茶やお菓子運びを手伝い、手伝いが終わると小部屋でお菓子を食べながらおしゃべりをするという楽しい日々を過ごしていた。それまでは『ものつつみの君』とニックネームが付くほど静かな少女だった夏子が、平民組を結成してからは、明るい少女に全く変貌を遂げたのだった
(ものつつみの君・・古語の「物慎み」から来ていて、物事に遠慮深く、引っ込み思案な人)

数ヶ月後、萩の舎の門下生が一堂に集まる、新年の『発会の日』が来る

〜つづく

参考引用資料
樋口一葉ものがたり
(日野多香子作・山本典子絵)
教育出版センター

画像
photographer『Jason Robins
by pixabay


樋口一葉ものがたり (ジュニア・ノンフィクション)








posted by KOREIIYO at 11:53| 樋口一葉

2019年08月18日

『喜び、悲劇、裏切り』【樋口一葉】(十五歳〜)

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喜び

『萩の舎』の新年発会の日

九段にある料亭『万源』に、艶やかな振袖を着こなした令嬢達が次々と到着する。夏子は、自分が着ている古びた黄八丈(きはちじょう)の着物と赤い帯が恥ずかしくなった。母が夏子の為に用意してくれた今まで着たどんな晴れ着より華やかで贅沢なものだったが、この上流社会の人々の中にあっては、その足元にも及ばないのだ

全ての人が揃い、にぎやかな昼食会が行われた。その後、いよいよ歌を競い合う事となる。本日のお題は『春の夜

夏子の頭の中に浮かぶ、おぼろにかすむ月、小川、そのほとりに立つ柳の木、揺れる葉、、、

集まった人々が息を潜めて見守る中、それは発表された



打ちなびく 柳を見ればのどかなる

おぼろ月夜も 風は在りけり


この歌は、この日の最高位となった。夏子はまるで夢の中にいるかのような気持ちになっていた、と同時にその胸には誇らしさが湧き上がり、令嬢達の華やかな振袖の事などはもう気にならなくなっていた。伊藤夏子も「おめでとう樋夏ちゃん!」と夏子を褒め称えてくれた

まもなく中島歌子は、夏子に随筆の書き方を教え始め、源氏物語や古今和歌集も教えていった。十五歳の少女の胸に王朝文学への憧れが膨らんでいった
(黄八丈・・・東京都の八丈島の特産)




悲劇

夏子十七歳。この年、父の則義が荷車請負業の事業にしくじり莫大な借金を抱えた直後、不治の病にかかってしまった。長兄の泉太郎(せんたろう)は一昨年病気で亡くなり、次兄の虎之助は数年前に勘当同様に家を出て行ったきり。夏子はそんな中、去年十六歳で樋口家の戸主となっていた。戸主となった時には、樋口の家が今日のように落ちぶれ果てるなど夢にも思っていなかっただろう

そこへ婚約者の三郎が、父に急用があると呼ばれてやって来た
「まったく困るよなおじさんにも」
三郎の言葉がするどいトゲとなって夏子の胸を突き刺す。父のいる部屋へ通された三郎を、不安になりながらも外でお茶など用意しながら待つ夏子。話しを終えた三郎は用意したお茶もそこそこに、あわただしく帰って行った。いったいどういう話しだったのか母に尋ねると、夏子の婚約の件をどうするのかハッキリ聞くために父は三郎を呼んだという事、そして三郎はその問いに対し、たしかに自分が夏子さんを幸せにすると答えたという事を夏子に話した。それを聞いた夏子は安心した。が、さっきの三郎のあのするどい言葉。その時の様子を思い出す夏子の胸の中に一抹の不安がよぎるのだった

その数日後、明治二十二年七月十二日。父、則義は五十八歳の生涯を閉じた。最愛の父を失った夏子は、その遺骸にすがりつきいつまでも泣き続けた。と同時に、その両肩には戸主という重荷が重くのしかかっているのを感じていた。とりあえず夏子は母と邦子と女三人で、虎之助を頼ってそこへ引き移って行くのだった



裏切り

それから間もなく、三郎が使いの者を通し信じられないほど高額な結納金を母に要求してきた。無一文の樋口家にとってとても出せるような金額ではない。それをわかっていて要求してきたのだ。たき(母)は怒りと共にその書状を破り捨てた。このような三郎の裏切りを夏子は腹わたの煮える思いで見ていたのだった

〜つづく


参考引用資料
樋口一葉ものがたり
(日野多香子作・山本典子絵)
教育出版センター

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photographer『GAHAG
by pixabay


樋口一葉ものがたり (ジュニア・ノンフィクション)








posted by KOREIIYO at 18:18| 樋口一葉

2019年09月07日

『樋口一葉の誕生』【樋口一葉】

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運命の出会い

明治二十四年四月五日、夏子はその後の人生に大きな影響を受ける人物に会う。半井桃水(なからいとうすい)だ。妹邦子の友人である野々宮きく子に紹介をしてもらい、弟子入りを決意しやって来た。

半井家には二度ほど訪れた事はあったが、いずれも頼まれた仕立物を届ける為の裏口からの出入りであったので、主人である桃水に会うのは三度目にして初めてのこと

ドキドキしながら待っていた夏子の前に現れたのは、すらっと背の高い、気品のある美しい顔立ちの中年の男。夏子のドキドキは消え落ち着きを取り戻す。桃水に自分の決意のほどを丁寧に話し、桃水もそれを真剣に受け止めた。が、桃水は夏子が小説家になることに反対する。何故なら、小説で身を立てていく大変さは桃水自身よくわかっていて、そのように厳しい道に若い夏子があえて入っていくという事に素直に賛成はできなかったからだ。『別の道を選ばれた方がいい』そう夏子に伝える桃水だった。しかし、夏子は諦めない。小さい頃から書くのが何よりも好きだった夏子。持って来たふろしきの中から、この日のために苦労して書き上げた新聞小説一回分の原稿を桃水に差し出した。『お恥ずかしいのですが読んでいただけますか?』桃水は手に取り興味深げに読み始めた。二枚三枚と読み進めるうち夏子のとてつもない才能を感じ取る。

読み終えた桃水は夏子の並外れた才能を感じながらも、よく書けているがこういうものは売れない、と厳しい批評をする。王朝文学の美しい流れと流麗な擬古文、これは今大衆が求めているものではないと夏子に語る。話し言葉のように書き、俗世間が好むものを書いた方が良いと。実は桃水自身、今新聞に載せている小説の稿料で家族を養っているが、その内容は決して桃水が目指す文学の形ではないのだと語る。生活の為に自分を曲げて書いているのだと

※擬古文・・古代の文体を真似て作った文

桃水は夏子がこれから小説を書く手がかりになる手助けをする為、今までに自分が書いた小説を数冊夏子に貸すことにした。夏子は自分が桃水が言うような大衆受けするものが書けるのだろうか?と不安に思うところがあったが、桃水の優しさが夏子の気持ちを軽くしていた。夏子はその日、桃水に晩御飯に呼ばれ、半井家家族と楽しいひと時を過ごすのだった。桃水との出会い、にぎやかな団欒、幸せに包まれた夏子。素晴らしい出来事を忘れない為にも、この日から夏子は日記をつけ始める。(この日記は終生書き続ける事になる)



恋心

それから原稿の続きを見てもらうためなど、桃水の元を度々訪れるようになった夏子は次第に桃水に恋心を抱くようになる。桃水の元から帰る時に感じる寂しさ、桃水を思い出す時に感じるときめきと切なさ。桃水が一人小説を書くために借りている下宿を訪ねる時などは『結婚前の自分が男の人一人の下宿を訪れるなんて』と迷う夏子の姿もあった。しかし、桃水はこの時夏子にこう話さねばならなかった『私は一度妻に死なれた三十二歳の中年男。あなたは嫁入り前のまだ若いお嬢さん。この二人がこれから先仕事なり相談なりお付き合いしていくためには、あなたは私を男としてではなく同性の友、女として見ていただきたい。私はあなたを女としてではなく青年として見ますので』と。夏子は『はい』と返事をするも、心の中では自分の恋心が届かぬのだと、もどかしさを募らせるのだった



作家『樋口一葉』の誕生

それから夏子と桃水は原稿のやり取りなどで会う事が多くなった。四月から十月までの間に十篇を書き上げた夏子。この頃初めて『一葉』というペンネームを使ったのだった。『一葉』の名の由来は、だるまが芦(あし)の一葉(ひとは)に乗ってやって来たという故事にちなんでいるもの。だるまには足が無い、自分にはお足(お金)が無い、そういう言葉のシャレから生まれたものだった

その後、桃水についての良くない噂に夏子の心は乱れる。
桃水の家に同居している女学生の鶴田たみ子がお産をし、その子の父親が桃水だと妹の邦子が野々宮きく子から聞き、それを夏子に話したのだ。夏子は一人泣いた。一番大切に思っていた人のふしだらも許せなかった。それから三ヶ月間、一度も桃水に会いに行かなったが、久しぶりに桃水の元を訪れた夏子は、その一件が間違いだったと直接桃水から聞くことになる。鶴田たみ子の相手は桃水の弟の浩(ひろし)だったのだ。疑っていた夏子の心、苦しい心、それが全て緩み涙がこみ上げる。桃水の家からの帰り道、夏子の胸にはまたあのしあわせの感覚が戻っていく

明治二十五年二月四日
桃水に呼ばれた夏子は嬉しい話しを聞く事になる。桃水が仲間と共に『武蔵野』という同人誌を出す事になり、その同人誌に夏子の作品を載せましょうと声をかけてくれたのだ。更に、評判になればお金も入ってくる、そうなったら誰より先に夏子に稿料を払うと

そして四月二十七日、再び桃水の元を訪れた夏子に一冊の薄い雑誌が手渡される。
武蔵野 創刊号
ページをめくった目次にある『闇桜 樋口一葉』の文字。嬉しさと恥ずかしさが同時にこみ上げる。「作家樋口一葉の誕生です」桃水は夏子に穏やかな笑顔でそう言った。無限の夢を乗せた新たな船出となったこの日から、夏子は今まで以上に懸命な努力をするようになった。そこには仕立物や洗いはりなどを老眼の目を無理してやっているたきや、若いのに愚痴もこぼさず下駄の蝉表張りに精を出す妹邦子の姿も思い浮かんでいる。原稿料が貰えるようになれば、親孝行もでき、年頃の妹にも服など買ってやれる。こうして武蔵野二号、三号と続けて樋口一葉の小説が掲載されていくのだった

桃水に紹介された改進新聞にも『別れ霜』が連載され始める。ここではペンネームを『浅香のぬま子』としていたが、夏子が初めて原稿料を手にしたのは、この『浅香のぬま子』の時であった

〜つづく


参考引用資料
樋口一葉ものがたり
(日野多香子作・山本典子絵)
教育出版センター

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photographer『Rebekka D
by pixabay


樋口一葉ものがたり (ジュニア・ノンフィクション)










posted by KOREIIYO at 15:16| 樋口一葉

2019年11月04日

『半井桃水との別れ』【樋口一葉】

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噂、桃水との別れ

また噂が立った。

半井桃水とはもう縁を切れと伊藤夏子から言われた夏子。師、中島歌子に尋ねると桃水が周りの者に夏子を妻だと言っていると。つい最近、尾崎紅葉に紹介すると言ってくれた桃水。夏子は困ったが、噂を信じその話しを断る事にした。しかし桃水に直接会い真相を聞いてみると、桃水が雑談の中で話したことに尾ひれがついて噂として流れてしまったことを知る。桃水は人の噂は手に負えんと憤りを見せたが、噂とはいえ夏子のためにはならないと、しばらく会わない事を提案し、夏子もそれを了承した。夏子の試練の日々の始まりである。

その後、試練を振り切るように立て続けに作品を発表、連載など、夏子は筆を取り続けていく。だが、いくら作品を作り続けてもお金にはならず、どん底の暮らし、借金の生活は変わらなかった。


吉原の商人生活

明治二十六年七月、夏子たちは吉原へ移り荒物屋を開く。それは文学を捨てる覚悟を意味していた。せっけん、たわし、マッチ、磨き粉などで始めた荒物屋、子どもの喜びそうな駄菓子を仕入れればよく売れ、千足神社の大祭の時には景気付けにマッチをこれでもかと並べて盛り上げた。しかしその日を食べ繋ぐのにやっとのもうけには変わりない生活。そんな時、懐かしい人物、「文学界」の編集者 平田禿木(ひらたとくぼく)が夏子の前に現れた、夏子に文学界の原稿を書いてもらおうと尋ねて来たのだ。夏子は急なことに戸惑った、が、書きたいという直感が夏子を再び筆に向かわせた。そして二ヶ月後、久しぶりに夏子の作品「琴の音」が発表される。

〜つづく


参考引用資料
樋口一葉ものがたり
(日野多香子作・山本典子絵)
教育出版センター

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photographer『sasint
by pixabay


樋口一葉ものがたり (ジュニア・ノンフィクション)











posted by KOREIIYO at 12:12| 樋口一葉

『夏子、永眠』【樋口一葉】

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『たけくらべ』の発表

その後、「たけくらべ」「大つごもり」「にごりえ」「十三夜」などの傑作が発表されていく。「文学界」に七回に分けて発表された「たけくらべ」は、書き始めから一年半後、「文芸倶楽部」に一括掲載されて評判となった。夏子は有名になり、夏子の元を訪れる人は後を絶たなかった。泉鏡花、島崎藤村らもその中の一人だった。桃水とは二年の絶交状態を抜け、今は誰もが二人の付き合いを認めてくれている。


『突然の悲劇』

明治二十九年三月、肺結核という診断を受ける。しかもかなり進んでいるという。それから夏子は床にふして過ごす事が多くなった。襲ってくる激しい頭痛とだるさの中、筆も持てない歯がゆさとも闘っていた夏子。そんな中、平田禿木と戸川秋骨(とがわしゅうこつ)が、あるニュースを持ってやってきた。森鴎外(もりおうがい)、斎藤緑雨(さいとうりょくう)、幸田露伴(こうだろはん)、の三人が雑誌「めざまし草」の中で樋口一葉の「たけくらべ」を絶賛しているという。鴎外は「作者は今の文壇の神のような人だ」とまで言っている。禿木と秋骨は嬉しくてたまらなかった。夏子は二人の姿が嬉しかった。しかし反面、いつか自分の作品があきられるのでは?女の作品だから珍しくて一時的に盛り上がっているのではないか?と冷静に見つめる自分もいた。

その後、批評をした三人のうちの一人、緑雨が夏子の元を訪れた。世間から毒舌家と言われる緑雨は夏子の作品を一味違う観点から見ていた。それが夏子には新鮮だった。緑雨は夏子の元をしばしば訪れるようになり話しを重ねていった。桃水は緑雨には気をつけた方がいいと言っていたが、むしろ緑雨こそ自分の文学の第一の理解者であると考えるようにもなっていた。そんなやり取りを繰り返していくうち夏子は再び筆を取りたい、作品を書きたいと思うようになったが、身体はそれを許してはくれなかった。


『永眠』

その後、幸田露伴(こうだろはん)が「めざまし草」に夏子の作品を載せたいとやってきた。鴎外や緑雨との間に合作小説を作ろうという話しも出ていると伝えてきた。細かい設定なども説明して、明るく帰っていった。しかしその後、夏子の病状は悪化。その中でも夏子は萩の舎の歌会に出席、これが夏子が外出した最後となった。緑雨は鴎外を通し、青山胤通(あおやまたねみち)の往診を依頼した、が、胤通診断は「危篤に近い重病」であった。この事が読売新聞に報じられると、多くの人々が夏子の元にかけつけた。


死んだら、蝶になって、

あなた方の袖に戯れましょう


薄れていく意識の中、訪れる人々にそう言葉をかけた

そして明治二十九年十一月二十三日午前 『夏子、永眠

二十四日、秋骨、緑雨、眉山らの手でしめやかに通夜が行われた

二十五日、葬儀。参列者わずか数十人のさびしい葬列であった




法名「智相院釈妙葉信女」

〜おわり


参考引用資料
樋口一葉ものがたり
(日野多香子作・山本典子絵)
教育出版センター

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photographer『エリー
by ぱくたそ



樋口一葉』という女性について

この物語を読む前、樋口一葉という女性について、お札の人で女流小説家でとても慎ましやかに暮らしていた、という事くらいしか知らなかった。ところが話しを読み進めていくうちに『樋口一葉』は『活発で行動的で恋にも全力で生きた人なんだ』という女性像になっていた。慎ましやかに暮らし、困窮する生活状況にも耐えて耐えて一家の大黒柱となり奮闘しながらも、最後には誰もが認める女流小説家になる、これは日本のお札の顔になって当然だとも思った。ただ、半井桃水とのやり取りに心ときめかせ、かと思うと誰かが言った噂に腹を立てたり、それが勘違いや真実でないと知った時のハラハラしてる心の様子とか、それを想像しただけで可笑しくなったという方が自分には大きかった。時代が時代だけに心のうちを人にあれやこれや話すなんて事はできなかったし、そういう考えすらなかっただろうけど、樋口夏子が今の時代に生きていたら、いったいどんな女性になってどれほど周りの者に影響を与えただろうかと思うと、そういう夏子も見てみたかった。きっと周りは夏子の活発さ明るさひたむきさに勇気づけられ元気になって、会社のストレスなんて蹴っ飛ばすくらいの力をもらっていただろうなと。

夏子の、短い生涯を駆け抜けたある物語を読んで、自分ももっと力出さなきゃなと前向きにさせてくれた一冊でした










posted by KOREIIYO at 14:14| 樋口一葉

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