現代では人へ想いを伝える時、その手段といい言葉といい実に様々なものがあります
電話やメールはもちろんLINEなど、いわゆるSNSと言われるものもその手段のひとつでしょう
使われる言葉も軽いものから深いものまで実に様々
ですが、言葉が溢れる今の世でもこう思う時はないでしょうか
とても大切に思っているけど言葉では言い尽くせない
言葉にするよりその思いはもっと深く激しい
この思いをいったいどうやって伝えよう
口にするより深く激しい想いを
今回は、今より遥か一千年も前にそんな『思い』のやり取りをしていた女性二人と一首の和歌をとりげたいと思います
その和歌とは
心には 下行く水のわきかへり
言はで思ふぞ 言ふにまされる
こころには したいくみずの わきかえり
いわでおもうぞ いうにまされる
心に秘めた思いは口にするより ずっと深く激しい
この歌にはそんな意味がこめられています
そして、この歌をやり取りしていた二人の女性、それは平安の世に生きた清少納言と妃(きさき)定子(ていし)です
定子の父(藤原道隆)亡き後、新たに最高権力の座についた藤原道長
その道長のスパイではないかと疑惑を持たれた清少納言。それが原因で清少納言は宮中を離れ実家に戻ってしまいます。実家に戻った清少納言に対して妃(きさき)定子(ていし)は『もう一度自分に仕えて欲しい』とたびたび手紙を送ります。その送られてきた手紙の中にあったものが、くちなしの花びら一枚に書かれた一文
『言はで思ふぞ』
これを見た清少納言は定子の想いに心動かされ、もう一度宮中に戻り定子に仕えることになったのです(NHK100分de名著より)
定子は清少納言のことを誰よりも慕い、清少納言は定子を尊敬し、敬い、慕い、貴い人だと心から思い全身全霊をかけて尽くしました
だから定子は里へ帰ってしまった清少納言へこの歌を送り、清少納言はこのわずかな言葉だけでその思いを受け止め、再び定子のもとへと戻っていったのです
今の私達も、言葉では言い尽くせない言い表せられない程の想いも、この歌のように伝えられる誰かがいて、それを互いに受け止め合える、そんな関係を築けていけたらいいですね。