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今朝アキが
安国寺の紅葉 見ごろだって
もう一回くらい行きたいなあ

大きな声で言っていた

去年の社員旅行は
アキが企画担当だった
安国寺の紅葉をメインにして
自信なさそうに説明していた

アキはイラストレイター
旅行の後
作品の中に随分モミジが
現われるようになった

みんなの一致した見解だった

舞川あいくと
お笑いタレントの千原ジュニアの熱愛

朝からこんな話題を知足り顔で話していたのは
会計係りのミツ

そんなことわたしだって知ってるよ
2人が六本木の焼き鳥屋で
"いっぱい”やってたんでしょ

10時間も引きづって
そんなことをブツブツ言いながら
蘭子はバスを降りてまた歩く

アパートの近くにある良く行く公園に寄り
ベンチの前に立つ

小雨は止んでいたが晩秋の公園

今時珍しい
丸い笠を被った裸電球ひとつ
明かりが無ければ
闇夜の公園だったが
ひとつの小さな灯火でも
随分遠くまで届けてくれる

そればかりか・・・
私の心にも届いている
小さくても勇気をくれる
灯火だった

自分の世界を見る様な
小さな公園

蘭子にはかけがえの無い
存在だった

だから
ときどきだったが
そっと見上げては

「ありがと・・・」

はにかんで見上げることがある

今夜は何故か
ひとりぼっちの寂しさが身に沁みて
離れられない気分だった

誰もいない公園に佇むのも
怖いけれど・・・
暗い道に踏み込むのも
躊躇する心境だった

寂しくなんかないよ!

どちらかと言うと天邪鬼な気質の
蘭子とは言え
今夜はそんなこと言える気分ではなかった

寂しくて 寂しくて 寂しくて・・・

「さびしいよーー・・」

大声で叫びたいくらいだった
我慢しないで
そう叫んでしまえるくらい
素直だったら好いのに・・・

珍しく素直に自分を見つめている

負けるもんか

「一人ぼっちじゃないぞー」

何処かに
わたしの王子様はいるもん・・ね・・・

そんな独り言をつぶやきながら
うなだれた蘭子の視線が
ベンチの下を見ていた

樹下のベンチは
小雨くらいでは濡れる事も無く
少しは暖かいだろうと思った

何かがうずくまり
動いている

「・・・?」
ビニール傘を脇に置いて
しゃがみ込んで目を近づける

「・・・?」

恐る恐る手を触れる

動いた!

もう一回今度は強めに押した

「キャアーーん・・」

かぼそいが可愛らしい泣き声

「いぬ?・・・」

蘭子は急いで両手を伸ばし
持ち上げる

茶色らしい毛並みの
柴犬みたいだ

「かあいそう!・・・
 こんなところにいたら
 風邪ひくよ!
 バカだねー
 早くかえろ!」

再び小雨が降り始めた中
子犬を抱きしめて
蘭子は小走りして急ぐ!

傘も忘れて・・・





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