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2017年04月17日

第440回 さよなら!






文●ツルシカズヒコ




 一九二三(大正十二)年十月一日、橘あやめと大杉進が米国大使館に行き、虐殺された米国籍の宗一の処置を訊く。

 米大使館は外務省と折衝し、係員が軍法会議を傍聴できることになる。

 九月八日に駒込署に保護検束された近藤憲二が、大杉らの死を知ったのは駒込署の留置部屋の中だった。

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 日は忘れたが、看取のおき忘れた新聞を見ると、戒厳司令官の更迭と憲兵司令官停職のことが出ている。

 おや、これは何かあったな、と思った。

 同時に、ある不吉なものが私の胸を流れた。
 
 そしてそれが、事実のように心のなかにひろがるのだ。

 一口にいえば第六感とでもいうのであろうか。

 そして十幾日がすぎた。

 十月二日の夕刻である。

 私は特高の部屋へ呼び出された。

 和田(久太郎)が面会にきているのだ。

「君だけ、あすの朝だしてもらうことに話がついた。君は何もわかっていないだろうが、大杉の子どもたちが、福岡の野枝さんの実家へ引きとられて出発することになっている」

 和田は身じろぎせず、私を見つめていった。

 私は「わかっている」と答えたが、実は何もわかってはいなかったのだ。

 ただ私の予感と和田君の言葉とを結びつけて、そのときはじめて一つの結論を得たにすぎなかったのである。

 留置部屋へ帰って、話があるから集まってくれというと、みんなが輪になった。

「いま和田がきてね……」と私がいいだすと、望月桂が「大杉がやられたんだろう」というのだ。

 二人とも十数日来、同じことを考えていたのである。

 そして、お互いそれをいいだし得ないでいたのだ。


(近藤憲二「大杉栄のこと」/『一無政府主義者の回想』_p39・平凡社・一九六五年六月三十日)





 十月二日、四人の遺児とそれに付き添う代準介・モト夫妻、お手伝いの雪子が、分骨した遺骨を携え福岡へ向かう(進は神戸まで同行)。

 近藤憲二「大杉栄のこと」によれば、近藤は十月三日の朝に駒込署から出してもらい、遺児たちを見送ったことになるが、これは近藤の記憶違いで近藤が駒込署から出してもらったのは十月二日朝であろう。

 内田魯庵がこのあたりの経緯をこう記している。


 告別式の済んだ跡の大杉の家は淋しかつた。

 遺子を中心として野枝さんの伯父さん老夫婦と大杉の実弟と、大杉の異体同心たる数四の同志に守られてゐた。

 刑事の眼は門前に光つて看慣れぬものは一々誰何したから、誰もイゝ気持がしないで尋ねるものが余り無かつた。

 愈々明日は一と先づ郷里へ引上げるといふ其前夜、長い汽車の旅の兒供眠気さましにもと些かの餞けを持つて私の妻が玄関まで尋ねた時も誰何され、何の用事かと訊問された。

 十月二日だつた。

 五人の遺子は野枝さんの伯父さん老夫婦に伴はれて此の恨の多い父の家を跡に郷里へと旅立つた。

 親しい友や同志に送られて行つたが、魔子は先きへ立つて元気よく『さよなら、さよなら!』と云つて駆けて行つた。

 パパもママも煙のやうに消へて了つた悲みをも知らぬ顔の無邪気の後ろ姿が涙ぐましかつた。


(内田魯庵「最後の大杉」/初出は『読売新聞』一九二三年十月二日〜六日、八日に掲載された「此頃の大杉の思出」/『思ひ出す人々』・春秋社・一九二五年六月)



●あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝 index



posted by kazuhikotsurushi2 at 15:15| 本文
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1955年生まれ。早稲田大学法学部卒業。『週刊SPA!』などの編集をへてフリーランスに。著書は『「週刊SPA!」黄金伝説 1988〜1995 おたくの時代を作った男』(朝日新聞出版)など。
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