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2017年04月16日

第439回 遺骨






文●ツルシカズヒコ




 一九二三(大正十二)年九月二十七日の身内の告別式について、堀保子はこう記している。


 私は安成の奥さんと一所に淀橋の大杉家へ行つた、

 八畳の座敷の床の間には画家望月桂氏の筆になつた大杉が裸体で机に向かつてゐる一幅がかけてあつた。

 その前に皆さんから贈られたお花白木の机なぞ遺骨を迎へる準備ができてある、

 そのそばで村木さんや和田さんが四五人の来客に殺害当時のお話しの最中であつた、

 次ぎの六畳の座敷には二十日ばかり前に生まれたといふ男の赤ん坊が蠅になやまされてうるさそうに寝てゐる、

 私は安成の奥さんとほろ蚊帳をさがしだしてつゝてやつたりした、

 それから持つて行つた花を床に飾つたりして骨の来るのを待つた。

 そんな間にも大杉がきまりの悪そうな顔をして『ヤア』といつてそこらから出てくるやうな気がしてならなかつた、

 間もなく大勢の人に護られた三つの小さな白い箱が大杉を中にそれぞれ白木の机の上に並べられた。

 大杉のすべてはこの箱の中に納められてゐるのだと思へば気が変になるまで胸がワク/\した、

 次ぎから次ぎへといろ/\な思ひ出やら想像やらが車の輪のやうに急転した。

 一座はしんとして声を出すものもなかつた、

 それ/″\思ひ出にふけつてゐるらしい。

 子供達はついぞ見た事もないおばさんだといふ様な顔をして私を珍らしさうに見てゐたが、

 親戚のおぢさんの注意で一番上の子が私にお辞儀をした、

 そしてお骨に向かつておじぎをする、

 そんな事を繰返し/\幾度もやる、

 それをみた外の妹達も同じ様にやるので、

 一座の人々を涙の中に笑はせた、

 私はかうした子供達の頑是ない無邪気さに打たれて、

 人がゐなかつたら引よせて思ふ存分泣いてみたかつた。

 大杉の弟達にも久しぶりで逢つた、

 話しは後になつたり前になつたりいろ/\な事をくり返へされた、

 死体は何分日数もたつてゐるのでほとんど見分けがつかない、

 係りの人も『どんな風に殺されたのか分らない、甘粕の白状はこれ/\だ、どうかそう思つて三人の死体を引とつて貰ひたい』といつて衛戍病院の解剖の報告といふやうなものをくれたそうだ、

 死体は棺の中に全身包帯を捲いた、

 そして石灰でつめてあつたさうで其まゝ火葬に付してしまつた、

 私は非常に物足らなく思つた。

 そんな話をしてゐるうちに、

 子供達は思ひだしてか、

 折々『パパア……』といつてあたりをさがす、

 皆が『無理もない大杉は随分と子供を可愛いがつたしよく面倒をみたからね』といふ、

 実際大杉は以前から子供は好きであつた、

 よく『アナタが子供を生めば僕は家にゐて守をする』といつてゐたことまで思うひだされた。


(堀保子「小兒のやうな男」/『改造』一九二三年十一月号)

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 矢野寛治『伊藤野枝と代準介』の記述に従い、九月二十三日に入京した代準介の動向を追ってみる(代準介の自伝「牟田乃落穂」からの引用は、同書からの孫引き引用)。

 上京中の代には特高課の刑事が常に付き添い、その移動には新聞社や通信社が車を提供したという。

 代は死体の引き取りすらままならない状況を鑑みて、頭山満や杉山茂丸に相談した。

 国士舘へ頭山を訪ねたのは九月二十四日の朝だった。

 九月二十七日の骨揚げでは、三人の遺骨は大杉家(大杉勇)と伊藤家で分骨された。

 実兄・栄夫妻と一粒種の実子・宗一を一度に惨殺された、あやめの悲嘆は「殆ど狂人の如く泣き入り五時間に渉るも鎮静せず」(「牟田乃落穂」)だった。

 代はあやめとは初対面だったが、彼女の病気のことも慮り、こう言って彼女を慰めた。

「此の突発せる惨事に逢い、実に同情に堪えず。然り乍ら前代未聞の大なる死なり、クリストと雖も裁きを受けて刑せらる。官憲即ち憲兵本部に拉致し、暗殺の上死体を匿す等、其の愧悪手段、実に言語に絶す。世界的大なる死なり。兹に諦めらるるは、肉親の執るべき処なりと談じたり」(「牟田乃落穂」)





「牟田乃落穂」には、内田魯庵についての記述もある。

「内田魯庵氏は明治大正時代の文豪に新派排撃の旗頭として論陣に立ち、(徳富)蘇峰先生と併称せられたる大家なり。予、固より氏を知らず、大杉邸の隣家にて生前の大杉とは懇親の間柄、死後は昼夜の別なく殆んど詰切の様なり。其風采金持風而も家主とのみ推定し、真(魔)子に家主さんなりやと問ふに、さうよと答ふ。依って毎日の話相手としたり。而して退京の前日多数の文士等集り来り、談話中初めて魯庵先生なることを知り、率直に心得違ひたりし事を述べ、併せて毎日無学者と文豪との説話等を謝したり。其一齣を先生の随筆に物せられたり、此は盲目蛇に恐れざると同じからん」

 代は頭山を人生の師と仰ぎ、頭山のために奔走してきたが、この事件を機に社会主義者の正義感、教養、知性、人格、弱者への愛情を知ったという。

 代は「牟田乃落穂」に、その感慨をこう記している。

「大杉事件当時……大杉邸へ来集の同志、文士、画家、弁護士等に面接せしに、個人としては何れも品性の高尚にして、実に異様の感に打たれり」

「而して、國士館に頭山先生の許に至れば、来訪者何れも国士型の人なり、是等の動作言語は聊か粗暴の嫌ありたり」





●あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝 index







posted by kazuhikotsurushi2 at 00:24| 本文
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1955年生まれ。早稲田大学法学部卒業。『週刊SPA!』などの編集をへてフリーランスに。著書は『「週刊SPA!」黄金伝説 1988〜1995 おたくの時代を作った男』(朝日新聞出版)など。
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