広告

posted by fanblog

2017年06月20日

第448回 ゴルキイの『母』






文●ツルシカズヒコ




『婦人公論』一九二三年十一月・十二月合併号の特集「殺された野枝さんの事」。

 和田久太郎は「僕の見た野枝さん」を寄稿している。


 僕は『青鞜』時代の野枝さんを知らない。

 大杉君との恋愛が始まつた頃の野枝さんも、謂(いは)ゆる『葉山事件』前後の野枝さんをも、全(ま)るで知らない。

 千葉病院を大杉君が退院してから、二人はあらちこちらの下宿をさまよつた末に巣鴨の宮仲へ家を持ち、長女の『魔子ちやん』を産んで、大晦日の晩に夜逃同様の姿で亀戸に移つた。ーーその亀戸時代以後の野枝さんしか知らない。

 大正七年の春ーー、野枝さんが廿四で、大杉君が丗四だつた。

 それから今年の震災のドサクサ紛れに憲兵隊で惨殺されるまで、僕は一緒に暮らして来た。


(和田久太郎「僕の見た野枝さん」/『婦人公論』一九二三年十一月・十二月合併号)

noe000_banner01.jpg


 上記の書き出しから、まず「亀戸時代の野枝さん」に筆は進んでいる。

 野枝の三味線の爪弾きの思い出も、亀戸時代だった。

「田端、曙町時代の野枝さん」は、和田にとって「野枝さんの一等よかった時代」の思い出であり、第一次の月刊『労働運動』を発行していたころである。

 和田の筆は「嫌やな性質を発揮しだした」「鎌倉以後の野枝さん」へと進み、逗子時代についてもこう記している。


 ……逗子へ引越した時分には、殊(こと)に昨年の暮に大杉君がフランスへ行つた留守中には、労働運動社へ遊びに来る労働者諸君にさへ、『フン』と云つたやうな、鼻であしらふやうな態度をさへ見せだした。

 社の同人は、皆んな横を向いて眉をひそめねばならぬことが度々あつたのだ。

『大杉君の名声が野枝さんをして慢心せしめたのだ』と、或る同志は嘆じて云つた。

 僕も亦(また)、至言だと思ふ。


(同上)





 和田は野枝の身近にいた同志のひとりだったが、野枝とは折り合いが悪かったと言われている。

 それだけに、野枝の死の直後に身内が言いにくい「貴重な証言」を残したのかもしれない。

 和田の寄稿は「いろ/\の追想」で結ばれている。

 それは野枝が料理上手だったことなどに続けて、以下である。


 又、野枝さんは非常なやきもち屋だつた。

 大杉君と女郎買いに行つた馬鹿話しなどをうつかり聞かれようものなら、後で大杉君が大変だったのだ。

 こんどフランスへ行つた時にも『或る女と一緒に飛び廻つてゐる』といふ大杉君の通信に対して、何か野枝さんは変な事を言つてやつたらしい。

 それに対して大杉君がウンと野枝さんを怒鳴り付けたフランスからの手紙が最近見付かつた。

 野枝さんは字がうまかつた。

 男のやうな字を書いてゐた。

 落書きする時なんか、『山の動く日来(きた)る』といふ文句を、よく大きな字で書いたものだつた。

 野枝さんは小説が好きだつた。

 ゴルキイの『母』は何度読んでもいゝと言つて居た。

 また、アンドレエフの『星の世界』に出て来る何んとかいふ女と、地球をさゝげるやうな恰好(かつこう)をする何んとかいふ労働者とが大好きだ、とも話してゐた。

 野枝さんの著書には、旧く青鞜社時代に出した『婦人解放の悲劇』がある。

 エマ・ゴウルドマンの翻訳だ。

 それから『乞食の名誉』といふ大杉と共著の小説集がある。

 同じく大杉君と共著の『二人の革命家』がある。

 大杉君の『クロポトキン研究』の中にも、『悪戯』の中にも、野枝さん署名のものが大分ある。

 これは大分前だが、シヨウの『ウオウレン婦人の職業』を抄訳して十銭本か何かで出した事もあつたやうだ。


(同上)





●あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝 index



posted by kazuhikotsurushi2 at 23:38| 本文
ファン
検索
<< 2017年06月 >>
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
最新記事
写真ギャラリー
最新コメント
タグクラウド
カテゴリーアーカイブ
index(1)
本文(449)
プロフィール
さんの画像

1955年生まれ。早稲田大学法学部卒業。『週刊SPA!』などの編集をへてフリーランスに。著書は『「週刊SPA!」黄金伝説 1988〜1995 おたくの時代を作った男』(朝日新聞出版)など。
プロフィール

美は乱調にあり――伊藤野枝と大杉栄 (岩波現代文庫)

新品価格
¥1,058から
(2017/3/4 02:04時点)

諧調は偽りなり――伊藤野枝と大杉栄(上) (岩波現代文庫)

新品価格
¥1,058から
(2017/3/4 02:09時点)

美は乱調にあり (英文版) ― Beauty in Disarray (タトルクラシックス )

中古価格
¥3,487から
(2017/3/4 02:14時点)

飾らず、偽らず、欺かず――管野須賀子と伊藤野枝

新品価格
¥2,268から
(2017/2/16 10:43時点)

自由それは私自身―評伝・伊藤野枝

中古価格
¥1,081から
(2017/2/9 02:00時点)

野枝さんをさがして―定本伊藤野枝全集 補遺・資料・解説

中古価格
¥3,913から
(2016/3/13 18:23時点)

定本 伊藤野枝全集〈第3巻〉評論・随筆・書簡2―『文明批評』以後

中古価格
¥18,616から
(2017/2/9 00:18時点)

伊藤野枝と代準介

新品価格
¥2,268から
(2016/3/13 20:05時点)

日録・大杉栄伝

新品価格
¥4,536から
(2016/3/13 20:13時点)

ルイズ 父に貰いし名は (講談社文芸文庫)

新品価格
¥1,620から
(2016/3/13 20:24時点)

地震・憲兵・火事・巡査 (岩波文庫)

新品価格
¥821から
(2016/11/5 01:11時点)

海の歌う日―大杉栄・伊藤野枝へ--ルイズより

中古価格
¥1,619から
(2016/11/5 01:26時点)

大杉榮 自由への疾走 (岩波現代文庫)

中古価格
¥2から
(2017/2/9 00:00時点)

日本的風土をはみだした男―パリの大杉栄

中古価格
¥700から
(2017/2/9 00:12時点)

動揺 [CY大正浪漫コミックス1]

新品価格
¥1,080から
(2016/3/13 18:18時点)

裁縫女子 (サイホウジョシ)

新品価格
¥1,132から
(2017/2/9 18:20時点)

「週刊SPA!」黄金伝説 1988~1995 おたくの時代を作った男

新品価格
¥1,296から
(2016/3/13 20:26時点)

×

この広告は30日以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。