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2017年05月03日

第442回 今宿の葬儀






文●ツルシカズヒコ




 一九二三(大正十二)年十月八日、事件の第一回公判が青山一丁目の第一師団軍法会議公判で開かれた。

 同日、事件の記事が解禁になり「外二名」が伊藤野枝と甥の橘宗一であることが発表される。

 十月十六日、福岡県糸島郡今宿村の野枝の実家近くの松林(松原)で三人の葬儀、埋骨式が営まれる。

 親族の他、東京の同志代表・川口慶助、村人など百名近くが参列し、遺骨は今宿海岸の墓地に埋葬された。

 矢野寛治『伊藤野枝と代準介』によれば、その葬儀には右翼や在郷軍人らの反対が多く、警察が警備に当たった。

 右翼系国士の非情さに真の国士とは何かを考え始めていた代準介は、今宿や福岡博多一帯での葬儀反対を覚悟を持って一蹴し、執り行った。

 この時、陰に陽に葬儀を妨害から守ったのが松本治一郎だったという。

 今宿の松原で執り行われた葬儀の模様を『福岡日日新聞』が報じている。


「開会に先立ち野枝の伯父代準介は遺児ネストルを栄と改名し、之を喪主とする旨挨拶をなし、僧侶数名の読経につぎ、代氏は先ず野枝の叔母(モト)に抱かれたネストルの栄に代わって焼香をし、続いて海老茶色の洋装をした眞子、並びに灰色の洋装をした可愛らしきエミ子ルイ子等は、何れも親類の人達に抱かれ無邪気な眼を瞠(みは)って焼香場に導かれた」

(『福岡日日新聞』一九二三年十月十七日/矢野寛治『伊藤野枝と代準介』より孫引き引用)

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 野枝が十四、十五歳の時に作った短歌もその場で紹介された。


 死なばみな一切の事のがれ得て いかによからん等とふと云ふ

 みすぎとはかなしからずやあはれあはれ 女の声のほそかりしかな


(矢野寛治『伊藤野枝と代準介』)


「枝折れて根はなおのびん杉木立」と弔句した代は、野枝が上野高女入学を切望した際、妻・キチに「伸びる木を根本から伐れるもんか」と言ったことを思い出していたという。

 十月二十二日、代家に引き取られた真子が春吉尋常小学校一年生として初登校。

 一九一七年九月生まれの真子は満六歳で学齢前だったが、三月生まれとして届け出たのである。

 福岡市住吉花園町の代家は、代千代子(今宿村在住)の長女・嘉代子も預かっていたので、真子は嘉代子と一緒に春吉尋常小学校に通い始めた(嘉代子は四年生)。

 大杉が訳した『ファブルの昆虫記』や大杉と野枝の共訳ファブルの『科学の不思議』を、嘉代子は真子に読み聞かせたという。





 十月二十五日、大杉の著作『日本脱出記』(アルス)が発行されたが、収録原稿中「外遊雑記」と「同志諸君へ」は、大杉の死後に机の引出しから見つけ出された遺稿である。

 十一月二十一日から二十五日まで、軍法会議の第三回〜七回公判、重要証拠である「死亡鑑定書」が非審議になる。

 十一月二十四日、大杉の著作『自叙伝』(改造社)発行。

 十一月二十五日、伊藤野枝の追悼会が野上弥生子宅で旧青鞜同人によって開かれる。

 幹事は平塚らいてうと岩野英枝(故・岩野泡鳴夫人)。

 十二月八日、軍法会議で甘粕ら五名に判決が下る。

 東京憲兵隊大尉・甘粕正彦 懲役十年

 憲兵隊曹長・森慶次郎 懲役三年

 憲兵隊上等兵・鴨志田安五郎 無罪

 憲兵隊上等兵・本多重雄 無罪

 憲兵隊伍長・平井利一 無罪

 十二月十一日、大杉の遺骨は親族相談の結果、父・東の墓所である静岡県清水町の鉄舟寺に埋葬することにしたが、同寺住職・伊藤月庵は断ると言明した。



●あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝 index



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1955年生まれ。早稲田大学法学部卒業。『週刊SPA!』などの編集をへてフリーランスに。著書は『「週刊SPA!」黄金伝説 1988〜1995 おたくの時代を作った男』(朝日新聞出版)など。
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