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2016年11月01日

第387回 頭脳改造






文●ツルシカズヒコ



 野枝は『婦人世界』一九二三年一月号に「婦人自らの頭脳を改造すること」を書いた。

「新時代の婦人はその力を如何なる方面に用ゐるべきか」欄の一文である。

 他の執筆者は石本静枝、神近市子、奥むめお河本亀子

 以下、前半部分、要約。

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●私はもう十年以上も日本の婦人の生活をかなり注意深く見てきましたが、この四、五年来はもうまったく日本の婦人の頭には愛想をつかしています。

●表面上の婦人の生活様式はだいぶ変わり、いくぶんかは婦人の生活も自由になってはきましたが、その基調は十年前となんの変わりもありません。

●安っぽいセンティメンタリズムから一歩も出ず、勝手なロマンティックな空想から一気に現実のドン底に引きずり下ろされても、敢えて不思議な顔つきもせず、すましていられる人たちです。

●他人のいい加減な意見を丸呑みにする、ときには中毒を起こすような腐った意見まで、なんの選択もなしにつめ込むところは、まるで豚の胃袋です。

●今や学校は人間の立派な能力を殺し、馬鹿な人間を育成することに骨を折っているのです。

●自分で研究させることをしないで、やたらに詰め込みます。教え込むのではなく、頭の中に押し込むのです。

●おかげで男も女も自分で自分の頭脳を働かすことができず、いくつになっても、頭が白くなっても、自分の頭を動かしてくれる先生が必要なのです。

●ことに女は従属的な生活の習慣から、他人を当てにすることを少しも恥としないどころではなく、他人を当てにすることが一番の美徳であるかのようです。

●何か困ることがある。考える習慣も判断する能力もないから、すぐに他人に相談する。一切のことが他人まかせなのです。

●「あの奥さんはなかなかしっかりしている。立派な意見を持っている」。たまにこういう評判のいい奥さんがいるが、実は何かの雑誌の受売りで、某氏を崇拝していてその某氏の意見を鵜呑みにしているというケースが多いようです。

●そもそも、婦人の眼にふれるところに意見を発表する人々の顔ぶれが、十年以前とほとんど変わっていません。彼女たちは婦人の生活に対してどれほどの理解があるのか疑わしい連中ばかりですが、今日の新進の婦人連中が、みんなその連中の意見をありがたがっているのです。

●もっと頭脳を働かせることができるようにならなければなりません。





 以下、後半部分を抜粋引用。


 手近い日常生活の事に於いてさへ、日本婦人の頭は呆れるほど馬鹿です。

 私は二三年前ミシンを買ひました。

 教師が通ってくれる事になつて一二回来ました。

 私はこの教師から先づ機械の組み立て、分解等の構造についての知識を得ようと思ひました。

 が……先生はまるでその知識がないのです。

 少しこみ入つた注意の要る附属機械のつかひ方も満足には出来ないのです。

 私は直ぐ断つて、ひとりで研究しました。

 あとで聞きますと、その教師は立派にそれで教師がやつて行けるのです。

 ミシンを買へばただそれで物が縫へさへすればいい、といふのが一般の人達の考へです。

 で、機械の故障はミシン屋を呼べばいいといふのでせう。

 が、それでは機械を使へるとはいへません。

 子供の洋服がはやる。

 子供服に対する根本的な知識を少しも持たずに、ただ奇妙な格好のものをつくる。

 いい加減に出来たパツタアンのとほりに、体と少しも相談せずに、とてつもないものをつくり上げる、といつた調子です。

 洋服の講習会がある。

 といつても、此処でも根本原理そつちのけで、その会で一枚の洋服を縫ひあげさへすればいいといふ方が多いやうです。

 すべてさういふ調子で、頭を働かさないやうに、頭に骨の折れないやうにといふ風にばかり教へられ、教はらうとするのです。

 で、何もかも、すこしも本当の自分のものにはならないのです。

 何事によらず、先づ物の根本をきはめる事が肝心です。

 それから先きは自由に自分で頭を働かすのです。

 それが今の日本婦人に一番必要な事だと思ひます。


(「婦人自らの頭脳を改造すること」/『婦人世界』一九二三年一月号・第十八巻第一号/『定本 伊藤野枝全集 第三巻』)





 辻一(まこと)が、野枝の洋裁について、菅沼幸子(次女・エマ)にジョーク混じりに、こんな思い出を語ったという。

「おふくろときたら、シンガーミシンを買って、ハイカラな洋服を縫っては、子供たちに着せるんだ。ピラピラなんかついたのを、むりに着せられて。なんでも新しがりやで、挑戦するのはいいけど、子供心にも迷惑だったよ。あの人のことだ、今まで生きていたら、選挙なんかに打って出て、おれたちみんな、トラックへ乗せられてるに違いない」

(菅沼幸子「伊藤野枝 はるかなる存在のひと」/『定本 伊藤野枝全集 第一巻』「月報1」・二〇〇〇年三月)


 糸島高女四年生の伊藤留意子(四女・ルイズ)が修学旅行で上京したのは、一九三七(昭和十二)年六月だった。

 このとき、留意子は辻一に会い、野枝のこんな思い出を聞かされたという。


「……おかしなママでね、ミシンを買って僕に半ズボンを縫ってくれるんだよ。それも洋裁の本をわざわざ取り寄せてね。まだ、下町じゃあ半ズボンの子なんかいなくてね、こっちは恥ずかしてたまらないのに、ママはそんなことは全然平気なんだなあ……人のことなんか全然配慮しなかった」

(松下竜一『ルイズーー父に貰いし名は』/講談社・一九八二年三月十日)


 一(まこと)は二十四歳、留意子は十五歳であった。



1995年の墓前祭・中央左から伊藤ルイ、菅沼幸子、野沢笑子の3遺児



●あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝 index



posted by kazuhikotsurushi2 at 00:56| 本文
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1955年生まれ。早稲田大学法学部卒業。『週刊SPA!』などの編集をへてフリーランスに。著書は『「週刊SPA!」黄金伝説 1988〜1995 おたくの時代を作った男』(朝日新聞出版)など。
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