2016年09月20日

第355回 直接行動論






文●ツルシカズヒコ




 大杉豊『日録・大杉栄伝』によれば、一九二一(大正十)年十二月四日、大杉は赤瀾会本部で開かれた親睦会に出席した。

 列席した秋田雨雀が、こう書いている。


 寒い。

 非常に寒い。

 今日、元園町で赤瀾会の会合があって招待された。

 赤飯をご馳走になり、みんなで赤飯会だなぞと洒落た。

 野村女史の挨拶があった。

 ぼくも何かしゃべらせれた。

 この会の健全な発達を希望した。

(社会主義の運動は政府の方針によって次第に秘密主義的になっていくようだ。)


(『秋田雨雀日記 第一巻』・未来社 ・一九六五年)


 「野村女史」とあるが、これは「野枝女史」の誤植であろう。

 とすれば、野枝は大杉と一緒に参加したのだろう。

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 民衆芸術展が神田の駿台倶楽部で、十二月二十四日から三日間、開催された。

『読売新聞』(十二月二十四日)によれば、堺、大杉、長谷川如是閑、小川未明、馬場孤蝶、山川均、山川菊栄、与謝野鉄幹、与謝野晶子、神近市子、足助素一、有島武郎、武者小路実篤、望月桂、秋田雨雀、加藤一夫などが出品した。

 しかし、前日の下見展示で当局の臨検があり、大杉、山川夫妻、望月桂らの作品は撤廃された。

 下見展示を見たらしい古田大次郎によれば、油絵、水彩画、鉛筆画、書、短冊などがあり、奇抜なものでは、一枚の板に赤絵具をベットリこねつけて「幸徳秋水の血」と題したものもあった。

 古田はある掛け物の前で足が止まり、凝視したまま考えこんでしまった。

 そこには達筆な筆文字でこう書かれていた。


 乞ひ願うものには与へられず

 強請するものには少しく与へられ

 強奪するものには全てを与えられる。

                栄


(古田大次郎『死の懺悔』・春秋社・一九二六年)





『日録・大杉栄伝』によれば、これは一九一四(大正三)年四月十五日に荒畑寒村宅で開かれたサンジカリズム研究会で、大杉がA・ローレル『直接行動論』から引用して紹介したドイツの俚言である。

 しかし、大杉のこの掛け軸は「幸徳秋水の血」などとともに、当局の臨検により撤去命令が下され、展示はされなかった。

『日録・大杉栄伝』に大杉が書いたこのドイツの俚言の書の写真が掲載されているが、それを解読するとこう書かれている。


 乞ひ願うものは何物も与へられず

 強請するものは少しく与へられ

 強奪するものはすべてを与えらる

             大杉栄



 古田が書き残した文面と若干の違いがある。





 大杉自身は「籐椅子の上にて」でこのドイツの俚言について言及している。


 僕自身は革命家だと自称してゐる。

 そして此の誇りから、平民階級の自覚を促し、その反逆を煽動する事を、自分の仕事としてゐる。

 一昨夜も僕は、大久保の近代思想社で開かれたセンデイカリスム研究会に於て、矢張り此の誇りからArnold RollerのDie direkte Aktion(直接行動論)の一章を講じた。

 題は革命的同盟罷工ーー経済的および社会的テロリズムと云ふ、甚だ元気のいい、従つて其の内容も、『乞ひねがふものには何物も与へられない、おびやかすものには多少与へられる、無法を働くものには総べてを与へられる』と云ふ俚言をモツトウとした、極力的暴力論の主張であつた。

 けれども今考えて見ると、よくもそんな雄弁がふるえたものだと、冷汗が出る。

 前科の五犯や六犯あつた所で、それが僕に取つて、何の誇りになるのだ。

 いつだつて僕自身自ら進んで其の犠牲を払つたのではない。

 いつも不用意でやつた事から、強いて其の犠牲を払はせられたのだ。

 ……僅かに『近代思想』というやうなintellectual masturbationで満足しているのぢやないか。

 革命家が聞いてあきれる。

 そして其の資格のない他人が革命を云々するからと云つて、冷笑したり罵倒したりする僕自身の軽薄さ加減がいやになる。


(「籐椅子の上にて」/『生活と芸術』一九一四年五月号/大杉栄全集刊行会『大杉栄全集 第一巻』/日本図書センター『大杉栄全集 第5巻』)


「籐椅子の上にて」は土岐善麿に宛てた手紙文形式で書かれていて、大杉は土岐のディレッタントを批判しているが、その根底には真の革命家になりきれていない大杉自身の自己批判が込められている。





 十二月二十六日、月刊『労働運動』第三次第一号を発刊。

 大杉がこう書いている。


 三度目の『労働運動』だ。

 最初は月刊で、大正八年十月に出して、翌年六月に六号で止めた。

 次ぎには週刊と号して、実は月二三回で終つたが、大正十年一月に出して、六月に十三号で止めた。

 こんどは、又もとに戻つて月刊にした。

 ……最初の『労働運動』から第二のそれに、そして又其の第二からこんどの第三に到るまでに、其の態度や方針に多少の変化があつたことは争はれない。

 それは社を組織する同人が変つたのにも拠れば、又時勢の変化にも拠る。

 社の同人は、こんどは、最初の『労働運動』を発起した極く小人数に帰つた。

 それには経済上の理由もあれば、又結束の上の理由もある。

 同人、伊藤野枝、近藤憲二、和田久太郎、大杉栄。

 発行所、本郷区駒込片町十五番地。


(「二度目の復活に際して」/『労働運動』一九二一年十二月二十六日・三次一号/大杉栄全集刊行会『大杉栄全集 第四巻』/日本図書センター『大杉栄全集 第14巻』)


『定本 伊藤野枝全集 第三巻』解題によれば、発行編輯兼印刷人は近藤憲二。

 第三次『労働運動』は一九二三(大正十二)年七月一日に十五号を出して終わるが、それは関東大震災、そして大杉と野枝の死によるためである。



●あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝 index



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1955年生まれ。早稲田大学法学部卒業。『週刊SPA!』などの編集をへてフリーランスに。著書は『「週刊SPA!」黄金伝説 1988〜1995 おたくの時代を作った男』(朝日新聞出版)など。
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