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2016年09月03日

第340回 赤瀾会(一)






文●ツルシカズヒコ




 一九二一(大正十)年四月十八日、神田区美土代(みとしろ)町の東京基督教青年会館で、暁民会主催の文芸思想講演会が開催されたが、小川未明、江口渙、エロシェンコらに交じり、野枝も「文芸至上主義に就いて」という演題で講演した(大杉豊『日録・大杉栄伝』)。

 目的は資金稼ぎだったが、聴衆約千二百人の大盛況だった。

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 四月三十日、近藤栄蔵が東京を発ち上海に向かった。

 コミンテルン(第三インターナショナル)の密使・李増林が来日して大杉と面会、コミンテルンとしては日本支部を創設したいわけだが、アナである大杉は自分がその話に乗るわけにはいかず、大杉は近藤栄蔵を代わりに上海に使いに遣ったのである(『日本脱出記』)。

 もっとも、近藤栄蔵は大杉には内密に山川と堺に相談をしていたが、大杉も薄々それには気づきながら、大杉にもコミンテルンからの金の流れを確保したい意向があった(『近藤栄蔵自伝』「日本脱出記」)。





 日本初の社会主義婦人団体、赤瀾会が発会したのは四月二十四日だった。

 近藤真柄『わたしの回想(下)』によれば、綱領は「私どもは私ども兄弟姉妹を無知と窮乏と隷属に沈淪せしめたる一切の圧政に対し断固として反対するものであります」。

 治安警察法第五条によって婦人の政治結社加入を禁止されていたため、日本社会主義同盟に加入できなかったゆえの結成だった。

 発起人(世話人)は秋月静枝、九津見房子、堺真柄、橋浦はる子で、会員は約四十名、山川菊栄と野枝が顧問格として参加した。

「赤瀾(赤いさざなみ)」の命名者は九津見房子だった。

 三十銭の会費すらなかなか集まらず運営は厳しかったが、「伊藤野枝さんが、どうしたはずみかに五円くらい寄付して下さって息をつくようなことでした」(『わたしの回想(下)』)。





 五月一日、東京と大阪でメーデーが開催された。

 東京は第二回メーデーであり、大阪は第一回メーデーである。

 東京の会場は芝浦埋立地だったが、参加者はそこから上野公園まで大行進をした。

 近藤憲二『一無政府主義者の回想』によれば、労働運動社は前日から警官に包囲されているので、近藤憲二は予備検束を逃れるために前日に姿を消し、当日は海苔舟を雇い、芝浦の埋立地に裏から乗り込んだ。

 その日の参加者は前回よりもはるかに多く、引っこ抜きの戦いもすごかった。

 新橋付近で赤瀾会の女性軍二十人ほどが、黒地に赤くRW(レッド・ウェーブ)の旗を掲げて飛び込み、デモ隊にいっそうの気勢をそえた。

 宮城付近を通過するときには「千代田の森に黒旗たてて……」が高々と歌われた。





 あちこちに警官隊の伏兵は起こる、騎馬巡査のサーベルが鳴る。

「密集! 密集! 旗を守れ! 突撃しろ!」の怒号に対して、「旗を奪え! 女子軍を捕らえろ! 戦闘分子を引っこ抜け!」の騒ぎだ。

 小川町でも松住町でも戦いの連続、上野池の端へ出たときはまさに白熱化した。

 好天に恵まれて、たいへんな人出、どの料理屋も満員、それがメーデーを見物しようと二階の窓へ鈴なりになったところへ、行列からバラバラと小石を投げはじめたのだからたまらない。

 お客はくもの子を散らしたように逃げだす騒ぎ。

 赤瀾会の九津見房子、仲宗根貞代、堺真柄らが総検束されたのは山下から上野東照宮下付近だ。

 橋浦はる子さんがあご紐をかけた警官にかこまれながら、毅然として検束されて行くさまは『写真近代女性史』にも載っているが、当日の語りぐさであった。


(近藤憲二『一無政府主義者の回想』・平凡社・一九六五年六月三十日)





 『わたしの回想(下)』によれば、赤瀾会の会員は新橋の高等理容店「樹神(こだま)」に集結し、午後一時ごろに新橋に到着することになっていたデモ隊を待っていた。

「樹神(こだま)」は九津見房子の知り合いの理容店だった。

 午前十時ごろから赤瀾会会員は集まり出し、「樹神」の二階で待機していた。


 当時着物の袖丈は普通一尺七寸位でしたから、元禄に縫いこんだり、裾を短目に着るなどしていた。

 ……早目のおひるをと、そばを食べかけた折から、早くも行列の近づく気配。

 前々から橋浦はる子さんや中村しげさんなどが工夫してミシンかけした手製の会旗は、黒の綿繻子地に赤いネルで横に「赤瀾会」と縫いつけ、小旗は同じように「R・W」と縫いつけたもので竹竿に紐で結びつけて横にたおし、数人で小脇にかかえておりました。

 やがて印刷工組合や労働運動社の黒旗が翻る行列の近づいたとき、路地から飛び出して行列に入るや、組合の人たちはウワァーという歓声と拍手で、十数人の女の一団を包み込むように迎えくれました。


(近藤真柄『わたしの回想(下)』・ドメス出版・一九八一年十一月)





 途中検束する関所が桜田本郷町、日比谷、松住町、上野山下などだったが、赤瀾会会員はなんとか引き抜かれずに進んだ。

 堺真柄の母・堺為子、叔母・堀保子など年輩者は、アンパンの包みを手渡してくれたり、電車で先回りしてサイダーの栓を抜いて待っていてくれたりした。

 デモ隊が池の端を通るとき、料亭の二階から客がデモ隊を見下ろしていたが、どこからともなく小石が飛んだ。

 続いてバラバラと窓めがけて石が飛び、それが合図かのように、巡査が割り込んできて、大混乱になった。

 革命歌「森も林も武装せよ、石よなにゆえ飛ばざるか」を実践したようなこの光景が、デモ隊の士気をいっそう燃え上がらせた。

 デモ隊は上野東照宮下で解散するはずだったが、さらに石段を登ろうとする一団と巡査の争いが一段と激しくなり、赤瀾会の会員たちはもみくちゃにされた。

 高津正道の妻、高津多代子は生後間もない子をおぶって、巡査にしがみついていた。

 赤瀾会の会員はほんどが検束された。

 仲宗根貞代は巡査が「女のくせに何だ!」と嘲ったので、「無産者のくせに何だ! 資本家の手先になって、そのザマは何だ!」と言い返した。

 翌日の『読売新聞』にあごひもをかけたふたりの巡査に挟まれて、キリッとして歩く堂々たる橋浦はる子の写真が載った。

『読売新聞』のキャプションは「九津見フサ子」としているが、これは間違いなのであろう。



赤瀾会@「馬込文学マラソン」


●あきらめない生き方 詳伝・伊藤野枝 index



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1955年生まれ。早稲田大学法学部卒業。『週刊SPA!』などの編集をへてフリーランスに。著書は『「週刊SPA!」黄金伝説 1988〜1995 おたくの時代を作った男』(朝日新聞出版)など。
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